ささやんの天邪鬼 座右の迷言

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

北方領土問題のアポリアに向き合う

2019-01-16 14:43:52 | 日記
北方領土問題が国民の関心を集めるなか、ロシア側が難題を吹っかけてきた。ラブロフ外相が日本側に「第2次世界大戦の結果を認める」ように迫ったというのだ。この「大戦の結果」には「南クリル(北方領土のロシア側呼称)全島に対するロシアの主権も含まれる」というのが、ロシア側の言い分である。ロシア外相は、四島の主権がロシアに正当に移ったとの主張を日本が認めなければ、交渉の進展は「きわめて難しい」と明言したというから、事は厄介だ。

これに対して、我が読売新聞と産経新聞は、北方四島はソ連に不法占拠されたものであるとし、この日本側の見解を撤回すべきでないと主張している。

読売はきょうの社説《北方領土 不法占拠の事実を歪めるな》の中で、次のように主張している。
「第2次大戦末期、旧ソ連は日ソ中立条約を一方的に破って参戦した。その後、4島を不法に占拠した。歴史的事実を歪ゆがめるロシア側の主張は受け入れられない。」

産経の社説《北方領土交渉 「2島」戦術破綻は鮮明だ 日本の立場毅然と表明せよ》の主張も、ほぼ同様である。
「択捉、国後、色丹、歯舞の北方四島は日本固有の領土であり、ロシアに不法占拠されている。この唯一の真実を無視した暴言は到底、容認できない。
旧ソ連は45年8月9日、当時有効だった日ソ中立条約を破って対日参戦した。日本が8月14日にポツダム宣言を受諾した後も一方的な侵略を続けた。
8月28日から9月5日にかけて、火事場泥棒のように占拠したのが北方四島である。」

さて問題は、毎度のことながら朝日新聞である。朝日はきょうの社説《日ロ平和条約に向け 歴史検証に堪える交渉を》の中で、次のように述べている。
「安倍氏は来週、プーチン氏と会談する。(北方領土の返還という)成果を急ぐあまり、日本と地域の平和と安定という条約(日ロ平和条約)の目的が置き去りになることを懸念せざるをえない。」

つまり朝日は、日ロ平和条約の締結を優先し、北方領土問題は後回しにすべきだというのである。条約締結の妨げになるなら、北方領土問題に関して、(主権はロシアにあるとする)ロシア側の主張を認めてもよいとする姿勢が、ここには覗いている。

こうした朝日の姿勢の背景にあるのは、四島返還を「正義」とする日本側の見解を根拠薄弱とみる歴史認識である。朝日は次のように書いている。
「日本政府は戦後一貫して四島を求めてきたわけではない。第2次大戦後の51年、日本が米国など48カ国と署名したサンフランシスコ講和条約で、日本は「千島列島」を放棄した。その中には択捉(えとろふ)と国後(くなしり)が含まれるというのが、条約批准を承認した国会の審議で外務省が示した解釈だった。」

日本側の主張とロシア側の主張、読売・産経の主張と朝日の主張。対立する両者の違いは「歴史認識の違い」だとする朝日は、「この歴史認識の違いを乗り越えて、条約に未来志向の意義を持たせる知恵が求められる」と書くが、具体的に朝日はどういう「知恵」を求めているのか。

具体的にみれば、北方領土交渉は日本の安全保障問題に関わる。この事情はロシア側にしても同じで、プーチン大統領は北方四島が返還された場合、そこに米軍基地が設置される可能性はないのかと、軍事上の懸念を示している。

この具体的問題について、では、朝日はどういう見解を示すのか。意外なことに、朝日の姿勢は強硬である。
「安倍氏はプーチン氏に対し、島が日本に引き渡されても米軍施設を置かない考えを伝えたとされる。だが国土の安全をどう守るのかは、国の主権にかかわる問題であり、他国に安易な口約束をするのは不見識だ。」

朝日が首相の弱腰を叱る図も珍しいが、これほどまでに朝日が警戒感を露わにするのは、ロシアの露骨な膨張主義を懸念しないわけにはいかないからである。朝日は次のように書く。
「5年前のクリミア半島の併合は、ロシアが自ら認めた隣国との国境を平然と踏みにじることを浮き彫りにした。国外のロシア系住民を守るためには自国軍の派遣も容認されるというのが、ロシアの理屈だ。
北方四島にはいま、ロシア人が多く住んでいる。最終的な国境線を明確に固められないような平和条約は、安全保障上の弱点となりかねず本末転倒だ。」

読売も産経も顔負けのこの朝日の強硬姿勢には、日露の対立を調停しようという「知恵」は微塵も見られない。軟弱に左に揺れ、強硬に右に揺れ、一向に定まらない朝日の姿勢は、計らずもこの問題の難しさを浮き彫りにしている。うまい「知恵」があれば、日ロの交渉がこんなに長引くことはないからね。
コメント
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