ガサガサ、コトコト、耳元からのかすかな物音で目を覚ました。ヤバい、またゴキブリか!そう思い、私は飛び起きた。ーーとはいうものの、もう機敏に動ける身体ではないから、それ位ドキッとした、ということである。
頭が覚醒して冷静になると、耳元からの物音は、スマホからのスピーカー音であることが判った。そう、YouTube を見たまま、私はいつか眠りに落ちてしまっていたのだった。カサカサ、コトコト、という物音は、キーボードの打鍵音だった。
最近は、Tver でテレビドラマを見ることが減っている。代わりに増えたのはYouTube の視聴回数で、そのほとんどはメカニカル・キーボードの紹介動画に充てている。メカニカル・キーボードの紹介動画は、なぜかキーボードの打鍵音を聞かせることに多くの時間を使う。「沼」の住人は打鍵音にこだわるのだろう。ともかく、その心地よさに誘われて、私はいつか眠りに落ちてしまうのである。
私はキーボードの「沼」に足を踏み入れつつあるのかもしれない。だが、この「沼」にハマり、キーボードの購入に幾ばくかのカネを注ぎ込むことになったとしても、そんな私をどうか笑わないで欲しい。片麻痺の私が今、自由に動かせるのは右手だけであり、その右手でキーボードをたたくのが、現在の私の唯一の快感というか、文字通り「手慰み」なのである。
私が目下こだわっているのはバックライト機能が付いたキーボードで、これは視力の衰えがそうさせるのだが、バックライト付きのものとなると、ほとんどがメカニカル・キーボードに限られる。ところがこのメカニカル・キーボードというやつは、相当奥の深い「沼」を作っているようで、YouTube にあげられた関連動画は、毎晩見ても見尽くせない程である。
まあ、そんなところが天邪鬼爺の近況である。私がキーボードという「沼」に引き寄せられた事情はご理解いただけると思うが、他方で「弘法筆を選ばず」という諺があることも、私は知っている。要するに、私は根っからのガジェット好きなんだね。