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「思いやり」という暴力 中島義道

本書の最大の読みどころは、著者の発言が会議の場を凍りつかせたり、相手を怒らせてしまったといった著者自身の実体験に基づく事例の数々だ。その場に居合わせたら、おそらく自分もその発言の正当性を考える前に、著者に不審の目を向けてしまうだろう。人の反応を思いやって発言を控えたり、当たり障りのない空虚な発言を良しとする感情はたしかに自分にもある。そして著者が指摘するように、日本人特有の美徳とされる相手を思いやる感情が建設的な対話を妨げ、知らず知らずのうちに別の意味で加害者になっていることにまで考えがおよばなくなってしまっている。何か変だと思いながらも、その先を考えない怠惰な姿勢こそが、著者が読む人1人ひとりに突きつける最大の問題点なのだと思い知らされた。(「思いやりという暴力」 中島義道、PHP研究所)

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