ハワイ行の飛行機に乗り込もうとする父娘になぜか空港で意味もなく絡みだす若い男性。不穏な雰囲気をかぎ取る父娘だが、乗り込んだ飛行機の中その若い男性を見かけた事で不安は現実になる。男は飛行中は逃げる事のかなわない密室である飛行機の中にウイルスを持ち込み、散布を試みたのだ。
同じ頃、若い男が自室でウイルスを培養していた事を知った警察は、男が搭乗した飛行機の緊急着陸を誘導しようとするものの、地上からは飛行機の中の出来事はコントロール出来ない。出来る事は男のバックグランドを探り、見えない解決の糸口を探しだす事だけだ。
出来る事が限られるのは飛行機の中でも一緒だ。機内の空気は循環するだけなので、ウイルスが蔓延するのはあっという間だ。発症し死に至る様子を間近で見て乗客達がパニックになる。快適な空の旅が、一瞬にして逃げ場もなく、更に自分たちの意志ではどこにも行く事が出来ない切迫したものになる。狭い機内の中でのブレたカメラワークから、圧迫感のある中でストレスが高まる様子がヒシヒシと感じられる。
地上からは飛行機をコントロールする事は出来ず、機内ではウイルスの蔓延をコントロールする事は出来ない。時間との戦いと感染との戦いという、自分たちの意志だけではコントロールする事の出来ない危機をどのように回避するのか。もどかしい中での緊張感の高め方が半端ない。
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タイトルの「非常宣言」は危機に直面し通常の飛行が困難になった時にパイロットが不時着を要請する事を指し、飛行機はこの宣言により優先権が与えられ、他の航空機より先に着陸でき、いかなる命令をも排除できる事を指すとの事。
終盤、この宣言が行われてからは、それまでの緊張感とは打って変わって、「飛行機はどこに着陸するのか」そして「映画はどこに着陸するのか?」という二つの問題を解決するために映画のムードは一気にエンターテイメント性を帯びたものになる。
この展開は遺憾、遺恨と色々の問題を投げかけつつ(ただ、それでもストーリーの展開的にはそれなりの気遣いもされていると一応理解)前半で投げかけられた「バイオテロ」という非常にリアルな問題を韓国映画らしい力業を繰り出して解決しようとするのだ。
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地上での刑事役のソン・ガンホ、娘と飛行機に乗る父親役のイ・ビョンホンと顔を合わせる事なく映画を引っ張る二人がパワフルなのは勿論、チーフ・パーサー役のキム・ソジンの演技が機内の様子をとてもリアルに感じさせていた。