建築・環境計画研究室
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東京都における重度身体障害者グループホーム入居者のコミュニケーションと生活実態
—東京都重度身体障碍者グループホームに関する実態調査 その2—
日本建築学会大会学術講演梗概集 2009年 8月
千島亜美・松田雄二・高橋農・初見学
1 研究の目的
本研究では、入居者の行動観察結果に基づき、スタッフとの関わり方や入居者間の関わり方をそれらと関係があると予想される諸条件から分析し、重度身体障害者グループホームの生活実態を把握することを目的とする。
2 調査方法
入居者が起床してから、就寝するまでの行為と居場所を記録した。各施設ごとに1日ずつ行い、行為は30秒ごと、居場所は5分ごとに記録を行った。
3 結果
その1 行動観察結果の身体状況別・グループホーム別分析
1) 施設構成、延床面積、運営方針とコミュニケーションの関係
延床面積が小さい順にスタッフとの関係時間が多い。
2) 移動、意思伝達方法とコミュニケーションの関係
重度の入居者は交流時間が長く、軽度の入居者は交流時間が短く、無為時間もない。
3) 身体状況別1日の居場所
軽度の入居者は自分の好みに合わせ、重度の入居者はスタッフが積極的に関わることで、それぞれの身体状況に合わせた生活が展開されている
その2 共用空間での特徴的な入居者間での交流
1) 意思伝達方法との関係
話し言葉で意思伝達を行う入居者間で交流が頻繁に見られた。
2) 特徴的事例の分析
本人ができない些細なことは入居者が手助けするなどの交流がしばしば見られた。
「介助をする側—受ける側」ではない新しい交流が生まれていることが分かる。
4 まとめ
調査結果から、入居者それぞれの身体状況に即した生活が営まれ、身体程度が比較的軽度の入居者には自由な時間をすごす様が、重度の入居者にはスタッフからの細やかな働きかけがみられた。スタッフの介抱のもと自由に生活を構築でき、また、誰かと話をしたいときに仲間がいるというグループホームの特徴が見出された。
一方で、比較的重度の入居者にとっては、施設の規模がコミュニケーションの質と生活の質に関わるということが示唆された。
5 感想
身体障害者にとって、小規模なグループホームで生活することは、ほかの施設で生活するよりも、生活の質が高いように思われる。今後このような施設が増えることで、さまざまな特徴をもったグループホームを、入居者が選択できるような世の中が望ましいと思った。
09fa055 副島眸
日本建築学会大会学術講演梗概集(東北)2009年 8月 榎本幸・竹宮健司
1 背景・目的
本研究では、東京都多摩地域におけるグループホーム、ケアホームの現状を把握し、知的障碍者の障害の特性に応じた支援を可能にするホームの建築計画に関する知見を得ることを目的とする。
2 研究概要
多摩地域にある知的障碍者を対象とする8つのグループホーム、ケアホームにおいて、それぞれ訪問調査、世話人アンケート、ヒアリング調査を実施した。また。ひとつのホームにおいて参与観察調査を行い、生活様態を把握した。
3 結果
1) ホーム概要
定員数は4~5人という小規模なものが多く、周辺環境に溶け込んだ一般的な住宅のような外観である。
2) 入居者属性
全体で見ると、男性の入居者が7割を占めた。ホーム入居前の生活環境は施設である人が過半数を占めている。
3) 平面構成
共用空間が各居室への動線となるか否かで、「通過型」「非通過型」「混合型」の3つに大別できた。
4) 世話人からみた共同生活環境
共用空間の面積が1人当たり3�に満たないと、狭いと評価している。一日の多くの時間をすごす共用空間を広くしたいという声が聞かれた。また、浴室、世話人室など、様々な改善のための意見が聞かれた。
5) 入居者と共同生活環境
生活様態について、興奮や混乱により暴れたり、人やものに当たるなどしている様子が多くのホームで見られた。また、ホームのすべてで何らかの破損箇所があることが分かった。
4 まとめ
訪問調査、ヒアリング調査、アンケート調査により、入居者の支援態勢に応じた居室配置がなされていることが分かった。また、入居者の興奮・混乱による破損箇所があることから、ある程度の強度を保ちつつも、入居者の大怪我に繋がらないこと、整理しやすいことを考慮した構成・素材を選ぶ工夫も必要であると感じた。
5 感想
様々な混乱、興奮による破損から、通常の施設よりもより柔軟な対応が必要であると考えた。また、世話人による改善に関する意見が多く出ており、まだ世話人に対してよい環境にはなっていないように感じた。
09fa055 副島眸
視覚障害者の白杖の使い方と空間知覚に関する基礎的研究
人見優,森傑
日本建築学会計画系論文集 第611号,75-81,2007年1月
1.背景と目的
視覚障害者と晴眼者にとっての間には,視覚障害者にとっての生活環境の質への理解において齟齬が存在し,今日においてもそれが十分に解消されたとはいいがたく,公共的に提供されている案内や安全を示す情報は非常に限られているのが現状である.視覚障害者の歩行時の空間知覚に関する行為の特性を明らかにすると共に、視覚障害者自身の安全と快適を確保するためにどのように工夫しているかを改め理解し、今後のユニバーサルデザインのあり方を再検討するうえで非常に重要であると考える。
2.調査概要
白杖の環境への定位の仕方には視覚障害者と構築環境との相互関係が現れていると考える。日常生活で白杖を用いて歩行する場合が特に多い全盲の視覚障害者を対象に、観察記録と撮影記録を行う活動同行調査とした。調査対象者の属性,失明に至った経緯と現在の状況,調査日時,調査場面を分類する。白杖の動かし方を大きくスライド(白杖の杖先を接地したまま動かす), タッチ(白杖の杖先で突く), 持ち上げ(白杖の杖先を浮かす), 複合(スライド,タッチ,持ち上げのいずれかを組み合わせた動き)の4つに捉えるものとする。
3.結果と考察
床・地面における歩行,および誘導ブロック・異なる材質,縁石,壁・フェンス,段差を利用した伝い歩きにおいて,一定のリズムで左右にタッチすることで歩行の安全性を高め,起伏や段差をスライド法によって補う方法が有効な定位パタンであり,これらは歩行を安全に持続するための白杖の使い方であると考えられる.段差や障害物を発見・回避あるいは目印や居場所の発見・確保するといった白杖本来の役割と機能の中にこそ視覚障害者独自の工夫による定位パタンが見られる.歩行訓練において指導される白杖の使い方を超える個人技の豊かさの一端を示し得た.また歩行訓練からの経過時間,中途視覚障害者や先天性視覚障害者との違いが白杖の動かし方に関係している可能性が高いとみられる.
5.まとめ
現在の歩行訓練は,誘導ブロックを想定したスライド法を中心に計画され,建築や都市の環境も同様である.それは視覚障害者に対してスライド法を身に付けることを条件に課している環境デザインであり,誘導ブロックの上を歩くだけで視覚障害者の日常生活が満たされることは決してない.視覚障害者の身体の特性には個性があり歩行も個別多様であることの一端が理解でき,自らの歩行の仕方を開発しその技を洗練させているのである.
6.感想
視覚障害者の方の努力と適応が必要な今の環境デザインのあり方やユニバーサルデザインについてとても興味をもった.
横井 玲伊
少子化社会における市街地高層高密度団地の活用に関する研究
定行まり子,小池孝子,井本佐保里
日本建築学会計画系論文集 第632号,2033-2039,2008年10月
1.背景と目的
1960年代後半から70年代にかけて,都市部では工場の移転に伴う跡地を利用して高層高密度団地が次々と建設された,都市再生機構によれば,1965年以降に建設した団地は建て替えを行わず,順次リニューアルを進めていく方針である.少子高齢化が予想される高層高密度団地を対象に,店舗や地域施設・オープンスペースの転用の履歴を追跡し,これらの共用空間が建設当初から現在までに,団地や地域の中でどのような役割を果たし,特に子供の住環境という観点から市街地高層高密度団地の存在意義,今後の役割を問いたい.
2.調査概要
調査対象となった団地の図面を収集し,住宅管理センターへの聞き取り調査及び現地に赴き,共用空間の機能変化,施設の用途変化を観察,子供の施設利用の観察を調査し,記録した.また施設利用者及び施設長へのヒアリング,アンケート調査を実施.さらに団地ごとの人口変化を知るために統計局に保管されているデータを収集し,分析した.
3.団地共用空間転用の変遷
団地は少子高齢化が急速に進む中でも,子ども施設への転用が建設当初から現在に至るまで目的や対象者を変えながらも常に繰り返されて,子ども施設は団地内に絶えず設置され続け,そしてそのほとんどが存続していることが明らかになった.
4.団地内における子ども施設の特徴
4-1子ども施設の利用者は,徐々に団地内から団地外住民へ変化してきており,少子化の進行が著しい団地においても,団地内住居者から地域住民へと対象を変化させながら運営され続けていることが明らかになった.
4-2団地内には豊かな屋外広場が確保されており,子ども施設は公園や施設周辺のオープンスペース等を活用して保育を行っていることが判明し,市街地では得にくいこれらの広場や子ども施設が存在することで,団地の地域の子どもの居場所として有効に機能していることが確認された.
4-3団地自治会等との連携によりイベントは常に子どもで賑い,施設に通うことをきっかけに休日も団地に遊びに来る子どもも多く,子ども施設の存在が団地に賑いをもたらしていることが確認された.
5.まとめ
子ども施設は団地活性化において重要な存在で,地域の活性化にとっても非常に有効である.施設間や自治会との連帯を強めるといった配慮も重要である.
6.感想
子ども施設と地域との関係について,詳しく調べてみたいと思った.
横井 玲伊
共働き・ひとり親家庭における子どもの放課後の生活に関する研究
—大阪市・神戸市内の民設型学童保育所を利用する家庭を対象に—
塚田由佳里 小伊藤亜希子 平成17年度日本建築学会近畿支部研究報告書
背景・目的
97年の法制化以降、学童保育所は急増したが親の労働条件が厳しい中、そこに対する子育て支援策は親の就労条件に合わせて実施されており子どもの生活に及ぼす影響は軽視されがちである。
共働き・ひとり親家庭の子育て支援に必要な施設・環境整備の検討を目的とする。
研究方法
大阪市・神戸市内の民設型学童保育所を利用する低学年家庭を対象にアンケート調査、アンケート回答者のうち8家庭でのヒアリング調査
結果・考察
親の就業形態は全体として常勤雇用が多く、母の帰宅時間は17:30~19:00に集中し、父の帰宅時間は19:01~22:00を中心に広く分布している。
大阪市の保育所の閉所時間は延長保育を含めて18:31~19:30、神戸市は17:00~19:00であった。
帰宅時間の早い、遅いにもそれぞれ子どもや親にとって「嬉しい点」「心配な点」がある。
親の帰宅時間が遅くなり、子どもにとっても自宅で落ち着いた時間をとることが難しくなっている。
子どもとの時間が持てるゆとりある家庭生活を保障する視点から仕事と子育ての両立への支援として親の帰宅時間にあわせた延長保育が必要で、その場合は学童保育所で自由に過ごせる時間や空間が保障されることである。また、託児機能にとどまらず、親の子育てネットワークの形成拠点となるためにも、親も運営に携わることが重要である。
感想
どんなに子育て支援としての施設が充実していて、もし何時まででも延長保育ができたとしても、その分自宅で家族とのふれあいの時間が減ってしまうので、やはり親の帰宅時間が早いことが最良だと思った。そのためにも子育て中の親が早く帰りやすい職場づくりが重要ではないかと思う。
保育所と言えば、子どもたちのための施設というイメージが強かったが子育て支援として親のネットワークとしても重要な場所だと思った。
09FA030 小林志乃
放課後子どもプラン実施における学童保育のあり方に関する考察
~連携事業の実施に着目して~
松本歩子 中山徹 平成21年度日本建築学会近畿支部研究報告集
背景・目的
放課後保育に欠ける児童の健全な生活が保障される場として、また保護者の仕事と育児の両立を支援する子育て施設として学童保育は更なる検討が必要とされている。
放課後子どもプランの実施形態の1つ、学童保育と全児童対策事業の「連携」を中心に現状を明らかにし、この「連携」の望ましい形態を保育的機能の面から探ることを目的とする。
調査方法
学童保育と全児童対策事業が連携・協力している市区町村から15自治体を選定し、各自治体担当課職員への事業概要に関するヒアリング調査と現地観察調査を行った。
結果・考察
学童保育と全児童対策事業を同一の部局が担当する自治体と異なる部局が担当する自治体があった。放課後対策事業の在り方を検討する委員会においてほとんどの自治体が両事業の担当部局間の連携が取られていた。
全児童対策事業への学童保育児童の参加受入状況は、実施日や対象学年の違いなどにより「学童保育児童の参加可」「学童保育児童の参加不可」と分かれた。
実施校ごとの指導員間連携体制が異なり、保育計画が学童保育ごとに立てられていた。
連携事業を行う場合、学童保育児童も全児童対策事業に参加できる実施形態が検討されなければならず、両事業それぞれの活動計画について把握するための連携体制として整えられる必要がある。
今後、放課後対策を検討する上で両事業のつながりに限定することなく、児童館など地域の既存の施設や団体との関係も含めた総合的な放課後対策が検討されることが望ましいのではないだろうか。
感想
学童保育、全児童対策事業と分かれて事業があるために、「学童児童参加不可」などの複雑な問題が出てくるので、つながりに限定することなく放課後対策を検討すれば、子どもたちも放課後の過ごし方に選択の幅ができるのではないかと思った。
09FA030 小林志乃
遊び環境における障害児と健常児が居合わす場面の考察
岩下将務
日本建築学会計画系論文集 第540号,119−124,2001年2月
1) 研究の背景
建築の分野から、学校など公共の場において、障害児と健常児が同じ空間の中で実際に向き合う場面、つまり質の問題は考慮されておらず、社会一般における人と人とが接触する一場面として、また、普遍的な建築的課題として取り上げる必要がある。
2) 調査の概要
調査員がマンツーマンで対象児を追跡し、その様子を記録する調査方法を用いた。調査の内容は、対象児の行動軌跡、時間、行動内容、他者との接触、構築環境への働きかけの様子である。
3) まとめ
1、交流保育の有効性 交流時には、ほとんどの対象児で遊びの頻度が増えている。しばしば、障害児の遊びが展開されないことが指摘されるが、このことは、新しい環境で多くの遊びが生まれ、園児たちが多様に居合わす場面がみられるという点で、交流保育の有効性を示している。
2、参加プロセスと離脱プロセス 対人的コミュニケーションを苦手とする障害児の場合、ある集まりに間接的に参加できる位置にいることには意味がある。つまり、ある遊び場所の周囲の場所づくりにも価値を見だすべきことが示唆される。
また、離脱プロセスを見ると、障害の様態によっては対人関係が極端に避けられる場合もある。遊び場の独占的使用を許す隠れ家的空間や固定遊具は、それらのみが場を構成する唯一の要素となる場合、居合わせることが困難になってしまうことが指摘される。こうした場所では、近くで遊べるように場所のネットワークが必要であり、場所の選択性が付与されるべきである。
3、質の違いから見る「視覚的参加」 「視覚的参加」には、順番待ちと、次の行動のための準備といった意味があった。順番待ちは社会性を身につけさせるための有効手段と考えられているが、交流からの離脱のきっかけにもなる。つまり、単に待つだけでなく、別の遊びをしながら待つための場所の選択性がここでも必要となる。
また、従来の「見るー見られる」で語る空間としてではなく、次の行動の準備という意味において「見えること」を考慮する必要がある。
4) 感想
遊びの頻度が高くなることで、交流保育の有効性を示していて合理的だと思いました。交流保育は、児童に良い刺激を与え、良い経験になるのだと思うと同時に、障害児・健常児が互いにストレスのない空間にすることは、これからの課題だと思いました。
黒巣光太郎
こんばんは.
久々の研究日誌です.M1の小林です.
今日は ”うたしろせんせい”こと 歌代さんが
防犯のワークショップを行ってきました.
あいにくの雨でしたが,無事イベントを成功させられたようです.
この頃毎日,一生懸命準備をしていたので 無事に終えることが出来て
本当に良かったです.
お疲れ様でした.
こんな風に自分が研究したことをきちんと外部に発信することができるなんて
素晴らしいですね.
今日ワークショップに参加してくれた小学生が
少しでも危険なことに遭遇する可能性が減ると良いですね.
大学に戻り 達成感に満ち溢れた4人です.
やっぱりやるからには意義のある研究にしたいですね.
私も投稿論文への気合が高まりました.
次は堀さんです!
(小林 陽)
□研究の背景(着想に至った経緯,研究経過,研究成果等との関連及び準備状況)
応募者はこれまで,高齢者や障碍者,こどもの施設や生活環境を対象として,利用者/居住者の滞在や活動の様態と建築空間の構成や設えの関係など,生活を支える建築と環境づくりのあり方について研究してきた.その成果の一端として例えば,活動のコーナーやゾーンをつくることで主体的な活動や,滞在や活動の継続性を支えることができるなどの知見,また環境づくりの理念・目的から具体的な建築や環境のあり方を評価の構造として整理することで,制度設計から現場の環境づくりに至る環境整備の各段階において有効な指針を示しつつ環境づくりの多様な可能性を保障できる,といった提言を行ってきた.この研究の中で応募者は,こうした生活環境づくりの主体となる人々にとって,何が「良い環境」かということそのものが充分に理解されておらず,環境づくりの基本となる環境への視点自体が共有されていないことを痛感している.そこで,これまでの既往研究や応募者の研究成果を活用し,環境づくりの広報・支援の実践に取り組み,研究成果の社会還元を行うと共に,人々の生活環境の質の向上に貢献したいと考えた.
□研究目的(研究費の交付を希望する期間内に何をどこまで明らかにしようとするのか)
本研究は,環境づくりの広報・支援を通して高齢者など環境による支援が必要な人々との生活環境の質と,それを支援する環境の価値への社会的関心の向上を目的とする.具体的には以下の3つの課題を設定する;①環境づくりの理念から具体的な建築と環境のあり方までを評価の構造として一般の方や環境づくりの現場にわかりやすく示す図式化を行う,②その成果を活かした環境づくりの支援サイトとパンフレットを作成して環境づくりの現場や環境整備(施設設置)主体となる自治体等に広報および還元する,③パンフレット送付とサイト運営にあたり併せてアンケート調査やヒアリング調査を行い,その成果と意義の検証を行いつつ環境評価図の精査を行う.
□当該分野におけるこの研究(計画)の学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義
当該分野においては環境づくりの実践や理念それぞれについての研究や提言はあるが,環境づくりの「理念/目的」から「具体的な建築・環境のあり方」にいたる構造は充分に整理・提示されておらず,これを明示することには学術的な特色がある.また「環境をつくる」ことの目的と方法を結びつけて体系的にプレゼンテーションする点,それを用いて環境評価を行えるサイトを提供することを主目的においた点に本研究の特色と意義があり,これは研究成果を社会に還元するフェーズにあって重要な研究課題と考える.また本研究成果は,環境づくりの全般において援用可能な知見と考える.こども,高齢者,障碍者の環境について広く横断的な広報・支援の実践を行う点には特色があり,ひとつの研究フィールドにとらわれないことで互いの研究知見およびプレゼンテーションの質の深化が期待できる.
*この研究は、山本郁也さんと協同して進めています。
シルバーハウジングにおける支援の仕組みと特性
厳 平、横山俊祐
日本建築学会計画系論文集 第542号、121-128、2001年4月
1. 研究の背景と目的
本研究では、シルバーハウジング(以下、SH)を対象に、住み手同士の自発的な相互扶助に焦点を当て、公助と相対化しつつ、それらが健康面や生活面における住み手の安心感の獲得や自立した生活の促進に向けてどのように寄与しているかを明らかにすることを目的とする。
2. 調査概要
2.1調査対象団地の概要
団地規模、住戸住棟配置におけるSHの位置、一般住戸との混住形態等が異なる九州圏内の5団地(IR・IZ・MO・SG・TS)を調査対象に選定した。
2.2調査方法
各団地のSH居住の高齢者世帯を対象に、近所付き合いの相手と内容、緊急時の対処法、生活援助員(以下、LSA)との交流実態、相談室の利用頻度などに関するアンケート調査を予備的に実施し、高齢世帯の全体的な概要や傾向を把握した。
3. 健康支援
(1)緊急時の対応
各団地共に、リズムオンセンサー・緊急通報ボタンやペンダントなどの機械設備が設置され、緊急事態が発生した際に、それを使ってLSAや老人保護施設などに通報する仕組みが整えられている。
(2)安否確認
各団地とも安否確認は、LSAの業務の1つになっているが、IZ「住み手型」が83%、他の4団地では「併用型」が50%(TS)~83%(IR)を占めて最も多い。団地毎の差異には、LSAによる確認方法が作用していると考えられる。
(3)健康相談
SG・TSの相談室は活用されているが、LSAの健康に関する専門的な知識がなく、聞き役にまわったり、対応に苦慮した状況が窺われる。
4. 生活支援
(1)基本的な生活行為に対する定常的な支援
家事や買物などの基本的生活に対する定常的支援を48%が受けている。支援タイプは、ヘルパーによる「制度型」が6%、「併用型」が19%を占めるに過ぎず、「住み手型」が74%と、支援の大半は住み手を中心に行われている。
(2)支障に対する一時的な支援
病気や留守の時、或いは力仕事が必要な時など随時生じる支障に対する一時的な支援を受けるのは、63%を占める。その内「住み手型」が80%と大半を占め、住み手への依存が強い。
(3)生活相談
生活相談は、73%が行っているが、他の支援場面に比してLSA依存の割合が相対的に高い。
5. まとめ
公助・共助各々の優位性や有効性が、互いのデメリットを解消する方向に作用している点や、「併用型」にみられる、制度的支援を基本とした上で、個別の状況に応じた多様で柔軟な共助が展開されることで支援の質が高まる点に、両者の存在意義と必要性が認められる。
6. 感想
シルバーハウジングの支援の仕組みについて、制度的なものばかりに注意が向いていたが、住み手同士による共助も非常に大切だということが分かった。
09FA045 正田博之