建築・環境計画研究室
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シルバーハウジングにおける支援の仕組みと特性
厳 平、横山俊祐
日本建築学会計画系論文集 第542号、121-128、2001年4月
1. 研究の背景と目的
本研究では、シルバーハウジング(以下、SH)を対象に、住み手同士の自発的な相互扶助に焦点を当て、公助と相対化しつつ、それらが健康面や生活面における住み手の安心感の獲得や自立した生活の促進に向けてどのように寄与しているかを明らかにすることを目的とする。
2. 調査概要
2.1調査対象団地の概要
団地規模、住戸住棟配置におけるSHの位置、一般住戸との混住形態等が異なる九州圏内の5団地(IR・IZ・MO・SG・TS)を調査対象に選定した。
2.2調査方法
各団地のSH居住の高齢者世帯を対象に、近所付き合いの相手と内容、緊急時の対処法、生活援助員(以下、LSA)との交流実態、相談室の利用頻度などに関するアンケート調査を予備的に実施し、高齢世帯の全体的な概要や傾向を把握した。
3. 健康支援
(1)緊急時の対応
各団地共に、リズムオンセンサー・緊急通報ボタンやペンダントなどの機械設備が設置され、緊急事態が発生した際に、それを使ってLSAや老人保護施設などに通報する仕組みが整えられている。
(2)安否確認
各団地とも安否確認は、LSAの業務の1つになっているが、IZ「住み手型」が83%、他の4団地では「併用型」が50%(TS)~83%(IR)を占めて最も多い。団地毎の差異には、LSAによる確認方法が作用していると考えられる。
(3)健康相談
SG・TSの相談室は活用されているが、LSAの健康に関する専門的な知識がなく、聞き役にまわったり、対応に苦慮した状況が窺われる。
4. 生活支援
(1)基本的な生活行為に対する定常的な支援
家事や買物などの基本的生活に対する定常的支援を48%が受けている。支援タイプは、ヘルパーによる「制度型」が6%、「併用型」が19%を占めるに過ぎず、「住み手型」が74%と、支援の大半は住み手を中心に行われている。
(2)支障に対する一時的な支援
病気や留守の時、或いは力仕事が必要な時など随時生じる支障に対する一時的な支援を受けるのは、63%を占める。その内「住み手型」が80%と大半を占め、住み手への依存が強い。
(3)生活相談
生活相談は、73%が行っているが、他の支援場面に比してLSA依存の割合が相対的に高い。
5. まとめ
公助・共助各々の優位性や有効性が、互いのデメリットを解消する方向に作用している点や、「併用型」にみられる、制度的支援を基本とした上で、個別の状況に応じた多様で柔軟な共助が展開されることで支援の質が高まる点に、両者の存在意義と必要性が認められる。
6. 感想
シルバーハウジングの支援の仕組みについて、制度的なものばかりに注意が向いていたが、住み手同士による共助も非常に大切だということが分かった。
09FA045 正田博之
バリアフリー環境整備前後における利用者の環境評価の変化
東京都心近傍の鉄道駅の利用者評価からの考察
大村 薫、佐藤克志
日本建築学会計画系論文集 第75巻 第652号、1381-1387、2010年6月
1.はじめに
本研究では、バリアフリー法において生活関連施設として重要な位置にある鉄道駅施設を対象とし、移動・利用円滑化のための環境整備(以下、バリアフリー環境整備)の前後における駅利用者の環境評価の変化の傾向を明らかにすることを目的とする。
2.研究方法
調査は、2005年、2007年、2009年ともにMK駅を利用すると想定される周辺約1km範囲内に居住する各住民宅ポストへの無作為の投函、郵送回収によるアンケート調査として実施した。
3.調査対象駅のバリアフリー状況
1)2005年調査時:改修前
出入口から改札階まではEV未設置、駅舎内にはトイレ未設置であった。
2)2007年調査時:基本改修後
東口については出入口にEV(通り抜け型)、階段、ESC(上り下り2方向)が併設された。また改札側からホームには、新たにESC(上り下り2方向)とEV(通り抜け型)が設置された。駅舎内にはトイレは未設置であった。
3)2009年:全面改修後
基本構造は2007年調査時と同様であるが、新たに駅構内に多機能トイレが設置されたほか、簡易ベンチなどの休憩設備も整備されている。
4.調査結果
4.1回答者の概要
本調査結果は「年代に因らず歩行能力には大きな問題がなく、半数以上がMK駅を日常的に利用している」回答者によるものである。
4.2MK駅の利用しやすさ総合評価の変化
駅改修に伴う、バリアフリー等設備によって駅の利用しやすさ総合評価は、「大変利用しやすい」及び「利用しやすい」と回答した人が、2005年の改修前の23.7%から2007年の基本改修後には83.6%へ、さらに全面改修後の2009年には97.1%へと向上している。
4.3駅の施設要素別の利用しやすさ評価の変化
全般的に改修後に評価が向上する傾向が読み取れるが、ホーム柵など、一部に物的な状況は同じであっても評価が低下しているものも見受けられる。
4.4駅施設利用者の評価構造と総合評価の関係
全面改修後の関係モデルでは「ホームの安全性」「情報のわかりやすさ」「移動の円滑性」など、駅施設に求められる機能・性能によって駅施設の「利用しやすさ」が評価される傾向が表されているが、改修前の関係モデルでは「改札外空間の移動性・利用性」「改札内空間の移動性」といった性格の異なる空間評価に関わる潜在的因子が選択された。
5.まとめと今後の課題
バリアフリー法に基づくバリアフリー環境設備によって駅利用のしやすさは確実に向上している。但し、移動・利用円滑化のための環境整備によって一度「使いやすい」と評価されたものが、時間経過と共に「ふつう」評価に低下する場合があることも明らかになった。
6.感想
バリアフリー環境整備の前後の評価ということで大変興味深い内容だった。
09FA045 正田博之