「基準あり?」6月15日
『吉本11芸人謹慎処分』という見出しの記事が掲載されました。『人気お笑い芸人が事務所を通さずに反社会精力の忘年会に出席する「闇営業」をしていた問題』に関する記事です。とても気になりました。11人への個人的な興味関心ではなく、処分の方法と基準、公開性や説明責任、管理責任など、処分の在り方全般についての関心です。
私は教委勤務時代に処分に関わる仕事をしていたので、こうした報道に接すると、どうしても自分の経験と比べてしまいます。私の目からすると、今回の処分は問題点山積です。
まず、『当面の活動を停止し謹慎処分とする』という処分内容です。「当面の」とはいつまでなのでしょうか。1週間なのか半年なのか、分かりません。こんな曖昧な処分は、通常許されません。処分者が恣意的に期間を決めるというのでは、被処分者の人権侵害だと言われても反論できません。極端なことを言えば、事務所がお気に入りの芸人は1週間で復帰させ、日ごろから反抗的な芸人は1年間謹慎を続けるということが可能になってしまいます。また、謹慎からの復帰を餌に、給与の減額を受け入れたものは早く復帰させるというような不当労働行為紛いのやり方も可能になってしまいます。
また、『11人を厳重注意処分としていたが、否定してきた金銭の授受が確認できたため、謹慎処分に切り替えた』という点についても、疑問が残ります。問題が発生した後の対応として、事実が明らかになっていない段階でとりあえず処分を下し、その後も調査を続け、処分を追加するというやり方は望ましいものではありません。まず、慎重かつ綿密な調査を行い事実関係を確定させることを最優先させるべきです。そうでないと、処分を受けた後も、このあとまた追加の処分が科されるかもしれないと、被処分者はびくびくし続けなければなりませんし、落ち着いて反省をする気分にもなれません。
さらに、処分の基準があまりにも不明確です。厳重注意処分というのは、公務員であれば戒告に相当すると思われます。一方で、謹慎というのは停職相当となります。公務員の場合、戒告と停職の間に減給があります。一定期間給与を減ずるという処分です。つまり、いきなり2ランク上の処分になってしまったわけですが、その理由は何だったのでしょうか。反社会的勢力との交際は注意相当、金銭の授受はそこに2段階上積み、ということは、金銭の授受の方が重罪ということなのでしょうか。反社会的勢力との交際は、条例違反出るのに対し、金銭授受は事務所と芸人の契約違反です。後者の方が重大なのでしょうか。或いは、金銭の授受が所得税法違反を伴っており、これは違法行為なので自治体の決まりである条例違反よりも重いという判断なのでしょうか。
記事には、『11人は一定の金銭を受け取っていたことは認めた』とありますが、「認めた」という点についての罪状はどうなのでしょうか。最初に認めたのは誰でどういう状況だったのか、白を切り続けていたが他の芸人の証言で嘘をつきとおせなくなって自白した者と最初に自白した者は同じ扱いなのか。後者により多くの反省の意思を認めたのか否か。全然分かりません。受け取った額はどうだったのでしょうか。5万円と100万円の違いがあっても、同罪なのでしょうか。
「カラテカ」の入江慎也氏が仲介役として契約打ち切りになっていますが、11人の中に、「俺も行くからお前も来いよ」と誘った人と誘われた人という違いはなかったのでしょうか。それとも、先輩の権威を利用して誘った側も後輩として誘いを断れなかった側も同じだという大雑把な括りなのでしょうか。
そして、調査はどのように行われたか、検証に耐える記録は残されているのでしょうか。○月〇日〇時、△△2階会議室において、吉本興業常務取締役◇◇が弁護士▼▼立会いの下、総務部◆◆が記録、聴取後、双方が記録用紙の内容を確認し割印、というような手順は取られていたのでしょうか。後日、芸人側が処分は不当に重い、あるいは公平でないと訴えてきたとき、裁判資料として耐えうるような調査資料は作成されているのでしょうか。そして、事務所内で処分について話し合われっ決定に至った経緯についての記録も。もちろん、明文化された処分基準も、です。
さらにつけ加えるならば、関係する外部の第三者からの情報も可能な限り収集する努力が必要です。教員の処分に置いても、体罰なら被害児童生徒と保護者、セクハラやパワハラなら被害にあった教職員殻の聞き取り、交通事故や飲酒のうえのトラブルなら警察の聴取結果などを処分の判断に反映させてこそ、客観性が保たれるのです。今回の事件で言えば、反社会的勢力側の人間の証言や宴会場の従業員の証言などが該当します。そうした情報も警察から得る努力はしたのでしょうか。
最後に、公務員の不祥事、おそらく民間企業でも同じでしょうが、管理責任についてはどうなっているのでしょうか。私が教委で担当をしていたときには、勤務時間外の不祥事、交通事故や飲酒の上でのトラブル、痴漢行為などでも当該教員の勤務する学校の校長について、処分の検討が行われました。今回のケースでは、事務所の誰の責任について、検討が行われどのような結論であったのか、これも分かりません。
処分をする際に忘れられがちなのが、処分される側の権利保障です。悪いことをしたのだから文句を言わずに従えという考え方は間違いですし、文句を言うのは反省していないからだという考え方も間違いです。綿密な調査に基づき、公平で公正な処分が行われ、その理由と経過が公表される仕組みが整っていてこそ、処分が納得をもって受け入れられ、反省を促すとともに、組織としての問題点も明確になり、再発防止効果がきたいできるのです。
吉本興業、大丈夫でしょうか。