goo

修道女フィデルマの洞察 ピーター・トレメイン

フィデルマ・シリーズの第2弾。7世紀のアイルランドが舞台。アイルランド最大の王国の王女で美貌、弁護士・裁判官として最高位に次ぐ高位の資格を持つスーパーレディが活躍する短編推理小説集。前近代的な部分と近代の合理主義的な部分が程よく入り混じっており、他では得られない味わいを出している。7世紀のアイルランドというのは、キリスト教が既に普及していたとはいえ、まだ土着の宗教的な色彩も色濃く残っていたりしたようで、本シリーズのそれぞれの短編でも、そうした舞台設定がミステリ-の要素として上手く生かされている。
 本書を手にとって強く感じるのは、読者のために様々な工夫がほどこされていることだ。まず最初に、短編集でありながら、巻頭に短編ごとの登場人物の一覧表が掲載されている。私の知る限りこれは初めての試みだ。それから、巻末には訳者によるかなり親切な注釈が掲載されている。さらにあとがきの「解説」も親切だ。本シリーズの時代設定や主人公の説明、シリーズの見所、各短編の見所、著者に関する情報などが、丁寧にわかりやすく解説されている。こうした工夫は、「海外のミステリーが売れない」という最近の状況を何とか打破したいという出版社の努力の表れだと思われるが、非常に良いことだと思う。このシリーズは映画化などのきっかけがあればブレイクする可能性もある。まだ本シリーズは長編3本が未読で、さらなる翻訳刊行もあるらしい。これからも楽しみだ。(「修道女フィデルマの洞察 」ピーター・トレメイン、創元推理文庫)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

カーデュラ探偵社 ジャック・リッチー

不朽の名作「エミリーがいない」(多分私のベスト短編ミステリー)の作者の短編集。日本でのオリジナル短編集というから嬉しい。「カーデュラ」というのはドラキュラのアナグラムで、各編にただようなんともいえない可笑しさは、さすが「エミリー‥」の作者だと思う。ちょうど「守り人」シリーズを息を詰めて読んだ後だったので、肩の力を抜いて、存分に楽しめた。
 それにしても、あおのハチャメチャな「銀河ヒッチハイクガイド」も河出文庫、本書も河出文庫ということで、こうしたおかしな本にかけては、河出文庫は他の大手出版社を完全に出し抜いているように思われる。センスの良い編集者がおられるのだろう。著者の作品はまだまだ日本未上陸のものが多いというので、期待が高まる。(「カーデュラ探偵社」ジャック・リッチー、河出文庫)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

天と地の守人(第1部~第3部) 上橋菜穂子 

ようやく「守り人」シリーズを読み終えた。これまで、本シリーズは文庫化されたタイミングでゆっくり読んでいたのだが、前作を読んだ時の感想として「続編(最終話)の全3巻は文庫化を待つことができそうもない」と書いた。おそらく私のように、続編の文庫化を待つことが出来ずに単行本を買い求めた人が多かったのだろう。前作を読んだ後、本屋さんを回って探したがなかなか見つからなかった。結局、東京の本屋さんで第3部(軽装版)を入手、その後名古屋の本屋さんで第1部と第2部を入手。かなり努力してようやく全3冊を読むことができた。
 いつの間にか、壮大なスケールに発展している物語の面白さは言うまでもないが、ここまで本シリーズを読み進めてきた読者の最大の関心事である「守り人」シリーズと「旅人」シリーズの最終話での融合についても、この完結話は期待以上の面白さだった。日本の異世界ファンタジーの最高峰という名に恥じない大満足の読了だった。それにしても、本書の最後に掲載されている著者のあとがきによると、著者が物語を書く時、前もってストーリーがイメージされていることがほとんどなく、もちろん伏線をはるなどということは皆無に近い、というので大変驚いた。そうした書き方だと、出来不出来が激しくなるはずだが、著者の本はどれも面白いので不思議な気がした。ストーリーが自然とどこかから降りてくるのだそうだが、もし降りてこなかったらと考えると、それはそれでかなりしんどいだろうと思われる。(「天と地の守人(第1部~第3部)」上橋菜穂子、偕成社) 
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

ルイス・アパリシオ ユニフォーム MLB

大リーグの伝説の名選手、ルイス・アパリシオのユニフォーム。サインはすでに紹介済だが、ユニフォームの紹介がまだだったので紹介しておく。さすがに古い選手なので、あしらわれたユニフォームも年代が入っている感じだ。このシリーズは非常にデザインが地味なのであまり人気がないようだが、古いユニフォームの場合はこうした古色蒼然としたデザインも悪くないような気がする。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

伝える力 池上彰

 先日、著者がコーディネーターのシンポジウムを聴講する機会があったが、素晴らしい司会振りだと感じたので、何か1冊著者の本を読んでみたくなり、本書を読むことにした。
 本書は100万部突破というからすごい。読みやすく、あっという間に読めてしまったが、それこそが「伝える力」なのだという見方もできるだろう。内容的には、書かれていることの8割以上が常識的で言うまでもないことのように思える。例えば「重要なメールは送る前にもう一度読み直すべき」といったことが書かれているが、これなどは言われるまでもないことだ。残り2割のうち1割は、自分自身がこれまで自分で会得してきたと思ってきたことと重なる内容の指摘で、例えば(読みやすい文章を書くために)「接続詞をなるべく使わない」「カタカナ言葉を使わない」などは私自身、日頃から心がけていることである。最後の1割が、本書の指摘で「なるほど」と感じたことだ。たった1割という見方もできるが、こうしたノウハウ本で1割が「新しい」ということは、きっとすごいことなのだろう。そう考えれば悪い本ではないという気がした。(「伝える力」池上彰、PHP新書)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

怖い絵2 中野京子 

著者の「怖い絵」シリーズはこれで新書版を入れて3冊目。取り上げる絵の選択が、あまり有名すぎず、かといってあまりマニアックでもない、素人絵画ファンにはちょうど良い感じの絵が並んでいて感心する。著者の文章を読んでいると、絵画を言葉にしてあらわすその言葉使いが実に平易で判りやすい。絵画に関する本を読んでいると、絵のどの部分を言っているのかよく判らないような独りよがりの比喩や絵画の知識がなければ判らない表現が使われていて、歯がゆく感じることがよくある。「自分にはこう見える」という主張が強すぎて、読者にそれが伝わらないのだ。本書の場合は、現物の絵を見ながら読めば、著者がどの部分のことを言っているのかがよく判るので大変有難い。文章としては当然のようなことなのだが、こうした判りやすさが本書の最大の魅力だと感じる。(「怖い絵2」中野京子、朝日出版社)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

バーバラ・シェッツ ウエア テニス

オーストリアの元プロテニスプレーヤー、バーバラ・シェッツのウエアのコレクティブル。2005年に引退した選手だが、全盛期は2000年頃で、当時の4大大会の記録を見ると、大体3回戦か4回戦くらいまでは勝ち進んで、そこでシード選手に負けるという感じだったようだ。シード選手と比べるとやはり1つランクが落ちるというイメージは否めない。世界ランキングは7位が最高。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

印象派はこうして世界を征服した フィリップ・フック

印象派の絵画が、世界中で持て囃され、高値で売買されている理由を、英米独仏のコレクターの嗜好や時代背景を絡めて、様々な観点から考察している本書。掲載されている図版がカラーでないのが残念だが、印象派出現当時の各国の美術関係者の反応、取引の実態が、関係者の証言、手紙などの資料を元に精緻に描かれている。それにしても、印象派の絵画を巡る反応にそれぞれのお国柄が色濃く出ているのが面白い。また、印象派絵画の人気の秘密とは、結局、美の感性、富の象徴、進歩主義の具現ということに尽きるのだが、それに加えて、各国の政治情勢や経済情勢が密接に関わっているということが良く判って大変興味深かった。(「印象派はこうして世界を征服した」フィリップ・フック、白水社)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

坂本龍馬の10人の女と謎の信仰 平野貞夫

大河ドラマ放映による「龍馬本」の中の1冊。題名が面白いので読んでみた。最初のうちは「トンデモ本」の様相を呈していたが、読み進めるうちにそうでもないことが判ってきた。初心者向きの本ではないかもしれないが、この龍馬ブームの中での刊行ということで、初心者にも龍馬の足跡が追えるように判りやすく書かれているのが有難い。
本書では、大河ドラマでは今ひとつ良く判らない①落ちこぼれだった龍馬の突然の変貌 ②一介の脱藩浪人であった龍馬が何故各藩の要人らと会ったり交渉したりできたのか、という2つの謎について、著者自身の1つの見解がはっきり述べられている。本書の肝でもある「土佐の風土」と「妙見信仰」という2つのキーワードで語られるその考えが面白い。また、途中で登場する「天命のレセプター」という考え方には多少面食らうが、「天の配剤」という言葉に付随する「偶然性」というニュアンスを弱めた言葉と考えれば、それほど荒唐無稽な考え方ではないのかもしれない。龍馬ブームならではの本という気がして、面白かった。(「坂本龍馬の10人の女と謎の信仰」平野貞夫、幻冬舎新書)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

毎日かあさん(1)~(6) 西原理恵子

作者をモデルにしたTVドラマが放映されていて、一段と人気がでているコミック。内容は、一男一女の子育ての日常、壮絶な死を遂げた戦場カメラマンの夫との思い出、子どもとその夫との思い出の地を旅行するその旅行記、これらの3つくらいに大別できる。時間や内容はおおよそは時系列になっているような感じだが、突然昔の話に飛んだりするし、場所も日本だったり海外だったりだが、そういったことは余り気にせず、全体を読み通してその雰囲気に浸るというのが正しい読み方なのだろう。男の子どもを育てたことがある親は、男の子が主役のページに大きく頷くだろうし、女の子を育てたことのある親は、女の子が主役のページに大いに賛同を覚えるだろう。逆に、男の子を育てたことのない親は男の子のページを読んで「そうなんだろうなぁ」と不思議に納得してしまうし、女の子を育てたことのない親は女の子のページを読んで同じ気持ちに駆られるのだろう。この「そうそう」と「へぇー」という両方の微妙なバランスが、読んでいて大変面白い。(「毎日かあさん(1)~(6)」西原理恵子、毎日出版社)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
   次ページ »