
カチャカチャとキーボードを叩く音がPCルームに響く。
横山翔は薄笑いを浮かべながら、また例のチャットに文字を打ち込んでいた。

どうやら直美のことを書き込んでいるらしく、題名は”以前話した女先輩”とある。
ちょっとかまってやっただけでべた惚れww
マジ寂しかったっぽい。つまんねープレゼントでも心掴みまくり。
実際こんな風にしてイケなかったことないんだけどね。でも今はちょいウザイ

少しの嘘も交えながら、横山は軽快なペースで書き込んでいく。そして横山は続けて淳のことも誹謗した。
家が金持ちなのを自慢するくせに、就職のためにインターンかよwwと書いて嗤う。
(勿論淳が大企業の子息だということを知らないからなのだが)

横山は淳が”見せかけ”であることを強調した。
彼の外側‥服や鞄は高級品だが、鞄の中身は安物ばかりだと。
奴は金持ちのフリをしたニセモノ野郎だと、横山はウサを晴らすつもりで書き連ねる。

しかし文章を読んだ人々は、あまり良い反応は見せなかった。
横山のことを「嘘つき」だとか「俺がその先輩だ」とか、デタラメも交えた書き込みが連なる。
「この野郎、信じねーのか?テメーがショボイから信じたくねーんだろ?」

横山は自分が名門大学に通ってることを書き込んでいるのだが、
ネットの中の人々はそれを証明しろと譲らない。何で自分がそこまでしなきゃいけないんだと横山は嗤う。

一人PCの前でゲラゲラ笑っていると、ふと背後に視線を感じた。
横山は笑いを引き摺りながら、その方向へと振り返る。

福井太一だった。
横山と彼は一瞬目を合わせたが、すぐに太一は背を向けた。

その飄々とした態度の後輩に、横山は苦虫を噛み潰したような表情で舌打ちする。
「クソ‥あいつマジ‥」

心の中に、太一に対する憎しみが再び湧き上がってくるのを感じる。
横山は太一の後ろ姿を見据えながら、一人暗い目をして呟いた。
「見てろよ。今にお前もぶっ潰してやる」

休学中に練った復讐劇が、ゆっくりと水面下で進行する‥。

一方こちらは授業中の清水香織である。
同じグループになった直美の横で、ノートを取っているところだった。

しかし香織の目線の先にあるのは黒板ではなく、雪だった。
彼女の一挙一動を、食い入るように香織は見つめている。
雪は教授の話を熱心に聞きながら、顎に手を置く仕草をした。

そのポーズは、鼻筋の通った彼女の横顔によく似合った。
思わず香織もその場で真似をする。

ふと、香織は同じグループになった彼の横顔を窺ってみた。
青田先輩である。

香織は彼をぼんやりと見つめながら、とある考えが頭の中に広がっていくのを感じた。
二人別に親しくもなさそうだったのに‥。どうやって出会ったんだろう‥

脳裏にストーリーが浮かんで来て、辺りがバラ色に染まり出した。
香織の妄想タイムの始まりである。
*再びこのBGMでお楽しみ下さい

loving you minnie riperton



バラ色の風の中、すれ違う二人。
しかしふと、彼女は石に躓いてしまう。
「あっ!」

あわや転ぶというところで、彼女の腕を支える手があった。
先ほどすれ違った彼である。

彼は甘い眼差しで彼女を見つめる。
「大丈夫?」 「先輩‥」

そして二人は‥シャララララ‥


もういっちょ行ってみよう。



再び場面はバラ色の風の中、すれ違う二人‥。
しかし不意に彼の手が彼女の肩にかかる。驚く彼女。

振り返った彼女が見たのは、驚いた彼の顔だった。
「あっ‥君は‥」

しかし彼はそのまま去って行った。
「すまない、人違いをしてしまった‥」と言い残して。

誰と見間違ったんですか‥と彼女が囁いて彼の背中を目で追う。
そして次第に二人は惹かれていき‥。
シャララララ‥


~香織の妄想日記 Fin~

ポケッと口を開けながら、香織は暫し妄想に酔いしれていた。
次第に笑いが込み上げてきて、知らぬ間に漏れ出し始める。
これ小説になったら面白いなぁ‥

無意識に笑っている香織を見て、同じグループの三人は若干引き気味だ。
何が可笑しくて笑っているのか不可解すぎる‥。
「15分くらい休憩にしましょう」

皆の前で教授がそう口にすると、途端に教室はザワザワと騒がしくなった。
皆思い思いに行動し始める。

雪は眠そうな聡美に飲み物を買いに外へ、淳は柳と談笑し、直美はハートを飛ばしながら横山に電話する。
香織は席を立った雪を追いかけた。
「雪ちゃん雪ちゃん!」

しかし自分を呼ぶ香織の声に振り返る前に、雪は携帯を見て目を剥いた。
メールを開くと、弟からのとんでもない内容のそれが届いている。
姉ちゃん!俺今姉ちゃんの大学に来てる!金が無い!ご飯おごって!
ご飯ご飯ご飯ご飯ご飯ご飯!
早く早く早く早く!
姉ちゃんの学科に押しかけて皆に挨拶しちゃうかもよ~?!

ひぃっ!


その内容を読んだ雪はパニックになった。
そのため青田先輩のことを口にしようとしていた香織の言葉も、全く耳に入らない。
「香織ちゃんごめん!私今すぐ電話しないと!」

そう言って雪は小走りで廊下を駆けて行った。
置いてけぼりになった香織の声が、その場で虚しく響いていた‥。

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<進行する彼ら>でした。
妄想タイムにはいつも”シャララララ‥♪”ですね^^;
以前の”シャララララ♪”
そして横山のチャット、またしてもよく分からなかったです T T
またご指摘お待ちしていますーーー!!
次回は<落下したライオン>です。
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