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とにかくうちに帰ります 津村記久子

何でもない職場の日常を切り取ったような内容。その観察眼の確かさとそれを伝える簡潔な文章力。本書の特徴はこの2点に尽きるだろう。著者の本は「浮遊霊ブラジル」に次いで2冊目だが、さらに著者の作品が好きになってしまった。どこにでもいそうな職場の同僚達を女性社員の目で描いた最初の一編「職場の作法」はその観察眼が何とも言えず秀逸だし、どこからどこまでが本当の話か分からないような「バリローチェのフアン・カルロス・モリーナ」という第2編目も、これを小説と言って良いのかどうかと迷うほど独特の作品だ。最後の「とにかくうちに帰ります」は大雨の日に家に帰ろうとする人たちのドタバタ劇だが、ちょっとした映画を見ているような細かい描写が冴えわたっている。それぞれが違う味を出しながら、著者の観察眼と文章力が際立って感じられる。著者の本はまだまだ10冊以上もあるようで、それらがこれから読めると思うと嬉しくなってしまう。(「とにかくうちに帰ります」 津村記久子、新潮文庫)

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