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崖の館 佐々木丸美
本書は、30年前の1977年に刊行された小説が最近になって再文庫化されたものである。著者の名前も作品名も知らなかったが、当時は、「館」3部作ということで、かなりの人気を集めたようである。その3部作の待望の再文庫化とのことである。話は、雪に閉ざされた洋館が舞台で、その館に閉じ込められたお金持ちの女性(おば)と6人の従兄弟(全員がおばの遺産相続人)が登場人物、話の流れは雪の降るなかで相次いで発生する殺人事件を含む謎の事件、ということで、典型的な「館もの」のミステリーだ。「館もの」というのは、他の犯人の可能性を排除することができるし、警察の科学捜査が不可能な状況を設定して純粋な推理だけで話を展開させられるということで、いわゆる「本格もの」が好む設定である。だが、本書を読んでいくと、すぐに本書が通常の「本格もの」ではないことに気づく。女子大生の一人称で書かれているのだが、「一人称」というのが、その語り手の視点で記述されているというだけにとどまらず、語り手の考えたこと心のうちが延々と述べられているのである。ミステリーには謎解きが付き物だが、ミステリーにおける「謎」「謎解き」には、それがストーリーを構築する「手段」にすぎない場合がある。ミステリーの形をとってはいるが、作者が書きたいのは「謎解きの面白さ」とは違うものなのではないか。それならばそれでもいいのである。しかし、語り手の語る内容が事件の深刻さともマッチしていないのでは台無しだ。目の前で大変な事件が起きているのに、全く次元の低いことに悩んだりする。それが作者の意図だとも思えない。語り手の心理を書きたかったのであれば、もう少し深刻でない事件を設定すべきであった。本書の語り手は第2作でも語り手のようなので、本書の語り手が次にどうなるのか、多少興味はあるが、私としては、もうあまりその語り手の長い独白に付き合いたくないというのが正直な感想である(「崖の館」佐々木丸美、創元推理文庫)
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