山クジラの田舎暮らし

岩手県北の田舎に生息する「山クジラ」です。定年後の田舎暮らしや趣味の山行きのことなど、発信していきます。

『鳥たちの夜』=水上勉著

2012-07-17 07:28:19 | 読書
 水上勉の『鳥たちの夜』を集英社文庫版(上下=1988年2月第一刷)で読んだ。以前、古本屋で買ってから本棚の隅で眠っていたものだが、ちょっと思い立って読んでみた。
 この本の主人公は、若狭の中学校を定年退職した教師である。かつて教師時代に集団就職の世話をした生徒の中で、就職先を脱走した者への「追指導」を思い立って、京都、名古屋、東京とめぐり、家でした自分の娘も含め、その生き方に向かい合っていく話だ。若狭(福井県)はこの当時、すでに原発銀座と呼ばれ、どうも大飯原発らしいものをめぐっての住民の葛藤や、外へ出た人たちの苦悩やらも描かれていく。
 集団就職自体は1970年代でほぼ姿を消したと思うが、中学校卒業位の年代で親元を離れ、見知らぬ街へ働きに行く、高度経済成長時代に農村を崩壊させながら、膨大な安い労働力を求めていた日本の姿を思い起こさせる。そうした若者たちのその後を、東京などの大都市がどのように変えていったのか、そして利益優先の社会がどのような災厄をもたらしたのか、水上勉は抑えた筆の運びながら鋭く問いかけていると思う。
 福島第一原発の事故で明らかになった原発技術の問題点を見るとき、この本の中でかかれたささやかな疑問も大きな意味をもってくるのではないだろうか。


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