おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

知りすぎていた男

2021-04-03 08:59:07 | 映画
「知りすぎていた男」 1956年 アメリカ


監督 アルフレッド・ヒッチコック
出演 ジェームズ・スチュワート
   ドリス・デイ
   ラルフ・トルーマン
   ダニエル・ジェラン
   クリス・オルセン
   ブレンダ・デ・バンジー

ストーリー
アメリカの医者ベン・マッケナ(ジェームズ・スチュアート)はブロードウェイのミュージカル・スターだったジョー夫人(ドリス・デイ)と、7歳になる息子ハンクを連れて、パリでひらかれた医学会議に出席した後フランス領モロッコへ旅をした。
カサブランカからマラケシュへ行く途中、バスの中でマッケナ夫妻がアラビア人の男に捕って困っているとき、ルイ・ベルナール(ダニエル・ジェラン)というフランス人の若い男に助けられる。
マッケナ夫妻が2人だけで食事に出かけるとイギリス人のドレイトン夫妻(バーナード・マイルス 、ブレンダ・デ・バンジー)がジョーの姿を認めて話しかけてきた。
翌日、ベン夫妻とハンクはドレイトン夫妻と一緒にマラケシュの市場を見物に出かけると、1人のアラビア人が何者かに殺され、アラビア人は息をひきとるまえにベンの耳に秘密を告げた。
しかも、アラビア人と思ったのは、ルイ・ベルナールの変装だった。
マッケナ夫妻は証人として警察に連れて行かれ、ドレイトン夫人はハンクを連れてホテルに帰る。
ベンにベルナールが最後に云った「アンブローズ・チャペル」という謎の言葉を話したらハンクを殺すという脅迫の電話がかかる。
ベンはハンクのことが気になるので、一緒にきたドレイトンを先にホテルに帰らせて様子を探らせることにする。
マッケナ夫妻が釈放されて、ホテルに戻るとドレイトン夫妻はすでにモヌケのカラ。
ベンとジョーは後を追ってロンドンに向かう。
ロンドンに着くと、ブキャナン警視(ラルフ・トルーマン)が待っていて、ハンクの誘拐されたことを知っており、ベルナールは暗殺計画を知るためにマラケシュに派遣されたフランスのスパイだったと告げる。
ベルナールの最後の言葉だけが謎をとく鍵であるとブキャナンは云ったが、ハンクの生命が危険にさらされるのをおそれて、ベンは謎の言葉を教えることを拒んだ。
ベンは「アンブローズ・チャペル」という言葉をたよりに捜査を続け、それが教会であることを知る。
ドレイトンはこの教会を預かっている牧師で、暗殺計画はこの礼拝堂を中心に画策されていた。


寸評
アルフレッド・ヒッチコックはサスペンス・スリラーと呼ばれるジャンルの作品を何本も撮った監督だが、そのどれもが僕から見ればB級作品に該当するもので大作ではないし、芸術性に富んだものでもない。
しかしヒッチコック風といった作風を持っているし、そんな映画を愛するヒッチコック・ファンも大勢いた。
その昔、日本のテレビでもヒッチコック劇場と言う番組も放送されていたように思う。
この作品はその中でも上質の部類だ。

この作品のドリス・デイはエレガンスで素敵だ。
僕の中ではドリス・デイは「センチメンタル・ジャーニー」によって歌手としての印象が強い。
「二人でお茶を」や西部劇風ミュージカル映画の「カラミティ・ジェーン」などのヒット映画もあるようだが僕は未見で、この作品もリアル鑑賞ではなく初見は名画座での鑑賞である。
その前に、この作品の主題歌である彼女の歌う「ケ・セラ・セラ」を曲名のユニークさと共に知っていて、そちらのほうから入った作品と言ってもいいかもしれない。
僕にとっては映画の出来以前に、ドリス・デイの生歌が聞けることが何よりうれしい作品である。
もちろん彼女の歌う「ケ・セラ・セラ」が最大の伏線になっているのは言うまでもない。

ヒッチコックらしくというか、サスペンス映画らしく伏線があちこちに散りばめられていて作品を堪能できる。
ベンとジョー夫妻の一人息子ハンクがバスの中でイスラム教徒の顔を覆うベールを誤ってはぎ取ってしまって、それがもめ事となった時にルイ・ベルナールという男に助けられる。
バスを降りるとその男は先ほどの悶着を起こした男と親しげに話している。
ジョーが言うように怪しい行動で、じっくりと振り返ってみると二人の関係も推測されるといった内容だ。
サスペンス映画なので怪しい人物は次々と登場する。
部屋を間違えたと言って訪ねてきたリアンという男は見るからに悪人面なのでこれは伏線とはならないが、約束を反故にしたルイ・ベルナールの連れの女性が「あの夫婦ね」とつぶやくのは大きな伏線となっている。
マラケシュ料理を素手で食べるシーンも、広義の意味ではルイ・ベルナールの変装のための絵の具がベンの手によってぬぐい取られるなども映画としての接着剤となっている。

「アンブローズ・チャペル」という謎の言葉で行きつく場所をベンがすぐに発見してしまってはサスペンスとしての盛り上がりに欠けるので、ここは一ひねりしているがスゴク驚かされるものではない。
第一の場所は映画の中のお遊びの様なもので、ヒッチコック流のユーモアなのだろう。
本当のアジトの裏口から出入りする犯人たちと、表で待つジョーの姿を俯瞰的にとらえたショットはなかなかいい。
このショットは音楽会でのホールを俯瞰的にとらえるショットに引き継がれていて、こちらもホールの雰囲気を上手く伝えるなかなかいいショットになっていたと思う。
ご都合主義もあるが、音楽会ホールから大使館へとラストに向かってテンポアップしていく展開は心得たもので、ジョーがハンクの口笛を聞いた時の表情に僕はなぜか安堵の涙が流れた。
やはりドリス・デイの「ケ・セラ・セラ」はいいわあ!
ラストシーンは予想がついたけれど、やはりぴたりと決まっている。


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