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ルポトランプ王国 金成隆一

そろそろ来年のアメリカ大統領選に向けた情勢がニュースを賑わせるようになってきた昨今。3年前を思い起こすと、世界中がトランプ大統領の誕生に驚いたり嘆いたりしつつも、今回のトランプ候補の勝利はアメリカ中間層の現状に対する不満や民主党クリントン候補の自滅という特殊要因が招いた奇妙な結果という雰囲気で、何となく再選はあり得ないと考えていたように思う。ところが最近の報道では、トランプ人気の根強さとか対抗馬不在でトランプ再選の可能性が語られるようになっている。こうした状況で、3年前の出来事の本質を確認しようと思って本書を読んでみた。本書は、前回大統領選の予備選の時期にトランプ支持に回ったいわゆるラストベルトの有権者の声を詳細に伝える内容。要約すれば、「昔のアメリカは普通の人が普通に働けば中流階級の暮らし、そこそこの暮らしができて夏休み休暇の旅行を楽しんだり野球観戦できる暮らしができた」「NAFTAやTPPなどの自由貿易政策がアメリカの製造業を破壊した」「そうした自由貿易を推進したのがワシントンのエスタブリッシュたちだ」という主張であり、「製造業を守る」「自由貿易を見直す」と主張するワシントンと無縁のトランプに期待するという主張だ。製造業の崩壊は、自由貿易というグローバル化のせいだけではなく、テクノロジーの発展という要素も大きいので、自由貿易を見直すだけでは解決しないだろう。もっと重要なことは、テクノロジーの進歩に対応した教育を行うことで、それがなければ苦境に立った中流階級の困難は解消しないはずだ。そのことを考えると、同じ課題は日本にもあるはずだし、トランプ再選もありうる話だと思えてきた。(「ルポトランプ王国」  金成隆一、岩波新書)
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