そろそろ卒論修論,学会用の論文投稿のシーズンがまたやって来ますね。
論文を書き上げたとき,セルフチェックできる論文用文章チェックのリストをつくりました。
レポートにも適用可能です。
他の人の論文と交換して,クロスチェックをするのはもっと効果的。
"傍目八目"といわれる現象ですね,他の人の文章は「アラもよく見える」。自分の文章は「目が滑る」。
*学生さんの論文を読んでいて気になる表現や言い回し,論文査読をしていて(この記述は著者の言いたいことと正確に対応しているかな? 等と)引っかかる言い回しをリストアップし,その箇所を見つけるための検索ワードと入れ替え候補の表現を整理しました。
*このため,わりと汎用性があると思いますが,ベースは建築・都市計画の分野でよく見る引っかかりワードです。
*分野が違うと状況は異なると思います。
*前段は,該当する総てを入れ替えることを推奨する記載ではなく,頻出すると「くどい」印象を与えてしまう場合の言い換え候補の説明です。
1.もってまわった言い回しを避ける。なるべく短く平易な表現に。
- 検索語 ことができる
- 「〜することができる」は,たいていは「できる」で十分。
- 他に,「食べることができる」→「食べられる」,「寝ることができる」→「寝られる」など。
- 必ずしも総て置き替える必要はありませんが,「〜ことができる」が頻出するとくどいので,控えめに。
- 検索語 における,において
- それぞれ,「の」「での」と「では」「には」などに置き換えられるか検討する。
- 「での」よりも「における」の方が堅い言い回し。例えばタイトルでは「〜における」とし,本文中では「〜では」を使うなどの使い分けをおすすめします。
- 単体では悪くないのですが,近い位置で頻出すると,もってまわった印象をもちます。におけるにおけるにおいてにおいてなんだか花の香りが漂ってきたよ素敵だね,という文章がたまにある。
- 例えば「我が国における国土政策と高齢者施策においては」→「我が国の国土政策と高齢者施策では」で十分では?
- 検索語 として
- 「の」や「は」,「には」に置き換えられるか検討する。または,文章の順番を置き換えて,「として」を消せるか検討する。
- 単体で使って悪いことは全くありませんが,前後の文章でとしてとしてとして続くと変です。そんなにとさなくていいのでは。
- 例。「我が国における未就学児支援事業所としては,保育所・幼稚園・こども園,児童館などの子育て支援事業として実施される施設等が挙げられる」→「我が国の未就学児支援事業所には,○○等がある」や,「我が国には,○○等の未就学児支援事業所がある」。
2.「もの」「こと」「について」なるべく使わず具体的に。
- 検索語 もの
- 「もの」で表現したい単語を直接書く。文章の前後を入れ替えると消せる場合もある。
- 例)「この事例は,○○の特性をもつものである」→「これは,○○の特性をもつ事例である」「この事例は,○○の特性をもつ」「○○の特性をもつ事例を挙げる」など
- 敢えて使うこともあります。例えば背景目的のところで,大仰に言いたいときとか。それ以外はなるべく使わない。
- 検索語 こと
- 「こと」が入っている文章,本当にそれが必要か確認。または具体的な単語に換えられないかを考える。上記「〜すること」などをなるべく避けるということとも関係。ことことことことシチューかこれは。美味い!シェフを呼べ,という文章がたまにある。
- この文章中の,“「〜すること」等をなるべく避けるということとも関係”は,例えば“「〜すること」等をなるべく避けるというアドバイスとも関係”と表現できます。より具体的な表現は後者。こういうことです。
- 上記文章中の,“こういうことです”は,“こういう意味です”。と表現できます。より具体的な表現は後者。そろそろわかりました。
- 検索語 について
- 例えば,「〜について明らかにする」は,「〜を明らかにする」でいい。「〜について類型化する」→「〜を類型化する」。
- この単語については,基本的にはその文章の関心の所在について明らかにしたいという執筆者の興味関心事について表明されている箇所を示すという意図についてはよくわかりますが,ついてついてついてついてモチかこれは。誤飲には要注意だ,という文章がたまにある。
- →「この単語によって,基本的にはその文章の関心の所在を明らかにしたいという執筆者の興味関心事が表明されている箇所を示す意図はよくわかりますが,」のように,消すことができる。
3.状態(である)と変化(になる)は,違う。注意。
- 検索語 なる,なった
- 「〜になる」「〜になった」などが該当する。これらの語を検索して,ヒットしたら,基本的には「である」ベースに書き換える。
- 「なる/なった」は変化を示し,「である」は状態を示す。「なる」ってつい書きたくなる気持ち,よくわかります。でもそれは本当に変化を表現したい文章ですか? なるなるなるなる,ナルニア国かここは。面白いよね,という文章がたまにある。
- 検索語 増,減,低,てきた
- 「増えた,増加した,減った,減少した,低下した,〜になってきた」などが該当する。増えた,増加した,は変化。本当に変化を記述したのか,「Aが多いときに,Bが多い」などの,対応関係=状態を記述したかったのか,考える。
- 変化を記述できるのは,例えば変化の前後を調査した場合(POE研究やアクション・リサーチ,時系列で推移を観察した調査など)。かなりの論文での調査は,「差異」を調べているので,変化記述は,しばしば不適切な記述。
4.因果関係,そう簡単に言えない。今書こうとしているのは対応関係では?
- 検索語 のため,するほど,なるほど,あるほど
- 「〜であり(状態)」,「〜のとき(条件)」のように言い換えられないか確認する。「〜のため(因果関係)」こそが唯一の適切な表現である,とまでは言えず,「〜であり(状態)」や「〜のとき(条件)」に言い換えられるならば,たいていの場合は対応関係を記述しようとしている。
- 「〜になるほど」「〜があるほど」などは,上記3の“変化はそう簡単には言えない”とも同様の意味。
- 対応関係=相関関係は,因果関係を意味しない。
- (1回の調査で観測される)対応関係=相関関係は,因果関係を意味しない。道行く人が雨傘をさしているとき,外ではたいてい雨が降っている(相関関係)が,雨傘をさすから雨が降る(因果関係)のではない。関連するように見える事象Aと事象Bは,どちらが原因でどちらが結果か,1回の観測だけではわからないことが一般的。
- 変化の測定,つまり雨が降り始める前後の観測をした場合には,因果関係をかなり強く推測する記述ができる。雨が降る前には・傘をさしている人はいない。雨が降りはじめた後に・傘をさした人がいる。だから,のように。
- ただし,前後関係(事象Bが起きる前に,事象Aが起きていた)と,因果関係(事象Aが起きたことで,事象Bが起きた)は異なるので,因果関係の推測は慎重に。
- 因果関係を記述したい場合は,「事象Aと事象Bには,○○という関係がある(相関関係)。これは,事象Aが〜のとき,事象Bに〜という影響がおよぶためと考える」のように,①相関関係の指摘(事実),②因果関係の推論(考察)をきちんと書き分ける。
- AだからBである,のように因果関係を示唆する記述箇所は,「Bである。その理由として,Aが推論できる」のように記載する。
5.多い少ない,簡単に済まさず具体的に。
- 検索語 多い,少ない,多く,少なく
- 多い,少ない,その定義はなに? どれくらい? 多い少ないの基準は? これは多いの? 少ないの? どっちなんだい!?ヤー!! ツッコまれまくりだ。
- 「〜は80%を占める」,「〜の割合は,…に比べて高い(有意差検定を行い,p値<0.01)」。のように記載する。
- 例えば「該当件数が最も多い項目は○○であり」は,最頻値の項目をしているだけなのでこれは単純な事実。
- 図表中から,注目する部分を抽出して説明文章を作成したい時がある。そのとき,抜き出す項目が恣意的にならないように,基本的には「最も多い」項目などから順に挙げて説明する。
- ただ,多寡で示すべきか(最頻値表現),有無で示すべきかはデータの散らばり等による。例えば,”該当件数0と1が並ぶデータのなかで,2があった,これに「多い」という表現が妥当か?”という疑問。こういう疑問を持てたら有意差検定を。
- 有意差があるかないか(つまりこれは2つ以上の群の差異を検定したいという趣旨なので),は,例えば独立性の検定を用いる。
- 数量データ×数量データ:単相関係数,共分散分析,多変量解析など
に対して,
-
-
- 数量データ×カテゴリデータ:相関比,ロジスティック回帰分析など
- カテゴリデータ×カテゴリデータ:クラメールの連関係数,独立性の検定,など
を使います。カテゴリAとカテゴリBを,比較したい軸(数量データまたはカテゴリデータ)で比べると,どのような違いがあるか?と。
- よくわからない? はい,それでもいいです。とにかく多い少ないを簡単に言わない,頻出させないで,より具体的に書ける記述方法を考えてみましょう。
6.文章の主語と、主語-述語の対応を確認
- そもそも文章に主語があるか?
- 慣れないうちは,1つひとつの文章に主語があるか,線を引いて確認してみましょう。英語でやった,S-V,S1-V1,S2-V2,みたいに。論文の文章は,詩のように解釈の自由度を高める目的はもちません。読者の誤読を避け正確に理解してもらうために,論文の文章には主語が必要です。
- 例)また、SNS上で教材作成を募集したことを受け,アルバイトのために訪れる人もいる。 *前段に主語がない。
- 修正1:主語を追加する)また、運営者がSNS上で教材作成補助を募集したことを受け,アルバイトのために訪れる人もいる。
- 修正2:語順を入れ替えて目的語を主語にする)また、SNS上で教材作成補助が募集されたことを受け,アルバイトのために訪れる人もいる。
- ひとつの文章が,“主語1-述語1,(主語2がなくて)-述語2”のような構造になっていないか?
- 主語が途中で入れ替わってしまう現象。よくある。主語を中心に,個々の文章が主語-述語が対応した文章として完結しているかを確認する。
- 例)筆者らが施設を訪問して利用人数を調べたところ,3名だった。(「3名だった」の主語がない)
- 修正1)筆者らが施設を訪問して利用人数を調べたところ,利用者は3名だった。(主語2を追加)
- 修正2)筆者らが施設を訪問して利用人数を調べたところ,3名の利用者が確認された。(主語2を追加し,述語を受け身にする)
- 修正3)筆者らは施設を訪問して利用人数を調べ,3名による利用を確認した。(述語2=確認したを,主語1=筆者らに合わせた)
- ひとつの文章が,“主語1-述語1(連用形),主語2-述語2”となっていないか?
- 述語1が連用形であれば,それに続く主語1の述語2がなければいけない。
- 例)筆者らは〜という調査を行い,〇〇という結果が出た。(主語1:筆者ら,述語1:行い(連用形),主語2:結果,述語2:出た)
- 修正1)筆者らは〜という調査を行い,○○の結果を得た。(主語1:筆者ら,述語1:行い(連用形),述語2:得た)
- 修正2)筆者らが行った〜という調査によって,〇〇の結果が観察された。(主語1:筆者らが,述語1:行った(連体形),主語2:結果,述語2:観察された(受け身))
- 何言ってるんだかわからん,と思うときは,騙されたと思って,音読してみることをおススメします。ちょっとつながりがおかしいなという箇所は,それで意外とわかります。
7.考える。それが適切か考えて。
- 検索語 考え(考える,考えた,考えられ)
- 小中高と「あなたの考えを記述してください」と言われ続けていることの弊害なのかなと思いますが。論文で必要なのは既知・周知の事実(既往研究や統計)を踏まえた上でのオリジナルの知見。
- 「〜と考える」は、その考えが自分のオリジナルであるとぜひアピールしたい(必ずしも一般的でない)ときだけ使うつもりで。
- 客観的事実を記述してるのに末尾が「〜と考える」だと,とても曖昧に読める。
- 既知・周知の事実や実態を記述する場合には,「〜と考える」は不要。断定しちゃいましょう。
- 例「日本では高齢化が深刻な社会問題だと考える。」→「深刻な社会問題である(適切な文献を引く)」
- 結果・考察パートでの例「〜という特徴があると考える。」→ これが事実と見なせるなら →「〜という特徴が読み取れる。」or「〜という特徴がある。」
- レポートや論文で「(既知の事実)〜と考える。」と書かれると,強烈な違和感があります。『そんなの当たり前/調べてないのか/確定事実であると知らないのか?/敢えて言っている…のかな,じゃあどういう意味?』といった,著者の意図に疑問をもつなどの心的反応が生じます。
〜上級編〜
8.なるべく順接,肯定文で書く。
- 検索語 「ないが,」「だが,」「であるが,」「ない」
- 「〜ではないが,」「〜だが,」「〜であるが,」で前後の文章をつなげて書くことがあります。「〜が」はとても便利に前後を接続できると同時に,前半の部分を部分的/全面的に否定するニュアンスを含みます。ここから先のことは,ここまでとは,(少し)違いますよ,という逆接の接続ですね。
- 文章を読み進めていくときには逆接は注意喚起の目印ともなり,注目を集めるためにとても有効ですが,そのような構造の文章が続くと読者がスムーズに読み進めにくい場合がありますが,同時に「〜が」で文章を続けることで,1つの文章が長くなってしまいがちですが,これによって文意をうまく読み取れなくなることもあります。「〜が」は,とっても便利なのですが,がががががががが道路工事かここは。おつかれさまです!という文章がたまにある。
- これは余談です。日本語話者がどう言えばいいかな?的に考えながら口語で話をしていくとき,この逆接っぽいつなぎで文章を長く続けて話すことがよくあります。意識してみると,このことだなというツナギが聞き取れるようになります。口語では,普段とても無意識に使っています。このため,クセになっていたりもします。文章を,とにかく一旦切る。これを心がけると,改善しやすいです。
- 例:「これは余談ですが,日本語話者がどう言えばいいかな?的に考えながら口語で話している時なんですけど,逆接っぽいつなぎで文章を長く続けて話すのをよく聞くんですが,意識してみるとこれだなってツナギを聞き取れるようになるんですけど,口語では普段とても無意識に使っているからなんですが,意外とよくわからないものなんですよね。」
- 同様に,否定の構文も,それが続くと読んでいて疲れてしまう,どこを強調したいのか曖昧になってしまう,何を言いたいのかを読者がつかみ取りにくくなってしまうことがあります。否定の構文は,しばしば,具体的でないことがあります。
- Aではない(間違い)指摘は,Bである(正しい事柄)指摘ではないためです。←この文章自体がその例です。
- → Aではない(間違い)指摘に加えて,正しくはBであることも伝えることが文章としての具体性を増します。または,正しくはBである,ということを率直に記述することも有効です。
- 例えば雨の日,傘を横向きにさしている子供に,「傘を横向きにしないで」と言っても,それだけでは「じゃあ,どうしたらいいのか?」は,伝わりません(この文章は,否定の構文)。これだけで終わってしまうと,実は,具体的ではないんですね。「傘を立ててください。傘が立っていると,雨を避けることができるからね(△横向きだと,雨を避けることができないからね)。」等と,具体的な指示をした方が,何をすべきかがよく伝わります(この文章は,肯定の構文)。具体的な記述は,肯定の構文です。
- なるべく順接で書く。肯定の構文で書く。これを心がけてみましょう。
- 例「逆接や否定の構文では書かないようにしましょう」→「順接や肯定の構文で書くように心がけましょう」 *具体的な事柄として書こうとすると,肯定の文章を作りやすい。
- 例「「〜が」はとても便利に前後を接続できるのですが,前半の部分を部分的/全面的に否定するニュアンスを含みます。」→「「〜が」は,とても便利に前後を接続できます。そこには,前半の部分を部分的/全面的に否定するニュアンスを含みます。」 *逆接的接続詞を消してしまっても問題ないことがある。文章を切って,その間を順接的に接続できないか考えるとよい。
- 例「「〜が」で続けることで,1つの文章が長くなってしまいがちですが,これによって文意をうまく読み取れなくなることもあります。」→「「〜が」で続けることで,1つの文章が長くなってしまいがちで,文意をうまく読み取れなくなることもあります。」 *逆接的接続詞を消して,順接にしている。全く問題ない。文章の前段と後段は,本当に「逆」の関係にあるかを考えると良い。
- 「〜が」で長く続いてしまう文章をいったん切ったあとで,「しかし/一方/ただし」など,別の言葉で置き換えることを検討してもよい。
- こうした検討によって,あまり意識せずに「〜が」で接続していくことで,ワンパターンな構文の連続や,必要以上に文章が長くなってしまう書き癖を避ける効果も得られます。
2021.01.12に「7」を追記。
2023.01.11に少し加筆。01.13に「8」を追記
また発見したら追記します。ハッピー論文ライフ!
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