「プフフ‥プフフフ‥」

横山はこれからの展開を予想すると、笑いが止まらなかった。
今は笑みを浮かべている青田淳も、切り札となるあのメールを見せれば青ざめるだろう‥。
横山はポケットから携帯を取り出そうとした。すると青田淳は笑みを取り下げ、独りごちるように呟いた。
「何をしようとしてるのかさっぱり分からない」

へっ?と横山は拍子抜けの声を出した。
彼は警戒や緊張など、横山の予想するその全ての反応以外のそれを見せたのだ。

淳は横山に背を向けると、
「人も来ないし帰るよ。それじゃ」と言って出ていこうとする。

横山は幾分慌てて、歯噛みしながらもう少し踏み込んだ言葉を掛けた。
「てか、遊びにしちゃあ赤山は長く引きずり過ぎじゃないすか?」

その言葉を聞いて、淳は足を止めた。
淳はゆっくりと振り返り、背の低い彼を俯瞰する。

横山は意地の悪い表情で言葉を続けた。
「先輩、あんた別に赤山のこと好きなわけじゃないんでしょ?
俺と赤山をくっつけようとしてたことを考えれば、自ずと答えが見えてくるってもんすよ」

横山は淳にゆっくりとにじり寄って行った。
言葉を続ければ続けるほど、胸の奥底に溜まっていた憤りが沸々と湧いてくる。
「どうせ赤山にも恥かかせて休学させるんでしょ?
それならインターン前にさっさと終わらせりゃいいじゃないすか。何仲の良いフリをズルズルと‥」

横山は雪と淳のことを足がかりにして、自分のことへと話を引き寄せた。
「あたかも俺にしたようにね」

胸の内が、憎しみで燃え始める。ギリリと歯を噛んで言葉を紡ぐ横山であったが、
淳はそんな彼を俯瞰しながら、淡々と言葉を返した。
「何の話? さっきから一体何を言ってるんだ?
お前が何の話をしてるのか、全く分からないんだけど」

一貫した淳の”知らんぷり”に、横山は徐々に感情が抑えきれなくなっていった。
彼を見上げる表情には怒りが漲り、瞳の中に憎しみが燃えている。

脳裏に浮かぶのは、去年淳から掛けられた優しい言葉や態度だった。
そうだな、お似合いかもな

赤山と自分の仲をどう思うかと聞いた時、彼は微笑みながら確かにそう言った。
そして去年の夏休み前に催された飲み会で、悩みを打ち明けた時も‥
青田先輩、ひょっとしてまだオレにムカついてます?
わざと避けてるんじゃないっすか?オレがメール送っても無視して‥

落ち込みながらそう言った自分に、淳は新しい携帯番号を教えてくれた。
にこやかに声を掛けながら。
本当にこれ以上謝罪はしなくても大丈夫だよ。もう休みに入るけど、楽しんでな。
挨拶とか相談事とかあれば、いつでもメール送ってくれていいから

あの球技大会以降、周りの人達は自分に冷たくなった。
そんな中淳から優しくされ、横山は素直に嬉しかったのだ。
若干の下心(権力のある青田先輩の目に掛けられているという)も、勿論持ちあわせてはいたが‥。
「何を言ってるのか分からないだと?」

一貫してしらばっくれる淳を前にして、横山は遂に声を荒らげ始めた。
ポケットから携帯電話を取り出し、淳の目の前でその証拠を突きつける。
「よくもそんな厚かましいこと言えるな?!
去年あんたが送ってきたメールがまだここに残ってんだよ!」

横山は淳から送られてきた三通のメールを、次々と表示した。
<正直に告白するのが、やっぱり一番良いんじゃないかな>
<告白が難しいなら、アクセサリーやぬいぐるみを送ってみたら?>
<そうか、休みだと会うこと自体大変だろうね。同じ塾に通って、一緒に勉強してみたら良いんじゃない>

横山は携帯を手元に戻すと幾分気分を落ち着かせて、切々と自分の感情を語り始めた。
「‥休学申請した後、考えれば考える程怒りが込み上げてきて‥。これらを永久保存したんす。
内容だけ見たら大したこと無いメールですが‥」

そして横山は暗く翳った視線を纏った。
彼の切り札だった。
「これを赤山に見せたらどうなるでしょうね?」

横山は俯いていたので気付かなかったが、その一言で淳の表情は少し変わった。
今まで想定内のシナリオを辿っていたそのストーリーに、投じられた一石で少し流れが変わるような。

しかし横山は俯いたまま、尚も話を続けている。
「おかげで俺はストーカー呼ばわりされて‥噂が怖くて休学までしたんすよ。
けど‥俺にはそんな非道い仕打ちをしておいて‥」

横山は唇を噛み締めながら、鋭い視線を淳に向けた。
貶められたことよりも、休学させられたことよりも、一番気に障ったことはー‥
「二人が付き合ってるだって?」

横山は真正面から淳を見据え声を荒げた。
「あんたら二人俺を弄んでおいて、のうのうと楽しく暮らすつもりじゃないだろうな?!
赤山に真実を話した後、俺を貶めたことを骨に凍みるほど後悔しやがれ!!」

「自分の彼氏が自分にストーカーをふっかけた犯人だなんてな!」

横山は淳を人差し指で指差し弾劾した。(でも俺がストーカーというのは誤解だ、と彼は小さく呟いていたが)
淳は黙り込んだまま、暫しニヤついた横山と向かい合う。
「‥‥‥‥」

横山は自分のシナリオ通りに物事が運んでいっているのを感じ、心の中で嗤っていた。
視線の先には、俯きながら何かを考えあぐねている青田淳が居る。

見ろよあの表情。今必死で頭を働かしてるんだろうが、気が気じゃないはずだ。
けれどどんな言い訳をしようが、奴は今の俺を説得出来ない‥

そんな横山の考えには、裏付けがあった。メールという確たる証拠を持っていることに加え、
更に彼は秘密兵器を隠し持っていた。ポケットに突っ込んだ手をゴソゴソと動かす。
しかも今この会話を録音してる‥。約五分後に皆が到着するのに合わせて、
これを暴露するんだ‥。

自分を焚き付けたメールと、録音している今の会話‥。証拠はぞくぞくと揃って行く。
更にこれから弁明なり何なりをする淳の言葉が、更なる証拠となるだろう‥。
自分の計算は完璧だと横山は思い、不敵な笑みを漏らした。

録音していることを知ろうが知らなかろうが、肯定しようが否定しようが、どちらにしても淳は身を滅ぼすことになる。
時限爆弾はセットされた。
それは約五分後に爆発し、経営学科全体に激震が走るだろう。
横山はその様子を想像し、身震いした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<横山の復讐(2)>でした。
淳視点からの横山との話は
こちらの記事
へ
さぁ、横山のしかけた時限爆弾は爆発するんでしょうか~?
次回<横山の復讐(3)>へ続きます。
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横山はこれからの展開を予想すると、笑いが止まらなかった。
今は笑みを浮かべている青田淳も、切り札となるあのメールを見せれば青ざめるだろう‥。
横山はポケットから携帯を取り出そうとした。すると青田淳は笑みを取り下げ、独りごちるように呟いた。
「何をしようとしてるのかさっぱり分からない」

へっ?と横山は拍子抜けの声を出した。
彼は警戒や緊張など、横山の予想するその全ての反応以外のそれを見せたのだ。

淳は横山に背を向けると、
「人も来ないし帰るよ。それじゃ」と言って出ていこうとする。

横山は幾分慌てて、歯噛みしながらもう少し踏み込んだ言葉を掛けた。
「てか、遊びにしちゃあ赤山は長く引きずり過ぎじゃないすか?」

その言葉を聞いて、淳は足を止めた。
淳はゆっくりと振り返り、背の低い彼を俯瞰する。

横山は意地の悪い表情で言葉を続けた。
「先輩、あんた別に赤山のこと好きなわけじゃないんでしょ?
俺と赤山をくっつけようとしてたことを考えれば、自ずと答えが見えてくるってもんすよ」

横山は淳にゆっくりとにじり寄って行った。
言葉を続ければ続けるほど、胸の奥底に溜まっていた憤りが沸々と湧いてくる。
「どうせ赤山にも恥かかせて休学させるんでしょ?
それならインターン前にさっさと終わらせりゃいいじゃないすか。何仲の良いフリをズルズルと‥」

横山は雪と淳のことを足がかりにして、自分のことへと話を引き寄せた。
「あたかも俺にしたようにね」

胸の内が、憎しみで燃え始める。ギリリと歯を噛んで言葉を紡ぐ横山であったが、
淳はそんな彼を俯瞰しながら、淡々と言葉を返した。
「何の話? さっきから一体何を言ってるんだ?
お前が何の話をしてるのか、全く分からないんだけど」

一貫した淳の”知らんぷり”に、横山は徐々に感情が抑えきれなくなっていった。
彼を見上げる表情には怒りが漲り、瞳の中に憎しみが燃えている。

脳裏に浮かぶのは、去年淳から掛けられた優しい言葉や態度だった。
そうだな、お似合いかもな

赤山と自分の仲をどう思うかと聞いた時、彼は微笑みながら確かにそう言った。
そして去年の夏休み前に催された飲み会で、悩みを打ち明けた時も‥
青田先輩、ひょっとしてまだオレにムカついてます?
わざと避けてるんじゃないっすか?オレがメール送っても無視して‥

落ち込みながらそう言った自分に、淳は新しい携帯番号を教えてくれた。
にこやかに声を掛けながら。
本当にこれ以上謝罪はしなくても大丈夫だよ。もう休みに入るけど、楽しんでな。
挨拶とか相談事とかあれば、いつでもメール送ってくれていいから

あの球技大会以降、周りの人達は自分に冷たくなった。
そんな中淳から優しくされ、横山は素直に嬉しかったのだ。
若干の下心(権力のある青田先輩の目に掛けられているという)も、勿論持ちあわせてはいたが‥。
「何を言ってるのか分からないだと?」

一貫してしらばっくれる淳を前にして、横山は遂に声を荒らげ始めた。
ポケットから携帯電話を取り出し、淳の目の前でその証拠を突きつける。
「よくもそんな厚かましいこと言えるな?!
去年あんたが送ってきたメールがまだここに残ってんだよ!」

横山は淳から送られてきた三通のメールを、次々と表示した。
<正直に告白するのが、やっぱり一番良いんじゃないかな>
<告白が難しいなら、アクセサリーやぬいぐるみを送ってみたら?>
<そうか、休みだと会うこと自体大変だろうね。同じ塾に通って、一緒に勉強してみたら良いんじゃない>

横山は携帯を手元に戻すと幾分気分を落ち着かせて、切々と自分の感情を語り始めた。
「‥休学申請した後、考えれば考える程怒りが込み上げてきて‥。これらを永久保存したんす。
内容だけ見たら大したこと無いメールですが‥」

そして横山は暗く翳った視線を纏った。
彼の切り札だった。
「これを赤山に見せたらどうなるでしょうね?」

横山は俯いていたので気付かなかったが、その一言で淳の表情は少し変わった。
今まで想定内のシナリオを辿っていたそのストーリーに、投じられた一石で少し流れが変わるような。

しかし横山は俯いたまま、尚も話を続けている。
「おかげで俺はストーカー呼ばわりされて‥噂が怖くて休学までしたんすよ。
けど‥俺にはそんな非道い仕打ちをしておいて‥」

横山は唇を噛み締めながら、鋭い視線を淳に向けた。
貶められたことよりも、休学させられたことよりも、一番気に障ったことはー‥
「二人が付き合ってるだって?」

横山は真正面から淳を見据え声を荒げた。
「あんたら二人俺を弄んでおいて、のうのうと楽しく暮らすつもりじゃないだろうな?!
赤山に真実を話した後、俺を貶めたことを骨に凍みるほど後悔しやがれ!!」

「自分の彼氏が自分にストーカーをふっかけた犯人だなんてな!」

横山は淳を人差し指で指差し弾劾した。(でも俺がストーカーというのは誤解だ、と彼は小さく呟いていたが)
淳は黙り込んだまま、暫しニヤついた横山と向かい合う。
「‥‥‥‥」

横山は自分のシナリオ通りに物事が運んでいっているのを感じ、心の中で嗤っていた。
視線の先には、俯きながら何かを考えあぐねている青田淳が居る。

見ろよあの表情。今必死で頭を働かしてるんだろうが、気が気じゃないはずだ。
けれどどんな言い訳をしようが、奴は今の俺を説得出来ない‥

そんな横山の考えには、裏付けがあった。メールという確たる証拠を持っていることに加え、
更に彼は秘密兵器を隠し持っていた。ポケットに突っ込んだ手をゴソゴソと動かす。
しかも今この会話を録音してる‥。約五分後に皆が到着するのに合わせて、
これを暴露するんだ‥。

自分を焚き付けたメールと、録音している今の会話‥。証拠はぞくぞくと揃って行く。
更にこれから弁明なり何なりをする淳の言葉が、更なる証拠となるだろう‥。
自分の計算は完璧だと横山は思い、不敵な笑みを漏らした。

録音していることを知ろうが知らなかろうが、肯定しようが否定しようが、どちらにしても淳は身を滅ぼすことになる。
時限爆弾はセットされた。
それは約五分後に爆発し、経営学科全体に激震が走るだろう。
横山はその様子を想像し、身震いした。
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淳視点からの横山との話は


さぁ、横山のしかけた時限爆弾は爆発するんでしょうか~?
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