さて今回は、この二人の物語を紹介しようと思う。
赤山蓮 20歳

小西恵 20歳

雪と恵が幼馴染みなら、当然蓮と恵も幼馴染みである。
しかも同い年のこの二人‥。
今日はそんな二人の幼きエピソードを一つ、紹介しよう。
「ランランラン~♪」

今からおよそ15年前くらいだろうか。
恵は機嫌良く歌を歌いながら、幼馴染みの大好きなお姉ちゃんの家へと向かっていた。
「ゆきねぇのところに遊びにいきます~♪めぐみが人形を持っていきますよ~♪」

小さな身体でテトテトと、恵は一人雪の家へと向かった。
すると道中で見慣れた人を見つけて、思わず恵は声を上げた。
「ゆきねぇのおばあちゃんだ!」

恵はキランと目を光らせた。
おばあちゃんが持っているのは、きっとお菓子に違いないからだ。

恵はお菓子お菓子~♪と歌いながら、雪の家へ走って行った‥。

本棚にぎっしり詰まった書籍。ここは雪の部屋だ。
華美なものやおもちゃが乏しいここに、今日恵は人形を持ってきた。
「ゆきねぇこれ持ってていいよ!」

沢山の人形を持って来た恵は、その内の一つを雪に差し出した。
雪は嬉しそうな顔をしながらも、首を横に振る。
「ううん、大丈夫!」

これが幼少時の雪である。
(髪の毛はゴワゴワで、それはピンで止めても膨らむほどだった)
にこやかに微笑むその笑顔は可愛く、雪の周りは皆彼女が大好きだった。
「ゆきねぇ~
」 「おいっ!」

そのため雪を実の姉のように慕う恵に、実の弟の蓮はいつも喧嘩腰であった。
「うちのねーちゃんだぞ!なんで毎日お前が来てんだよ!」

ドン、と肩を押された恵は蓮に食って掛かり、それに蓮が応戦する。
「いいじゃん別に!」「お前はよその子だろっ?!うちのねーちゃんだぞ!」
「ゆきねえはあたしのほうが好きだもんね!」
「ちげーし!弟の俺のほうが好きに決まってんだろっ!」

ガルルル‥と噛みつかんばかりの二人に、オロオロする雪。
これがいつもの風景だった。
「ふん!人形遊びの何がおもしろいんでぇ!俺ゲームするもんね!」

そう言い捨てて、蓮は自室へと帰って行った。
邪魔者がいなくなった後、恵は思う存分雪に甘えた。
「ゆきねぇはあたしの方がすきだよね~?」

雪は「二人とも好きだよ」と言って、恵にハグを返す。
幸せいっぱいの恵であったが、ふととあることを思い出した。
「あ!ゆきねぇ、お菓子は?!」

恵は先ほど雪のおばあちゃんがお菓子を買っていたことを雪に教えた。
雪は祖母のところまで確認に行ったが、そこにお菓子は無く、雪は手ぶらで恵の元に帰って来た。

お菓子が無いことを知った恵は、
「それじゃあきっとおばあちゃんが全部食べちゃったんだよ!」

と言って笑った。
この時はまだ知らなかったのだ。先ほど祖母が買ったお菓子が、今どこにあるのかということを‥。
「トイレ!めぐみトイレ~!」

テトテトと、恵はトイレに向かって走っていた。
すると途中にある蓮の部屋の中が目に入った。彼はゲームをしている。

蓮の部屋は、姉の部屋とうってかわっておもちゃやテレビ、ゲーム機と物が溢れていた。
そんな中恵の目に入って来たのは、蓮が食べている物だった。

蓮は平然とお菓子を口に運んでいた。
雪と恵の元には届けられなかったお菓子を‥。

部屋の入り口に佇んでいる恵に蓮は気付き、一旦ゲームを一時停止した。
蓮は嬉しそうな顔をしながら、ゲームのコントローラーを恵に差し出す。
「お前俺とあそぶ? ゲームしようぜ!ねーちゃんと遊んだって楽しくないだろ?」

ここにお菓子もある、と蓮は言いかけたが言葉を続けることは出来なかった。
なぜなら、大声と共に恵が突進して来たからである。
「やあああ!なんであんたが一人で食べてんの!豚!この豚ヤロー!」

恵はお菓子を貪っていた蓮を「豚」と呼びながら、ポカポカと彼を叩いた。
突然の攻撃に蓮は暫し驚くばかりであったが、次第に彼も怒りを覚えた。
「何で叩く?!しかもなんで俺が豚?!」

尚も彼を豚呼ばわりする恵を、蓮は睨みながら手元にあったそれを掴んだ。
ニヤリとした意地悪い笑みも添えて。
「俺が豚なら‥お前なんてキンカンだー!!」

「やーいキンカン!ちびっこー!」

クククと笑う蓮に対し、恵は「キンカン」と呼ばれたことがショックで、その場に立ち尽くした。
そして次の瞬間、大きな目から大粒の涙がボロボロと零れ出す。

恵は一層大きな声で叫んだ。
その大声を聞きつけて、慌てて祖母と雪が駆けつける。

二人が蓮の部屋に入った時には、恵も蓮も大泣きしながら互いを叩き合っていた。
恵は雪の姿を見ると彼女に泣きつき、一方蓮は祖母に抱き締められた。

祖母は引っかき傷が沢山ついた孫の顔を見て、嘆くように声を上げた。
しかし恵は譲らない。雪に向かって自分の意見を主張する。
「蓮がお菓子ぜんぶ食べちゃったの!おばあちゃんのお菓子、ゆきねえは一つももらってない!」

それに対して蓮は声を荒らげた。
「ちがうもん!おばあちゃんが食べろって俺んとこ持ってきたんだもん!」

そんな中、祖母は蓮の顔をさすりながら雪を責めた。
弟が叩かれているのに、姉のお前は何をやっていたのかと。
雪はきょとんとした表情を浮かべながら、祖母に向かって一つ質問をした。
「おばあちゃん、私のお菓子は?」

祖母は突然の雪からの問いに虚を突かれたような顔をしていたが、やがてその質問に答え出した。
「あぁ‥蓮がお腹が空いたって言うから、先に買ってきたんだよ。
雪にも後から買ってやるから。子どもたちをなだめておいておくれ」

雪はパッとした表情を浮かべると、元気よく返事をして祖母の言葉に頷いた。
まだ涙が乾かない恵は、どこか納得しきれずに苦い表情で俯いた‥。

家に帰って、恵は今日の出来事を両親に報告した。
「まぁ‥そんなことがあったの? そのお菓子を子どもたちで分ければいい話なのに‥。
なんだか雪ちゃんが可愛そうねぇ」

母の言葉に、恵は「でしょでしょ!?」と頷いた。
やはり自分は間違ってなかったのだ‥。

「でもゆきねえは世界で一番お婆ちゃんが好きなんだって!」

母に同意してもらい気が晴れた恵は、明るい表情をして話を続けた。
そんな明るく可愛い娘に、両親はあれも食べろこれも食べろと沢山の食べ物を差し出す。
恵は両親の愛情を一心に受けて笑っていた。
彼女は一人っ子だったが、沢山愛されて寂しさなど感じたことは無かった。
だからこそ、雪の家にあるどこかおかしな空気を感じる度、違和感を持った。
それを当然のことのように受け入れている雪が、どこか放っておけなかった。
どんな状況でもおばあちゃんの前で明るく振る舞った雪ねぇは


おばあさんが亡くなった以降、何となく‥

思い浮かぶのは、口元を結び首を横に振る雪の姿だった。
世界で一番好きな人を失ってからの雪ねぇは、心のどこかを閉ざしてしまった‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<蓮と恵>その思い出(1)でした。
蓮と恵、それぞれの過去の話ながら、間接的に幼少時の雪を描いていますね。
赤山家はおばあちゃんの影響で雪に厳しい環境になってしまったんですかねぇ。
それでもおばあちゃんから与えられる愛情を素直に受け取り大事にする幼い雪を見て、胸が痛いです(T T)
次回は<蓮と恵>その思い出(2)です。
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赤山蓮 20歳

小西恵 20歳

雪と恵が幼馴染みなら、当然蓮と恵も幼馴染みである。
しかも同い年のこの二人‥。
今日はそんな二人の幼きエピソードを一つ、紹介しよう。
「ランランラン~♪」

今からおよそ15年前くらいだろうか。
恵は機嫌良く歌を歌いながら、幼馴染みの大好きなお姉ちゃんの家へと向かっていた。
「ゆきねぇのところに遊びにいきます~♪めぐみが人形を持っていきますよ~♪」

小さな身体でテトテトと、恵は一人雪の家へと向かった。
すると道中で見慣れた人を見つけて、思わず恵は声を上げた。
「ゆきねぇのおばあちゃんだ!」

恵はキランと目を光らせた。
おばあちゃんが持っているのは、きっとお菓子に違いないからだ。

恵はお菓子お菓子~♪と歌いながら、雪の家へ走って行った‥。

本棚にぎっしり詰まった書籍。ここは雪の部屋だ。
華美なものやおもちゃが乏しいここに、今日恵は人形を持ってきた。
「ゆきねぇこれ持ってていいよ!」

沢山の人形を持って来た恵は、その内の一つを雪に差し出した。
雪は嬉しそうな顔をしながらも、首を横に振る。
「ううん、大丈夫!」

これが幼少時の雪である。
(髪の毛はゴワゴワで、それはピンで止めても膨らむほどだった)
にこやかに微笑むその笑顔は可愛く、雪の周りは皆彼女が大好きだった。
「ゆきねぇ~


そのため雪を実の姉のように慕う恵に、実の弟の蓮はいつも喧嘩腰であった。
「うちのねーちゃんだぞ!なんで毎日お前が来てんだよ!」

ドン、と肩を押された恵は蓮に食って掛かり、それに蓮が応戦する。
「いいじゃん別に!」「お前はよその子だろっ?!うちのねーちゃんだぞ!」
「ゆきねえはあたしのほうが好きだもんね!」
「ちげーし!弟の俺のほうが好きに決まってんだろっ!」

ガルルル‥と噛みつかんばかりの二人に、オロオロする雪。
これがいつもの風景だった。
「ふん!人形遊びの何がおもしろいんでぇ!俺ゲームするもんね!」

そう言い捨てて、蓮は自室へと帰って行った。
邪魔者がいなくなった後、恵は思う存分雪に甘えた。
「ゆきねぇはあたしの方がすきだよね~?」

雪は「二人とも好きだよ」と言って、恵にハグを返す。
幸せいっぱいの恵であったが、ふととあることを思い出した。
「あ!ゆきねぇ、お菓子は?!」

恵は先ほど雪のおばあちゃんがお菓子を買っていたことを雪に教えた。
雪は祖母のところまで確認に行ったが、そこにお菓子は無く、雪は手ぶらで恵の元に帰って来た。


お菓子が無いことを知った恵は、
「それじゃあきっとおばあちゃんが全部食べちゃったんだよ!」

と言って笑った。
この時はまだ知らなかったのだ。先ほど祖母が買ったお菓子が、今どこにあるのかということを‥。
「トイレ!めぐみトイレ~!」

テトテトと、恵はトイレに向かって走っていた。
すると途中にある蓮の部屋の中が目に入った。彼はゲームをしている。

蓮の部屋は、姉の部屋とうってかわっておもちゃやテレビ、ゲーム機と物が溢れていた。
そんな中恵の目に入って来たのは、蓮が食べている物だった。


蓮は平然とお菓子を口に運んでいた。
雪と恵の元には届けられなかったお菓子を‥。

部屋の入り口に佇んでいる恵に蓮は気付き、一旦ゲームを一時停止した。
蓮は嬉しそうな顔をしながら、ゲームのコントローラーを恵に差し出す。
「お前俺とあそぶ? ゲームしようぜ!ねーちゃんと遊んだって楽しくないだろ?」

ここにお菓子もある、と蓮は言いかけたが言葉を続けることは出来なかった。
なぜなら、大声と共に恵が突進して来たからである。
「やあああ!なんであんたが一人で食べてんの!豚!この豚ヤロー!」

恵はお菓子を貪っていた蓮を「豚」と呼びながら、ポカポカと彼を叩いた。
突然の攻撃に蓮は暫し驚くばかりであったが、次第に彼も怒りを覚えた。
「何で叩く?!しかもなんで俺が豚?!」

尚も彼を豚呼ばわりする恵を、蓮は睨みながら手元にあったそれを掴んだ。
ニヤリとした意地悪い笑みも添えて。
「俺が豚なら‥お前なんてキンカンだー!!」

「やーいキンカン!ちびっこー!」

クククと笑う蓮に対し、恵は「キンカン」と呼ばれたことがショックで、その場に立ち尽くした。
そして次の瞬間、大きな目から大粒の涙がボロボロと零れ出す。

恵は一層大きな声で叫んだ。
その大声を聞きつけて、慌てて祖母と雪が駆けつける。

二人が蓮の部屋に入った時には、恵も蓮も大泣きしながら互いを叩き合っていた。
恵は雪の姿を見ると彼女に泣きつき、一方蓮は祖母に抱き締められた。

祖母は引っかき傷が沢山ついた孫の顔を見て、嘆くように声を上げた。
しかし恵は譲らない。雪に向かって自分の意見を主張する。
「蓮がお菓子ぜんぶ食べちゃったの!おばあちゃんのお菓子、ゆきねえは一つももらってない!」

それに対して蓮は声を荒らげた。
「ちがうもん!おばあちゃんが食べろって俺んとこ持ってきたんだもん!」

そんな中、祖母は蓮の顔をさすりながら雪を責めた。
弟が叩かれているのに、姉のお前は何をやっていたのかと。
雪はきょとんとした表情を浮かべながら、祖母に向かって一つ質問をした。
「おばあちゃん、私のお菓子は?」

祖母は突然の雪からの問いに虚を突かれたような顔をしていたが、やがてその質問に答え出した。
「あぁ‥蓮がお腹が空いたって言うから、先に買ってきたんだよ。
雪にも後から買ってやるから。子どもたちをなだめておいておくれ」

雪はパッとした表情を浮かべると、元気よく返事をして祖母の言葉に頷いた。
まだ涙が乾かない恵は、どこか納得しきれずに苦い表情で俯いた‥。

家に帰って、恵は今日の出来事を両親に報告した。
「まぁ‥そんなことがあったの? そのお菓子を子どもたちで分ければいい話なのに‥。
なんだか雪ちゃんが可愛そうねぇ」

母の言葉に、恵は「でしょでしょ!?」と頷いた。
やはり自分は間違ってなかったのだ‥。

「でもゆきねえは世界で一番お婆ちゃんが好きなんだって!」

母に同意してもらい気が晴れた恵は、明るい表情をして話を続けた。
そんな明るく可愛い娘に、両親はあれも食べろこれも食べろと沢山の食べ物を差し出す。
恵は両親の愛情を一心に受けて笑っていた。
彼女は一人っ子だったが、沢山愛されて寂しさなど感じたことは無かった。
だからこそ、雪の家にあるどこかおかしな空気を感じる度、違和感を持った。
それを当然のことのように受け入れている雪が、どこか放っておけなかった。
どんな状況でもおばあちゃんの前で明るく振る舞った雪ねぇは



おばあさんが亡くなった以降、何となく‥

思い浮かぶのは、口元を結び首を横に振る雪の姿だった。
世界で一番好きな人を失ってからの雪ねぇは、心のどこかを閉ざしてしまった‥。
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<蓮と恵>その思い出(1)でした。
蓮と恵、それぞれの過去の話ながら、間接的に幼少時の雪を描いていますね。
赤山家はおばあちゃんの影響で雪に厳しい環境になってしまったんですかねぇ。
それでもおばあちゃんから与えられる愛情を素直に受け取り大事にする幼い雪を見て、胸が痛いです(T T)
次回は<蓮と恵>その思い出(2)です。
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