goo

魔力の胎動 東野圭吾

空想科学ミステリーと銘打った前作「ラプラスの悪魔」の前日談という本書。前日談というよりは、それを補完する様々なエピソードが語られている連作集だ。最初の2作品は、スキーのジャンプ、野球のナックルボーラーが登場する軽めの小編だが、その後からの作品が前作と連動していて、どんどん迫力ある内容になっていく。この作品は前作と合わせて文句なく著者の作品の中でも忘れがたい傑作だと思う。このシリーズ、次があるとするとどんな展開を見せるのか予想もつかないが、是非次を読みたい。(「魔力の胎動」  東野圭吾、角川書店)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

迷蝶の島 泡坂妻夫

本書も最近の泡坂ブームを背景に版元を変えて復刻された昔の名作とのこと。ある事件が、2人の当事者と操作に当たった関係者の視点から描かれている。事件そのものは比較的単純で、凝った叙述トリックなどもないのだが、何故か事件の真相はおろか、誰が加害者で誰が被害者なのかまでもが最後まで謎だ。最後のドンデン返しもさほど奇抜ではないが、単純な仕掛けに最後まで翻弄された。解説にある通り、全ての謎がたった4つの棒で解けてしまうのを知り、上手なマジシャンにしてやられたような爽快さを感じた。(「迷蝶の島」 泡坂妻夫、河出)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

だから居場所が欲しかった 水谷竹秀

ノンフィクションの本を色々物色していて偶々見つけた一冊。タイ、バンコクのコールセンターで働く人々の現在と過去を丹念にヒヤリングしたノンフィクションで、彼らが日本にいられなくなった事情、バンコクで働くことになった経緯、その中でも特に何故コールセンターなのかといったことが克明に描かれている。日本で居場所を見つけられないいわばアウトサイダーの人々履歴を辿ることで、日本社会の閉塞や不寛容といった問題点が克明に映し出される。世界の国々の幸福度調査で日本の順位が先進国中で下位に位置するといったニュースを良く見かけるが、本書を読むとそうした評価が妙に納得できてしまう。日本も先進国としてのプライドとかこれまでの成功体験を一旦反故にして、この状況からの打破に立ち向かう必要があることは間違いない気がする。(「だから居場所が欲しかった」 水谷竹秀、集英社)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

オリジン(上・下) ダン・ブラウン

待望のラングドン教授シリーズ第5弾。教授の教え子である天才科学者が宗教と科学の対立に終止符を打つ大発見をしたというのだが、それを公表する場でその内容を明らかにする前に暗殺されてしまう。暗殺への関与を疑われた教授が、多くの追っ手から逃げながら、その大発見の内容を解き明かそうと奮闘。その過程で出くわす幾多の観光名所と暗号。本書は、こうしたダヴィンチコードからの決まりごとを忠実に守りながら、全く別のしかも飛び切り面白い話になっている。教授が辿り着く答えも期待を裏切らない衝撃的なものだし、教授を助けるのがAIなどの高度なテクノロジーだというのもの本編のテーマに深く関わっていてお見事。今回はスペインが舞台だが、いつの日か日本を舞台に教授が活躍してくれる日が来ますように、とますます願う。(「オリジン(上・下)」 ダン・ブラウン、角川書店)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
   次ページ »