ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

過ぎに役立たない教育こそ

2015-12-21 07:08:20 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「囚人以下」12月15日
 『刑務所で大学教育』という見出しの特集記事が掲載されました。米国の刑務所で受刑者を対象に大学教育を行っているという記事です。この制度の創始者であるマックス・ケナー氏はインタビューに答え、『-なぜ職業訓練ではなく、教養教育が有効なのでしょうか。 ◆受刑者だから何か異なることをすべきだと考えるのは間違っています。刑務所では職業訓練や薬物指導などが必要だと思われています。職業訓練は特定の仕事の準備にはなりますが、その仕事がなくなった時どうすべきかの訓練にはなりません。教養教育は予想しない事態に直面した時の準備につながります』と述べています。
 このインタビューには、『教養身に着け自信』という小見出しがついていました。私は、我が国でも刑務所で大学教育を、と主張するつもりはありません。ただ、マックス氏の言葉の中の、「教養教育は予想しない事態に直面した時の準備につながります」という指摘は、我が国において学校教育を考える際に、決して忘れてはならないと思います。
 私の中学校時代の恩師は、苦労して大学の夜間学部を卒業した人でした。彼女の口癖は、「今、自分の将来を決める必要はない。将来、ある職に就きたいと思ったとき、大学を卒業していなければ付けない職がある。そのときになって、大学に行っておけばよかったと思っても遅すぎることがある。仮に将来、大学での学びが直接必要とされる職に就かなかったとしても、大学で学んだ教養は人生を豊かにしてくれるはずだ」でした。ご自身の体験に基づいた言葉だったと思います。大学が就職予備校化し、高校や中学でも職業体験などのキャリア教育が重視されている現在の状況とは真逆かもしれませんが、我が恩師の言葉は、マックス氏の言葉と共通する部分があります。教養は、自信を生み、生き方を考える力となるという意味で。
 さらに、マックス氏の指摘は、現代社会特有の職業事情からも重要です。このブログでも取り上げたことがありますが、人工知能の飛躍的な発展により、10年後には、多くの職が人工知能に置き換えられるという予想がなされ、その数は全ての職の半数に上るという予測すらあります。つまり、マックス氏が言う「その仕事がなくなった時」というのは、企業の倒産といった個別的かつ不運なケースだけでなく、誰の身の上にも起こりうることになってくるのです。
 そうした時代状況を考えれば、早期に特定の職への適応を進めようとする現在のキャリア教育は、非常に危険であるとさえ言えるのです。そうした事態に能動的に対応できる人材育成という功利的面かれでも、教養教育は武器になるのです。決して古くさい役に立たない学問というわけではないのです。
 我が国でも、教養教育の充実をもう一度小学校段階から構想してみるという試みが待たれます。

 

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