ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

無知、無力を知る

2022-04-10 08:46:07 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「自分はどんな人?」4月6日
 『「痩せるみそ汁」表示に根拠なし 消費者庁措置命令』という見出しの記事が掲載されました。『みそ汁を飲むだけで簡単に痩せられるとのウェブサイトでの表示には根拠がなく、景品表示法違反にあたるとして、消費者庁は5日、「Dr・味噌汁」の名称で食品を販売していた「W-ENDOLESS」に対し、再発防止策を講じるように求める措置命令を出した』ことを報じる記事です。
 記事によると、『約1年3ヵ月間に、この食品を約8万8700箱(1箱30食)販売した』ということです。相当な数の人たちが騙されていたことになります。騙された方には申し訳ないのですが、正直なところ、どうしてこんな分かり切ったウソに騙されるのか、不思議でなりません。
 私の感覚で言えば、そんな「画期的」な商品が開発されれば、それは科学分野でも大発見であり、各種メディアが大きく報じるはずだと思います。また、先進国の主に女性を中心に根強いダイエット志向から考えて、大ヒット商品になることは確実で、経済面でも大きなニュースとなるはずです。そんな報道はあったでしょうか。ありませんでした。だとすれば嘘だという判断をするのが、常識というものではないでしょうか。
 最近、18歳成人制に伴って、高校生への消費者教育、特に契約に関する知識を与えることが重要だという意見を目にします。もちろん、悪いことではないので工夫して取り組むことには反対しませんが、それでは大人は契約行為について、十分な知識をもっているのでしょうか。少なくとも私はもっていません。自宅の購入や売却、相続の手続きなど様々な契約をし、そのたびに業者に嫌がられるくらい細かい質問をする人間ですが、おそらくその分野の専門家から見れば、煩いだけで要点を理解していない奴と思われていたことでしょう。
 多くの人がそのレベルではないでしょうか。しかし、従来の大人には常識がありました。それは上手い話には気を付けろ、という常識です。それは自分にだけそんなうまい話がくるほど、自分は選ばれた人間でもなければ、運の良い人間でもないという自己認識に基づくものです。縮めて言えば、自分は平凡なたいしたことはない人間であるという自己評価のことです。
 自分は大したことがないという当たり前のことが認識できていれば、分からないことは誰かに聞いてみよう、相談してみようという発想が自然に浮かんできます。そこで即断即決はせずに、時間を置いて家族に相談したり、地域の無料法律相談に出掛けたり、役所に電話したりするという行動をとることになり、結果として軽はずみな契約や購入を避けることができるのです。
  確かに消費者教育を行うことによって、少しは知識や判断力が高まるでしょう。しかし、騙す側は騙しの専門家です。必ず新成人の上を行きます。一人で対抗するのは難しいのです。だからこそ、自分の未熟さを自覚し、急がずに決断を先延ばしし、頭を冷やして誰かの知恵を借りる、そうした行動様式こそが大切になるのです。
 近年、学校教育は、自尊感情の育成を重視してきました。とても大切なことですが、健全な自尊感情と過大な自己万能感は違います。中途半端に消費者教育を受けたことで、自分の能力を過信し、かえって詐欺被害に遭ってしまう、そんなことさえ懸念されます。
 自己否定とは違う、地に足の着いた「自分は平凡な存在」という自己評価を身に付けさせること、それも学校教育の重要な役割だと思うのですが。

 

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