おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

刑事ジョン・ブック/目撃者

2019-05-14 07:38:51 | 映画
令和になって半月が過ぎようとしています。
我が地区でも天皇のご即位を祝う地車パレードを行いました。
さて、作品紹介はやっと「け」に突入です。


「刑事ジョン・ブック/目撃者」 1985年 アメリカ


監督 ピーター・ウィアー
出演 ハリソン・フォード ケリー・マクギリス
   ルーカス・ハース  ダニー・グローヴァー
   ジョセフ・ソマー  アレクサンダー・ゴドノフ
   ジャン・ルーブス  パティ・ルポーン

ストーリー
文明社会から離れ、厳格な規律に従って今なお17世紀の生活様式で暮らしている信徒一派アーミッシュ(アンマン派信徒)の村で、ジェイコブ・ラップの葬儀が行なわれていた。
未亡人となった妻レイチェルと6歳の息子サミュエル、そして祖父のイーライは、隣人達の助けで、なんとか農場での暮らしを続けることができた。
数カ月後、レイチェルは、サミュエルと共に妹の住むボルチモアに旅する決心をした。
乗り継ぎの列車を待つ間にトイレに入ったサミュエルは、恐ろしい殺人事件を目撃した。
フィラデルフィア警察のジョン・ブック警部と彼のパートナー、カーターは、サミュエルから事情を聞き出すため、彼ら母子を署に案内し容疑者の確認を求めた。
その夜はブックの妹イレーンの家で明かしたレイチェルとサミュエル。
翌日、1枚の写真がサミュエルの目にとまった。
それは、麻薬事件の成績を賛えられた麻薬課長マクフィーの新聞の切り抜き記事で、サミュエルは彼が犯人だとブックに告げた。
早速、そのことを警察副部長シェイファーに伝えるブック。
警察本部から大量の麻薬が消えた事件にもマクフィーが関係していのではないかとも指摘した。
自分のアパートに戻ったブックは、マグナム銃を掲げたマクフィーに急袈され負傷した。
シェイファーもマクフィーの仲間であることに気づいたブックは、傷つきながらイレーンの家に行き、サミュエルとレイチェルに出発の準備を促すとともに、カーターに連絡し、ファイルから親子の名をはずさせ、2人の悪徳警官に気をつけるよう忠告した。
ブックは、母子を農場に送り届けたが、その帰りに傷が悪化し気を失う・・・。


寸評
アーミッシュと言う宗教集団の存在が大きく作品を支配している。
見ているうちにアーミッシュは農耕や牧畜によって自給自足の生活をしているらしいことが分かってくる。
そして彼等は、喧嘩をしない非暴力主義者で、派手な服を着てはいけないとされていることも分かる。
文明も拒絶するような所があり、家族の誰かがアーミッシュから離脱した場合、たとえ親子であっても絶縁されて互いの交流が疎遠になるなどの厳しい戒律を有していることも判明してくる。
我々が生きている社会とはかけ離れた生活を送っているアーミッシュ社会の風俗を細やかに描くことによって、とても情緒に満ちた作品に仕上がったという成功例だ。

少年のサミュエルは殺人事件を目撃するのだが、その犯人が警察内部にいるという設定は通俗的だ。
その少年を守る主人公が、母親と恋に落ちるという設定もありきたりと言えばありきたりな内容である。
それを独特の雰囲気に仕上げたのは監督ピーター・ウィアーの力量だろう。
冒頭の展開を見ると、これは少年を守りながら真犯人を追及するというサスペンス映画だとの印象を持たせる。
ところが真犯人はすぐに判明し、また彼等が主人公たちの居所を探し当て刺客となって襲ってくるという展開にはならないので、単なる刑事もの、アクションもの、サスペンスものでないと感じてくる。
むしろ映画は、特殊社会に生きるレイチェルと、彼等を守るジョン・ブックの恋愛映画へと変身していく。
彼等の結ばれぬ恋が、アイリッシュ社会の中で描かれ、単純な恋愛映画を雰囲気あるものに作り変えていく。
その描き方は見事なもので、ジョン・ブックのハリソン・フォードと、レイチェル・ラップのケリー・マクギリスが繰り広げる欲望を抑えた恋愛感情がすごくよくて、彼等の立場と戒律の厳しさが二人の恋を阻む様子が細やかに描かれ、まったくもって上質の恋愛映画として成り立たせている。
ジョン・ブックが入浴中のレイチェルと目を合わせ、向き直ったレイチェルと共にただ立ちつくすだけというシーンの美しさと緊張感は素晴らしい。

恋愛映画の要素が強いので、ジョン・ブックの相棒であるカーターが抹殺されるシーンは描かれていない。
おそらく敵の罠にかかり無残に殺されたのだろうが、そこを描いて真犯人側への憎しみを観客に植え付けるということを避けている。
僕はこの処理の仕方は、やはりアーミッシュの非暴力を印象付けるための演出だったと思う。
そうした彼等の非暴力主義は、観光客や町の人々の好奇心にも耐える姿で、あるいはダニエルが侮辱されても我慢する姿に象徴されていたし、耐えきれずに婦人に痛烈な言葉を浴びせたり、からかった相手をノックアウトするブックはアーミッシュの世界には住めないことを物語っていた。
そしてブックが言うように「君を抱けばここに住み着くことになる。それとも君がここから出ていくかだ」という二者択一のジレンマが二人の間に横たわるというのも物語を膨らませている。
もちろん最後は追ってきた真犯人側とジョン・ブックの対決となるのだが、派手な銃撃戦はなく一人が銃殺されるだけである。
もう一人は張られていた伏線によって銃殺されることなく倒れ、犯人グループの親玉もアッサリと観念してしまう。
親玉が観念したのは駆けつけた村人たちの無言の視線によってである。
非暴力が暴力に打ち勝った瞬間で、監督が描きたかったテーマの一つではなかったかと思う。


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