おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

白と黒

2021-04-04 13:55:18 | 映画
「白と黒」 1963年 日本


監督 堀川弘通
出演 小林桂樹 仲代達矢 井川比佐志
   千田是也 三島雅夫 東野英治郎
   山茶花究 大空真弓 淡島千景
   乙羽信子 小林哲子 木村俊恵
   西村晃 浜村純 小沢栄太郎

ストーリー
目黒の高級住宅街で殺人事件が起った。
被害者は城南弁護士会会長宗方治正の妻靖江で、発見者は夜間学校から帰宅した女中のきよだ。
捜査一課の厳重な警戒網が布かれた結果、前科四犯脇田が現場附近の不審尋問に引っかかり、宗方邸へ強盗に押し入ったことを自供した。
事件担当検事落合の尋問に脇田は殺人を自白した。
死刑廃止論者である宗方は、被害者の夫であるにもかかわらず、脇田の弁護を買って出る。
宗方の助手である浜野も弁護を担当することになった。
浜野は新進気鋭の弁護士で学生時代から宗方夫妻の世話をうけていた。
この浜野と靖江の間には、彼が書生として住みこんでいた頃から関係があった。
しかし、その浜野には、製鋼会社会長村松の娘由紀との縁談が起った。
嫉妬に狂った靖江は由紀に二人の関係を告げると言い出したため、浜野は夢中で靖江の首をしめたのだった。
浜野は脇田が捕まってはじめはよろこんだが、日がたつにつれて良心の呵責に苦しんだ。
果ては、落合に必要以上に脇田の無罪を主張した。
落合は浜野の妙にからんだ言葉に疑問を持ち、極秘裡に補充捜査をすることになった。
その間、脇田は法廷で死刑の論告を言い渡されていた。
そんな頃、浜野が真犯人であるという証拠物件の数々が捜査一課に集った。
その証拠の前に浜野は、殺人事件を自白した。
落合のメンツを捨てた再調査の、勇気と信念に対して、マスコミは一斉に拍手を送った。
ところが石川公一という一人の見知らぬ男からの手紙によって、事件はまたもや意外なところに波及した。


寸評
一種の冤罪事件物のミステリー映画だが手堅くまとめられている。
モノクロ画面がドキュメンタリー風な雰囲気を出して臨場感を高めていた。
制作された当時は売れっ子女優だった淡島千景が冒頭であっさりと殺されてしまい、その後は少し回想シーンで登場するだけ。
「殺す気?あんたは所詮、私の男妾じゃない!」とののしる彼女のキリリと締まった顔つきは、ふたりの関係と力関係を短時間に表現していて、それを演じた淡島は適役だった。
出番が少ないのに出演を承諾した東宝と淡島千景の英断に拍手だ。

冤罪事件だが、脚本の橋本忍はひとひねりどころか、ふたひねりもしていて単純な冤罪事件としていない。
作品は面白く出来上がっているが、これだけの脚本を得れば、もう少し盛り上がる映画にできたのではと思う気持ちもある。
通常、冤罪事件は検察側の執拗なまでのでっちあげ追求に耐えられず、被告がたまらずその罪を認めてしまうというものだが、この作品では被告の脇田もそのことを言ってはいるのだが、検察側の非道が描かれているわけではない。
それは、検事の小林桂樹がどこかユーモラスさも兼ね備えたいい人として描かれていて、無理やり自供を迫っているようには描かれていないからだ。
実際彼は無理やり自供を強要しているわけではない。
それは普通の冤罪ものとは違う作品を狙った橋本忍の筆によるもので、あくまでも思い込みによる冤罪の発生をメインに据えているせいだと思う。
この思い込みは浜野にも落合にもあって、そのことがこの話を面白くしている。

宗方は死刑廃止論者で、それがために自分の妻を殺した脇田の弁護を引き受けるのだが、その間の苦悩のようなものは描かれていない。
当然あるべき異常な関係に対する描き方は意外と薄っぺらい。
面白い存在は浜野の婚約者である大空真弓が演じる村松由紀だ。
彼女は浜野を疑いながらも、仮に浜野が真犯人であっても脇田が自供し、殺人犯として裁判を受けている以上、浜野は知らぬフリをしておけば良いのだと腹をくくっているようでもあるのだ。
見方によっては、一番のワルはこの女性だったのかもしれない。
ことが明るみになったところでアッサリとフランスに留学してしまう変わり身の速さを見せる女性なのだ。
手紙の一件はあったとはいうものの、この魅力的なキャラクターに対しても素通りしていたような印象を受ける。
しかし、二転三転する話ではあるが検察が真実を追求した結果であり、特別出演として松本清張や大宅壮一を登場させて、検察が誤りは誤りとして認めることの重要性を語らせている。
冤罪事件が後を絶たない中にあっての作者の訴えでもあったと思う。
ただ僕はこの映画でずっと疑問に思っていたことは、捜査検事とはいえ公判中の担当検事と担当弁護士があんなに飲食を共にしているのかなあということだった。
裁判って、なあなあなところがあるのかもな…。


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2 コメント

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非常に面白かった (FUMIO SASHIDA)
2021-04-05 07:18:09
非常に面白かったですね。
ある意味で、日本的ではなく、アメリカ映画的ですね。
この仲代達矢が、抱く殺意も、今の方がリアリティがあると思えますね。
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プログラムピクチャ (館長)
2021-04-05 08:56:59
5社時代のプログラムピクチャの中に結構光る作品があって、今になって思うと五社体制も良かった点もあった。
職人的な監督さんや裏方さんがいて、スタッフが充実していたように思います。
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