建築・環境計画研究室
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地域施設計画研究39 2021年7月 日本建築学会
建築計画委員会 施設計画運営委員会 地域施設計画小委員会
Regional Community Facilities Planning and Design, AIJ, Vol.39, Jul., 2021
…以下検索用文字列…
中山間地域における今後の地域の持続に関するアンケート調査 福島県・水舟集落における地域の現状把握と今後の地域のあり方について Report on Questionnaire Survey of University Students from Urban Areas and Residents on the Future Sustainability of a Mountainous Region the current situation of the region and examining the ideal way of future living in the region Keywords : Regional revitalization, multi-site residence, awareness survey, community development,mountainous area キーワード:地域活性化,多拠点居住,意識調査,まちづくり,中山間地域 In this study, we reported the actual situation by the attitude survey of the residents based on the workshops and exchanges between the residents in the mountainous areas and the university students from the urban areas. We conducted a problem-solving workshop in 2019 and a questionnaire survey in 2020. From the results, it is meaningful for local activities for residents, visitors and corporations to share goals and problem solving, and from various perspectives of each region, grasp the characteristics of the region, the intentions and interests of the residents, and such activities. It is considered important for each inhabitant to understand the area. ○森野耕司*,荻原雅史**,村川真紀***,佐藤 栄治****,山田あすか***** Koji MORINO , Masashi OGIHARA, Maki MURAKAWA, Eiji SATO and Asuka YAMADA 1.研究の背景と目的 1.1 研究の背景 中山間地域では急激な少子高齢化や人口減少により, 現在継承されている生活・文化が維持されない状況が起 こる可能性が高く,都市地域にはない中山間地域独自の 生活・文化の途絶が危惧されている。中山間地域の人口 減少は数十年にわたって問題視されており,国土の保全 や水源涵養等の視点からその重要性の指摘と共に,限界 集落の支援や集落の再編等が課題と認識され続けてき た。直近の既往研究では,中山間地域に人々が住みたい と思える要素として,経済的基盤の確立,主観的幸福度 の向上,移住・定住による地域及び住民自身への影響の 可視化が主要な柱として指摘されている。各地で,関係 人口や移住人口の増加を目指す取り組みが行われ,例え ば,中山間地域の生活に興味のある都市居住者に向けた 長期インターシッププログラムや都市部と中山間地域 の多拠点居住など,暮らし方の多様化を踏まえた取組事 例が見られる。 1.2 研究目的 本研究では,ある実例をもとに中山間地域住民と都市 部出身の大学生でのワークショップや交流などを踏ま えた,中山間地域の現状把握と意識調査を実施し,住民 の考え方や外部からの客観的な視点から地域の問題点 などを整理する。今後の中山間地域のあり方の1事例と して示すために,地域外部との関わり方や地域活性化方 法,中山間地域の将来の方向性を地域住民とともに検討 した経緯・状況を報告する。 2.調査概要 2.1 調査対象である水舟集落と地域の維持に係る大 学連携事業の概要 福島県二本松市木幡地区水舟集落は人口84 人,人口 *東京電機大学未来科学部建築学科 学部生 **東京電機大学未来科学部建築学科 講師 ***東京電機大学未来科学部建築学科 研究員・博士(工学) ****宇都宮大学建築都市デザイン学科 准教授・博士(工学) *****東京電機大学未来科学部建築学科 教授・博士(工学) * Student, Dept.of Architecture, School of Science and Technology for Future Life, Tokyo Denki Univ. ** Teacher, Dept. of Architecture,School of Science and Technology for Future Life, Tokyo Denki Univ. *** Master Student, Dept. of Architecture, School of Science and Technology for Future Life, Tokyo Denki Univ. **** Associate Professor, Department of Architecture and Urban Design, School of Regional Design, Utsunomiya Univ. ***** Professor, Dept. of Architecture, School of Science and Technology for Future Life, Tokyo Denki Univ. − 305 − 地域施設計画研究39 2021年7月 日本建築学会 建築計画委員会 施設計画運営委員会 地域施設計画小委員会 Regional Community Facilities Planning and Design, AIJ, Vol.39, Jul., 2021 分布は図2の通りで,世帯数27 世帯の集落である(2020 年現在)。過去7年間にわたり,当該集落では宇都宮大 学と協働で地域活性化に向けた活動を行っている。過去 の活動(表1,図1)では,農家民宿の営業開始や歴史・ 郷土料理の冊子作り,集落の外部者向けのパンフレット 作成などが行われている。これらを通して地域の活性化 への意欲はかなり高まっているが,人口減少や高齢化の 進行は止まらず,「地域の担い手」や後継者不足の状況 が続いている。 2.2 調査概要 2019 年度は,農家民宿プログラム2日目の午後に, 宇都宮大学と,ワークショップの趣旨により都市部から の被招聘大学生をファシリテーターとする住民との問 題解決型ワークショップを実施した(図3)。短期間で 様々な意見を聞き出すため,現在の集落内で起きている 問題をテーマとして設定した(表2)。また,CO V I D -19 の流行下にあった2020 年度には全国的にインバウンド や旅行者など移動を伴う経済活動を前提とする地域づ くりや仕組みづくりにはバックラッシュも生じたこと 図1 福島県二本松市水舟集落で行われる活動 :女 :男 N=67 現在の住民:84名 年齢年齢 単位:人 N=104 96~100 86~90 81~85 91~95 76~80 71~75 66~70 61~65 51~55 56~60 46~50 41~47 36~40 31~35 26~30 21~25 0~20 96~100 86~90 81~85 91~95 76~80 71~75 66~70 61~65 51~55 56~60 46~50 41~47 36~40 31~35 26~30 21~25 0~20 2013年 2020年 11 33 5 6 0 1 1 1 1 1 1 1 1 1 3 3 8 2 2 0 00 0 0 0 0 2 2 2 3 3 1 1 1 1 0 55 3 3 7 6 3 3 1 3 22 5 4 2 3 7 333 00 3 2 6 ※常在居住者のみ N: アンケート 4 4 5 6 6 男:36 人 女:31 人 男:53 人 女:51 人 (2020.12 時点) 判明人数 図2 水舟集落人口分布 表2 2019 年のワークショップ内容 図3 2019 年のWS 活動の様子 表3 アンケート調査概要 表1 これまでの集落と大学生の活動年表 A,B 班「空き家の活用方法」 「空き家の入居者に守ってほしいルール」「法人の使用上のルール」 C,D 班「耕作放棄地の活用方法」 第1 回(2019/10/19-20)【大テーマ「集落内の資源の利活用について」】 第2 回(2019/11/31-12/01)「空き家・耕作放棄地の使用上のルール」 調査内容 調査対象 調査期間 調査件数 調査項目 (個人) (世帯) 回答率 福島県二本松市水舟集落への地域活性化アンケート調査 水舟集落住民(18 歳以上の方) 2020 年11 月下旬~ 2020 年12 月下旬 個人用アンケート43 件*1 / 世帯用アンケート*2 23 件( 民宿世帯:4 件) 個人用アンケート60.5%(46 件/18 歳以上の住民数76 人) 世帯用アンケート85.2%(23 件/27 世帯) 1.これまでの宇都宮大学の活動について 1-1 宇都宮大学の取り組みは,水舟集落の活性化につながったと思いますか 1-2 宇都宮大学が行った以下の活動の評価してください 1-3 2019年度の活動は参加しましたか 2.大学との交流について 2-1宇都宮大学の活動で交流は増えましたか 2-2学生との交流以外でどんな活動が増えましたか 3.2020年の変化3-1 2020年は住民や外部の方との交流の変化はありましたか 3-2 2020年は祭礼などが中止になり住民同士の関わり方は変わりましたか 3-3 祭礼や集会を実施するのが難しいなかで,どの活動が重要だと思いますか 3-4 暮らしの面で不便になったことはありますか 3-5 暮らしの中でどのような場所がほしい・必要だと思いますか 4,空き家について 4-1 今,現在の集落内の空き家は何軒ありますか 4-2 空き家が原因で困っていることはありますか? 4-3 4-1で回答した空き家はどこにありますか4-4 空き家をどうしたいですか 4-5 -6 空き家は誰が管理をしたらいいと思いますか 4-7 新規入居者(移住者)は水舟集落の住民の感覚のズレは感じますか 5,耕作放棄地について 5-1 今,現在の耕作放棄地はどこにありますか? 5-2 あなたは耕作放棄地をどのように活用したいですか 5-3 耕作放棄地で農業再開する場合どんな農業をしたいですか 5-4 農業でで大変なこと,やることが難しいことはありますか その他ご意見 1,家族構成 1-1一緒にお住まいのご家族について教えて下さい 1-2 離れてお住まいのご家族について教えて下さい 1-3 コロナにより家族の関わり方は変化ありましたか 1-4 家族内で不便になったことはありますか 2,仕事について 2-1 コロナにより仕事への影響はありました 2-2 どんな変化がありましか 2-3 収入の変化はありましたか 2-4 どんな職業についていますか 3,農家民宿について 3-1 農家民宿を始めた時期はいつで, 延何人来てますか 3-2 2019年と2020年は何名の宿泊者が来ましたか 3-3 現在,民宿は経営していますか, 収益はありますか 3-4 最近宿泊客はいつ来ましたか 3-4-1 農家民宿再開で心配ことはありますか 3-5 2019年WSで相互理解が大変ということでしたが,解決のために何か工夫 はしてますか *農家民宿を実施してにいない世帯には, 今後の民宿の実施についての アンケートを実施した 4,位置関係 4-1 自宅と所有の土地(農地)がありましたら教えて下さい *1:回答総数は46 件,有効回答数は43 件になっている。 *2:世帯用アンケートは、主に住民の家族構成など個人情報について調査している。 *3:空き家・耕作放棄地・自宅・所有の土地の位置関係ついてはアンケート用紙内に 配置してある対象地域の集落地図に記載していただいた。 アンケート調査概要 2013 郷土料理発掘WS 看板製作WS 地域カレンダーWS 集落の目標WS 体験プログラムWS 歴史WS 集落に関するWS 水舟集落の歴史WS 集落の未来を考えるWS 集落の未来を考えるWS 散策MAP 作成 活動報告 活動報告 活動報告 活動報告 活動報告 巨石散策MAP 作成 宇大学祭の出店 郷土料理レシピ本作成 看板制作 集落の歴史冊子作成 過去のWS についての考察 ↑体育館等の改修案 農村講演会 夏季冬季 2014 夏季冬季 2015 夏季冬季 2016 夏季冬季 2017 夏季冬季 2018 夏季冬季 2019 夏季冬季 WS調 査 民 宿 集落活動 集落のフィールド調査 住民へヒアリング調査 フィールド調査 住民へヒアリング調査 フィールド調査 住民へヒアリング調査 集落周辺視察集落散策 住民へヒアリング調査住民へヒアリング調査 アンケート調査 住民へヒアリング調査 実測調査 アンケート調査アンケート調査 農家民宿ガイドライン作成 民宿の提案 企画を提案 交流会(昼食会) 交流会(昼食会) 交流会(昼食会) 幡祭り見学幡祭り体験 ☆花木年間100 本植樹 ☆東屋を設置 ☆体育館等の環境整備 交流会(昼食会) 交流会(昼食会) 交流会(昼食会) グランドゴルフ大会グランドゴルフ大会グランドゴルフ大会グランドゴルフ大会グランドゴルフ大会グランドゴルフ大会 バーベキュー いも煮大会 農家民宿体験農家民宿体験 野菜収穫体験農業体験体験プログラム実施 ☆民宿開始 農家民宿体験農家民宿体験農家民宿体験農家民宿体験 WS:ワークショップ ☆:集落住民のみで行った活動 民宿感想報告会農家生活体験 から,主にこれまでの大学の活動評価,地域の変化, 2019 年度のワークショップ内容への関心についての個 − 306 − 人・世帯(世帯アンケートは農家民宿実施世帯用と実施 していない世帯用の2 種類を用意)アンケート調査を実 施した(表3)。 3.2019 年度ワークショップによる意識調査の結果 3.1 1回目:集落内の資源の利活用について 表2の「集落内の資源の利活用について」のテーマに 基づき,住民と大学生で4つの個別テーマの班に別れ て,住民の考え方の意識調査を兼ねたワークショップを 行った(図4)。この結果から,住民は,空き家・耕作 放棄地を自分たちで利用拡大するのではなく「人(法人) に来て使ってもらいたい」という共通意識があり,農地 の活用と生活者の呼び込みに対する意識が一体化して いる,と整理できた。しかし,この段階では,例えば, 空き家・耕作放棄地の使用上のルール,環境整備費用の 準備など多くの問題点が存在する。 3.2 2回目:使用上のルールについて 1回目の問題点で挙がった「空き家・耕作放棄地の使 用上のルール」をテーマとして,2回目のワークショッ プを行った。まず,住民が,集落内の空き家や農地の使 用者・法人に求めるルールについて意見を出す。住民の 意見として代表的なものは,以下の2点である;①空き 家入居者に,集落の常識である区費の支払いをするこ とや行事への参加など,現在の集落で行っていることは 守ってもらいたい。②農地利用に際しては,農業を使っ て観光資源を作って欲しい。また,この地に移住してく ることがなくても,空き家と耕作放棄地をセットにして セカンドハウスとして利用して欲しい。 その後,住民側から提示された内容に対して,潜在的 な外来の移住者(使用者・法人)の立場から,大学生側 が意見を出して,ルールの具体化を進めるという2段階 で,ワークショップを進めた。学生の各班は,住民が使 用者・法人に求めることがらは理解できたが,その求め に応じることは難しいという意見が趨勢を占めた。その 理由は以下の3点である。①集落住民と外来者には,生 活・職業歴や世代などによって常識の差異があることは 図4 2019 年度ワークショップ結果 使える空き家 使えない空き家 :問題 :問題 :問題 ・新規就農者への貸し出し ・集会等に活用する ・空き家自体の安全性はどうなのか ・住民の私有地は守れるのか ・取り壊しをする ・古材を再利用 ・費用の負担はどこからなのか ・古材利用時の所有権は誰になるのか? ・個人の私有地に被害が来ないか 観光者に対してコテージを開く 移住者への貸し出し①集団営農 ②農業を再開・再生 集団で農業を行って土地を再生する ・梅など簡単できるもので再開させる ・それらを加工して販売もしたい ・主体で動くのは誰なのか? ・安全性・獣害対策 など ③放牧を開始する 牛など放牧し,観光農園を設置する 現在,道路などの整備が されていない ・土地の集約化 ひまわりなどを植え,景観を観光資源にする ・広報拡大 ④景観をよくする ①農業をもう一度(農業自力路線) ②農業法人への委託(法人依存路線) ③農業自力・法人併用路線 ④農業以外(農業放棄路線) 簡単な農業を自分たちで再開させる仲間を増やさないと現実は難しい 法人に委託し,農営者に使ってもらう ・市区町村の協力が必要 ・調査が必要 ①②の合体型・できない部分委託 工業団地などして利活用する ・農地転用の問題・環境対策の検討 ・建設会社等への情報提供 など 定住者に来てほしい 農業をやっている人に来てほしい 地域に積極的に入って来てくれる人 求めているもの 人や法人に土地を貸し出している方 法人に貸し出しができてない方 ・手作業が重労働になり機械所有者に頼んでいる ・作業を細分化して委託を行っている ・土地の条件が悪い (畑が山化している,水はけが悪いなどが挙がる) 入居者のルールについて 2019 冬 : 最初に出た大きな要望 :補足 : に対しての住民の声 :大学生の声*1 :補足 ・地域にある程度理解がある人が来てほしい ・集落は入りやすい環境づくりをしたい ・集落として強制はしづらい時代 ・集落の区費の支払いをしてくれる人 ・行事などに参加してくれる人 最低限のことをやってくれる人に来てほしい都市部学生と住民の方々の常識 のズレを感じるのでお互いを理 解しないと暮らしていくのは 時間が必要 ・パンフレットに情報公開 ・入居前にルール確認 ・社会科見学等に使ってもらう ・観光環境整備を行う 問題対策として・・・ ○移住者に事前宿 泊してもらう ○成功事例を参考 にして展開してい く ・コミュニティに入るのが難 しい ・消極的になる可能性がある ・法律の対応が必要になる ・誰が管理をしていくか 理解しあえる機会として, 春:道作り,夏:グリーンアップ 秋:地区運動会,1 月新年会, 会社や団体で移住してくるのではなく 個人で生活をするためで来る人 ・中途半端な入居者はやめてほしい ・本業で農業をやるのは難しいかもしれ ないが趣味でもいいから農業は必須条件 ・集落の常識的なルール(区費の支払い など)は守ってほしい お互いに気分良く暮らせるために地域 つきあいができる人 趣味でもいいので農業に携わっている ・関心がある人 ・集落の受け入れ体制をしっかりして くれないと不安になる ・コミュニケーションを取れる場ない と集落には行きづらい ・空き家と耕作放棄地を セットとして提供する考 え(セカンドハウスとし ての考え) ・空き家と耕作放棄地の 法人は一緒なのかが気に なる ・ブランドつくりがいいのでは ないか ・日本の様々な場所に住んでも らいたい人に数年限定プランを つくる ・集落のパートナー(いつでも 質問できる)がいることで法人 付き合いがしやすそう ・集落のパートナーをだれが務 めるのか ・観光名称・特産物として,ワイン用 のブドウ畑を作りたい ・観光農園,市民農園の設置をしたい ・若い人・法人に来てほしい ・空き家と耕作放棄地をセットとして 使用してほしい ・住民が質問できるような環境作り A班 B班 : 住民から最初に出た大きな利活用方法 ※1:都市部出身の大学生からワークショップで出させれた意見 :大学生の声*1 :住民から最初に出た大きな利活用方法 :補足 :大学生の声*1 :住民から最初に出た大きな利活用方法 :補足 :大学生の声*1 集落内空き家の利活用について 2019 秋集落内耕作放棄地の利活用について 2019 年秋 第1 回ワークショップ「集落内の資源の利活用について」 2019/10/19-20 耕作放棄地使用上のルールについて 2019 年冬 A班 B班 C班 D班 C班 D班 第2回ワークショップ「空き家・耕作放棄地の使用上のルール」 2019/11/31-12/01 − 307 − 当然であり,自らの考え方の変容を強要されるようなら ば当地への移住を希望する外来者は少ないと思われる。 また,移住者向けのワークショップ等を行ったとして も,短時間では集落の「常識」のすべてを理解すること は不可能であり,また集落側も自身の「常識」は,常識 であるが故に意識的に捉えたり説明の俎上に載せるこ とは難しいと考えられる。②休耕地の利用は,法人とし ての利用を誘致する場合にはある程度規模のある運営 が想定される。従来の単位である" 休耕地+家" は,そ うした現代的農業経営とは齟齬があり,希望としては有 り得ても,条件とすると受けられるケースをかなり制限 してしまう可能性が高い。③いずれも,例えば大学で応 じた場合には住民の不満につながる可能が高く,共有さ れる要望ないし条件/ルールとして本ワークショップ を閉じることは難しい。 これらの意見交換を踏まえて,住民と使用者・法人の 相互理解が前提として必要であり,また,相互理解の度 合いによりルールの内容が異なることが認識された。こ のため,ワークショップの時点でのルール策定は難し く,使用者・法人を含めた時間をかけた協議が必要であ るという認識を共有して,終了した。共有には至ってい ないが,現在の集落における人口減少や若者の流出,担 い手の不足は,地域や地域での就労・生活のあり方が現 代的ニーズにそぐわない点が大きな要因であることは 明らかである。このため,集落や集落住民の意識の変化 なくして,新しい住民や産業,農業法人等の仕組みの算 入は非常に困難である。集落の「らしさ」を尊重しなが らの地域維持の検討と,集落がなんら変化しないことは 一致しない,などの認識を丁寧に共有していく必要があ る。 4.アンケート調査による住民の意識や過去の活動への 評価 C O V I D -19 の流行とそれに伴う急速なテレワークの拡 大などの社会情勢の変化により,2020 年には地方や郊 外への移住,多拠点居住が再び注目された。同時に,イ ンバウンドや観光業への過度の依存のリスクにも目が 向けられた。地方部では都市部ほどの流行拡大が起きな かったが,外来者に対する排除意識が強く,それらが行 きすぎであるとの報道もあった。 こうした社会情勢下にあった2020 年度は直接訪問は 実施せず,主にこれまでの大学の活動評価,地域内の変 化,2019 年度のワークショップ内容への関心について の個人・世帯アンケート調査を実施して地域の可能性を 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 世帯不明分① 世帯不明分② 世帯不明分③ 世帯不明分④ M・T M・T M・T M・T M・T M・T 世帯主57 男会社員 妻56 女会社員 長男30 男会社員 三男23 男会社員 父84 男無職 母82 女無職 M・S M・S 世帯主94 女農業 三男 58 男 農業 H・T H・T 世帯主72 男無職 無職 妻68 女主婦 K・I 世帯主 81 女 主婦 M・H 世帯主62 男 M・T② M・T② M・T② 世帯主64 女農業 妻60 女会社員 次男32 男会社員 M・M M・M M・M M・M 世帯主65 女主婦 三男33 男会社員 孫7 孫4 M・S② M・S② M・S② 世帯主62 男農業 父82 男無職 母84 女無職 S・T② S・T② S・T② S・T② 世帯主68 男会社員(パート) 妻64 女会社員(パート) 農業 農業 母86 女無職 長男39 男農業 S・T③ 世帯主69 男農業 M・K M・K 世帯主56 男会社員 父83 男農業 M・A M・A M・A M・A 世帯主56 男運転手 妻52 女店員 長女29 女店員 父81 男農業 O・K O・K O・K 世帯主84 男無職 妻80 女無職 子49 会社員 M・I M・I M・I 世帯主69 8件1件 3件 2件 2件 6件 7件 1件 1件 4件 2件1件 3件 3件 男パートタイマー農業・区長 妻68 女主婦 長男45 男会社員 M・Y M・Y 世帯主77 男農業元区長 妻67 女主婦・無職 S・Y S・Y S・Y S・Y S・Y 世帯主70 男自営業内装業・農業 妻64 女主婦内装業・農業 長男40 男会社員 義娘36 女主婦 孫0 M・Y② M・Y② M・Y② M・Y② M・Y② M・Y② M・Y② M・Y② 世帯主64 男会社員 妻63 女主婦農業 娘35 女会社員 義息子33 男会社員 孫7 女 孫4 女 祖父84 男 祖母84 女 S・K S・K S・K S・K 世帯主63 男塗装業農業 妻43 女主婦農業 子2 父89 男無職 S・Y③ S・Y③ S・Y③ S・Y③ 世帯主71 男無職 無職 無職 妻71 女農業 長男45 男会社員 次男44 男会社員 S・M S・M S・M 世帯主64 男会社員 妻64 女会社員 母90 女無職 S・S S・S 世帯主68 男大工 妻62 女パート S・M② S・M② S・M② 世帯主66 男土建業農業 妻65 女主婦農業 母90 女無職 S・T S・T 世帯主80 男無職 次女48 女会社員 なし なし なし なし なし なし 個人回答 世帯主 名前続柄年齢性別職業兼業・備考 仕事 :農家民宿実施世帯( 右の回答項目は 18 歳以上を対象 ) 空き家 認知件数 認知件数 耕作放棄 個人アンケート回答率60.5%(46 件/2020 年時点での18 歳以上の住民76 人配布) 世帯アンケート回答率85.2%(23 件/2020 年時点での世帯数27 世帯配布) 回答状況の●は「回答」,空欄は未回答になっている 表4 世帯アンケートで判明した個人アンケート・ 個人アンケート設問への回答者属性 − 308 − 模索した(表3)。 4.1 アンケートへの回答状況 世帯アンケートで判明している家族構成をもとにし た個人アンケート・2019 年度のワークショップのテー マである空き家・耕作放棄地の認知に関する個人アン ケート設問への回答者属性と個人アンケート有効回答 数と表4で判明した農家民宿実施世帯と農家民宿実施 世帯以外の人数と有効回答数を設問ごとに比較した回 答率を表4,表6に示す。表4で判明している農家民宿 実施世帯の個人アンケート対象者(18 歳以上)から15 人中14 人の回答を得た。また,表5に記載がある個人 用アンケートの回答項目では前半項目(宇都宮大学の取 り組み・交流)の有効回答数は全回答数の半数以上を得 ているが,後半項目(空き家・耕作放棄地)の回答数は 全回答数の半数以下であった。各世帯の個人アンケート の有効回答数を農家民宿実施世帯の対象者15 人と農家 民宿実施世帯以外の対象者56 人各々にて除した回答率 では,農家民宿実施世帯の回答率が農家民宿実施世帯以 外より全ての結果において高く,集落への理解が比較的 に高い傾向がある。 また2019 年度の宇都宮大学の活動への参加状況(表 5)は,農家民宿実施世帯とその他住民の参加割合は約 半分ずつになっている。 表7 活動への評価についての個人アンケート結果 民宿の回答 1-1の質問 2-1の質問 1-2 ①大学生の年2回の訪問 ②学祭で農作物やだんご汁の販売 ③看板作成 ④郷土料理レシピ本作成 ⑤パンフレット作成 ⑥水舟集落の歴史冊子 賛成回答→農家民宿世帯の賛成意見 民宿の回答→農家民宿世帯の回答者 1-1 宇都宮大学の取り組みは,水舟集落の活性化につながったと思いますか 1-2 宇都宮大学が行った以下の活動の評価してください 2-1 行った活動で住民の交流は増えましたか 0 25 50 75 100% 賛成意見反対意見わからない 56% 2% 42% 56% 2% 2% 42% 7% 70% 23% 75% 10 32% 19% 49% 賛成意見:活性化した 反対意見:活性化していない わからない 賛成意見:またやりたい 反対意見:やらなくてもいい わからない 賛成意見:はい,増えました 反対意見:いいえ,変わってません わからない 回答数 賛成数 反対数 わからない 賛成回答 アンケート質問内容 回答データ 42 24 1 17 42 42 24 1 17 11 3 28 42 8 5 29 42 10 3 29 42 1 31 42 10 2 30 42 14 8 20 14 14 14 14 14 14 14 14 11 12 744467 26% 7% 67% 18% 12% 70% 23% 23% 5% 72% 全回答数43 件 4.2 宇都宮大学の活動への評価と活動による地域内 交流の変化 7年間の宇都宮大学の活動への評価と,地域内交流の 変化についての意識を表7に示す。宇都宮大学の取り組 み(1-1)で活性化したと感じているという回答が過半 数で(56%),同時に,住民間での交流(2-1)にもつな がっていると感じている回答者は32%であった。 過去の活動内容の再実施への要望(1-2)に関しては, 「わからない」が[①大学生の年2回の交流]以外の項 目で67%~ 75%である。②~⑥の項目では,各設問肢 の回答の有無にばらつきがあるため,単年度実施のイベ ントは参加していない,またはイベントから時間が経ち 記憶にないなどの理由が考えられ,再実施の要望を判断 できなかったと推測できる。 [①大学生の年2回の訪問]では「またやりたい」が 56%と過半数である一方,「わからない」の割合も42% を占め,必ずしも積極的でない層もいる。ただし,この 質問項目の「わからない(是非についての積極回答を避 ける回答)」の比率は,他の項目に比べれば低い傾向が あり,賛成にせよ反対にせよ意見を表明することに心理 的ハードルが低い項目であることは特徴的である。 訪問時の内容は,表1の交流会(昼食会)やグラウン ドゴルフ大会であり,イベントが単年度でなく継続して 活動参加率 47%(20 名) 0 25 50 75 100% 2019 年の活動参加人数・属性 世帯主会社員 世帯主大工 妻会社員 世帯主会社員 世帯主農業 世帯主無職 世帯主農業 農業 世帯主会社員 妻会社員 世帯主会社員 父農業 不明1 不明2 世帯主自営業 義娘主婦 妻主婦 義息子会社員 世帯主パートタイマー農業・区長 世帯主 元区長 内装業・農業 妻主婦 続柄 仕事 職業兼業 農業 続柄 仕事 職業兼業 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 :農家民宿実施世帯(※右の回答項目は 18 歳以上を対象 ) 53%(23名) 表6 個人アンケート有効回答数と表4で判明した農家民宿実施世帯と農家民宿実施世帯以外の人数と有効回答数を比較し た回答率 情9に3棹 93 93 93 93 47 87 87 27 40 47 40 47 27 73 27 27 20 20 20 33 33 53 27 20 27 13 33 7 0 0 20 27 53 20 33 20 52 50 50 46 50 9 45 41 4 2 0 18 5 7 21 7 9 5 4 2 7 7 21 9 5 4 5 7 4 2 2 5 4 23 5 11 4 29 28 28 26 28 5 25 23 2 1 0 10 3 4 12 4 5 3 2 1 4 4 12 5 3 2 3 4 2 1 1 3 2 13 3 6 2 14 14 14 14 14 7 13 13 4 6 7 6 7 4 11 4 4 3 3 3 5 5 8 4 3 4 2 5 1 0 0 3 4 8 3 5 3 43 42 42 42 40 12 38 36 6 7 7 16 10 8 23 8 9 6 5 4 9 9 20 9 6 6 5 9 3 1 1 6 6 21 6 11 56 全回答数 1ー1 1ー2 1ー3 2ー1 2ー2 3ー1 3ー2 記述 3ー3 理由 3ー4 3ー5 理由 4ー1 4ー2 4ー3① 4ー3② 4ー3③ 4ー3④ 地図記入 件数 件数 地図記入 4ー4 4ー5 4ー6* 4ー7 理由 5ー1① 5ー1② 5ー1④ 5ー1③ 5ー3 5ー2 5ー4 その他 項目表示数 1 2 3 4 5 民宿実施世帯の個人アンケート 民宿実施世帯の個人アンケート 個人アンケート その他世帯個人用アンケート その他世帯個人用アンケート 有効回答数 有効回答数 回答率*1 回答率*2 有効回答数 有効回答数(件)回答率(%) 個人アンケートの項目(18 歳以上を対象) 1:宇都宮大学の取り組みへの評価 2:大学との交流について3:2020 年の変化 4:空き家について 5:耕作放棄地について 農家民宿実施世帯の対象者15 人 その他対象者56 人(判明分) *1:世帯アンケートの家族構成で判明している, 農家民宿実施世帯の18 歳以上の個人アンケート有効回答数を農家民宿実施世帯18 歳以上15 名で除したパーセンテージ表示になっている。 *2:世帯アンケートの家族構成で判明している, 農家民宿実施世帯以外の18 歳以上の個人アンケート有効回答数を農家民宿実施世帯以外の18 歳以上56 名で除したパーセンテージ表示になっ ている。 *3:個人アンケート項目4-3①~④,5-1①~④に関しては空き家・耕作放棄地の詳細と場所どちらも認知している件数分の回答になる。①,②,③を回答した場合は3 件認知になる。地図記入は アンケートの地図上に空き家・耕作放棄地の場所のみ記入。件数は4-3,5-1, 地図記入とは別に認知件数を数値で聞いているものになる。 表5 個人アンケート・世帯アンケートで判明した2019 年の宇都宮大学の活動参加者 − 309 − 実施され,住民も参加者として楽しめる要素が認知や評 価につながるといえる。一方,反対意見には,[②学祭 で農作物やだんご汁の販売]で,「再実施の意欲はある が高齢化により身体的に活動に限界を感じる」という意 見もあった。このように,地域と共に実施する活動では, 継続性が重要であるとともに,年齢・意欲などの観点か らの配慮が必要と考えられる。 4.3 農家民宿の状況 表7以外の活動として,集落内の滞在場所の役割とし て,集落外部との繋がりを増やすことが期待できる農家 民宿を4世帯が実施している。世帯アンケートで農家民 宿実施世帯を対象に現在の宿泊状況と2019 年のワーク ショップで挙がっていた外部者との「相互理解」をする ための工夫について表8に示す。2020 年の宿泊客は前年 と比較すると,1 割未満になり,収益を落とし休業して いる民宿もある。外部から来る方が少なくなり,関わり ができにくい状況化で,「相互理解」への活動は進んで いない。また,農家民宿実施世帯以外19 世帯に農家民 宿実施への意向に関しての世帯アンケートを実施したと ころ,「実施したい」と回答した世帯は19 世帯中1 世帯 のみであった。 4.4 住民の空き家・耕作放棄地への要望について 2019 年度ワークショップでは,空き家・耕作放棄地 を自分たちではなく「人(法人)に来て使ってもらい たい」という共通意識があり,農地の活用と生活者の呼 び込みが一体化している傾向がわかっている。ワーク ショップでは住民個々人の意見は尋ねていないため,こ の機会に住民の空き家・耕作放棄地に対する認識を再 整理した(表9,表10)。空き家への要望(表9,4-4) として,「取り壊し」の割合が最も多い(32%)。2019 年度では移住者や新規就農者への貸し出しを求める意 見が多く挙がったが,各住民への調査では異なる傾向 が見られた。空き家の管理(表9,4-5)に関しては, 「①県や市役所に管理してもらいたい」が50%であっ 水舟集落周辺地図 0 20km 福島県二本松市 水舟集落 公会堂 体育館 毘沙門堂 鐘つき堂 鉄塔 金つき堂 運動場 ・看板設置(2016) 看板設置(2016) 看板設置(2016) 環境整備(2018) ・東屋設置((22001176)) ・花木300(本2植01木7) (201360~02018) ● ● ● ● ● 人口推移(調査) 2013 2020 104人84人 34世帯27世帯 ●:今住んでいる家 〇:住民把握の空き家 ※2020年アンケート回答分 ▲:過去の大学との活動 N ▲ ▲ ▲ ○ ▲ ○ 0 0.5 1km 1 3 4 5 6 7 8 9 2 ②⑮15 ②1⑮0 ②1⑮1 ②⑮12 ②⑮13 ②⑮14 父農業 世帯主パートタイマー農業・区長 世帯主農業元区長 世帯主自営業内装業・農業 世帯主会社員 妻主婦農業 世帯主無職 ①②③④⑤⑥⑦⑧⑨ 続柄 仕事 空き家位置の地図番号と回答状況 職業兼業⑩ ⑪ ⑫ ⑬ ⑭ ⑮ :農家民宿実施世帯( 回答項目は18 歳以上を対象) 回答状況の●は「回答」,空欄は未回答になっている 約150㎡ 約150㎡ 5年前程度から 介護施設入居のため 約80~140㎡ 5年前程度から 介護施設入居のため 約70㎡ 5年前程度から後継者いないため 約80㎡ 10年前程度から外へ転出したため 80年前程度から 隣町へ引っ越すため 【空き家面積】【空き家になってからの年数】【空き家になった理由】 ABCDE 表11 空き家位置関係の個人アンケート結果と世帯アン ケートから判明した回答者属性 表12 認知している空き家詳細・理由についての個人ア ンケート結果 0 25 50 75 100% 県, 市役所 移住者へ 4-4 あなたは空き家をどうしたいですか 4-5 4-4 で1,2,3,5 回答者。今のところ空き家を誰が管理をしたらいいと思いますか 新規就農者へ貸し出し観光者へのコテージ 住民の集まる場所にする 取り壊しをする その他 NPO法人 所有者 集落全員 民生委員 , 区長 その他 4-6 4-4 で4 回答者。取り壊しの場合,誰が主体となって動いたらよいと思いますか 4-4の質問 4-5の質問(取り壊し以外) 4-6の質問(取り壊し) ※複数回答者に関しては%表示, の回答数には複数反映 回答数 回答データ 6 0 7 0 0 2 0 20 5 6 2 0 4 2 23% 8 5 1 0 1 2 1 27% 32% 18% 50% 10%10% 20% 10% 34% 33% 33% アンケート質問内容 全回答数43 件 0 25 50 75 100% 自分で農業再開住民と協力して集団営農農業法人に委託その他 農業再開放牧農業以外その他 5-2 あなたはどのように耕作放棄地を活用したいですか 5-3 5-2 農業と答えた方にお聞きします。どんな農業をしたいですか 5-2の質問 5-3の質問(農業再開のみ) ※複数回答者に関しては%表示, の回答数には複数反映 回答数 回答データ 21 77 5 6 2 2 3 4 0 31% 30% 22% 17% 28% 29% 43% アンケート質問内容 全回答数43 件 表10 耕作放棄地活用についての個人アンケート結果 表9 空き家活用についての個人アンケート結果 表8 世帯アンケートで判明した農家民宿世帯情報 営業している 2019 年度の 1 割の収益 2019 年度の 0.25 割の収益 2019 年度の 7 割の収益 2019 年度の 0 割の収益 営業している営業している営業していない 当分の間, 営業をしない 対応をとる。 M・I宅 M・Y宅 S・Y宅 M・Y②宅 開業時期 のべ人数 2019 年宿泊客 2020 年宿泊客 2020 年営業状況 2020 年収入状況 宿泊客との相互 理解するための 工夫 コロナ禍での 工夫や心配こと 2015 年7 月~ 70 名 15 名 1 名 130 名20 名 6 名10 名 1 名 0 名 40 名 2016 年7 月~ 2014 年4 月~ 2013 年4 月~ 無理しないでコ ロナが終息し体 調が万全な時に 来てほしい。 検温,アンケー ト消毒をチェッ クイン・アウト 時に実施や洗面 所などに設置し ている。 記入なし特になし。いま まで通りで困ら ない。 料理程度の工夫 はしている お断りしている 農業体験対応, 経営者本人の 気力,体力など 特になし 約163 ㎡ 7 部屋 築37 年 約148.5 ㎡ 8 部屋 築45 年 約200 ㎡ 20 部屋 築128 年 約60 ㎡ 12 部屋 築120 年 農家民宿実施世帯情報 *1:M・Y 宅の2019 年・2020 年宿泊客に関しては記入なしのため, 斜線で表記。 *2:世帯アンケートで判明している世帯は, 農家民宿実施世帯4 世帯, 農家民宿実施 世帯以外19 世帯になっている。 − 310 − た。耕作放棄地(表10,5-2)は農業再開と放牧を希望 する回答者が61%であった。農業再開に関して(表10, 5-3)は農業法人への委託を希望する回答者の割合が 43%を占める。これは,中山間地域の過疎化・高齢化に よる人手不足や身体的負担が大きいためと,現実的な問 題として個人で今から農地の利用や管理を希望する者 が移住してくることが期待できないと考えられている ため,などの理由が推察できる。 4.5 住民の空き家と耕作放棄地に対する認識 空き家・耕作放棄地が集落内にどの程度存在している かは,その全貌が把握・認識されていなかったため,住 民が認識している空き家と耕作放棄地の位置と回答状 況を整理した。アンケートの回答を整理すると,住民が 空き家であると認知している集落内空き家の総数は15 件であった。所有の状況や,例えば法要の時には使わ れるので放棄されてはいない,等の詳細な情報は問わ ない。空き家の位置についての有効回答者は8名である (表11)。回答者の属性は世帯主で区長経験者2名,世 帯主3件,その他3名であり,農家民宿実施の世帯主は 全員回答している。回答者の理解による空き家の詳細・ 空き家化の理由(表12)として,家主の介護施設への 入居や,家主死去後の後継者不足が目立つ(3件)。 約5000㎡ 30年前くらいから養蚕農業の衰退 約3500㎡ 約8000㎡ 10年前くらいから転出,不便さから 約7000㎡ 10年前くらいから会社員で農業をやらないため 約1500㎡ 30年前くらいから旧桑園,養蚕を止めたから 【耕作放棄地面積】【放棄地になってからの年数】【放棄地になった理由】 約1000㎡ 1年前くらいから 高齢化でできない abcdef 水舟集落周辺地図 0 20km 福島県二本松市 水舟集落 0 0.5 1km 公会堂 体育館 毘沙門堂 鐘つき堂 鉄塔 金つき堂 運動場 ・看板設置(2016) 看板設置(2016) 看板設置(2016) 環境整備(2018) ・東屋設置((22001176)) ・花木300(本2植01木7) (201360~02018) ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ● ● ● ● ● 人口推移(調査) 2013 2020 104人84人 34世帯27世帯 ●:今住んでいる家 ■:住民が所有してる土地 □:住民把握の耕作放棄地 ※2020年アンケート回答分 ▲:過去の大学との活動 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ N ▲ ▲ ▲ ▲ 1 8 7 5 6 4 2 3 4 世帯主パートタイマー農業・区長 世帯主農業元区長 世帯主自営業内装業・農業 妻主婦農業 世帯主会社員 1 2 34 5 6 7 8 続柄 仕事 地図番号と回答状況 職業兼業 :農家民宿実施世帯(回答項目は 18歳以上を対象 ) 回答状況の●は「回答」,空欄は未回答になっている 表14 認知している耕作放棄地詳細・理由についての個 人アンケート結果 表13 耕作放棄地の位置関係の個人アンケート結果と世 帯アンケートから判明した回答者属性 アンケートの回答を整理すると,住民が認知している 耕作放棄地の総数は8件であった。ここでの耕作放棄地 は,元々は農地として利用されていたが数年間耕作に利 用されていないなど,住民の認知・意識による。具体的 に何年以上かや,計画的に休耕しているか否かなどの実 情は問わない。耕作放棄地の位置関係の有効回答者は6 件である(表13,表14)。回答者は,世帯主で区長経験 者2名,世帯主2名,その他2名(農業をしていない会 社員1 名,不明1 件)である。空き家の方が耕作放棄地 よりも認知数は多いが,農業を行っていない住民の方が 多くの耕作放棄地を認知している。耕作放棄地は空き家 と比べて近隣を通るときなど視覚的にそれと推察しや すいため,区長等の住民の代表者が把握する住宅や住民 の動向とは異なる認知のされかたをしていると考えら れる。回答者の理解による耕作放棄地の詳細・発生理由 (表14)としては,所有者の高齢化・産業の衰退化が目 立つ(3件)。 5.総括 本研究では,中山間地域住民と都市部出身の大学生の ワークショップ,交流などを踏まえた,住民の意識調査 による実態を報告した。 2019 年度の問題解決型ワークショップでは,地域の 関係人口を増加させ,集落を活性化したいとの意見が あったが,ただ人を求めるだけではなく,第一義的に住 民側と来訪者や法人の相互理解が必要であり,空き家使 用のルール策定には,集落住民と外来者には生活・職業 歴などによって常識の差異があるため,相互理解の程度 に合わせた,使用する当事者を含めた時間をかけた協議 が必要と結論に至った。また,住民自身へも変化への受 容を促すが必要である。 また,2019 年度の活動を踏まえて2020 年度のアンケー ト調査を行った。これまでのワークショップでの意見収 集では,集落活性化に意欲がある住民の意見が耳目を集 める傾向にあるが,アンケートでは各個人の集落活動へ の認識・意向には,ばらつきがみられた。アンケート結 果では,住民の約3 割が集落の活性化に関する活動への 継続意欲があった。イベントの実施には住民も参加者と して楽しめる内容と継続性が重要である一方で,実施に は高齢化による身体的負担の高さが再実施できない要 因として挙げられた。 住民の空き家と耕作放棄地に対する認識では,ワーク ショップでは,空き家ヘの要望は,使用者・法人による 空き家・耕作放棄地の利用が意見として挙がったが,各 − 311 − 個人の要望では[取り壊し]が最も高いなど,個人の集 落内での活動状況によって要望の傾向に差異があった。 今回の調査では,空き家・耕作放棄地が地域の身近な 問題と認識されていても,実際に実態を把握しているの は農泊などの活動を主催している住民と一部住民であ る9人のみ(空き家と耕作放棄地の有効回答者)であっ た。これらより,住民側と来訪者や法人が目標や問題解 決を共有するためには地域活動に意味があり,そのため に,地域ごとに,様々な観点から地域の特性や住民の意 向,関心を把握しながらの活動の継続的な実施が,各住 民の地域理解と可能な将来像の共有のために重要と考 えられる。 今後,地域外部との関係を築ける農家民宿のような滞 在場所を空き家・耕作放棄地を絡めて検討するなどの拠 点形成も重要と考えられる。その際,こうした拠点の立 地,相互の距離と連携の形態,一時的〜中長期の利用を しやすい建物のあり方,そしてそれらが住民の活動や意 向にどのように反映され,地域に影響をもたらしていく かを追求していきたい。 謝辞 本研究にご協力いただきました皆様に,篤く御礼申し 上げます。なお,本研究は,科学研究費補助金(基盤B) 「「利用縁」がつなぐ福祉起点型共生コミュニティの拠 点のあり方に関する包括的研究(研究代表者:山田あす か)」の一環として行われました。 [参考文献] 1) 国土交通省,中山間地域等総合対策委員会,「中山間地域におけ る喫緊の課題をめぐる情勢と対策の方向について」取りまとめ, 平成19 年11 月21 日,https://www.maff.go.jp/j/study/other/ cyusan_taisaku/zyosei_taisaku/pdf/matome.pdf 2 ) 国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター 環 境・エネルギーユニット,調査法億書『中山間地域の持続可能性 の維持・向上に向けた課題検討』 ,2019.06,https://www.jst. go.jp/crds/pdf/2019/RR/CRDS-FY2019-RR-01.pdf − 312 −
地域施設計画研究39 2021年7月 日本建築学会
建築計画委員会 施設計画運営委員会 地域施設計画小委員会
Regional Community Facilities Planning and Design, AIJ, Vol.39, Jul., 2021
…以下検索用文字列…
障害者入居施設での高齢化の実態と環境整備についての研究 Study on actual condition of aging and environmental improvement in support facilities for persons with disabilities ○芝山竣也*, 古賀政好**, 山田あすか*** Welfare facilities for people with intellectual disabilities have problems of aging and deterioration of physical function, and overlapping disabilities has become an issue in the field of welfare for the elderly, so we conducted an interview survey with several facilities. As a result, it became clear that the aging of the population increased the time spent living and the needs of the facility were challenged to medical care and long-term care. There are also moves to other facilities, but differences in support and long-term care needs and the insurance system are also issues. Keyword: Disabilities , Aging ,Support Facilities for Persons with Disabilities ,Hearing survey 障碍者,高齢化,障害者支援施設,インタビュー調査 1.2 理論的背景 これまで障害者支援施設に関する既往研究では,一 元化注2)に伴う環境整備上の配慮点1),2)や,旧障碍区 分上での施設入居者の生活実態3),支援員の支援負担 感4〜6),施設移行に伴う居場所や行為への影響7),法 制度改定による施設体制の変遷8),施設から地域生活 移行への課題9)などの知見の蓄積がある。既往研究7), 8)では障碍者の高齢化が指摘されており,障害者支援 施設での高齢化の実態や,障碍の特性と高齢化という 多様性の高いニーズに対応するための高齢化を前提と した施設整備のあり方について明らかにすることは喫 緊の課題である。 1.3 本稿の目的と意義 本稿では障害者支援施設での高齢化対応のあり方へ の知見を得ることを目的に高齢化の実態や変遷,高齢 化を見据えた環境整備について明らかにする。まず3 章ではヒアリング調査から入居者の高齢化の実態と施 設整備の課題等を把握し,4章では入居者個人に焦点 を当てたインタビュー調査から,より詳細に高齢化の 状態を捉え,生活や活動,支援ニーズの変化の中での 高齢化対応のあり方を探る。なお本稿は高齢者と障碍 者の施設の入居者像の重複化を見越し,両施設種別の 統合も視野に施設整備の再考を目指す研究の一環で, 高齢期の生活環境の向上に寄与する点に意義がある。 *東京電機大学大学院未来科学研究科建築学専攻 **(株)竹中工務店/東京電機大学非常勤講師・博士( 工学) ***東京電機大学未来科学部建築学科 教授・博士(工学) 1.研究の背景と目的 1.1 社会的背景 現在の障害者福祉分野では,障碍注1)の重度化や重 複化など多様化が注目される一方,知的障碍者を対象 としてきた施設では入居者の高齢化による疾病や身体 機能の低下などの課題がある(図1)。一方,高齢者福 祉分野でも高齢者の疾病や障碍の重複が課題であり, サービス内容や拠点となる施設整備として統合的に解 決されていく必要があると考える(図2)。 Syunya SHIBAYAMA, Masayoshi KOGA,Asuka YAMADA Grad. Stud. Science and Technology for Future Life Tokyo Denki Univ. Takenaka Corporation / Part-time lecturer, Dept. of Arch., School of Science and Tech. for Future Life, Tokyo Denki Univ., Dr. Eng. Prof. Dept.of Architecture Faculty of School of Science and technology for future life Tokyo denki Univ. Dr. Eng. 図1 2008 年時点での施設入居の年齢構成 図2 高齢者福祉と障害者福祉分野の重度化イメージ 10 代 以下 10 代 20 代 30 代 40 代 50 代 60 代 以上 0 10 20 30 40 0 10 20 30 40 0 10 20 30 40 □棒:日本人 口の年齢構成 部:日本 旧・身体障害者療護施設 旧・知的障害者入所更生施設 重症心身障害児者施設 ■棒:各種施 設の入居者の 年齢構成 人口の年齢割 合より各種施 設の居住者の 割合の方が高 い年代 【初出・出典】古賀政好・山田あすか,身体・知的・重症心身障がい児者施設へのアンケート調査報告 - 空間構成と居住者の生活像について-,日本建築学会技術報告集,第16 巻 第33 号,pp.627-632,2010 年代 人口に対する割合(%) 凡例 2018 年時点 での推測値 ➡ 入居者属性の重複 ➡ 「地域包括ケア」の概念のもと でサービス内容や拠点となる施設整備として統合的に解決 高齢者(認知症高齢者, 後期高齢者など) → 認知症だけでなく疾病や障碍の重複による重度化 主たる障碍が身体障碍(身体障碍者) → 高齢化で,疾病や認知症の発症などによる重度化 主たる障碍が知的障碍(知的障碍者) → 高齢化で, 移動能力の低下やADL 低下による重度化 介助・介護の度合い なし 介助・介護の度合い 重度 疾病・障碍なし 疾病・障碍重度 高齢者 知的 障碍者 身体 障碍者 重度化 の方向 − 219 − 地域施設計画研究39 2021年7月 日本建築学会 建築計画委員会 施設計画運営委員会 地域施設計画小委員会 Regional Community Facilities Planning and Design, AIJ, Vol.39, Jul., 2021 2.調査概要 既往研究1)でのアンケート調査回答施設や事例調査 施設,文献調査施設の中から入居者の高齢化が想定さ れる知的障碍の障害者支援施設7施設(生活単位が大 規模な従来型3施設と,高齢者施設でみられる小規模 なユニット型4施設)と医療的ケアや看取りを行うグ ループホーム1事業所を選定し注3),「調査①:入居者 の高齢化の実態と施設整備の課題等を伺うヒアリング 調査(表1)」と,うち2施設で「調査②:高齢化で ADL が低下した入居者の生活の変化や環境整備を伺う 詳細インタビュー調査(表2)」を行った注4)。 3.ヒアリング調査結果 本章では調査①:ヒアリング調査から高齢化の実態 と施設整備の課題等を整理する。表3にヒアリング調 査対象施設の概要,表4にヒアリング調査で得た回 答を示し,図3にはテキストマイニングソフト「KH Coder 注5)」を用いてヒアリング調査で得た回答から頻 出する単語を抽出する。 3.1 KH Coder による頻出単語視点からの読み取り KH Coder によるキーワードとなる単語から高齢化で の特徴をみる注6)。 ■抽出語【時間】 【食事】や【入浴】等とつながり, 具体的には「(入居者の高齢化により,自立でも時間が かかる,支援が必要になった等で)食事時間も長くなっ た(表4,施設A;以下A と表記,他同様)」,「以前は 入浴時間が15 時~ 17 時半だったが,(高齢化により 介助の必要性が増したため)今では日中に支援員がい る13 時半~ 15 時にした(A)」などが言及された。こ られの変化の具体的な要因として,「食事形態が様々 で,きざみ食で介助が必要な人が多い(D)」,「車いす で入浴介助が必要な人がいる(A)」などが挙げられる。 ■【活動】 日中活動では,「日中活動で散歩する頻 度や行ける人が減少してきた。屋内では最低限できる 活動だけしている(B)」や「現在は高齢になったこと もあり様々な活動ができなくなっている。そのため娯 楽空間を居住空間に取り込んでいる(D)」,「PT に来 てもらいリハビリテーションで機能の維持に取り組む (E)」の試み等がみられる。 ■【介護】 【障碍】と【研修】とつながり,「一般 的な介護研修はしているが高齢の知的障碍に関しては 行っていない(E)」「介護力などのプチ研修を行ってい る(H)」などが聞かれる。 表1 ヒアリング調査概要 表2 詳細インタビュー調査概要 表3 ヒアリング施設概要 図3 KHCoder によるヒアリング結果の可視化 調査対象 施設の選定 調査施設数 2008 年に行った既往のアンケート調査対象施設やこれまでの事例調査 施設,文献調査した施設の中から,入居者の高齢化が想定される知的 障碍対象の障害者支援施設と高齢化対応で医療的ケアを行うグループ ホームを選定 障害者支援施設7施設(うち生活単位を小規模としたユニット型4施設) グループホーム1施設 ヒアリング 内容 ・運営状況(入居者の人数,年齢、障碍の程度など)・建物に関して (良い点、課題点、今後必要と考える設えや施設整備など)・高齢化に ついて(高齢化の変遷、日中活動の課題、建物・設備への課題など) ・特養等の高齢者施設への移居の課題 ヒアリング 対象者 施設責任者 調査対象 施設の選定 ヒアリング調査対象施設の中から,生活単位が大規模な従来型; 施設B と小規模なユニット型;施設G の2施設を選定 インタ ビュー内容 調査対象者の入居経緯・病歴・性格や趣味・ご家族・高齢化の変化に 適応するための環境改善の方法・入居時点と現在での生活や活動の状況 ( 起床,食事,着替え,排泄,入浴,日中活動,就寝)・調査対象者への 支援の配慮点の変化 調査日施設B:2020 年1 月15 日 施設G:2020 年3 月23 日 調査対象者 選定方法 各施設責任者に入所から現在までで高齢化によりADL の低下がみられる 男女3名程度を選定してもらい,施設B5名・施設G6名を対象とする インタビュー 対応者 各施設で調査対象者のこれまでの生活遍歴や生活の様子を把握している 支援員 2019 年12 月 2018 年 7名/7名/ 19 名 平均60 代 (50 代〜80 代) 2018 年 平均4.5 2019 年12 月 1998 年 50 名 平均46.4 歳 (30 代〜70 代) 1998 年 / 2014 年(増築) 平均5.8 施設C 2019 年11 月 1999 年 60 名 平均65.8 歳 (30 代〜90 代) 1999 年 平均5.7 施設A 2020 年1 月 1999 年 40 名 平均43 歳 (20 代〜70 代) 1999 年 平均5.7 施設B 2019 年6 月 1998 年 40 名 平均50 歳 (20 代〜70 代) 2015 年(移転) - 施設D 2019 年11 月 1974 年 75 名 平均53.8 歳 (30 代〜80 代) 2014 年 平均5.6 施設F 2019 年12 月 1979 年 95 名 平均50 歳 2012 年(改築) 5 または6 施設E 2020 年3 月 1990 年 50 名 平均40 代後半 (20 代〜70 代) 1990 年 / 2015 年(増築) 平均5.9 施設G グループホームH 施設種別 障害者支援施設(従来型) 障害者支援施設(ユニット型) グループホーム 施設名 調査日 開設年 施設入所者数 障害支援区分 建設年 年齢 Subgraph: Frequency: − 220 − 表4 ヒアリング結果 個室・2人部屋 個室 施設種別 障害者支援施設(従来型) 障害者支援施設(ユニット型) グループホーム 食堂(一斉) 各ユニットリビング・GH リビング(少人数) 昼食:食堂(一斉)/朝夕食: 各ユニットリビング( 少人数) 居室構成 食事場所 施設名 入居者の 高齢に ついて 高齢化で 建物に求 めること 課題に ついて 高齢者 施設等へ の移居の 可能性 について 施設D 【高齢化の状況】 ・今では歩行器を使 う入居者が2名, 車いすの入居者が 数名いる。 【生活の変化】 ・食事時間に差があ るため,食事グ ループを3つに分 けて,食べ終わる 時間を合わせてい る。 ・食事形態が様々だ が刻み食で,介助 が必要な入居者が 多い。 【日中活動の変化】 ・今では高齢になっ たことで様々な活 動ができなくなっ ている。そのため 娯楽空間を居住空 間に取り込んで日 中の時間を過ごし ている。 ・日中活動のグルー プは活動,リハビ リ要素,体力維 持,などで分けて いる。 【支援ニーズ】 ・リハビリが必要な 入居者がいる。廊 下を広くしており 入居者が歩行器で リハビリできる。 ・医療的ケアが必要 になってくる。医 療的ケアが必要に なると施設では難 しく,病院に行っ てもらう。 【現在の建物の良 点】 ・地域の障碍のある 人たちが集まれる ように各々のス ペースを広くして いる。 ・各居室の入り口が 対面しておらず凹 凸のようにずれて いる。見守りはし づらいが入居者の 生活に重きを置い た形状である。 【高齢化でのニー ズ】 ・車いす入居者が増 えるという前提で 一つ一つの空間を 広くつくる。 ・長時間の生活では 個室でないとプラ イバシーを守れな い。 ・生活の満足度の向 上を心掛けて,自 分たちが住みたい と思う住環境にす る。 施設F 【日中活動の変化】 ・外で働いていた入 居者が屋内で活動 するようになっ た。 ・5年前に新しい活 動班をつくり,活 動内容が高齢化に シフトしている。 生産性ではなくそ れぞれの入居者に 生活の中での目的 を持ってもらう。 ・以前の16時までの 活動を入浴時間が 伸びたことを配慮 して15時半までと した。 ・土曜日も終日活動 していたが,今で は土曜日の午後を 余暇時間とした。 ・土曜日午後と日曜 日の余暇時間に以 前は一人で買い物 に行く入居者がい たが,今では支援 員とドライブ,食 堂でカラオケなど をしている。 ・手芸介護室では職 員が日中活動をし ながら、介護ベッ ドで寝たきりの利 用者の症状を確認 している。 【支援ニーズ】 ・認知症などの予防 では小さな気づき の共有が必要で, 観察記録を付けて いる。 ・今後は医療的ケア が必要だが,施設 でどこまで看られ るかが重要。延命 治療など医療判断 に親族の同意が必 要で難しい。 ・人材確保も難し い。痰の吸引な ど,看護師が1名 しかおらず永続的 に看るのが困難 で,その時は入院 してもらう。 ・最後まで看られる というラインは常 時医療的ケアが必 要か,口から物を 食べられるかであ る。 【現在の建物の良 点】 ・個室がよい。個室 化で感染症対応が 楽になった。支援 員の立場からだと 着替え時に個室で はないとプライバ シー確保できな い。 ・各ユニットのリビ ングがよい。 ・各ユニットのトイ レなどが便利。 【現在の建物の課 題】 ・収納を各部屋に設 えているが足りな い。分散された収 納場所が必要であ る。 ・スヌーズレンを 作ったが今は個室 であるため必要性 を感じていない。 【高齢化でのニー ズ】 ・ユニット化,個室 化が望ましい。 施設A 【高齢化の状況】 ・当初より年齢層が 高くなっている。 ・開設した当時の入 居者が半数程度在 籍して,半数は死 去した。 【生活の変化】 ・食事時間が長く なった。食事形態 が刻み食から流動 食に変化してい る。食器も小さく なり,ガード食器 に変更した人もい る。 ・車いすで入浴介助 が必要な入居者が 10名おり,以前は 入浴時間が15~17 時半だったが,今 では日中に支援員 がいる13半~15時 とした。 ・排泄は全員決まっ た時間に行う。日 中は全員同時だ が,夜間は尿量に よって判断する。 【日中活動の変化】 ・以前は午前午後で 作業活動をしてい たが,作業効率が 悪くなったり作業 ができなくなって きた。 ・普通の人でも定年 後に仕事をしな い。高齢化した今 では午後を余暇活 動とし,カラオケ やテレビ鑑賞など の時間に当ててい る。 ・午前中は作業をす るが,畑仕事や段 ボールの開封仕 事,作業棟での滞 在などで外注など は行っておらず施 設内だけで簡潔し ている。 【支援員の研修・教 育】 ・支援員の研修は虐 待防止研修などで そのほかは特にな い。 ・何名かの職員で施 設の見学などを年 に4回程行ってい る。 【現在の建物の良 点】 ・壁に木を利用して いる点など工夫し ている。 【現在の建物の課 題】 ・夜中に部屋に入り きらない車いすが 廊下に並んでい る。 ・車いすの人も増え ており,1階と2階 の行き来が大変で ある。 【高齢化でのニー ズ】 ・機械浴があるとよ いが現状は必要と 感じていない。 ・個室にトイレが欲 しい。 ・みんなで集まれる 空間がもっと必要 ・特養等への移居は ほとんどいない。 ・要介護認定が出な いため,通所で通 い,その後特養の 空きを待つ人もい た。 ・この施設は介護施 設と障碍者施設の はざまだと思うが 介護施設にはなり たくない。理由と して年齢層の幅が 広く,若い入居者 が生活しにくくな る。また介護施設 だとすべてが指示 待ちとなる。 施設B 【高齢化の状況】 ・開設当初からの入 居者が多く,症状 が急変している人 はいない。ここで 亡くなる人もいる が,状態が悪いと 病院に行く。 【生活の変化】 ・食事は以前一人で できた人が現在で は支援員が支援し たり,食べ物のサ イズを小さくして いる。 ・排泄では拭き取り が困難になる。高 齢に限らず入居者 ごとで支援方法が 異なる。 ・入浴は支援度が上 がり時間も回数も 増えた。以前は1日 2回転だったが午前 に個別対応が増え て3回転になった。 女性入居者2名が 機械浴で今後機械 浴が増えると入浴 のリズムが変わる かもしれない。 【日中活動の変化】 ・散歩の頻度や行け る入居者が減少し た。屋内で最低限 できる活動だけし ている。 ・ゆっくり過ごす余 暇時間が増えた。 毎日行っていた畑 仕事に疑問を感 じ,余暇時間を取 り入れた。 ・年々活動内容が変 化しており,日中 活動では昔も今も 主に1階の食堂を 使う。 【支援ニーズ】 ・ベッドへの誘導な ど,介護の知識が 必要になる。 ・医療的ケアの対応 ができておらず, 医療が必要な場合 は病院に助けを求 める。 【支援員の研修・教 育】 ・寝たきりの入居者 がいた時は介護の 講習を受けてい た。 【現在の建物の良 点】 ・2階建てで空間で 病気感染面でよ い。 ・共有空間がいくつ かあるのがよい。 【現在の建物の課 題】 ・病気になると2人 部屋では感染症対 策が難しい。 ・2階建てだと交流 や夜間の連携が不 便。避難時にも課 題がある。 ・浴室が1階にしか なく歩けない入居 者の移動が大変。 ・廊下が狭く、車い すを旋回させたり 2台が余裕をもっ て通ることができ ないため、臨機応 変に車いすを操作 できない。 【高齢化でのニー ズ】 ・個室にしたい。 ・特養に行った入居 者は穏やかな人で ある。強度行動障 碍がなく移居が可 能だった。 ・特養と障害者支援 施設で専門性が異 なるのが課題であ る。行動特性で対 応するのが障害者 支援施設で,特養 の介護士では対応 が困難だと思う。 また認知症や高次 機能障碍でも対応 が異なる。 施設C 【高齢化の状況】 ・認知症に似た症状 が出始め,急に怒 る,喋れなくな る,排泄や食事が できなくなる等が 急激に起こる。 ・主にてんかんの入 居者が40代になり 食事や支援の拒否 などの変化がでて きた。 ・自閉症や他害行為 がパワーダウンす る人も,自閉症が 激しくなる人もい る。 【生活の変化】 ・高齢化で急に食欲 がなくなったり, 好き嫌いがでる人 がいる。過渡期で 何名も同時にそう した人がでると対 応が困難。 ・排泄のおむつ交換 で暴れる人がお り,3名体制での 対応が必要。以前 はこうしたことが なかった。 ・入浴では1,2名 しか機械浴の人が いないため,機械 浴を使わずに支援 員が対応するのが 大半。リフトは重 度の入居者が怖が る。 【日中活動の変化】 ・笑顔のために欠か せないのが運動だ と考えて昔は皆で 3〜4kmほど歩い ていたが,外を歩 ける入居者が少な くなり,現在は回 遊式の施設内を歩 き回っている。 【支援ニーズ】 ・高齢化で雑音の中 で食事に集中でき ず,食堂での一斉 食事が難しくなっ た。 ・通所入居者もADL が低下し,送迎の 課題がでてきた。 【現在の建物の良 点】 ・中庭を日光浴など で利用できる。 ・支援員の見守りが しやすい。 【現在の建物の課 題】 ・転倒防止のセン サーをつけたが無 線でうまく機能し ない。 【高齢化でのニー ズ】 ・すべて個室で,平 屋建てが望まし ・高齢者の施設に移 居しない理由は人 間関係がある。支 援員と入居者の関 係が移居すること で途切れてしま う。 施設E 【高齢化の状況】 ・開設当時は若く, 知的障碍の軽い入 居者が多かった。 一部はグループ ホームなどに出た が,出て行けずに 施設に残った入居 者が高齢化した。 【日中活動の変化】 ・高齢になっても作 業する施設もある が,いつまで作業 活動をするかが課 題である。今では 日中ドライブした り,部屋やリビン グでビデオをみた りなどしている。 ・活動の回数が少な くなった。 ・午後は介護浴など を行っている。 ・活動の内容ではな く活動の支援を変 えている。PTに来 てもらいリハビリ テーション支援で 機能の維持に取り 組む。 【支援ニーズ】 ・60歳以上が多く入 居しているが,40 〜50代もすでに高 齢者である。早期 発見,早期治療を 目指して可能な往 診をしてもらう。 ・痛いと言えない入 居者への医療的ケ アのあり方。てん かん,二次的な障 碍などへの配慮が 必要で,まずは健 康に過ごしてもら うのが重要。 ・支援内容は個々で 全く異なる。 【支援員の研修・教 育】 ・一般的な介護研修 はしているが高齢 の知的障碍に関し ては行っていな い。 ・夜勤と日勤の支援 員で1日の中で10 分間の振り返る時 間を設けている。 【現在の建物の良点】 ・廊下の間に余分な空間 をつくり入居者や支援 員が柔軟に使えるよう にしている。 ・廊下に死角があり,支 援員の視線を感じづら い。 ・浴室前の畳スペースが 便利。入浴前後や,疲 れた時に利用。 ・ユニット化で支援員間 での声かけが増えた。 ユニット化で支援員の 責任感が増し,力を発 揮する。 【現在の建物の課題】 ・トイレを家庭のトイレ にすればよかった。 【高齢化でのニーズ】 ・トイレの高さや位置な ども検討する。 ・転倒などの危険性があ り二重床とする。 ・特養への移居は本 人か家族の意向に よる。 ・特養との連携は 行っており,車で 5分程の特養の施 設長と話をしてい る。 ・身体的にも精神的 にもライフステー ジでもここでは無 理の場合,他施設 に移ってもらうこ とも考えている。 この施設で最期ま でずっと住み続け るのは難しく,一 生の住処ではな い。 施設G 【高齢化の状況】 ・高齢になり隣にあ る同法人の身体障 害者施設に移った 入居者もいたが, 結局この施設に 戻ってきた。 【生活の変化】 ・以前は食堂での一 斉食事だったが, 現在はユニットご とで食事をする。 一人一人個性など が異なり,それに 対応するためのユ ニットで,個人の 尊重にも関係す る。 ・高齢の入居者は大 浴場で大人数で入 浴するのが困難 で,少人数での入 浴である。 【日中活動の変化】 ・以前は木工や畑, 洗濯や掃除などを 行っていたが,障 碍の重度化で,日 中のニーズが変化 した。 ・施設入居者には定 年がなく,作業の ゴールがない。作 業が嫌になり自傷 行為に陥る入居者 もいる。 【支援ニーズ】 ・高齢だからといっ て特別な支援はな い。入居者ごとに よる。 ・骨が折れやすい寝 たきりの入居者に は注意が必要。 ・医療的ケアが課題 である。これまで 施設での医療行為 が禁止されていた が講習を受けた従 事者がいればでき ることもある。常 時医療が必要だと 施設に入れない。 【支援員の研修・教 育】 ・支援員は国で定め られている講習を 受けている。実習 生が現場に来てい るので,学生に支 援員の態度がどう だったか伺う反省 会をする。 【現在の建物の良 点】 ・高齢化に対応する ための建物であ る。 ・住み心地がよい。 【現在の建物の課 題】 ・分棟で職員配置が 大変である。 ・木造でランニング コストがかかる。4 年で木のサッシが 変色して塗り直し た。 【高齢化でのニー ズ】 ・特養等への移居は ない。 ・知的障碍だと特養 でも問題は起きな いが,他の高齢者 施設だと課題があ ると思う。 ・この施設で最後ま で過ごせるように 高齢化対応の居住 棟をつくった。 グループホームH 【日中活動】 ・日中の滞在場所な どは入居者が自由 に決めている。 ・ドライブが好き で,買い物に一緒 に行くか声かけを している。 【支援ニーズ】 ・人材不足でシフト を組むのが大変。 特に常時の看護師 配置が困難。 ・高齢だからこそ限 りある日々を楽し く生きて欲しい。 何をしたいかを決 めてからそこに職 員が入っていく。 言葉がない入居者 の言葉をどう汲み 取るかが重要な支 援である。 ・基本的に家であっ てほしいと考えて いる。そのため最 低限のケアはする が病院に行く必要 があれば行った方 がよいと思う。 【支援員の研修・教 育】 ・支援員の研修計画 がある。介護力な どのプチ研修を 行っている。職員 会議でもしてい る。介護の研修は 法人外でしかでき ないため外部で研 修を受けるが,本 当に正しい介護が できているかはわ からない。わから ないことは実際に 支援員も体験して 学ぶ。 ・法人から自己研修 費として2万円の 補助があり,それ で研修に行ってい たり教科書代に充 てられる。 【現在の建物の良 点】 ・様々な場所とつな がる動線が便利。 【現在の建物の課 題】 ・浴室に手すりがほ しかった。すべて リフトだと大変で ある。 ・大きな車椅子など の収納が不足して いる。また、車い すが通る際の幅が 法律上は問題ない が狭く感じる。 ・オムツ利用の入居 者のトイレがいら ないが元気な入居 者のトイレが不足 している。 【高齢化でのニー ズ】 ・建物の基準を満た しても様々な人に 対応できない。一 人一人に合わせた 環境整備が望まし い。 ・知的障碍で高齢に なり特養に入る人 はいるが,特養の スタッフとの関わ りが少なく言葉が 減ることがある。 ・定期的にオムツ交 換をするだけな ど,特養のスタッ フもどう関わって よいかがわからな い。 − 221 − ■【医療】 【必要】と【ケア】等とつながり,高齢 化での医療的ケアが言及され,「リハビリや医療的ケア が必要(B)」や「今後,入居者の高齢化で医療的ケア が必要になるが,施設でどこまで看られるのかが重要 (F)」などの懸念がある。 ■【建物】・【空間】 語どうしのつながりがあまりな く,回答事例ごとに異なる様々な意見があり,「個室化」 「ユニット化(B/C/F/G)」やユニット型の施設では「空 間を広くとる(D)」,「トイレの高さや位置の検討,二 重床(E)」などの具体的な環境整備が言及された。 ■【特養(特別養護老人ホーム)】 高齢化に伴う特 養等の高齢者施設への移居の可能性を確認したが,「専 門性が異なることが課題(B)」や「人間関係(C)」な どの意見であった。 ■【車いす】 【増える】や【広い】とつながり,具 体的には「車いす入居者が増えるという前提で一つ一 つの空間を広くつくる。(D)」などがある。 ■【支援】 【ユニット】のあるグループとつながり, 食事や入浴などの生活での支援内容と読み取れる。 ■その他 【施設】は【様々】と,【障碍】は【少ない】 とのみつながる。 3.2 高齢化対応のための環境整備の事例 改築や増築等で施設空間での高齢化対応の意図が確 認された施設D と施設F の空間計画や使われ方の特徴 をみる注7)(図4)。 ■施設D 男女で生活エリアが別れ,各ユニットに セミパブリックのリビングを設け,各ユニットの外に パブリックのリビングを設けている。入居者が高齢化 すると作業室での日中活動が困難になるのを想定し, パブリックなリビングで趣味や娯楽ができるよう計画 されている。また介護や移動がしやすいように各空間 を広く確保し注8),トイレや浴室の高齢化対応も行われ ている。 ■施設F 2014 年の増築で3 人部屋から完全個室化 され,各ユニットにリビングが設けられた。日中活動 を重点的に取り組む施設で,増築で設けられた手芸介 護室には寝たきりの入居者が活動に参加できるように 介護ベッドを置くスペースを確保している。寝たきり の入居者でも活動室で支援員による見守られながら他 の利用者との活動に参加できる。高齢化で一人で食事 が難しい入居者が増え,リビングでの食事も検討して 増築したが,支援員不足で従来通り食堂で食事を行う。 3.3 ヒアリング結果からの考察 1)高齢化による支援 高齢化による支援では「各 施設で食事時間が長くなる」,「支援員がいる日中時間 での入浴支援の切り替え」など,施設開所時より食事 や入浴等に支援が必要な入居者が増加しているとわか る(抽出語【時間】)。また日中活動内容の幅や時間が 減少し(抽出語【活動】),高齢化に伴う入浴介助など の時間に充てられていた。高齢化で体を動かす作業が 少なくなり,意図的に体を動かすプログラムを入れる 施設も確認できた。24 時間看護師を配置しているグ ループホームH では「人材不足による常時の看護師配 置が困難」と回答し医療的ケアに関する看護師配置の 難しさがうかがえる。さらに高齢化に伴い,「一時的な 介護はできるが医療的ケアが必要になると,現施設/ 人員配置では対応できない」との意見が挙げられた(抽 出語【医療】)。各施設で医療的ケアが必要な利用者も いるが,特養への転居は支援員の専門性や人間関係な どに課題があり困難だとの意見が聞かれ(抽出語【特 養】),「障害者施設」の枠組みでどこまで支援するか/ できるかが課題である注9)。 2)生活空間の環境整備 抽出語【建物・空間】では, 語同士のつながりが確認されなかったが,2人居室の 施設B では個室への希望があり,他の施設でも高齢化 に伴うニーズとして個室が挙げられた。高齢化で介助 や介護が必要になるとこれまで以上にプライバシーへ の配慮が必要であり,そのための環境として個室が望 まれいていると理解できる。また高齢化によるADL の 低下で,縦移動が不要な平屋建てを望む意見や,車い す利用者がいる施設では廊下での旋回や車いす同士の すれ違いの困難さ(施設B),廊下の狭さ(グループホー ムH),への意見がみられ,移動通路では車いす利用を 前提とした幅の確保へのニーズが確認された。 3)活動空間の環境整備 障害者支援施設では,同 敷地内または同施設内に夜間の生活の場と日中の活動 の場が計画されるが,高齢化で日中の作業活動や散歩 図4 施設D と施設F の施設空間 施設D 施設F パブリックな リビング セミパブリックな リビング コモン リビング 居室 凡例 WC 浴室 ユニット内 リビング リビング 中庭 食堂 リビング 居室 WC ユニット内 ユニット内 − 222 − 表5 詳細インタビュー調査対象者の概要と属性の変化 等が困難な状況が生じるため,高齢期の日中の活動内 容や場所の整備も課題である。施設D では高齢化を見 据えて各ユニットに隣接するパブリックリビングで趣 味や娯楽等の日中活動ができるよう計画されている。 施設F では手芸介護室(日中の活動室)に寝たきりの 入居者が滞在できるスペースを設け,寝たきりでも他 の利用者との活動空間に参加できるように配慮してい る。今後の障害者支援施設では若年〜高齢層まで入居 者の年齢構成に幅(表3)が生じると考えられ,活発 に活動できる入居者と高齢期で活動が困難な入居者と が混在すると想定される。その際に高齢期の入居者の 日中の活動空間を生活空間と一体的に設けて行うか, これまで通りの活動室で若い利用者と一緒に活動する かは各施設の方針や人員配置の状況による。いずれに せよ,今後の施設整備時には高齢期の生活空間ととも に日中活動のあり方や活動空間も併せて検討する必要 がある。 4.詳細インタビュー調査結果 次に調査②:インタビュー調査から入居者個人に焦 点を当て,より詳細に高齢化の状態を捉え,生活や活 動,支援ニーズの変化の中での高齢化対応のあり方を 探る。なおインタビュー調査はヒアリング調査を行っ た施設の中から,従来型とユニット型で調査の受諾を 得られた施設B と施設G で行った。 4.1 調査対象施設の概要(表2) ■施設B(定員40 名) 建設年1999 年の2階建てで, 個室16 室・2 人部屋12 室の従来型施設である。1階 が男性,2階が女性の生活エリアで各階の食堂で食事 をとる。男女で浴室が1階の1箇所である。 ■施設G(定員50 名) 建設年1990 年の生活棟(28 名) と2015 年に高齢化対応のために増築した生活棟(22 名) があり,調査対象者は増築棟にいる。平屋建ての分棟 型で,1住棟6名,個室ユニット型施設である。各ユ ニットで食事と入浴をする。 4.2 調査対象者の概要と属性の低下(表5) 調査対象者は施設B:①〜⑤,施設G:⑪〜⑯の計 11 名で,年齢45 〜80 歳,障害支援区分6である。【身 体面の変化】は対象者で異なり,大島の分類注10)を参 考とした属性では現在では「歩行不安定(一部車いす) (①②⑫⑬⑮)」「歩けない/座れる(車いす)(③④⑤)」 「寝たきり(⑪⑭⑯)」でどの対象者も施設入所当時よ りも身体機能が低下している。また高齢化に伴いADL が徐々に低下する場合と,疾病等で急激に低下する場 合があり,ADL の低下の仕方ごとに生活の変化や支援 員の対応の詳細をみる。 4.3 高齢化での生活の変化と対応( 図5) 1)急激にADL が低下した調査対象者 ■施設B ④と⑤は共にパーキンソン病で急激にADL が低下した。④は食事・排泄・入浴・着替えのADL が 全介助で,病後すぐに介護ベッドの利用に移行した。 ⑤は食事以外に介助が必要で,起きられなくなるタイ 施設名 施設 G 調査対象者 性別/年代 入居日 障害区分 疾病や 個人の 特性, 身体面 の変化 ADL 徐々に低下 徐々に低下 徐々に低下 急激に低下 急激に低下 急激に低下 急激に低下 徐々に低下 急激に低下 急激に低下 徐々に低下 施設B 大島分類 を参考に した入居 者の属性 の変化 走れる 歩けない/座れる ( 車いす) 歩ける 歩行不安 ( 一部車いす) 歩けない/座れる ( 車いす) 歩行不安 ( 一部車いす) 寝たきり 20∼35 ∼20 運動 知能 能力 指数 ④⑤ ①②③ ❶❷ ❸ ❹❺ ⑫⑬⑭⑮⑯ 121315 ⑪ 111416 ① 女性/ 80 代 1999 年(開設時) 6 【疾病や特性】 最高齢で目が 悪い。会話が 可能。感情の 起伏が激し く,日中で変 化する。 【身体面の変 化】2015 年 に右ひざの痛 みからシル バーカーを利 用し,外出時 は車いすで ② 女性/ 50 代 1999 年(開設時) 6 【疾病や特性】 てんかんの発作 がよくある。 会話が可能。 【身体面の変化】 日中は基本寝て いるが,起きて いる時は支援者 が車いすに乗せ て見守ってい る。一番気を遣 わなければなら ない入居者であ る。 ③ 女性/ 50 代 1999 年(開設時) 6 【疾病や特性】 生まれつき両 耳が聞こえな いが周囲の環 境を読むのに 長けている。 自己主張が強 く頑固。 【身体面の変 化】 2010 年頃から 歩行が不安定 になり転倒で 怪我が増えた ④ 男性/ 70 代 1999 年(開設時) 6 【疾病や特性】 以前は社会に 出ていた。会 話も可能で一 人で身の回り のことができ ていた。 【身体面の変 化】 パーキンソン 病で半年程度 で会話もでき ず全介助にな る。1 週間単 ⑤ 男性/ 70 代 1999 年(開設時) 6 【疾病や特性】 以前は社会に 出ていた。耳 が聞こえない がこれまで大 きな病歴がな かった。 こだわりが強 く趣味が多い。 【身体面の変 化】2018 年に パーキンソン 病を患い,④の 後を追うよう ⑪ 6 女性/ 60 代 1990 年(開設時) 【疾病や特性】 生まれつき左 半身マヒがあ り、生まれた 時から歩くこ とができな かった。非常 に自己主張が 強く日中の興 奮状態に波が ある。 【身体面の変 化】47 歳の時 に大腿骨を骨 ⑫ 女性/ 50 代 6 1990 年(開設時) 【疾病や特性】 精神疾患とて んかんを患っ ている。頑固 な性格で感覚 鈍麻なため支 援員の管理が 必須。 【身体面の変 化】 2006 年に大腿 骨を骨折して 以降,普段は 歩行できるが ⑬ 女性/ 60 代 1994 年 6 【疾病や特性】 てんかんを 患っている。 【身体面の変 化】 会話ができた が近年認知症 がみられでき なくなる。以 前よりおとな しくなった。 歩けるが転倒 が増加した。 一般的な高齢 ⑭ 男性/ 40 代 6 1990 年(開設時) 【疾病や特性】 2歳まで話せて いたが,高熱の 後遺症で知的障 碍と左半身マヒ を患う。 【身体面の変化】 25 歳まで歩けて いたが肺炎の影 響で寝たきりに (肺炎を毎年患 う)なり施設内 では一番病院に いる。 ⑮ 男性/ 50 代 6 1990 年(開設時) 【疾病や特性】ダ ウン症があり 認知機能が低い。 こめかみへの自傷 行為で3年前に失 明の可能性があ る。コミュケー ションは取れな い。 【身体面の変化】 失明で歩行が不可 能になる。 ⑯ 男性/ 70 代 6 1990 年(開設時) 【疾病や特性】視 力が悪く最終的 にはほとんど見 えなくなった。 穏やかで,会話 ができた。 【身体面の変化】 2010 年の骨折で 車いす生活とな る。2012 年に肺 炎で入院してか ら全介助。2016 年に大腸がんで 死去。 走れる歩ける寝たきり 20∼35 ∼20 運動 知能 能力 指数 ・個室はで16 室で、他は2 人部屋が12 室ある。 ・男性フロアが1階、女性フロアが2階である。 ・女性が1階に下りるのは入浴と必要な時のみで日中は食堂で過ごしている。 ・各階で男女別に食事を取っている。 ・1階の食堂上部が吹き抜けである。 ・1住棟( ユニット)6名で生活している。 ・全室個室であり、各ユニットのリビングで食事をしている。 ・中庭は入居者の高齢化に配慮して車いすでも散歩できるように段差をなくている。 凡例 ○は入居時点, ●は現在の属性 を示す 施設概要 − 223 − 図5 詳細インタビュー調査結果 ④ ⑤ 地域交流 ホール 駐車場 【生活や活動の様子】 ・パーキンソン病で急激に身体機能が低下し,トイレに 行けなくなり,歩けなくなり,話せなくなった。 ・ADLが全自立から全介助になった。 ・以前は日中に施設外に労働へ出たり,草むしりをした り居室で演歌を聞いたり相撲を見たりして過ごしてい たが,今では見守りの面から食堂にいる。 【環境改善】 ・病後すぐに介護ベッドを導入した。 【支援ニーズ】 ・物の名前が分からなくなり,実物を見てもらう。 ・介護浴,夜間のおむつ交換が必要になった。 ・いつ症状が急変してもおかしくなく,注意深い見守り が必要。食堂で見守られながら生活 入居者:④(男性) 年齢:73歳 車いすADL:全介助 ③ 【生活や活動の様子】 ・基本的なADLは自立している。 ・身だしなみを整えるのが困難で,シルバーカーでトイ レに行くが夜中に漏らすことがありオムツを利用す る。大勢での入浴を怖がるようになった。 ・以前は余暇時間に折り紙や散歩するのが好きだったが 今ではデイルーム前廊下のお気に入りの場所にいる。 【環境改善】 ・パーキンソン病の疑いがあり,歩くのに消極的になっ た段階で車いすを導入したが,身体機能維持のために 外出時以外は使わないようにしている。 ・女性フロアの男性便所を無くしてトイレを広くした。 【支援ニーズ】 ・認知症の傾向がみられ,急に怒るため注意が必要。デイルーム前のお気に入り の場所にいる 入居者:①(女性) 年齢:80歳 一部車いす ADL:可/一部可/可/可 中庭 デイルーム 居室 居室 車椅子で施設の外周を散歩 【生活や活動の様子】 ・以前は食事・排泄・入浴・着替えの一部に見守りや介 助が必要で基本的に自分でできていたが,失明してか ら全介助である。 ・以前は散歩が好きでよく歩いていたが,今では車いす で施設の外周を散歩する。 【環境改善】 ・目が見えずベッドだと危険なため布団に変更した。 ・段差がないように心掛けている。 【支援ニーズ】 ・失明したため全て支援しなければならない。 ・自力歩行は可能だが足元の確認に気を付けている。 ・自傷行為を抑えられるように支援が必要だが自傷行為 の原因がわからない。 入居者:⑮(男性) 年齢:50歳 車いすADL:全介助 凡例 調査対象の入居者の属性 入居者:①(女性) 年齢:80歳 一部車いす ADL:可/一部可/可/可 調査対象者年齢移動手段 ADL:食事/排泄/入浴/着替え 【生活や活動の様子】 ・食事は刻み食で自分でできているが,排泄・入浴・着 替えで介助が必要になった。 ・以前は畑仕事をしていたが,今は機能低下予防のため の運動をしているが積極的でない。居室で嘔吐するこ とがあり,見守りの面から食堂にいてテレビを見る。 【環境改善】 ・自分で起きられなくなるタイミングで介護ベッドにす る。また介護浴,トイレへの手すり整備も必要。 ・イスに取り付け可能なハーネス,ベッド柵も検討。 【支援ニーズ】 ・足が上がりづらく視界も悪いため転倒に気をつける。 ・残存機能を維持するための支援が必要だが,一方で機 能の急低下を見越した先手先手の支援が必要である。居室の位置 食堂でリハビリ 作業している図がほしい 入居者:⑤(男性) 年齢:70歳 一部車いす ADL:可/一部可/不可/不可 ④ 地域交流 ホール 駐車場 ⑤ 居室 食堂で見守られながら生活 【生活や活動の様子】 ・以前から食事以外介助が必要である。 ・歳をとるにつれて足がおぼつかなくなり転倒が増えて きた。以前は日中に散歩をしていたが,今では中庭で の運動の時にベンチに座っている。 ・以前は日中活動を頻繁にしていたが,今では日中に寝 ている。 【環境改善】 ・転倒の恐れがあるため畳部屋だが,今後の状況によっ ては介護ベッドにする。専用の車いすも必要である。 ・出入り口の段差を解消した。 ・2人部屋で個室にしたいが,個室が少なく難しい。 【支援ニーズ】 ・てんかん発作があるため,常時見守りが必要である。 入居者:②(女性) 年齢:55歳 一部車いす ADL:可/不可/不可/不可 中庭の運動の時にもベンチ に座っていること デイルーム 居室 居室 中庭 車椅子で施設の外周を散歩 【生活や活動の様子】 ・大腿骨を骨折して急に寝たきりになる。食事はきざみ 食で,ベッド上でスプーンを使い食べる。排泄・入 浴・着替えは介助が必要である。 ・基本的に寝たきりだが日中に支援員が買い物に連れて 行ったり,車いすで施設の外周を回ったり,リビング にいたりもする。 【環境改善】 ・大腿骨骨折で寝たきりになり,介護ベッドと車いすを 整備した。 【支援ニーズ】 ・骨粗しょう症のため車いす移乗時に気をつけている。 ・高齢で体調が悪くなりやすくなった。施設内で一番病 院に近い入居者のため健康面に気をつけている。 入居者:⑪(女性) 年齢:61歳 車いすADL:一部可/不可/不可/不可 【生活や活動の様子】 ・食事以外は介助が必要である。咀嚼が困難でおかゆや きざみ食にしている。トイレに定期的に誘導するが失 禁が増えてきた。以前は排便の意思表示ができた。 ・睡眠が不規則になり一晩中起きていることがある。 ・以前はリサイクル班で力作業が得意だった。 【環境改善】 ・自傷行為があり元々壁にクッションを施していて,転 倒がでてきたタイミングで床にマットを引いた。 ・昨年に介護ベッドを導入した。現在リクライニング車 いすを仕立て中である。 【支援ニーズ】 ・発作が重くなり,数日間寝ていることもあるため発作 の見極めが大切である。 入居者:③(女性) 年齢:52歳 車いすADL:可/不可/不可/不可 壁に緩衝材,床にマットを 設置している デイルーム 居室 居室 5 1 0 N (m) 1/750 配置図兼1階平面図 ⑫居室 ⑪居室 リビング 見守りが必要な入居者は リビング前の居室にいる 【生活や活動の様子】 ・食事はきざみ食で,自分でスプーンを使い食べるが一 部介助してもらう。排泄はオムツで,入浴は一般浴槽 に入るが介助が必要である。 ・日中はユニット内にいて車いすで施設の外周を回る。 【環境改善】 ・ベッドでは転倒の危険があるため布団である。 ・クッション性のあるマットを利用している。 【支援ニーズ】 ・認知機能は比較的高いが激しい性格とてんかんがある ためリビング前の居室に入ってもらい見守る。 ・骨粗しょう症のため骨折に注意している。 ・自己主張が強く精神状態の波が激しいためコミュニ ケーションをうまくとるように配慮する。 入居者:⑫(女性) 年齢:51歳 一部車いす ADL:一部可/不可/不可/不可 外 居室 居室 介護ベッドを導入。ベッド は窓の外から搬出入が可能 【生活や活動の様子】 ・ADLは自立で,一通り自分でできるが見守りが必要で ある。高齢になるにつれて尿漏れがみられる。 ・長距離を歩けなくなったが,基本的には今も自分で歩 いている。 ・日中はリビングでDVDを観たり絵を描いたりである。 【環境改善】 ・頻繁に転倒するようになったため手すりがある増築し た住棟へ居室を移した。そのタイミングで介護ベッド と車いすを導入した。 【支援ニーズ】 ・転倒があるため歩行ルートに物を置かないよう注意し ている。 ・体調不良など健康面に配慮している。 入居者:⑬(女性) 年齢:64歳 歩行不安定 ADL:全自立 居室 寝たきり 居室で寝たきり 【生活や活動の様子】 ・寝たきりでADLはすべて全介助である。食事はペース ト食で居室で食べる。 ・日中も居室で寝たきりだが,調子が良い時や天気が良 い日は車いすで施設の外周を散歩する。 【環境改善】 ・寝たきりになってから介護ベッドを使用している。 【支援ニーズ】 ・話しても反応がなく,ニーズを組み取る必要がある。 ・医療的ケアが必要で免疫力が低下しているため配慮が 必要である。 ・自分で体温調節ができないため管理が必要である。 ・入院しててもおかしくない状態のため健康管理に配慮 している。 入居者:⑭(男性) 年齢:45歳 車いすADL:全介助 凡例 スタッフステーション 居室 中庭 テント 中庭での葬儀 【生活や活動の様子】 ・ADLは全介助で,排泄はオムツ利用である。排泄後に おむつをいじるようになった。入浴ではリフトを使っ ている。 ・以前から余暇時間に何もしておらず,おとなしくリビ ングにいる。天気が良い時は車いすで出かける。 【環境改善】 ・歩行が困難になったタイミングで介護ベッドと車いす を導入した。 【支援ニーズ】 ・最後は癌でギリギリまで施設で生活してもらい,病院 で看取った。そのあと施設へ戻り,施設の中庭でテン トを張って支援員と入居者の皆で葬儀を執り行い,見 送った。 入居者:⑯(男性) 年齢:享年74歳 車いすADL:全介助 B 設施 G 設施 急激にADLが低下徐々にADLが低下 − 224 − ミングで介護ベッドに移行し,トイレへの手すりの整 備も必要だという。残存機能を維持する支援が必要な 一方で機能の急低下を見越した先手先手の支援も必要 だという。④と⑤は共に見守りの観点から日中や余暇 時間を食堂で見守られながら過ごす。 ■施設G ⑪と⑫は食事の一部介助以外全介助であ る。環境整備は車いすと介護ベッド利用で,ベッドで は転倒の恐れがある⑫と⑮は布団である。骨粗しょう 症の⑪と⑫の車いす移乗時に配慮が必要である。どの 入居者も健康面に配慮されている。⑪と⑭は寝たきり だがどの対象者も体調が良い時等は日中に中庭や敷地 内を散歩する。 2)徐々にADL が低下した調査対象者 ■施設B ①はADL が自立だが夜中の失禁等がでて きた。②と③は食事ができるが他で介助が必要である。 車いすや介護ベッドを利用し,必要に応じてトイレの 改修や段差解消等がなされた(①②)。また②は転倒の 恐れがあり畳部屋で,現在2人部屋のため個室にした いが個室が少なく難しいとの課題がある。③は転倒の 危険性が生じ,居室の床にマットが敷かれた。日中に ①はお気に入りのデイルーム前廊下によくいる。②は 足がおぼつかなく転倒が増え,今では中庭で運動する 際も座っている。 ■施設G ⑬はADL が自立だが,歩行が不安定で頻 繁に転倒するようになり高齢化対応の住棟へ居室が移 され,介護ベッドと車いすが導入された。日中はリビ ングでDVD を観たり絵を書いたりして過ごす。⑯は故 人で,歩行が困難になり介護ベッドと車いすが導入さ れた。以前から日中はリビングで過ごし,天気が良い 時は車いすで出かけていた。癌を患い,最期まで施設 で生活して病院で看取られた。中庭にテントを張り, 施設で葬儀を行い見送った。 4.4 詳細インタビュー結果からの考察 1)身体機能の低下に対応する環境整備 両施設ともに手すりの必要性や段差解消の指摘があ り,高齢化での身体機能低下への配慮として高齢者施 設同様に求められる基本的なニーズである。また施設 G では介護ベッドを屋外から直接居室内に搬出入でき る計画で,入居する年齢層が幅広く常時入居者全員が 介護ベッドを必要としない障害者支援施設ならではの 工夫だと考えられる。またADL が徐々に低下する入居 者は,常時車いすに乗らずに機能維持を目的に歩行や 運動をするため,そのための屋内外空間を検討する必 要があると考える。 2)QOL 向上を目指した環境整備 現在の障害者支援施設では日中や夜間の生活/活動 の拠点に留まらず終の住処のニーズがある。そのため 身体機能の低下に応じた環境整備だけでなく,高齢期 のQOL 向上の観点でいかに環境を整備するかを検討す る必要もあると考える。施設OM の中庭は車いすでも散 歩でき,どの調査対象者も中庭や施設内を散歩する機 会が日常的にある。故人⑯のエピソードのように馴染 みのある中庭で過ごし,ここで支援員と入居者の皆に 最後を見送られるのはQOL として豊かである。施設や 入居者のこれまでの生活や活動の特徴から馴染みの空 間をつくるのも高齢期のQOL につながると考える。 5.本稿のまとめ 本稿では3章のヒアリング結果から,高齢化で食事 や入浴などの生活の時間が増え,日中活動の内容が変 化し,今後の施設での支援ニーズに医療的ケアや介護 への課題が指摘された。特養に移居もあるが,支援と 介護ニーズの相違や保険制度などが課題となり難し く,障害者支援施設が支援と介護の狭間にある実態が みられた。また建築的ニーズでは個室やユニット化ま たは機械浴などが言及された。日中活動の内容が変化 することで,高齢期の日中活動のあり方や空間を検討 する必要性が示唆され,本稿での調査施設では高齢化 を見据えて生活空間の中に活動空間を想定している事 例(施設D)や寝たきりでも他の利用者と一緒に活動 に参加できる活動室を設ける事例(施設F)がみられ た。4章のインタビュー結果から,築20 年以上の施設 B ではバリアフリーでなく,ADL が低下した入居者が現 れる都度,必要な環境整備をしていた。高齢化対応の 住棟を増築した施設G では入居者のADL が低下した際 に介護ベッドと車いすを導入する程度である。また日 中や余暇ではリビングにいる,車いすで中庭を散歩す る,身体機能維持のために運動する等で,個々の状況 やペースに応じた時間の過ごし方が確認され,馴染み の中庭が故人をおくる場でもあった。障害者支援施設 での高齢期の環境整備において,入居者の身体機能の 低下に対応するだけでなく,QOL 向上のための環境注11) について検討することも重要な視点だと考える。 謝辞 本研究にご協力いただきました皆様に記して御礼申 − 225 − し上げます。また,本研究は2019 年度の前田記念工学 振興財団の研究助成を受けて行われました(研究課題: 障害者福祉と高齢者福祉の統合を目指した障害者支援 施設整備での高齢化対応実態と課題の研究,研究代表 者:山田あすか)。 注 注1)「障害」の表記については個の尊重や差別などの理由で様々な 議論がある。従来は「障碍」の表記が充てられていたが,1946 年 11 月16 日に内閣が告示した「当用漢字表」に掲載された1850 の 漢字から「碍」が外され,「障害」が充てられるようになり,問題 も指摘される。本研究では「障碍」の表記として,法律用語/名 称を示す場合に限り「障害」を用いる。 注2)2006 年の障害者自立支援法施行(現・障害者総合支援法)により, 障碍区分(知的障害・身体障碍・精神障碍)と施設種別が一元化 されるかたちで障害者支援施設が設置された。 注3)障害者支援施設での高齢化やその課題を明らかにするにあた り,先駆的なグループホームでの医療的ケアや看取りへの取組み が参考になると考え,障害者支援施設も運営しているグループホー ムH を対象とした。グループホームH では看護師を配置して医療 的ケアのある高齢の障碍者を看護・介護できる体制を整えている。 なお障害者支援施設とグループホームで施設の規模は異なるが, 本調査では障害者支援施設の中でも入居者の高齢化が想定される 施設を対象としており,その点で今回対象としたグループホーム は同一条件である。またグループホームH へのヒアリング結果で は障害者支援施設との規模や平面プランが影響しての意見の差異 と思われる回答がなく,同一の分析方法で問題ないと判断した。 注4)本稿は東京電機大学ヒト生命倫理審査を受けて行われた研究 (受付番号03-014:『幼少期〜高齢期の特別支援ニーズを包摂する 施設環境整備に関する研究』)で,個人情報保護には充分な注意を 払い調査を行った。 注5) テキストマイニングソフト「KH Coder」とは樋口耕一氏が開 発したテキスト型( 文章型) データを統計的に分析するためのフ リーソフトウェアである。新聞記事,質問紙調査などの自由回答 項目やインタビュー記録といった様々なテキストデータを計量的 に分析する目的で制作され,社会学,心理学など複数の分野で数 多くの論文による実績がある。図3中の円の大きさは出現した数 を表し,単語間の数字は関連して出現した回数を表している。また, 色同士は関連するグループを表し,関連する語が少ない単語は出 ている線が少なくなっている。 注6)高齢化の実態や施設の課題等をヒアリングで頻出する単語から 具体的に読み取ることを試みる。KHCoder でキーワードとなる単語 を抽出することで視点を明確化し,表4の具体的なヒアリング内 容とともに読み取ることで高齢化でのキーワード〜具体的な内容 までの知見を得る。なお本稿でのKH Coder での分析では高齢化に ついての視点やキーワードを明確化することに対して有効に活用 し,具体的な高齢化での実態や施設の課題を抽出する点において は有効性がわずかで,そのために表4のヒアリングでの具体的な 内容と合わせて読み取りを行う。 注7)施設G でも増築で施設空間での高齢化対応の意図が確認された。 施設G の高齢者対応の特徴については4章でのインタビュー調査 結果で示す。 注8)高齢化に対応するため,居室前には車いすを置けるように通路 を広く確保している。なお現在歩行器の入居者がおり,廊下でリ ハビリを行うが回遊できないのが不便で回遊できる通路を計画す ればよかったとの意見があった。 注9)医療的ケアが必要な高齢の障碍者への支援として看護師を配置 するグループホームH のような事例もあるが人材不足で常時の看 護師配置が困難な意見も聞かれた。 注10)1968 年に都立府中療育センターの大島一良先生により知的指 数を縦軸の5段階に,運動機能を横軸の5段階にわけて障がいの 程度を分布した指標。 注11)本稿では施設や入居者のこれまでの生活や活動の特徴から馴 染みの空間をつくるのも高齢期のQOL につながると推察したが, 入居者の高齢期のQOL 向上のための生活や活動環境のあり方を明 らかにするのは今後の課題である。 [参考文献] 1)古賀政好・山田あすか:身体・知的・重症心身障がい児者施設へ のアンケート調査報告- 空間構成と居住者の生活像について-,日 本建築学会技術報告集,第16 巻 第33 号,pp.627-632,2010 2)山田あすか・古賀政好:障碍者施設におけるスタッフによる環境 への評価と異種障碍者共同生活に向けての課題- 障碍の別によら ない生活環境構築 のための研究 その1-,日本建築学会計画系論 文集,第76 巻 第664 号,pp.1083-1092,2011 3)古賀政好・山田あすか:旧障碍区分が異なる入居施設での入居 者の滞在様態の比較- 障碍の別によらない生活環境構築のため の研究その2-,日本建築学会技術報告集,第20 巻,第45 号, pp.683-688,2014.06 4)倉澤周作・山田あすか・小林千紗奈・古賀政好:障がい者施設に おける施設平面と支援負担感の関係に関する研究 その1,日本 建築学会学術講演大会,pp.453-454,2017 5)宮崎文夏・小林千紗奈・古賀政好・山田あすか:障がい者施設に おける施設平面と支援負担感の関係に関する研究 その2,日本 建築学会学術講演大会,pp.455-456,2017 6)古賀政好・小林千紗奈・山田あすか:障がい者施設における施設 平面と支援負担感の関係に関する研究 その3,日本建築学会学 術講演大会,pp.457-458,2017 7)小津貴・松田雄二:入居型知的障害者支援施設における入居 者の居場所と行為に影響を与える要素,日本建築学会学術講演, pp.1277-1278,2017 8)大西寛・石垣文・他:障害者の施設入所支援を母体とした生活 支援ネットワークに関する研究,日本建築学会学術講演,pp.461- 462,2017 9)松田雄二:身体障害者入所授産施設の入所者の地域生活への移行 と実態と課題,日本建築学会学術講演,pp.21-24,2014 − 226 −
地域施設計画研究39 2021年7月 日本建築学会
建築計画委員会 施設計画運営委員会 地域施設計画小委員会
Regional Community Facilities Planning and Design, AIJ, Vol.39, Jul., 2021
…以下検索用文字列…
「福祉起点型共生コミュニティ拠点」事例のオープンデータベース Website の構築と検証 Website construction and Evaluation of open database for case of the welfare origined symbiotic community 榎村賢*1, 山田あすか*2,村川真紀*3,○加藤瑞基*4,峯健人*5 In Japan, the public welfare support system is being redeveloped to correct the problems of population decline and uneven distribution. There are many cases that will be used as models for the future, but cross-cutting issues have not been organized and cannot be reviewed or verified. We have built a website that introduces these model cases and related cases. In addition to the search indicators already mentioned, cross-sectional search using hashtags is possible. We also conducted a questionnaire asking about the ease of use of the website. The purpose is to become knowledge for social implementation that disseminates ideas and issues in precedent cases. Key words: Welfare origined symbiotic community,Website,Hashtag キーワード: 福祉起点型共生コミュニティ,Website,ハッシュタグ * 1 東京電機大学大学院未来科学研究科建築学専攻(当時) * 2 東京電機大学未来科学部建築学科 教授・博士(工学) * 3 東京電機大学未来科学部建築学科 研究員・博士(工学) * 4 東京電機大学大学院未来科学研究科建築学専攻 * 5 東京電機大学未来科学部建築学科(当時) Ken ENOMURA ,Asuka YAMADA,Maki Murakawa,Mizuki Kato,Kento Mine * 1 Graduate Student, Science and Technology for Future Life, Tokyo Denki Univ. * 2 Prof., Dept.of Architecture, Faculty of School of Science and Technology for Future Life, Tokyo denki Univ., Dr.eng. * 3 Researcher, Dept.of Architecture, School of Science and Technology for Future Life, Tokyo Denki University, Dr.Eng. * 4 Graduate Student, Science and Technology for Future Life, Tokyo Denki Univ. * 5 Dept.of.Architecture,Faculty of School of Science and technology for future life,Tokyo denki Univ. 1.研究背景 1.1 社会的背景 人口減少を伴う少子・超高齢社会にある我が国では, 大都市と地方の人口偏倚に起因する医療・福祉・生活・ 就労基盤の脆弱性を是正し社会の持続性を高め,特に 高齢期・障碍のある人・子育て期の安心・安全な住環 境の確保や,看護・介護・支援体制の整備が深刻かつ 喫緊の課題である。この解決策として,アクティブシ ニアの住み替えによる人口移転や医療・介護・居住拠 点の整備「生涯活躍のまち(旧日本版CCRC)1)」や,「団 地の地域医療福祉拠点化(UR 都市機構)」「スマートウェ ルネス住宅(国交省)2)」などの各種政策が,各省庁から, 数年単位の事業として展開されている。また,従来の 医療/介護/生活支援/教育/自治などの機能の別を 超えた新しい地域の活動拠点形成も各地で模索されて いる。こうした動きを受け,過疎地域を中心に,高齢 者・障碍者・こどもなどへの多機能な支援を提供する 「小さな拠点(国交省)3)」や,地域包括ケアを拡大し 住人の互助を促す「“ 我が事・丸ごと” の地域共生社 会(厚労省)4)」の構想も謳われている。これに先立 ち,厚生労働省では医療・介護・生活支援を地域資源 を活かしながらネットワーク的に地域に張り巡らす地 域包括ケアシステム5) を提唱し,その整備が進められ ている。これに関連して,地域密着型でのケアの核と なる住まいの確保と整備が重要であることから,国土 交通省では高齢期のケア付きの住まいとしてサービス 付き高齢者向け住宅の整備を進めてきた。また,公共 事業や公的サービスでは限界があること,また今後の 社会情勢に根ざした民業のあり方を誘発する観点から も,高齢者や障碍者,子育て世帯などの要配慮者への − 203 − 地域施設計画研究39 2021年7月 日本建築学会 建築計画委員会 施設計画運営委員会 地域施設計画小委員会 Regional Community Facilities Planning and Design, AIJ, Vol.39, Jul., 2021 住宅整備の一環として各自治体と連携しながら居住支 援や,住宅確保要配慮者専用賃貸住宅の整備を行い始 めている。 地域,生活の維持に資するための各種取組が,加速 する社会変化とともに多数行われ,またそれらが数年 のピッチで新たな取り組みに移り変わっていくという めまぐるしい状況がある。これらには相互に知見を援 用可能と思われる事例も多く,個別の事例ごとの既往 研究があるが,制度を超えた事例や課題の整理が行わ れておらず統一的視点での総覧や検証が難しい。また, 多様な機能と連携した具体的な整備方法は充分に整理 されていない。 1.2 研究の目的 このように,多世代に渡る利用者を想定し,施設種 別の横断・連携や,機能を複合化した施設・拠点の整 備は今後重視され,増えていくと考えられる。そのた め,計画・構想時などに援用可能な事例を横断的に探 索し,参照できる仕組みが必要と考えた。そこで,施 設や拠点についての見学・ヒアリングレポート記事や 関連する情報サイトなどを集約し,これらを関わる・ 興味を持つ・利用する者である,研究者や建築業関係 者,建築初学者,施設運営者,自治体,施設利用を考 えている人( 以降,閲覧者) などに向けて,幅広い層 がアクセス可能な情報提供プラットフォームである Website 形式での公開が有効と考えた注1)。こうした, 各視点での事例収集・紹介Website の例には,アーキ テクチャーフォト6)やソトノバ7),環境づくりのリゾー ムサイト8)9)などの事例があり,興味関心のある人々 の緩やかなつながりコミュニティのプラットフォーム としても貢献している。 本稿で報告するWebsite の普及は,従来の施設種別 を超えた知見の拡がりや工夫の援用,各種事業の複合 による事業の立ち上げや改善,効率的な拠点整備方針 策定や課題解決方法の発展に寄与すると考える。また, 各種事例について,統一的視点での先行事例での工夫 や課題の情報発信,情報の共有を促す仕組みの発展へ の知見になると考える。 2.本稿の目的 これらの先行事例と関連する医療・福祉・教育な どの施設/拠点の事例(図1)を紹介するWebsite 「PROJECTS’ CATA-LOG: Projects’ case and tag log(略 称ぷろログ)」を構築した注2)。地域施設の計画・実践 においては単一機能の事例の分類を超えて事業の実施 場所としての意味をもつ事例や,機能の複合化も進ん でいる。そこで,個々の事例には事例の分類や所在地 の情報という既出の検索指標に加えて,対象とするひ とと活動フレーム,援用可能な要素をハッシュタグと して付与し,事例の分類の垣根を越えて事例を横断的 に検索できる構造とした。 本研究では,このWebsite の利用者アンケート調査 により,横断的な検索システムの実効性とWebsite や 検索システム自体の使いやすさを検証し,一般公開に 向けたWebsite の改善に繋げることを目的とし,今後 のWebsite の整備方針を報告する。 3.Website の構成と特徴 3. 1 Website の構成 「Projects’ CATA-Log」の構成とWebsite 登録情 報の内容( 図2),調査開始時の状況( 図3) を示す。 Website に掲載する事例は,科研研究課題10) や建築学 会特別調査委員会研究課題等11)などの研究課題で収 集した事例,関連する医療・福祉・教育などの施設/ 拠点の事例である。図3にWebsite の各画面と検索指 標と掲載内容の具体的な配置を示す。検索指標は,本 プロジェクトで新たに導入した,①マップ/②ひとと活 動/③ハッシュタグ,既存の事例検索Website で実装さ れている検索指標として,④事例の種類/⑤具体的な機 能/⑥所在地/⑦キーワード/⑧②〜⑦の複数条件を任 意で検索する「条件からさがす」の8指標である。検索 時,指標間はAND 検索,指標内はOR 検索として構築した。 以下に①〜⑦の内容を記す。 ①マップ 個々の事例を地図上に表示し,都道府県などの検索 研究 事例の収集 内容)「福祉起点型共生コミュニ ティ」とその拠点施設を,潜在 的な該当事例を含めて広く収集 する。 手法) ○各種モデル事業の文献調査 ○現地調査と資料収集 ○関連する自治体へのヒア リング調査,文献・資料収集 データベースの作成 内容)地域,機能,建 築形態など検索可能な Website 形式のデータ ベースを作成し,随時 公開する。自治体や事 業者への情報シェアと さらなる情報集約と議 論のプラットフォーム となることを期待す 情報発信と社会実装 内容)地域特性や地 域・住民ニーズに応 じた検討材料,さら なる情報集約と議論 の土壌としてweb な どで広く公開する。 また社会実装とその 評価検証を行う。 プロジェクトの事前状況と準備プロジェクトの目的 収集している事例の例 サービス拠点, 共有施設サービス拠点 既存集合住宅 物販・入浴・飲食事業 コミュニティ の醸成 観光・ 移住 生活+介護施設 地域住民の利用 地域密着型 介護施設 生活関連 施設 医療施設 移動 通所・訪問 介護・生活支援事業 地方/ 郊外での 独立集落新築型 都市/ 郊外での 既存集合住宅改修 郊外/ 地方/ 辺縁 での地域資源連携 郊外/ 地方/ 辺縁 での福祉拠点設立 図1 収集してきた事例とWebsite プロジェクトへのフロー − 204 − のほか,地理条件や近隣施設との地理関係をビジュア ル面から検索する。各事例は事例の分類(事例の種類) ごとに分けての検索が可能。 ②ひとと活動 個々の事例先が対象とする「ひと」とサービス,取 組みを「活動」として名詞や動詞の表記から検索条件 を選択する。表記の例として「ひと」では「要支援・ 介護高齢者/こども(就学前)/子育て世帯/まちの ひと」,「活動」では「泊まる・暮らす/集う・親しむ・ 関わる/療養する/支援する」がある。また「ひと」 と「活動」はAND 検索である。 ③ハッシュタグ 事例の特徴的な取組みや建築的操作,理念などの他 の事例と共通する,もしくは援用可能な事項を「ハッ シュタグ」として表記し,検索条件とした。「ハッシュ タグ」として設定される事項は,国の制度の性質によ る多数の事例に共通するサービス実施と建築的操作の 課題点やその一時的な解決策,もしくは個の事例が導 出した課題点とその解決策などの多様な事項を筆者ら が整理し,表記している。またこれらの多様な事項を 「ハッシュタグ」として決定する範疇は設定していな い。これは各々の事例先の地理・ひとに起因するケー スと課題点をできる限り収録することで今後の「福祉」 を整備する学術的,実務的な議論への提起を目的とし ている。 ④事例の種類 各事例の分類を「交通・公園・商業・その他/こども・ 子育て支援/障がい児者の発達・暮らし・活動・就労 支援/高齢者の活躍と生活支援/教育・文化/いろい ろな住まい/医療・保健と健康/宿泊施設・拠点/コ ミュニティ・まちづくり・集いの拠点/複合・共生・ 連携の拠点」の10 件の大分類,89 件の中分類に整理 している。検索ページ「条件からさがす」内では従来 の事例の分類の検索指標として機能させるため「事例 の種類」という名称で筆者らが分類している。具体的 な分類方法については3.2に後述する。 ⑤具体的な機能 法令で標榜される施設分類・サービス・事業の名称 を一覧で表示した。検索後の詳細ページ閲覧時に表記 されている施設分類・サービス・事業の名称を見るこ とでその事例の一般的・世俗的な呼称を知る機会にな ることを期待している。 トップページ検索ページ:条件から探す 検索ページ:マップ 検索結果ページ事例詳細ページ ⑦ 事例検索の流れや検索事例を指定し,実際にサイトの使用感を検証して もらうモニターアンケート形式で依頼 R2 12 月28 日~ R3 1 月15 日 事例の詳細情報の紹介 援用可能な要素の紹介 事例の種類が類似する 取り組みの紹介 事例種別ではなく横断的 に類似する事例を紹介 回答者属性 事例先での利用者/ スタッフの様子や建築の使われ方について 記録した見学・ヒアリング時の情報からレポートを作成 ハッシュタグの組み合わせが類似する他事例の表示 事例の公式HP や国が公表する政策別の資料へのURL リンク ・各検索手法での流れ ・どの項目を選択して検索をしたか ・各検索項目の名称は理解できたか ・結果として目的の事例を検索できたか ・利用後のサイト内改善要望について ②ひとと活動事例先の対象者とその活動フレームを選択 ③ハッシュタグ 個々の事例の特徴,援用可能な要素を示す項目から選択 ①マップ地図内に表示される事例の種類で分けた事例のピンから選択 地域を構成する公共の福祉10 分類から各事例の大枠となる ④事例の種類 施設/取組みの種別を選択 ⑤具体的な機能事例先が取り組む活動やサービスの名称を選択 ⑥所在地 事例の所在地を都道府県単位で選択 ⑦キーワード 事例の名称等のテキストによるサイト内検索 既出指標 ② ③ ④⑤ B A 0 200 400 600 800 1000 登録進捗状況 751 298 255 922 172 学部生 (研究室配属前) 学部生 (研究室配属済) 大学院生(修士) 95 人 大学院生 (博士, 研究生) 研究者 教職員実務の方 その他 1063 (件) 14 25 32 2 7 3 7 4 ② ① ③ ⑧ ⑦⑥② ④ ⑤ ③ ① A ⑧ B C ⑥④ ⑤ ③ ① A:事例見学レポート B:関連サイトへのリンク C:類似する事例の紹介 事例閲覧ページ ねらい 利用実証調査 調査手法 調査期間 回答者数 アンケート 内容 検索時の指標選択内容事例閲覧ページに掲載する内容 検索ページ 導入指標 website の構成 ⑧条件から探す ②〜⑦を任意検索 事例の種類別の登録数 ②:ひとと活動 ③:ハッシュタグ ④:事例の種類 ⑤:具体的な機能 A:事例見学レポート B:関連サイトへのリンク C:類似する事例 色々な住まい 医療・保健 宿泊施設 コミュニティ・まちづくり・集い 複合 その他 こども・子育て支援 障がい者支援 高齢者の活躍と生活支援 教育・文化 凡例 トップページ検索ページ:条件から探す 検索結果ページ事例詳細ページ 事例検索の流れや検索事例を指定し,実際にサイトの使用感を検証して もらうモニターアンケート形式で依頼 R2 12 月28 日~ R3 1 月15 日 事例の詳細情報の紹介 援用可能な要素の紹介 事例の種類が類似する 取り組みの紹介 事例種別ではなく横断的 に類似する事例を紹介 回答者属性 事例先での利用者/ スタッフの様子や建築の使われ方について 記録した見学・ヒアリング時の情報からレポートを作成 ハッシュタグの組み合わせが類似する他事例の表示 事例の公式HP や国が公表する政策別の資料へのURL リンク ・各検索手法での流れ ・どの項目を選択して検索をしたか ・各検索項目の名称は理解できたか ・結果として目的の事例を検索できたか ・利用後のサイト内改善要望について ②ひとと活動事例先の対象者とその活動フレームを選択 ③ハッシュタグ 個々の事例の特徴,援用可能な要素を示す項目から選択 ①マップ地図内に表示される事例の種類で分けた事例のピンから選択 地域を構成する公共の福祉10 分類から各事例の大枠となる ④事例の種類 施設/取組みの種別を選択 ⑤具体的な機能事例先が取り組む活動やサービスの名称を選択 ⑥所在地 事例の所在地を都道府県単位で選択 ⑦キーワード 事例の名称等のテキストによるサイト内検索 既出指標 ② ③ ④⑤ B A 0 200 400 600 800 1000 登録進捗状況 751 298 255 922 172 学部生 (研究室配属前) 学部生 (研究室配属済) 大学院生(修士) 95 人 大学院生 (博士, 研究生) 研究者 教職員実務の方 その他 1063 (件) 14 25 32 2 7 3 7 4 ⑧ ⑦⑥② ⑥④ ① A:事例見学レポート B:関連サイトへのリンク C:類似する事例の紹介 事例閲覧ページ ねらい 利用実証調査 調査手法 調査期間 回答者数 アンケート 内容 検索時の指標選択内容事例閲覧ページに掲載する内容 検索ページ 導入指標 website の構成 ⑧条件から探す ②〜⑦を任意検索 事例の種類別の登録数 ②:ひとと活動 ③:ハッシュタグ ④:事例の種類 ⑤:具体的な機能 A:事例見学レポート B:関連サイトへのリンク C:類似する事例 色々な住まい 医療・保健 宿泊施設 コミュニティ・まちづくり・集い 複合 その他 こども・子育て支援 障がい者支援 高齢者の活躍と生活支援 教育・文化 凡例 図3 構築したWebsite 画面と検索指標/ 掲載内容の具体的な箇所 図2 Website の構成概要 − 205 − ⑥所在地 個々の事例先の所在地を都道府県単位で検索する。 ⑦キーワード Website 内で掲載している文章,①〜⑥の選択項目 に含まれる文字を対象にテキスト検索を行う。 ⑧条件から探す ①〜⑦の各検索指標の組み合わせ検索により,条件 を限定してサービス内容や建築形態の特徴が類似する 事例を検索できる。 また事例の詳細を閲覧するページには,事例名・事 例ナンバー・紹介文・所在地・事例の種類(大分類)・ 事例の種類(中分類),付与されているハッシュタグの 他,「A:事例見学レポート」,「B:関連サイトへのリ ンク」,「C:類似する事例」を掲載した。 「A:事例見学レポート」は,見学・ヒアリング時に 収集した事例先での利用者・スタッフの様子や建築の 使われ方,内観・外観写真注3)などの情報をもとに作 成し,事例の運用・建築の様子に加えて,援用可能な 要素の紹介をしている。 「B:関連サイトへのリンク」は,各事例の公式 Website や事例を紹介するWebsite へのリンク,各行 政庁の事例集へのリンクを掲載している注4)。 「C:類 似する事例」は付与されているハッシュタグの組合せ が類似する他事例を表示し,施設種別だけでなく,横 断的に類似する事例を紹介している。 「C:類似する事例」では,付与したハッシュタグを もとに,各事例に付与されているハッシュタグの組合 せが類似しているものをシステム上で検出し,それら を「類似する事例」として反映している。 3. 2「事例の種類」の分類方法と期待される効果 表2に,掲載事例の大/中/小分類の一覧を示す。 小分類は法令で標榜される施設名や機能,室名という 分類の最小単位である。閲覧者が事例を見つけやすい よう,類似した機能をまとめていく考え方で,小分類 から中/大分類へと整理・統合した。サイト上では, いわゆる施設種別の先入観なく事例に出会えるよう, 小分類は「具体的な機能」,中/大分類は「事例の種類」 という名称で表示する。「事例の種類(中/大分類)」 表示機能により多くの事例が表示される機会を提供 し,「具体的な機能(小分類)」表示機能は本サイトが 掲載している事例の分類とその広がりを閲覧者に提示 する。これらの分類の意味と内訳を整理したプルダウ 小 分 類中 分 類大分類 駅・交通系施設 公園・緑地,ランドスケープ 農場・牧場 商業施設(オフィス,店舗) シェアオフィス/コワーキングスペース 一体再開発 駅・交通系施設 公園・緑地 農場・牧場 商業施設 シェアオフィス 一体再開発 保育所 小規模保育拠点 幼稚園 認定こども園 児童館,子育て支援 児童養護施設,乳児院,自立援助ホーム,グル ープホーム 学童保育 保育所 小規模保育拠点 幼稚園 認定こども園 児童館・子育て支援 社会的養護 学童保育 障害児入所支援 児童発達支援,放課後等デイサービス 障害者施設入所支援 障害者者グループホーム,ケアホーム,福祉ホーム 就労継続支援,就労移行支援 生活介護(障害者デイサービス),自立訓練 障がい児の施設入所支援 発達支援 障がい者の施設入所支援 障がい者の小規模ホーム 障がい者の就労支援 障がい者の日中活動支援 特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設) 介護老人保健施設 認知症対応型共同生活介護 小規模多機能・宅老所 特別養護老人ホーム 介護老人保健施設 認知症高齢者グループホーム 小規模多機能・宅老所 デイサービス, デイケア, 訪問介護, ショートステイ, 地域生活支援 地域包括支援センター, 訪問看護・介護ステーション サービス付き高齢者向け住宅 有料老人ホーム 介護医療院 ホームホスピス 高齢者系複合 高齢者系政策・事業 小学校 中学校 小中一貫校 中高一貫校 高等学校 特別支援学校 学習施設 図書館 文化施設 まちライブラリ 会館・ホール 集会施設 公民館 教育・文化系その他 スポーツ施設 歴史的建築物 団地,団地再生,団地再生事業 多世代共生住宅 住宅 子育て支援住宅 公営住宅 コーポラティブハウス ニュータウン 居住系政策・事業 病院 診療所 患者・家族支援 まちの保健室 暮らしの保健室 こども病院,小児病棟,病児支援施設, こどもホスピス ウェルネスコミュニティ拠点 地方自治体 庁舎 コミュニティセンター 地域活性化活動 CCRC拠点施設 産官学連携・アーバンデザイン 住み開き コミュニティカフェ コミュニティスペース オープンオフィス 地区の家 集約的拠点 小さな拠点 社会的活動 集落等 まちなみ・景観 幼老一体 公共集約 複合・共生 住宅地 高齢期の住まい 社会福祉法人等 大学・専門学校 美術館・博物館 アルベルゴ・ディフーゾ, 地域活性化の拠点となる 宿泊施設 サービス付き高齢者向け住宅 有料老人ホーム シニアタウン,高齢者向け住宅 介護医療院 ホームホスピス 高齢者系複合 社会福祉法人,株式会社 政策・事業 小学校 中学校 小中一貫 中高一貫 高等学校 大学,専門学校 特別支援学校 美術館,博物館,パビリオン,水族館 学習施設 図書館 文化施設 まちライブラリ 会館・ホール 集会施設 公民館 教育・文化系その他 スポーツ施設 歴史的建築物 団地 多世代共生住宅 住宅地,集合住宅地 住宅 子育て支援住宅 公営住宅 コーポラティブハウス ニュータウン 政策・事業 病院 クリニック 患者・家族支援 まちの保健室 暮らしの保健室 ウェルネスコミュニティ拠点 まちなか分散,まちなか拠点,集落分散, 単独改修,リゾート 地方自治体 庁舎 コミュニティセンター 地域活性化活動 CCRC拠点施設 産官学連携・アーバンデザイン 住み開き コミュニティカフェ コミュニティスペース オープンオフィス 地区の家 集約的拠点 小さな拠点 社会的活動 集落等 まちなみ・景観 幼老一体 公共集約 複合・共生 こどもの医療施設 交通・公園 商業・その他 こども・ 子育て支援 障がい児者の 発達・暮らし 活動・就労支援 高齢者の活躍 と生活支援 教育・文化 いろいろな 住まい 医療・保健 と健康 宿泊施設・ 拠点 コミュニティ まちづくり 集いの拠点 複合・共生 連携の拠点 トップページ検索ページ:条件から探す 検索結果ページ事例詳細ページ 事例検索の流れや検索事例を指定し,実際にサイトの使用感を検証して もらうモニターアンケート形式で依頼 R2 12 月28 日~ R3 1 月15 日 事例の詳細情報の紹介 援用可能な要素の紹介 事例の種類が類似する 取り組みの紹介 事例種別ではなく横断的 に類似する事例を紹介 回答者属性 事例先での利用者/ スタッフの様子や建築の使われ方について 記録した見学・ヒアリング時の情報からレポートを作成 ハッシュタグの組み合わせが類似する他事例の表示 事例の公式HP や国が公表する政策別の資料へのURL リンク ・各検索手法での流れ ・どの項目を選択して検索をしたか ・各検索項目の名称は理解できたか ・結果として目的の事例を検索できたか ・利用後のサイト内改善要望について ②ひとと活動事例先の対象者とその活動フレームを選択 ③ハッシュタグ 個々の事例の特徴,援用可能な要素を示す項目から選択 ①マップ地図内に表示される事例の種類で分けた事例のピンから選択 地域を構成する公共の福祉10 分類から各事例の大枠となる ④事例の種類 施設/取組みの種別を選択 ⑤具体的な機能事例先が取り組む活動やサービスの名称を選択 ⑥所在地 事例の所在地を都道府県単位で選択 ⑦キーワード 事例の名称等のテキストによるサイト内検索 既出指標 ② ③ ④⑤ B A 0 200 400 600 800 1000 登録進捗状況 751 298 255 922 172 学部生 (研究室配属前) 学部生 (研究室配属済) 大学院生(修士) 95 人 大学院生 (博士, 研究生) 研究者 教職員実務の方 その他 1063 (件) 14 25 32 2 7 3 7 4 ⑧ ⑦① A:事例見学レポート B:関連サイトへのリンク C:類似する事例の紹介 事例閲覧ページ ねらい 利用実証調査 調査手法 調査期間 回答者数 アンケート 内容 検索時の指標選択内容事例閲覧ページに掲載する内容 検索ページ 導入指標 website の構成 ⑧条件から探す ②〜⑦を任意検索事 例 の 種 類 別 の 登 録 数 ②:ひとと活動 ③:ハッシュタグ ④:事例の種類 ⑤:具体的な機能 A:事例見学レポート B:関連サイトへのリンク C:類似する事例 色々な住まい 医療・保健 宿泊施設 コミュニティ・まちづくり・集い 複合 その他 こども・子育て支援 障がい者支援 高齢者の活躍と生活支援 教育・文化 凡例 表2 事例の分類と内訳 表1 利用実証調査アンケートの概要 − 206 − ン形式の項目選択を併せて示し閲覧者(研究者,学生, 実務者,地域福祉サービス提供者,非福祉・建築関係者) が経験や知識の差を超えて各種事例にアプローチでき る分類構造を目指した。 3. 3 横断的な事例検索機能 「ひとと活動」,「ハッシュタグ」,「マップ」の検索機 能は,従来の事例の分類を超えた事例に出会える要素 として設けた。「ひとと活動」と「ハッシュタグ」の検 索では,事例の分類を超えて,共通する視点や特徴を 表す語を各々の事例登録時に付与することで,対象者 や分類を超えて,類似した特徴を持つ事例が関連事例 として表示される。例として図5に,ハッシュタグが 事例の分類を横断して付与された様子を示す。付与さ れている事例が20 件を超えるハッシュタグを抽出し, 実際に付与されている事例を種類別に示した。 ハッシュタグ「居場所づくり」の事例への付与状況 を見ると,このハッシュタグが付与されている事例は 「こども・子育て支援」10 件,「障がい児者の発達・暮 らし・活動・就労支援」23 件,「教育・文化」13 件, など,9 種の事例種別にわたる。このように,ハッシュ タグは事例の分類を横断して付与されており,事例種 別を超えた事例との出会いを促す効果が期待できる。 一方で,事例ごとの閲覧ページでは,ハッシュタグ の組合せが類似した他事例を掲載することで,検索→ 事例閲覧→類似事例閲覧という流れでの検索対象拡大 を促した。 4.Website の利用実証調査 4. 1 利用実証調査の対象と内容 事例検索の流れや検索事例を指定し,実際にサイト の使用感を検証してもらうモニターアンケート形式注5) で利用実証調査を実施した。調査開始時の状況を図4 に示す。登録済み総事例数は1081 件で,内訳は「A: 事例見学レポート」172 件,「B:事例先のWebsite や 各行政庁の事例集のリンク」922 件,「②ひとと活動」 の付与事例数255 件,「③ハッシュタグ」の付与事例 数298 件,「④事例の種類」1063 件,「⑤具体的な機 能」751 件であった。期間は2020 年12 月28 日か ら2021 年1 月9 日である。アンケート対象者は筆者 らの大学の建築学科に在籍する学生と研究員,筆者ら と連携する他大学の研究員とその研究室の学生,一部 の実務者注6)とした。本アンケートはメールで依頼し, 計94 人から回答を得た。回答者の内訳は,学部生(研 究室配属前)14 人,学部生(研究室配属済)32 人, 地域包括ケア アート・文化 地域とのつながり リノベーション まち・ひと・しごと創生 仕事づくり まちなか活性化 健康づくり 生きがいづくり CCRC 居場所づくり 五感を刺激する 個別支援 支え合う (32) (53) (32) (35) (21) (22) (20) (22) (43) (67) (21) (23) (35) ハッシュタグ( 事例数) コミュニティスペース コミュニティセンター サービス付き高齢者向け住宅 シェアオフィス まちなか拠点 まちライブラリ 医療・保健と健康 駅・交通系施設 ウェルフェアコミュニティ拠点 オープンオフィス クリニック こども・子育て支援 こどものための医療施設 コミュニティ・まちづくり・集いの拠点 コミュニティカフェ 児童館・子育て支援 社会的活動 集約的拠点 集落分散 宿泊施設・拠点 商業施設 小さな拠点 小学校 介護医療院 教育・文化系その他 交通・公園・商業・その他 公営住宅 公共集約 高齢者の活躍と生活支援 高齢者系複合 高齢者向け住宅 障がい者の日中活動支援 図書館 居住系政策・事業 多世代共生住宅 大学 単独改修 地域活性化活動 小規模多機能・宅老所 小規模保育拠点 障がい児の施設入所支援 障がい児者の発達・暮らし・活動・就労支援 障がい者の施設入所支援 障がい者の就労支援 地区の家 地方自治体 文化施設 保育所 有料老人ホーム 幼稚園 幼老一体 特別養護老人ホーム 認知症高齢者グループホーム 認定こども園 発達支援 複合・共生 CCRC 拠点 (20) 団地 病院 その他複合 2 1 1 1 2 3 1 2111 1 1 1 1 1 3 1 2 1 1 1 2 3 1 2111 1 1 1 1 1 3 1 121 1 11 1 3 1 3 11 4 114 1 411 25 49121 2 1 11 2 3 112 2 1 4 1 1 2 1 1 54 1 6 1 21 1 1 1 1 1 12 42 1 221 1 3 2 1 2 2 3 171 7 3 41 1 5 1 3 2 15 1 1 4 1 12 22 1 3 1 1 3 1 1 1 4 2 2 1 121 5 2 11 3 1 1 1 1 1 42 2 6 11 1 2 8 1 1 121 1 13 1111 21 9 1 6 12 3 2 2 11 12 10 11 1 1 1 1 16 21 1 6 14 2 122 2 1 16 21 1 1 3111 6 1 コミュニティ・まちづくり・集い 宿泊施設こども・子育て支援障がい児者支援高齢者の活躍と生活支援教育・文化色々な住まい医療・保健事例の種類【大分類と中分類】 図5 事例ごとのハッシュタグ付与関係 トップページ検索ページ:条件から探す 検索ページ:マップ 検索結果ページ事例詳細ページ ⑦ 事例検索の流れや検索事例を指定し,実際にサイトの使用感を検証して もらうモニターアンケート形式で依頼 R2 12 月28 日~ R3 1 月15 日 援用可能な要素の紹介 事例の種類が類似する 取り組みの紹介 事例種別ではなく横断的 に類似する事例を紹介 回答者属性 記録した見学・ヒアリング時の情報からレポートを作成 ハッシュタグの組み合わせが類似する他事例の表示 事例の公式HP や国が公表する政策別の資料へのURL リンク ・各検索手法での流れ ・どの項目を選択して検索をしたか ・各検索項目の名称は理解できたか ・結果として目的の事例を検索できたか ・利用後のサイト内改善要望について ③ハッシュタグ 個々の事例の特徴,援用可能な要素を示す項目から選択 地域を構成する公共の福祉10 分類から各事例の大枠となる ④事例の種類 施設/取組みの種別を選択 ⑤具体的な機能事例先が取り組む活動やサービスの名称を選択 ⑥所在地 事例の所在地を都道府県単位で選択 ⑦キーワード 事例の名称等のテキストによるサイト内検索 既出指標 ② ③ ④⑤ B A 0 200 400 600 800 1000 登録進捗状況 751 298 255 922 172 学部生 (研究室配属前) 学部生 (研究室配属済) 大学院生(修士) 95 人 大学院生 (博士, 研究生) 研究者 教職員実務の方 その他 1063 (件) 14 25 32 2 7 3 7 4 ② ① ③ ⑧ ⑦⑥② ④ ⑤ ③ ① A ⑧ B C ⑥④ ⑤ ③ ① B:関連サイトへのリンク C:類似する事例の紹介 利用実証調査 調査手法 調査期間 回答者数 アンケート 内容 標 website の構成 条件から探す 〜⑦を任意検索 事例の種類別の登録数 ②:ひとと活動 ③:ハッシュタグ ④:事例の種類 ⑤:具体的な機能 A:事例見学レポート B:関連サイトへのリンク C:類似する事例 色々な住まい 医療・保健 宿泊施設 コミュニティ・まちづくり・集い 複合 その他 こども・子育て支援 障がい者支援 高齢者の活躍と生活支援 教育・文化 凡例 図4 アンケート開始時点のWebsite の事例登録状況 − 207 − 大学院生(修士)25 人,大学院生(博士,研究生)2 人, 建築に携わる研究者7 人,教職員3 人,建築に携わる 実務者7 人,その他4 人であった。アンケートでの質 問内容は以下の通り。 ・本Website で導入した「ひとと活動」,「ハッシュタ グ」,「マップ」の検索システムを利用した後に,選 択項目に記載する名称とその意味は直感的に理解で きたか。 ・検索時の項目選択から事例閲覧ページまでの流れは 直感的に理解できたか。 ・検索時の項目選択の条件に合った事例を見つけるこ とができたか。 ・事例詳細閲覧ページに掲載する情報は直感的に理解 できたか。 これらの質問事項に対して,「5:とてもあてはま る」,「4:ややあてはまる」,「3:どちらともいえない」, 「2:ややあてはまらない」,「1:全くあてはまらない」 の5 段階で評価を得た。さらに,1,2,3の選択時に はその理由を自由記述方式で得た。また,Website 利 用後のサイトデザインや掲載内容の要望を自由記述欄 を設けて意見を収集した。 4.2 Website の総合評価 Website の総合評価と回答者属性別の回答結果をみ る。全19 設問への5 段階評価での回答の評価点の合 計点を,サイトの総合評価(総合点)とした。図6に 全回答者の総合点の偏差値による全体分布と上中下位 の回答者属性の内訳を示す。Website を比較的高く評 価した上位29 人では,特に「建築に携わる実務の方 /建築に携わる研究者」は上位に計8 人(約27.6%), 中下位では計7人(約11.9%)と,上位での割合が 高い傾向があった。一方,下位30 人では「学部生 (研究室配属済)/大学院生(修士)」が計20 人(約 66.7%),中位29 人では計21 人( 約72.4%) である。 また「学部生(研究室配属前)/大学院生(修士) /建築に携わる研究者」を例に,回答者属性別の19 設問a 〜s の回答の単純集計を図7 に示す。評価点5, 4 点は「あてはまる」として集計した。「あてはまる」 の回答率は約76.7% であり,おおむね好評価であった。 図6 の中下位に比較的多く分布していた「大学院生(修 a. 事例見学レポートPDF の掲載場所の発見 b. 事例先の情報,事例集へのリンクの発見 c. 類似する他事例の紹介の掲載場所の発見 d. ひとと活動の選択項目の名称と意味 e. 項目選択から事例の詳細の検索の流れ f. 該当事例が見つけられたか g. レイヤー検索の使い方の理解度 h. レイヤー検索の使いやすさ i. キーワード検索の使い方の理解度 j. キーワード検索の使いやすさ k. ハッシュタグ選択項目の名称と意味 l. 項目選択から事例の詳細の検索の流れ m. 該当事例が見つけられたか n. 項目選択から事例の詳細の検索の流れ o. 事例の種類の選択項目の名称と意味 p. 具体的な機能の選択項目の名称と意味 q. 該当事例が見つけられたか r. 検索から事例の詳細をみる流れ s. 該当事例が見つけられたか6 6 6 6 6 6 6 5 6 5 6 5 6 6 6 6 5 6 6 学部生:研究室配属前大学院生:修士建築に携わる研究者 事例詳細 ページ ひとと活動 検索 マップ エリア検索 ハッシュ タグ検索 条件から探す 検索 KW 検索凡例 14 16 10 13 16 15 15 16 14 15 15 15 15 13 16 15 14 13 15 24 22 20 23 22 18 21 19 20 20 21 22 22 20 23 22 1 1 1 1 16 22 24 1 3 1 1 4 2 4 2 1 2 2 1 2 2 8 2 1 1 1 2 1 1 2 3 1 1 2 1 1 2 1 2 2 1 1 1 1 1 4 2 1 1 1 1 1 1 1 1 2 0 20 40 60 80 100 0 20 40 60 80 100 0 20 40 60 80100(%) あてはまる どちらでもない あてはまらない 評価点:5・4 評価点:3 評価点:1・2 偏差値 上中下位別の回答者属性内訳 上中下位の回答者属性の変位 下位30 人中位29 人上位29 人 下位30 人中位29 人上位29 人 8 1 3 5 1 10 10 20 30 40 50 60 建築に携わる研究者 建築に携わる実務の方 教職員 学部生(研究室配属済) 学部生(研究室配属前) 大学院生(修士) 大学院生(博士) その他 0 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 Website 総合評価 各回答者の評価項目 19 問×5点=95 点 3 5 10 10 1 1 1 1 2 4 13 8 3 3 5 6 4 6 1 1 総合点:50~78 下位 中位 上位 1 2 3 3 1 5 4 4 10 13 6 6 1 1 回答者属性 凡例回答者割合(%) 79~85 86~95 図7 回答者属性別の評価項目の単純集計 図6 正規分布曲線による回答者のWebsite 総合評価の集計 − 208 − 0 10 20 30 40 50 60 70 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 各設問の評価点合計と総合点との相関係数 各設問の評価点合計の偏差値 該当事例数をリアルタイムで反映され ていないため検索選択数掴めない (5) 項目横()内数値の意味がわからない(1) のサイズが小さい,読みづらい(1) 選択項目が多く,選択を躊躇する(4) 検索条件に合った事例が見つからない(25) アイキャッチ写真がまとまりがなく, 特徴が掴みづらい(1) () 内は回答者意見数の数値を示す 検索条件に合った事例が見つからない(10) n p q s + - ❶ ❷ 項目横()内数値の意味がわからない(1) “具体的な機能” の範疇が分からない(2) 選択項目が多く,選択を躊躇する(5) 改善のポイント ねらい a c d e f g b 平均値 平均値 i h j k l m r n o p q s 具体的な機能 該当事例:32 件 法令で標榜される施設種別名,サービス 政策・事業名 認定こども園(20) 児童養護施設(6) グループホーム(7) 障がい児入所支援(9) 閲覧者の絞り込み検索への理解度を 高め閲覧のページ行き来負担を減らす。 同時に安定した検索結果数を反映し, 事例閲覧・発見の機会を増やす。 閲覧者は「具体的な機能」選択項目の 概要を大分類から把握する。スクロー ル数と閲覧者の負担を減らす。 ❶リアルタイムでの該当事例数の表示 「条件からさがす」検索時に,閲覧者が条件絞り 込みの選択とその該当事例数が分かるよう,検索ク リック部横に「該当事例数」を配置 この条件で検索 ❷具体的な機能,選択項目の分類 「具体的な機能」の選択項目を分類し,機能の大 分類から小分類へのプルダウン形式の表示にする。 今後のwebsite デザインのイメージ図 結果の事例が少ない,無い(41) 条件に合わない事例が反映(19) 条件選択・入力時の迷い(14) 条件項目数が多すぎる(15) 表記内容がわからない(19) 条件の名称の意味がわからない(15) システムが理解できない(26) 配置・構成が理解できない(15) 掲載物の配置場所がわからない(18) 表記内容がわからない(10) アンケート自由記述での不満点の抽出 検索結果(60) 事例閲覧ページ(28) 検索ページ(164) 検索条件の選択(104) 0 10 20 30 40 50 60 70 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 各設問の評価点合計と総合点との相関係数 各設問の評価点合計の偏差値 該当事例数をリアルタイムで反映され ていないため検索選択数が掴めない (5) 項目横()内数値の意味がわからない(1) 選択項目のサイズが小さい,読みづらい(1) 選択項目が多く,選択を躊躇する(4) 検索条件に合った事例が見つからない(25) アイキャッチ写真がまとまりがなく, 特徴が掴みづらい(1) () 内は回答者意見数の数値を示す 検索条件に合った事例が見つからない(10) n p q s + - ❶ ❷ 項目横()内数値の意味がわからない(1) “具体的な機能” の範疇が分からない(2) 選択項目が多く,選択を躊躇する(5) 改善のポイント ねらい a c d e f g b 平均値 平均値 i h j k l m r n o p q s 具体的な機能 該当事例:32 件 法令で標榜される施設種別名,サービス 政策・事業名 認定こども園(20) 児童養護施設(6) グループホーム(7) 障がい児入所支援(9) 閲覧者の絞り込み検索への理解度を 高め閲覧のページ行き来負担を減らす。 同時に安定した検索結果数を反映し, 事例閲覧・発見の機会を増やす。 閲覧者は「具体的な機能」選択項目の 概要を大分類から把握する。スクロー ル数と閲覧者の負担を減らす。 ❶リアルタイムでの該当事例数の表示 「条件からさがす」検索時に,閲覧者が条件絞り 込みの選択とその該当事例数が分かるよう,検索ク リック部横に「該当事例数」を配置 この条件で検索 ❷具体的な機能,選択項目の分類 「具体的な機能」の選択項目を分類し,機能の大 分類から小分類へのプルダウン形式の表示にする。 今後のwebsite デザインのイメージ図 士)」では評価点3点の「どちらともいえない」,評価 点1,2点の「あてはまらない」という回答は, 設問 a~h,p,q,s で比較的多く,学部生,大学院生への使 いやすさの向上を図る余地が検出されたと言える。 4. 3 Website の全ての不満点の整理 設問に対して評価点1,2,3の選択理由の自由記述 を基に,Website の検索システムで評価が低い傾向の ある箇所を検出し,今後のWebsite の改善に活かすた め,図8にアンケートの自由記述部での全不満意見 を,類似した意見をまとめていく方法で整理した結果 を示す。検索ページでは検索条件の選択時と検索結果 のシーンで不満意見が出された。検索条件選択時では, 「選択条件の迷い/システムが理解できない」という, 本Website が初見でありその内容に不慣れなためと思 われる意見が計29 件(27.8%),「条件項目数が多す ぎる/表記内容がわからない/配置・構成が理解でき ない」という,Website のデザインに起因する不満意 見が計49 件(47.1%),であった。また,検索ページ では,検索結果で,「検索結果の事例が少ない,無い/ 条件に合わない事例が反映される」という,Website の構築進捗状況での検索指標の付与件数が全掲載事例 数と比較して少ない,「ひとと活動」や「ハッシュタグ」 が原因とされる,検索システム上の欠落部分に関する 不満意見が計60 件(36.5%)あった。 4. 4 具体的な箇所の不満点の整理 比較的多くの不満意見が多く記述された,設問n,p, q,sでの具体的な不満意見とその箇所を図9に示す。 設問n では,「検索条件の選択時に該当事例数が分から なく,選択数が掴めない」5件(45.4%),設問p では 「具体的な機能」内の選択項目が示す意味の範疇がわか らない」2件(25.0%),「選択項目の数が多く,選択 を躊躇する」5件(62.5%)があり,検索システム「条 件からさがす」でのWebsite の挙動を含めた,デザイ ンへの不満点が挙げられた。また設問n,p,q,sを 通して「検索条件に合った事例が見つからない」が合計 で35 件(63.6%)あり,現在のWebsite の事例登録状 況と検索システムの仕組みに関連する不満点が指摘さ れた。 5.今後のWebsite 整備/ 調整の方針と改善点 図9の不満点を改善し,より使いやすいWebsite に 整備するための改善・調整ポイントの整理を図10 に 示す。検索システム「条件から探す」のWebsite デ ザインの観点からの改善ポイントとして,❶ : 検索条 件の項目選択時に該当事例数をリアルタイムで表示す る,❷ :「具体的な機能」の選択項目を分野ごとに整理 する,が挙げられる。 ❶では,検索システム「条件からさがす」において, 検索クリック部の横に選択に応じてリアルタイムで変 わる表示数「該当事例数」を配置する。これによって, 閲覧時の絞り込み検索において検索と結果のページの 行き来の必要性を減じ,条件の設定による絞り込み効 果を視認できることで事例閲覧の利便性を高める。 ❷では,「具体的な機能」の選択項目を一覧で表示で はなく,「政策・事業」や「法令で標榜される機能名」 などにカテゴライズし,閲覧者が「具体的な機能」の 選択項目の意味とその範疇をカテゴライズを見てもら う仕組みである。また一覧表示でのスクロールによる 選択項目の総覧をカテゴライズ下項目からプルダウン 図9 設問n,p,q,s での評価点1〜3点の理由文集 図10 今後のWebsite 整備/ 調整のポイント 図8 設問の票数合計偏差値と総合点の相関分析チャート − 209 − 形式で表示することで,閲覧者のスクロール回数を減 らし,使い勝手を向上させるねらいがある。 なお,本稿では分析結果を,本公開に向けたWebsite の修正に繋げるための速報値として,評価の傾向や, 閲覧者のWebsite への修正要求や意見を整理した。 6.まとめ 本稿では福祉を起点とした,地域振興を行う,多種 多様な事例の分類を越えた横断的な事例検索を行える Website の構築状況と利用実証調査を基とした今後の Website の整備方針を導出した。一方で,Website の 総合評価が他回答者属性と比較して好評価が得られな かった学部生(研究室配属前),学部生(研究室配属済), 大学院生(修士)へのWebsite の利用方法の案内等の 配慮が必要なことがわかった。今後はWebsite の総合 評価を向上させるため,Website の事例登録を進め, 図10の❶,❷の整備を進め,再度,利用実証調査を行い, 学生回答者の不満意見に着目して抽出を行うという段 階を踏んでいくことで,議論の土台となるWebsite を 目指す。 謝辞 本研究にご協力いただきました皆様に,篤く御礼申し 上げます。なお,本研究は,科学研究費補助金(基盤B) 『「利用縁」がつなぐ福祉起点型共生コミュニティの拠点 のあり方に関する包括的研究(研究代表者:山田あす か)』の一環として行われました。 [注釈] 注1)一般公開後,最も利用が多い属性は建築に関する研究者や 建築業関係者,建築初学者と想定している。これらの利用者 は,事例の運営上の特徴や内観・外観の様子,ヒアリングの 内容を把握できるレポート記事,また関連リンクなどの関連 情報の集約にニーズがあると考えられる。また,制度の転換 期前後でのレポートなどは研究蓄積としての価値があり,こ の点にもニーズがあると想定される。本サイトでは,これま での施設種別のみでの事例提示だけでなく,機能の複合や連 携が多く行われている背景をふまえて「ある機能や空間,取 組みをもつ」事例を,施設種別を横断・俯瞰して情報を得ら れる点にニーズが発生すると考え,実践に至った。 注2)本サイトは最短でも10 年間の運用を想定し,website の 維持管理・運営は筆者らの研究室が中心となって行う。また, 建築学会の委員会ワーキンググループと当活動を連携してい るため,当面は継続的な連携を想定している。公開している 情報や記事の追加・更新は,当該研究室と上記WG での研究 活動(施設見学や調査)の一環として行う。また,サイトの 趣旨に賛同する研究会や他大学,閲覧者から情報提供を受け られるよう,依頼と連絡先を記載している。今後,投稿フォー ムの設置を検討する。 注3)掲載する内観写真,外観写真はプライバシー,権利に配慮 し,モザイク処理を施した画像を使用している。 注4)掲載する事例のリンクには,事例先が公式に開設している ホームページ,現時点で行政庁が公開している施策の事例集 紹介ページ,当該事例先の計画/ 設計に携わった設計事務所 等が公開する設計事例詳細ページ,当該事例が掲載されてい る新建築,近代建築の冊子のバックナンバー紹介ページ,医 療福祉建築賞の紹介ページ,他大学が運用する事例紹介ペー ジなどを載せている。リンク掲載の基準としては,国や学術 機関,当該事例先が公開している,信憑性のあるWeb ペー ジを選定している。 注5)2020 年12 月28 日時点では,掲載する事例先にWebsite での公開許可を得ていない。利用実証調査は,事例先のプラ イバシーや情報漏洩に配慮し,Website のアクセスはID と パスワードを設定し限定的に公開した上でアンケート調査を 行った。 [参考文献] 1)まち・ひと・しごと創生本部,「生涯活躍のまち」構想最 終報告,http://www. kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/ ccrc/saisyu-houkoku.html,2020 年10 月参照 2)SWC首長研究会,スマートウェルネスシティとは,http:// www.swc.jp/about/,2020 年10 月参照 3)国土交通省,「小さな拠点」づくりガイドブック,https:// www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/kokudoseisaku_tk3_ guidebook.html,2020 年10 月参照 4) 厚生労働省,「我が事・丸ごと」地域共生社会実 現本部,https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/othersyakaihosyou_ 457228.html,2020 年10 月参照 5)厚生労働省,地域包括ケアシステム,http://www.mhlw. go.jp/stf/seisakunitsuite/buna/hukushi_kaigo/kaigo_ koureisha/chiiki-houkatsu/, 2020 年10 月参照 6)architecturephoto® , ホームページ,https:// architecturephoto.net/,2020 年10 月参照 7)一般社団法人ソトノバ,ホームページ,https://sotonoba. place/,2020 年10 月参照 8)東京電機大学 建築・環境計画研究室,環境づくりのリゾー ムサイト,ホームページ,http://rhizomesite.com/,2020 年10 月参照 9)千葉紗央里,山田あすか:“ 小児の療養環境評価項目の整理に よる環境づくりの普及サイト「環境づくりのリゾームサイト」 の制作とその検証” こども環境学会 こども環境学研究,Vol.10 No.3(C.N.28), 2014.12,p.70,2020 年10 月参照 10)科学研究費助成事業データベース,山田あすか,「利用縁」 がつなぐ福祉起点型共生コミュニティの拠点のあり方に関 する包括的研究,https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHIPROJECT- 18H01611/, 2018 年10 月参照 11)山田あすか,2019 年度開始社会ニーズに対応した「特別調 査委員会」設置提案書,多様な事例の横断的整理による福祉 起点型共生コミュニティの概念整理と新しい地域拠点計画の あり方の検討,https://www.aij.or.jp/syakaini-zutaiou/y060- 16.html, 2020 年10 月参照 − 210 −
地域施設計画研究39 2021年7月 日本建築学会
建築計画委員会 施設計画運営委員会 地域施設計画小委員会
Regional Community Facilities Planning and Design, AIJ, Vol.39, Jul., 2021
…以下検索用文字列…
東京都足立区における海外にルーツを持つ住民の地域活動拠点に関する研究 ー 日本語学習拠点と宗教的コミュニティに着目して - A Study On Community of Residents with roots in foreign countries in Adachi city, Tokyo -Focusing on Japanese Language Learning Centers and Religious Communities- ○米ケ田里奈*, 村川 真紀**, 山田あすか*** In this paper, we report on the actual conditions of location, buildings, management, user attributes and activities of local activity bases supporting the life of foreign residents from the viewpoint of building planning. According to the survey, they have the characteristics that the locational characteristics and activity contents affect them and the local community. Therefore, in terms of regional development, it is effective that such bases are located in the areas close to them, and a wide range of support will be necessary in the future. Key words: Japanese language Learning Center, Religious Institution, Community, Foreign resident, Multicultural society キーワード:日本語教室, 宗教施設, 地域コミュニティ, 外国人居住者,多文化共生社会 * 東京電機大学大学院未来科学研究科建築学専攻 修士課程 ** 東京電機大学未来科学部建築学科 研究員・博士( 工学) *** 東京電機大学未来科学部建築学科 教授・博士(工学) Rina MEKATA, Maki MURAKAWA and Asuka YAMADA * Graduated Student, Dept.of Architecture, School of Science and Technology for Future Life, Tokyo Denki Univ. ** Reseacher, Dept.of Architecture, School of Sience and Technology for Future Life, Tokyo Denki Univ, Dr.Eng. * * * Prof., Dept.of Architecture, School of Science and Technology for Future Life, Tokyo denki Univ., Dr.Eng. 1.研究背景・目的 日本の在留外国人数は,2019 年末には2,933,137 人と過去最高を記録1)した。この数字は,総人口の約 2%にあたり,2012 年末以降は7 年連続で増加2)し ている。国内での外国人居住者の存在感が高まる一方 で,それに伴う社会問題の発生も指摘されている。 建築計画分野では,筧,小松3)が,実際に発生し た外国人居住者と地域住民とのトラブルを対象に調査 を実施し,外国人居住者による都市の中での居場所形 成が,セグリゲーション(属性による居住地域等の分 化・隔離)を引き起こすことなく,日本人住民との相 互理解を深化させていくための要件を考察している。 そして,地域における外国人居住者の居場所の在り様 には,労働者として迎え入れられた彼らを,生活者と して日本人側がいかに受入れていくかの姿勢が反映さ れており,立地や設えに関わる空間的配慮とともに, 地域社会に受入れられるための合意形成プロセスの構 築が必要だと述べている。 同時に,人口減少を伴う急激な少子・高齢化が進行 している我が国の産業と社会の構造の動向に鑑み,在 留外国人を迎えた多文化共生社会への舵取りと,地域 コミュニティでのその受入れや支援のニーズが現実的 な課題となっている。その中でも語学学校や地域住民 による日本語教室等の日本語学習拠点,またアイデン ティティや精神性の支柱となる信仰生活を支える宗教 活動拠点での活動は,日本人と外国人居住者の相互理 解や相互扶助に繋がり,多文化共生社会実現への一翼 を担っている。 本稿では,在留外国人数が全国で4番目に多く,区 の部署名に「多文化共生」を有し,従来の国際交流か ら発展した,多文化共生を目指す地域づくりに取り組 む東京都足立区において,在留外国人を始めとする, 海外に血縁,または文化的なルーツを持つ住民を対象 とした地域コミュニティ拠点の実態把握を得ることを 目的とし,区内の外国人居住者を対象とする日本語学 習拠点と宗教活動拠点に着目した事例の収集・整理, − 145 − 地域施設計画研究39 2021年7月 日本建築学会 建築計画委員会 施設計画運営委員会 地域施設計画小委員会 Regional Community Facilities Planning and Design, AIJ, Vol.39, Jul., 2021 ひと くらし まち 行財政 (1) 日本語ボランティア教室 の充実 (2) 外国語・文化交流ボラン ティア登録派遣制度の整備 (3) 児童・生徒や外国にルー ツを持つ日本語学習者への教 育支援体制整備 (4) 交流支援 ①外国にルーツを持つ人に日本語習得を支援 するボランティアの育成 ①教育相談の充実 ②児童・生徒の学習支援や日本語学習の体制 充実 ①国際理解教育・通訳ボランティア登録制度 の充実 ①外国人と日本人の交流・連携する場(機会) の拡大 (1) 庁内推進体制の整備①施策推進体制整備 (1) 案内表示などの多言語化 (2) 多文化共生の地域づくり ①区施設や公園・道路などのサイン多言語表 示・ユニバーサル化を実施 ①多文化共生関連団体とのネットワークづくり ②在住外国人も区政に参加・参画できる機会 の拡大 ③多文化共生意識づくり (1) 在住外国人への子育て や医療環境の充実 (2) 在住外国人の防災 ・危機管理の推進 (3) 在住外国人のための経営 ・労働環境の整備 ①保育・子育て環境の整備 ①在住外国人の参加可能な防災訓練の実施 ②災害時の情報伝達手段の充実 4つの柱施策群 ②事業者間の交流支援・雇用主への雇用促進 に向けた情報提供 ②在住外国人向け配布物や文書の多言語化な ど紙媒体による情報提供 ③公式ホームページやアプリの多言語化によ る情報発信 (4) 生活情報の提供 ①在住外国人の相談体制の充実 ①在住外国人の事業経営の支援 表2 東京都足立区多文化共生推進計画における施策の体系 ②医療環境の充実 施策 東京都新宿区 東京都江戸川区 埼玉県川口市 東京都豊島区 43,784 38,045 37,855 東京都足立区 東京都江東区 33,555 31,212 東京都板橋区 大阪市生野区 東京都大田区 30,316 東京都北区 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 市区町村 在留外国人総数 表1 在留外国人数 上位10 自治体 28,417 25,332 23,339 28,192 フィリピン ベトナム 韓国 中国 タイ その他 米国 台湾 ネパール インド ミャンマー 図1 足立区の国籍別人口割合 44% 22% 6% 11% 1% 2% 1% 1% 1% 1% 10% 調査方法:インターネット(google) で以下の方法で検索し, 事例データベースを作成 調査期間:2019 年9月~ 2021 年1月 事例数:日本語学習支援拠点20 事例・宗教活動拠点10 事例 【調査方法詳細】 調査対象事例:調査Ⅰで得られた日本語学習支援20 事例の内1事例と 宗教活動拠点10 事例の内2事例の,計3事例 調査期間:2019 年10 月~ 2020 年12 月 【主な調査項目】 概要(理念,開設年,活動日数,広報活動方法),活動内容について(イベント,利用者, スタッフの構成と人数),建物・敷地について,運営について(はじめた動機,課題 と解決策,周辺地域との関わり,コロナ禍での取り組み,今後の課題) 【調査Ⅳ:アンケート調査】 調査方法:google フォームによるオンラインアンケートを配布 調査対象:海外にルーツを持つ教会利用者 調査期間:2020 年11 月~ 2020 年12 月 調査件数:30 件 調査対象事例:調査Ⅰで得られた宗教拠点35 事例の内,2事例 調査対象者:代表者 調査期間:2020 年11 月~ 2020 年12 月 【主な調査項目】 得意とする言語,今まで住んだことのある国,日本に住んでいた/あるいは住んでい る期間,日本に来た目的・理由,普段地域で利用している場所,教会に通い始めたきっ かけと頻度,教会へ来る手段,教会で参加している活動,日本での生活で困っている こと,人づきあいについて,回答者について(性別,年齢,同居人),お住まいの地 域について,アンケートの入手先 ■日本語学習支援拠点 足立区HP より「日本語教室」等のキーワードで検索した17 事例と以下のキーワー ドで検索した3事例の,計20 事例 キーワード:足立区, 語学学校, 日本語 ■宗教活動拠点 「足立区 宗教施設」「足立区 教会」等のキーワードで検索し, 東京都足立区にある上位71 件の宗教関連施設(東京都足立区内全検索結果)の内, 団体のHP 等に「外国語での礼拝を行っている/外国人の信徒が多く集まる」という情 報が記載されている10 事例 表2 調査概要 【調査Ⅰ:検索調査】 【調査Ⅱ:参与観察調査】 【調査Ⅲ:ヒアリング調査】 実態調査を行った。足立区の位置付けを次章で示す。 2.調査対象地概要 2.1.外国人人口の概要 東京都足立区の在留外国人総数4)は,2019 年6月 時点で33,555 人である(表1)。 図1に足立区の在留外国人国籍別人口割合5)を示 す。この内訳は,中国 14,865 人,韓国 7,402 人,ベ トナム1,868 人,フィリピン 3,690 人 ネパール 474 人,台湾 693 人,米国 309 人,インド 187 人,ミャ ンマー 200 人,タイ 465 人, その他 3,278 人である。 また,図2に,町別可住面積あたりの在留外国人居 住登録数(居住密度)注1)を示す。外国人の居住密度 が最も高い町は新田で,1.969 人/㎡である。新田に は都市再生機構( 以下UR) の大規模な賃貸住宅団地が 複数ある。UR 賃貸は入居時の保証人が不要なため外 国人が入居しやすく,居住地として選ばれていると考 えられる。同様に, 東綾瀬1.458 人/㎡, 竹の塚1.431 人/㎡, 西新井本町1.139 人/㎡,大谷田1.058 人/㎡, 表3 調査概要 弘道1.079 人/㎡,関原1.072 人/㎡,といった外国 人居住密度が区内で比較的高い町には,公営・公的住 宅の団地がある。 2.2.区内施策の概要 足立区は,2006 年3月に「足立区多文化共生推 進計画」を策定し,国籍や民族等の異なる人々が互い の文化的な差異を認め合いながら,共に生活する地域 社会づくり,共に活躍する多文化共生社会を目指して いる。その後,様々な社会・経済状況が変化する中, 2018 年に再構築された多文化共生施策6)を表2に整 理した。 3.調査概要 日本語学習拠点及び宗教活動拠点の実態調査とア ンケート調査の概要を表3にまとめた。 3.1.日本語学習拠点の調査方法 日本語学習拠点の現状を把握するため,自治体の ホームページや「足立区 語学 日本語」等のキーワー ドでのインターネット検索により,事例を収集・整理 した。そのうち,詳細調査の協力を得られた1事例で, 活動実態を把握するための参与観察調査を行った。 3.2.宗教活動拠点の調査方法 宗教活動拠点の現状を把握するため,「足立区 宗 教施設」,「足立区 教会」等のキーワードによるイン ターネット検索で得られた上位71 件の宗教活動拠点 表2 足立区多文化共生推進計画における施策の体系 図1 足立区の国籍別人口割合 表1 在留外国人数 上位10 自治体 − 146 − 竹の塚、綾瀬、日ノ出町、千住、栗原、 西竹の塚 ・町内もしくは近接する町に主要な 鉄道駅がある ・町内に商店街やデパートなどの大型 店舗がある 舎人、保塚町、東和、梅田、西新井栄町、 新田、平野、伊興本町、東綾瀬、鹿浜、 西加平、西新井本町、千住河原町 住商混合地域 住地域 特徴町名 ・町内の大部分を住宅が占めている ・町内に商店街やデパートなどの大型店舗 がない 表3 足立区内における拠点が位置する町の分類 0.00~0.49 0.50~0.99 1.00~1.49 1.50~ 不可住地域 外国人の居住密度 (人/㎡) 図2 足立区町別の外国人人口密度と拠点のプロット 凡 例 日本語学習拠点 宗教活動拠点 :拠点a a :拠点b b :拠点c c :拠点d d :拠点e e :拠点f f 1 : 事例1 : 事例2 3 : 事例3 4 : 事例4 5 : 事例5 : 事例6 : 事例7 : 事例8 : 事例9 : 事例10 2 6 7 8 9 10 :拠点g g :拠点h :拠点i i :拠点j j :拠点k :拠点l l :拠点m :拠点n :拠点o :拠点p h k m n o p 北千住駅 竹ノ塚駅 4 荒川 舎人公園 f a b c d e g h i j k l m n o p 10 9 8 6 7 5 3 2 1 東武スカイツリー ライン 2 2 16 7 5 最寄り駅からの時間距離 外国人の居住密度(人/㎡) ~ 0.49 15 分 以内 10 分 以内 それ 以上 5分 以内0 2 2 14 1 0 3 0 0 3 1 1.5 ~ 1.00 ~ 1.49 0.5 ~ 0.99 日本語学習拠点 1 2 9 0 0 1 0 計 計 2 2 10 3 3 最寄り駅からの時間距離 外国人の居住密度(人/㎡) ~ 0.49 15 分 以内 10 分 以内 それ 以上 5分 以内1 1 1 2 0 0 0 2 2 0 4 0 1.5 ~ 1.00 ~ 1.49 0.5 ~ 0.99 宗教活動拠点 1 1 0 4 1 0 0 0 計 計 2 のうち,団体が提供する情報の中に「外国語での礼拝 を行っている」「外国人の信徒が多く集まる」等の内容 が記載されている10 事例を整理した。これら宗教活 動拠点の利用者実態や活動内容を把握するため,その うち2事例で参与観察調査及び運営者へのヒアリング を行った。 3.3.アンケート調査の概要 海外にルーツを持つ住民が地域で生活する中での 困り事を明らかにするため,参与観察調査及びヒアリ ングを行った2事例の利用者と筆者の所属する大学の 留学生会会員のうち,教会利用経験があり,自身が「海 外に血縁または文化的なルーツを持つ」と答えた人を 対象に,アンケート調査を行った。 3.4.拠点が位置する町の分類 表4に拠点周辺の立地特徴を整理した。竹の塚, 綾瀬,日ノ出町,千住,栗原,西竹の塚等は,町内ま たは近隣に主要な鉄道の駅がある。これら商店街やデ パート等の大型店舗がある町を[住商混合地域]とし た。また,舎人,保塚町,東和,梅田,西新井栄町, 新田, 平野,伊興本町,東綾瀬,鹿浜,西加平,西新 井本町,千住河原町等の町内の大部分を住宅が占め, 商店街や大型店舗のない町を[住地域]とした。 4.拠点の立地特徴 図2に,収集した日本語学習拠点と宗教活動拠点の 所在地を足立区の地図上にプロットして示し,また図 3に,拠点が位置する町の外国人の居住密度と最寄り 駅からの時間距離のクロス集計を示す。日本語学習拠 点の半数(16 拠点中8拠点)は,東武スカイツリーラ イン沿線上に拠点があり,交通利便性が高い。また日 本語学習拠点の75%(16 拠点中12 拠点)が,最寄 駅から徒歩10 分以内に位置している。一般的に語学 学習は,長期的かつ継続的に行うことが効果的である とされ注2),利用者が学習を続けていくためには,拠点 が最寄り駅から徒歩圏内にあるなど,交通利便性が高 いことは有利であると考えられる。また,宗教活動拠 点のうち,60% (10 事例中6事例) は,外国人居住密 度が区内でも比較的高い,0.5 人/㎡以上の町に位置 する。 このように,収集した事例は在留外国人にとって継 続的な利用がしやすい位置にある傾向が見られた。こ のことには,こうした在留外国人等のコミュニティ拠 点の近くに居住地を定める居住地選択行動の影響も推 察できる。 5.日本語学習拠点の実態調査 5.1.収集した事例の活動実態と拠点の特徴 インターネットで収集した事例の活動実態と拠点 の特徴を表5に整理した。活動実態に係る項目は「活 動内容/運営主体」また,拠点の特徴に係る項目は「立 地/建物種類/設置形態」とした。 1)活動実態 ■活動内容 日本語学習の他,民間組織では住居 提供や,進学支援,就学支援等のキャリア支援,学習 者同士での遠足といった交流会を行っている。 ■運営主体 運営主体は,ボランティア団体が20 事例中16 事例(80%),民間企業は20 事例中4事例 (20%)である。 表4 足立区内における拠点が位置する町の分類 図2 足立区町別の外国人の居住密度と拠点のプロット 図3 拠点が位置する町の外国人の居住密度と 最寄り駅からの時間距離のクロス集計 − 147 − 調査対象 運営主体 スタッフ数 所在地 会費 活動内容 活動の様子 学習日 利用者 表6 現地調査結果 事例KH ボランティア団体 5~ 10 人 千住, 拠点g 毎週木曜日午後6:30 ~8:30 日本語の上達を目指す人が利用 し、日本語を母語とするボラン ティアスタッフに日本語を教わ る。スタッフ1人につき、日本語 習得レベルが同程度の1人~3人 の学習者が一緒に勉強をする。休 憩時間には軽食が配られ, 学習者 同士またはスタッフと学習者の交 流を深めている。 200 円/ 月 様々な年代、国籍、職業の学習者 が集まる。大学生・高校生・中学 生は無料で、小学生は原則として 入会不可。1 回の教室で約20 人 ~ 30 人,年末に開催される忘年 会では約20 人が集まる。 KK TD SD NS 梅田 綾瀬 新田 ① ② ③ AA MM 綾瀬 舎人 KR NY AT TJ GL 梅田 WB 千住 TS GD 竹の塚 ITJLA JK 栗原 GA 千住 HW 日ノ出町 KH 保塚町 DM 千住 事例の提供サービス 運営主体 事例 生活基盤 立地 民間企業 ボランティア 団体 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 文教施設 常設 所在地 調査方法 事例名 事例とそれらが活動を行う拠点に焦点 を当て, データベースを作成した。 “日本語教室”“日本語語学学校”等の キーワードで調べた20 事例を並べた。 交流支援 語学学習 進学支援 就労支援 キャリア支援 住商混合 地域 住居地域 拠点 団地内 施設 民間施設 民間ビル 小学校 建物 種類 設置形態 非常設 梅田 西新井栄町 拠点名 東和 千住 竹の塚 西竹の塚 東和 a b c d e e f g g h i i i j k m n o p l 住居提供 表5 足立区における日本語学習拠点事例のデータベース 2)教室時間外での活動や交流 年末には,拠点近くの飲食店にて,学習者は参加費 無料の食事会が行われ,スタッフと学習者合わせて約 20 名が参加した。通常の教室では,日本語学習を通 した交流が主である一方で,食事会では,学習者の母 国や母語, 職業, 家族,来日したきっかけ,食の趣味, といった私生活に関する話題を通しての交流が行われ ていた。 このように,事例KHでは,拠点へのアクセスが良 く,周辺に飲食店が多い[住商混合地域]にあることで, 事例の主な提供サービスである日本語学習の機能に加 えて,交流の機能も生まれ,活動が拠点にとどまらず 地域に拡がり,住民の文化的背景に依らない,包摂的 な地域コミュニティの醸成に繋がっていると考えられ る。こうした,周辺地域への活動の展開可能性を拠点 が有することは地域コミュニティの形成や拡大に有効 と考えられる。 6.宗教活動拠点の実態調査 6.1.収集した事例の活動実態と拠点の特徴 インターネットを用いて収集した10 事例の活動実 態と拠点の特徴を表7に整理した注4)。活動実態に係る 項目は「運営者/信仰/礼拝言語/活動内容区分/活 動内容一部詳細/情報発信媒体」とし,拠点の特徴に 係る項目は「所在地/施設の特徴/立地」とした。 1)活動実態 ■運営主体 設定した条件により収集された事例 2)拠点の特徴 ■建物種類 20 事例中11 事例(55%)と約半数 が文教施設であり,外国人居住者の重要な生活基盤の ひとつである語学学習を,教育関連施設が担っている 実態が分かる。 ■設置形態 提供サービスの設置状況は,運営主 体がボランティア団体では非常設,民間企業では常設 と,運営主体によって異なる。これは,ボランティア 団体は非営利であり,限られた予算と補助金で教室を 運営する一方で,民間企業は営利目的であり,予算配 分の自由度が高く,資金面等から定常的な拠点の確保 がしやすいためと考えられる。 5.2.事例KHでの活動・利用実態 [住商混合地域]に位置し,最寄り駅からのアクセ スが良く,周辺には飲食店が充実している拠点で活動 を行う事例KHにて日本語ボランティア研修生として 活動に参加し,具体的な活動内容や利用者実態を参与 観察調査によって把握した。主な結果を表6に示す注3)。 1)日本語教室の活動実態と特徴 教室には, 様々な国籍,年齢,来日目的,日本語習 得レベルの学習者が集まり,教室に通う頻度も学習者 によって異なる。スタッフは学習者の習熟度や進捗に 合わせて教材を用意し,内容を工夫していた。 2時間の学習時間のうち,1時間が経過したタイミ ングで軽食が配られ,ボランティアスタッフを交えて 参加者同士,日本語や英語で雑談をしながら休憩を取 り,交流を深めていた。 表5 日本語学習拠点のデータベース表6 参与観察調査 − 148 − 食堂AT( クラスター②) 運営主体 開設年 建物の特徴 調査対象 施設種別 利用者数 利用者層 スタッフ数 運営理念 活動内容 今後の展望 立地の特徴 宗教法人宗教法人 1997 年2020 年 宗教施設 宗教施設 100 名程度10 名程度 多世代多世代 5~ 10 名6 名 小中学校や幼稚園が200m 以内に ある住宅街内。 病院や公園が200m以内にある住宅 街内。 開放日 広報活動方法 毎日水曜・日曜・ その他アポイントメントのある日 HP・トラクト配布・電信柱に 有料広告 facebook・トラクト配布 ①神の栄光、②信徒の信仰の成長 、③福音を伝える、に加えて、教 会に来る人々に本当の心の安らぎ ・平安を与える「地域のオアシス 」となることを願っている。 イエスキリストを人々に伝え、人 々の魂を救い、イエスキリストの 愛の中でお互いに支え合っていく 場を作っていくこと。 地域にこの教会をより広めたいと考 えている。また地域活動に礼拝室を 使ってもらいたい。 次世代育成のために公的な学校で 教えていかないことを学ぶ様なイ ンターナショナルスクールを建て たい。また高齢の信徒らが共同生 活を営むための小規模施設をつく り、普段の生活も共に支え合って 行ける場所をつくりたい。 活動の様子 礼拝堂が3階にあることで、礼拝 後2階へ降りた際に食堂で行われ ている食事会や交流の輪に自然と 参加しやすくなる動線計画 もともと1階は居酒屋であり、改修 し礼拝堂とした。天井を壊して、左 の壁に防音材を張る工程までは信徒 自らの手で行った 事例PA 事例PS 表4 参与観察調査とヒアリング 日本語と韓国語での礼拝・食事会 ・祈祷会・聖書勉強会・奉仕活動 ・韓国語教室の他、不定期で韓国 料理教室や韓国の伝統衣装体験会 等。年間行事では、春の中高生キ ャンプ・5月のバーベキュー・夏 の連合修養会・秋の体育大会・冬 のクリスマス賛美大会・国内聖地 巡礼等 主日礼拝・聖書教室が毎週ある。 主日は「礼拝→昼食→讃美歌を歌う →分かち合い」を欠かさず続けてい る。また信徒の一人が先生となり、 韓国料理教室を実施した。今後も不 定期で開催予定である。 運営主体 立地 住商混合 住 ホームページ facebook twitter instagram ブログ 情報発信 信仰 YouTube 施設の特徴 礼拝言語 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 キリスト教 キリスト教 TC SC CU CK KJ PA PS HR KK ZN 平野 梅田 東和 伊興本町 東綾瀬 鹿浜 西加平 千住 西新井本町 千住河原町 事例名 所在地 日・韓 キリスト教 日 キリスト教 日・英 日 ボーイスカウト拠点 日・中 日・英・タ 中 韓 日・韓 日・英 キリスト教 キリスト教 キリスト教 キリスト教 キリスト教 キリスト教 地域への施設開放 子ども食堂拠点 地域清掃美化活動・プログラミング学習支援 教会学校・バザー・女性支援・難民支援 年齢別の礼拝・食事会 ヨガ教室・こども会・盆踊り大会・バザー 教会学校・老人ホームへ奉仕活動 韓国語教室・韓国料理教室 日曜フィリピン集会・サンデースクール 祈りの会・こどもの日曜学校 活動内容一部詳細 子ども 進学 食事提供 国際交流 健康 海外貢献 信仰生活 語学 地域貢献 生活支援交流奉仕 活動内容区分 1階礼拝室・上層は住宅 礼拝・集会 非常設型 プロテスタント プロテスタント プロテスタント カトリック カトリック プロテスタント プロテスタント プロテスタント プロテスタント プロテスタント の,信仰する宗教は,全事例ともキリスト教であった。 ■活動内容 拠点の活動内容は,礼拝,聖書勉強 会,賛美歌を歌う,聖書や牧師の説教内容を深く理解 するために信徒同士で語り合う「分かち合いの会」と いった利用者の信仰生活を支える活動を中心に,多岐 にわたる。外国人居住者へ日本語を教える日本語教室 や,韓国語を学びたい地域住民向け韓国語教室,といっ た語学学習,また10 事例中6事例で,子ども向けプ ログラミング教室,教会学校,子ども会,といった活 動を信者ら他の協力を得て行っている。また大学進学 希望者のためのボランティア学生によるオンラインで の進路・キャリア相談会,海外留学の資金補助,といっ た進学支援を行う事例もある。食事提供は10 事例中 4事例で実施され,主に日曜の礼拝参加者が礼拝後に 昼食を共にし,交流を深めている。 また,事例SCでは信徒が立ち上げたボランティア グループが,区内の清掃美化活動,ゴスペルチームに よる近隣老人ホームへの訪問演奏といった地域貢献活 動を行っている。事例CUは,礼拝後のコーヒー販売 の売上げをヨルダンに流入しているイラク・シリア難 民に献金する,教会近隣に住むクルド人難民の子ども たちと一緒に教会学校がバクラバ( 中近東のお菓子) 等を製菓するといった活動をしている。 クリスチャンにとって「皆に仕えること」がイエス キリストの教えであることも関係して,信徒らの熱心 な奉仕活動が結果的に地域との連携を生み,住民の民 族的・文化的・社会的背景に依拠することの無い相互 扶助に繋がっている。こうした活動は,包摂的な地域 社会の実現に資すると考えられる。 ■情報発信媒体 10 事例中8事例がホームペー ジを持つ。また半数の事例がfacebook ページを持つ。 これは,facebook では長文のテキスト投稿や非公開の コミュニティグループの作成が可能である等の特徴に より,牧師の説教や教会の活動状況の投稿やオンライ ンで教会のコミュニティグループを作りやすいためと 考えられる。 また10 事例中4事例はYouTube で独自のチャンネ ルを持ち,礼拝動画や讃美歌の投稿が行われている。 これは,病気や新型コロナウイルス感染拡大の影響等, 何らかの理由で礼拝に来られない信徒のための発信 や,「キリスト教をより多くの人に広め,伝える」とい う目的の情報発信であると考えられる。 2)拠点の特徴 ■立地 10 事例中9事例が[住地域]にある。[住 商混合地域]にある事例KKは,活動拠点を保有せず, 区内で最も乗降者数の多い北千住駅7)から徒歩1分に ある商業施設内の足立区文化芸術劇場の一室で礼拝を 行う,非常設型の教会である。 表8 参与観察調査とヒアリング調査 表7 宗教活動拠点のうち,団体が提供する情報の中 に「外国語での礼拝を行っている」「外国人の信徒が多 く集まる」等の内容が記載されている10 事例を抜粋 − 149 − 4.LINE で就 職を考えてい る園の情報が 送られてくる 2.Instagram で名札製作の投稿 <0.05 <0.01 * ** 実測値 合計 合計 1~4 5 13 10 8 15 23 各評価項目の興味度において,LINE,Instagram 間における独立性検定をカイ二乗検定で行っ 独立性検定(カイ二乗検定)計算例 1~4 5 7 1 6 9 期待値 P 値 0.0286222 <0.05 合計 1~4 合計 1~4 5 5 4.521739 3.478261 8.478261 6.521739 13 10 8 15 23 5 5 ** 5 ** 現在一緒に住んでいる人 困り事クラスター P 値=0.0069 <0.01** 付き合うことが多い人 P 値=0.0286 <0.05* 困り事クラスター Ⅰ Ⅱ Ⅲ 日本人 同じ国の人 同じ国でない 外国人 人付き合いは あまりない Ⅰ Ⅱ Ⅲ 子どもと 兄弟・姉妹と 友人・知人と ひとりで 暮らしている 配偶者と 自分の親と3 2 8 1 1 4 1 0 3 1 0 5 0 2 0 2 3 4 8 8 24 13 6 4 6 2 9 40 5 6 18 4 5 7 1 1 5 0 1 0 10 13 30 29 16 7 1 53 Ⅰ:人間関係型Ⅱ: 生活型Ⅲ: 順応型 凡例 図4 クロス集計 0 20 40 60 80 100 インド ネシア 中国 英語 韓国 日本 20 年以上 10 年以上 20 年未満 5年以上10 年未満 1年以上 5年未満 0 10 20 30 40 50 その他 政治的 自由 結婚 仕事 技術 習得 勉強 親の 都合 日本 生まれ C 日本に来た理由 A 得意な言語 B 日本に住んでいる期間 83.3% 66.7% 26.7% 23.3% 3.3% 60% 50% 25% 17.9% 21.4% 17.9% 7.1% 3.6% 3.6% 13.3% 13.3% 13.3% 日本人とのトラブル 友人が少ない 仕事のこと 近所付き合い 年金 情報が少ない 偏見・差別 物価が高い 住まいのこと 人間関係 日常生活 病院・医療 ことば 特にない その他 クラスター 1 2 15 14 13 7 12 11 6 5 8 4 10 9 3 29 28 27 16 30 Ⅰ:人間関係型Ⅱ:生活型Ⅲ:順応型 回答者番号 ■施設特徴 事例CKでは,敷地内に幼稚園が併 設され,園庭がボーイスカウトの活動拠点に使用され ている。また,事例KJは,建物内にあるカフェテリ アが外部団体主催の非常設型コミュニティカフェに毎 月利用されている。事例PAは,建物内の食堂を足立 区子ども食堂の拠点として開放している。宗教活動拠 点が公営のコミュニティセンターのように,住民への 活動場所の提供という公共的な機能を有している実態 が分かる。 6.2.参与観察調査の概要と考察 [住地域]に位置し,最寄り駅からのアクセスが良 く,近接する町に商業施設が充実する拠点で活動する 事例PAと,最寄り駅までのアクセス手段がバスで約 20 分の[住地域]に建てられた事例PSにて,礼拝や クリスマス会といった活動に参加し,具体的な活動内 容や利用者実態を,参与観察調査と運営者へのヒアリ ングによって把握し,主な結果を表8にまとめた注5,6)。 事例PAと事例PSは,キリスト教プロテスタントの 福音派に属している。両事例とも,運営者は,食事会 等を通じた信徒同士の交流深化や,近隣地域への奉仕 活動及び施設貸出による地域貢献に意欲的であった。 参与観察調査により,信徒同士の交流深化や奉仕活動, またノンクリスチャンへの伝道は,信徒の信仰生活の 一部であり,それらが地域との連携につながっている ことが分かった。 7.困り事の調査 7.1.アンケート調査 事例PAと事例PSの利用者と,筆者の所属する大 学の留学生会会員のなかで教会利用経験のある学生の うち,自身が「海外に血縁や文化的なルーツを持つ」 と回答した人を対象にアンケート調査を行い,30 件の 回答を得た。 図4に回答者の属性を示す。回答者の得意な言語は, 「日本語」と「韓国語」が過半数を占め,日本や韓国に 血縁や文化的なルーツを持つ回答者が多い傾向があっ た。「日本に住んでいる期間は20 年以上」と答えた回 答者は全体の6割であり,日本に来た理由は「日本で 生まれたから」と答えた回答者が全体の5割である。 7. 2.クラスター分析による課題の類型化 住民の困り事の傾向を把握するため,アンケート中 の「回答者や回答者の家族が日本での生活で困ってい ること」の回答項目についてクラスター分析から以下 3つの類型を得た(表9)。 ■『クラスターⅠ:人間関係型』:「偏見・差別/日本人 とのトラブル/近所付き合い」といった人間関係に 悩みを抱える回答者 ■『クラスターⅡ:生活型』:「物価が高い/情報が少ない」 といった日常生活に関する悩みを抱える回答者 ■『クラスターⅢ:順応型』:「悩みが特にない」と回答 した回答者 特に『Ⅰ:人間関係型』は「偏見・差別(100%) / 日本人とのトラブル(50 %) / 近所付き合い (66.7%)」を選択した回答者が多い傾向がある。また 『Ⅱ:生活型』は「友人が少ない」を選択した回答者が 多く(83.3%),「偏見・差別(16.7%)/日本人との トラブル(16.7%)/近所付き合い(0%)」である。 このように,『Ⅰ:人間関係型』は日常生活項目で の困り事がある回答者は少ない傾向がある。これは, 『Ⅰ:人間関係型』の回答者は,周囲の日本人を含む人々 との日常的な関係があり,困り事が人間関係項目で発 図5 困りごとクラスターと同居者・付き合いが多い人の クロス集計 図4 回答者の属性 表9 困り事による分類分け − 150 − 生しやすい一方で,日常生活項目での困り事が少ない と考えられる。また,『Ⅱ:生活型』は周囲との人間関 係が構築できておらず,このことが情報収集の難しさ や頼り先がない等に繋がり,生活項目の困り事に影響 している可能性が考えられる。 7. 3.クロス集計による分析と考察 困り事の3類型と「回答者が現在一緒に住んでいる 人」,「回答者が普段どのような人と付き合うことが多 いか」のクロス集計を図5に示す。 まず,自身の親と同居している回答者(13 人中8人 / 61.5%)と,兄弟姉妹と同居している回答者(6人 中4人/ 66.6%)が『Ⅲ:順応型』に属する傾向があ る。一方,ひとりで暮らしている回答者(9人中5人 / 55.6%)が『Ⅰ:人間関係型』もしくは『Ⅱ:生活型』 に属している。回答者が日常的に頼れる人がいること と困り事の有無には関係があるといえる。 また,日常的に日本人と付き合う機会が多い回答 者,(29 人中18 人/ 62.1%)が『Ⅲ:順応型』であ る。日本語での交友関係を持てる相手の存在の有無と, 日常生活での困り事の有無には関係があると考えられ る。これは住民同士の交流拡大が困り事の解消に有効 な手段である可能性を強化する結果であり,交わりを 生む様な活動を支える拠点が身近な地域にあることの 有効性が示唆された。 8.まとめ 本研究では,多文化共生社会実現に向けた,地域コ ミュニティとその拠点の実態把握を目的とし,東京都 足立区において,在留外国人を始めとする,海外に血 縁,または文化的なルーツを持つ住民を対象とした活 動を行う事例のうち,主に日本語学習拠点と宗教活動 拠点の実態調査,拠点の利用者や留学生を対象とした アンケート調査を行った。 ■実態調査 日本語学習拠点では,外国人居住者 の重要な生活基盤のひとつである語学学習を,教育関 連施設が担っている実態が明らかになった。また,実 態調査を行った事例は拠点の周辺に駅や飲食店が充実 している[住商混合地域]に立地していた。駅に近く, 飲食店等を利用して主な活動以外で交流機会を設けら れるため,多様な交流・活動の場を比較的広域の対象 者に提供できると考えられる。このような多様な交流 や活動の場を提供する拠点の存在が,包摂的な地域コ ミュニティの醸成に繋がっていると推察する。 宗教活動拠点では,信徒らの信仰生活を支える活動 が結果的に地域との連携を生み,住民の民族的・文化 的・社会的背景に依拠することの無い相互扶助を支援 している実態が明らかになった。 ■アンケート調査 宗教活動拠点の利用者や,大 学の教会利用経験のある留学生のうち,「海外に血縁, または文化的なルーツがある」と答えた住民を対象と したアンケート調査では,困り事の類型化を行い,拠 点の利用者同士の交流拡大が困り事の解消に有効であ る可能性を指摘した。これにより,海外にルーツを持 つ住民の身近な地域に,住民同士の交流起点となる活 動を支える拠点があることの有効性が示唆された。 地域コミュニティにおいて,住民による共生社会実 現へ有効な活動は幅広く,今後もコミュニティ拠点で の相互扶助に寄与する活動の発展やその整備を行う必 要があるといえる。 謝辞 本研究にご協力いただきました皆様に,篤く御礼 申し上げます。なお,本研究は,科学研究費補助金(基 盤B)「「利用縁」がつなぐ福祉起点型共生コミュニティ の拠点のあり方に関する包括的研究(研究代表者:山田 あすか)」の一環として行われました。 注釈 注1)参考文献8)9)より,足立区の町別可住面積あたりの在留外 国人居住登録数(居住密度)を計算した。 注2)参考文献10)より,『日本語能力を見ると、「聞く」「話す」 「読む」「書く」ともに、日本語学習の期間が長いほど、能力 が高い傾向にある。日本語学習を継続する効果は大きいもの と想定される。』とある。 注3)表中の教室内写真の撮影者はKHの運営者であり,許可を 取り掲載している。 注4)表7中の「運営主体」「信仰」の項目(各事例が信仰する 宗教のデータ)は、まず各事例のWebサイト上から“ プロ テスタント○〇○教会“ や、” カトリック△△△教会“ といっ た名称の情報から信仰を判断し、データを提示した。また一 般に、「神父」はカトリック教会の司祭に対する敬称で、「牧師」 はプロテスタント教会で、教区・教会の管理や信者の指導を する職の人を指すため、Webサイト上での代表者の敬称か ら信仰を判断し、データを提示した。 注5)2021 年現在は新型コロナウイルス感染拡大の影響で,昼 食の提供は中止している。 注6)表中の写真は各施設の許可を得て撮影・掲載している。 参考文献 1)法務省出入国在留管理庁:「令和元年6月末現在におけ る在留外国人数について( 速報値)」, 法務省( オンラ イン)<http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/ − 151 − nyuukokukanri04_00083.html> 参照2020-07-05. 2)法務省出入国在留管理庁:「【令和元年6月末現在】公 開資料」, 法務省( オンライン)<http://www.moj.go.jp/ nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00083.html> 参照2020-07-05 3)筧政德,小松尚:外国人居住者の居場所形成における空間的 課題- A団地において自主建設されたものの,撤去された店 舗群の分析. 日本建築学会計画系論文集, 第79 巻, 第704 号, 2014 年, 2165-2172 4)法務省:「在留外国人統計(旧登録外国人統計) / 在留外国 人統計」, e-Stat 政府統計の総合窓口(オンライン)<https:// www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&t oukei=00250012&tstat=000001018034&cycle=1&year=20 190&month=12040606&tclass1=000001060399> 参照2020-07-05 5) 東京都総務局統計部:「10 月 第1表 区市町村別国籍・ 地域別外国人人口( 上位10 か国・地域) 」, 東京都の統 計( オンライン),<https://www.toukei.metro.tokyo.lg.jp/ gaikoku/2019/ga19010000.htm> 参照2020-07-10 6)足立区:「足立区多文化共生推進計画」,足立区(オンライ ン)<https://www.city.adachi.tokyo.jp/chiiki/ku/kuse/k-h-ctabunka2018. html> 参照2020-07-05 7) 東京メトロ:「各駅の乗降人員ランキング」,<https:// www.tokyometro.jp/corporate/enterprise/passenger_rail/ transportation/passengers/index.html> 参照 2021-02-27 8)足立区:「足立区の町丁別の世帯と人口令和元年11 月1 日 現在」, 足立区( オンライン),<https://www.city.adachi. tokyo.jp/koseki/ku/aramashi/toke-machi-r011101.html> 参照2019-11-27 9)東京都総務局統計部:「平成27 年国勢調査 東京都区市町村 町丁別報告」,東京都の統計(オンライン),<https://www. toukei.metro.tokyo.lg.jp/kokusei/2015/kd15-01data.htm> 参照2019-11-27 10)イノベーション・デザイン&テクノロジーズ株式会社: 「平成28 年度日本語教育総合調査」,文化庁(オンライ ン),<https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/ tokeichosa/nihongokyoiku_sogo/pdf/r1403497_01.pdf> 参照2021-05-05 − 152 −
地域施設計画研究39 2021年7月 日本建築学会
建築計画委員会 施設計画運営委員会 地域施設計画小委員会
Regional Community Facilities Planning and Design, AIJ, Vol.39, Jul., 2021
地域施設計画研究39 2021年7月 日本建築学会
建築計画委員会 施設計画運営委員会 地域施設計画小委員会
Regional Community Facilities Planning and Design, AIJ, Vol.39, Jul., 2021
…以下検索用文字列…
市営住宅の更新期に向けた居住実態を踏まえた居住者支援のあり方の検討 - 政令指定都市A 市におけるケーススタディ- Examination of the ideal way of supporting residents based on actual living conditions for renewal period of municipal housing - Case study of ordinance-designated city A - ○押尾萌加*,山田あすか**,村川真紀*** In this study, the actual condition of the household which resided in the municipal housing from the reason for leaving was grasped, and effective countermeasure and support were arranged from residential household characteristic and building situation of each municipal housing. It is necessary to carry out the support in proportion to the characteristic of each municipal housing in order to raise the quality of life of municipal housing. For example, when there are many elderly people, the following are mentioned: Extension of the dwelling unit area in order to invite the young household and substantiality of the staying home support. Key words: Public housing,Housing complex,Ageing,Housing support キーワード:公営住宅,団地,高齢化,居住支援 *東京電機大学大学院未来科学研究科建築学専攻 修士課程 **東京電機大学未来科学部建築学科 教授・博士(工学) ***東京電機大学未来科学部建築学科 研究員・博士(工学) Moeka OSHIO, Asuka YAMADA,Maki MURAKAWA * Graduated Student, Department of Architecture, School of Science and Technology for Future Life, Tokyo Denki Univ. ** Assoc.Prof., Dept.of Architecture, Faculty of School of Science and technology for future life, Tokyo denki Univ., Dr.eng. *** Researcher,Dept.of Architecture, Faculty of School of Science and technology for future life, Tokyo denki Univ., Dr.eng. 1.研究背景・目的 1.1.社会的背景 本格的な少子高齢社会,人口・世帯減少社会の到来を 目前に控え,国民の住生活の質の向上を図るため2006 年に住生活基本法1)が制定された。2017 年には高齢者 や障がい者,子育て世帯等の住宅確保要配慮者の増加を 見込み,住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の 登録制度等を含む住宅セーフティネット制度が制定2)さ れ,民間の住宅を活かした低廉な家賃の賃貸住宅の供給 や居住場所の確保にかかる困難への支援は社会的に対応 すべき課題の一つとなっている。公営住宅においても, 社会情勢の変化に対応した居住機会の平等な提供や居住 環境の維持向上を図ること,更新期を迎えつつある老朽 化した住宅の効率的かつ円滑な更新が地方公共団体の課 題である。 また,こうした動向を受け,首都圏の政令指定都市で あるA 市では,市営住宅等ストックの効率的な整備,管 理の推進のため,市営住宅の将来的なあり方の検討を 行っている。 1.2.本稿の目的 本研究では,A 市が管理する市営住宅を対象に,居住 者特性等の現状把握と,住宅の更新を効率的に行うため の情報の整理・方法の検討を目的とする。 1.3.既往研究と本稿の位置づけ 市営住宅等の公営住宅については,高齢者を主な対 象として行われる居住支援の特徴と効果に関する研究3) や,更新に際した改修による高齢世帯向け住戸改善に関 する研究4)等がある。一方で,高齢者以外の居住者も視 野に入れた居住支援やストックの活用,また公営住宅に おける世代ごと割合などのコミュニティバランスにも言 及した研究事例は少なく,市営住宅の役割を,「住まい におけるステップアップ(民間賃貸住宅や分譲住宅への 転居までの居住支援)」と「高齢者や障がい者に対する セーフティネット,福祉施設への入所支援とのバッファ」 − 51 − 地域施設計画研究39 2021年7月 日本建築学会 建築計画委員会 施設計画運営委員会 地域施設計画小委員会 Regional Community Facilities Planning and Design, AIJ, Vol.39, Jul., 2021 の2つにあると仮定し,実態や課題を整理することが重 要と考えた。実際に,公営住宅の高齢化は既往研究が指 摘するように大きな課題となっており,環境の維持など の自治活動,見守りなど互助的関係の担い手不足が懸念 されている。 2.調査概要(表1) A 市提供の市営住宅の居住者及び退去者のデータを用 い,退去理由をもとに居住者の属性や,実態を把握する。 これら各市営住宅には,1棟が単独で建っている事例か ら団地型で複数棟がまとまって建っている事例までが含 まれ,また建て替えによる新築に近い事例から老朽化が 進む事例まで含まれる。建設年,住戸規模,住宅規模, 立地も各事例によって異なるが,A 市の管理情報により 一群として扱われている住棟(群)を,A市での呼称に 倣い,これ以降「住宅」と呼ぶ。また,A市での市営住 宅全体を指すとき,市営住宅と呼ぶ。 各住宅について居住者特性と建築条件で類型化した。 また,退去理由から見た分析結果と比較し,住宅ごとの 実態や,抱える問題点等,市営住宅の更新に伴い行うべ き対策・支援の整理と考察を行う。 また,表2 注1)に,A 市の全市営住宅のうち建築条件 での類型化(5.1市営住宅の類型化にて後述)をもと に,各1 事例の代表例を示す。表2に示した事例を見る と,先述のように建設からの経過年数が住宅ごとに異な り,表2に例示した4事例の中でも30年以上の差がある。 各住宅の特徴を見ると,利便性の良いCX 住宅とCK 住 宅の応募倍率が高い。また,DK 住宅とAJ 住宅の間取り を比べると,住戸面積には2 倍ほどの差があるが,部屋 の構成や室数に大きな差は見られない。 表2 A市市営住宅の一例 3.既退去世帯の入居時年齢・居住期間・退去理由 3.1.A市の市営住宅の現状把握状況 A 市が把握している市営住宅の既退去世帯の入居時年 齢,居住年数,退去理由(退去先)注2)をもとに,当該 市の市営住宅の現状把握状況を図化した(図1)。世帯 主の入居時年齢が20 ~ 40 代で,居住期間が20 年前 後の世帯は,退去理由が賃貸住宅に入居(33.4%),一 戸建てやマンション購入(25.9%)の世帯の割合が他の 居住期間区分に比べて高い。また,居住期間が30 年以 上の世帯は,入居期間がより短い世帯に比べて,福祉施 設に入居(22.9%)や親族と同居(14.4%),死亡退去 (39.7%)の世帯の割合が高い。また,世帯主の入居時 年齢が60 歳以上の世帯では,福祉施設に入居(38.6%) や親族と同居(8.7%),死亡退去(38.3%)の世帯割合 がさらに高い。 入居時年齢や居住年数によって退去理由が異なる様子 を視覚化できた。このことから,居住者の属性によって, 「住まいにおけるステップアップ」と「高齢者や障がい 者に対するセーフティネット,福祉施設への入所支援と のバッファ」の「2つの役割」の比率が異なると言える。 このことは,居住者の入居時年齢と居住年数を把握しつ つ,必要な支援を検討し,整えていくことが必要である 0 1m 0 1m 経過年数 利便性 最多住戸面積 買い物利便性 保育園近接性 平面図 (一例) 坂の有無 外観 住戸 管理戸数 D K 住宅C X 住宅C K 住宅A J 住宅 35 年21 年49 年55 年 2110m 443m 559m 1230m 110m 334m 80m 110m 1.8 倍69.8 倍89.7 倍2.7 倍 300m以内にコンビニあり300m以内にコンビニ,500m以内にスーパーあり300m以内にコンビニ,500m以内にスーパーあり500m以内にスーパーあり 1km 以内に保育園あり300m 以内に保育園あり300m 以内に保育園あり500m 以内に保育園あり 周辺に等高線あり周辺に等高線なし周辺に等高線なし周辺に等高線あり 244 戸 ❶ダイニング キッチン ❷和室 ❸水回り ❹バルコニー ❶ダイニング キッチン ❷和室 ❸水回り ❹バルコニー 168 戸29 戸 図面無し図面無し 345 戸 60.9 ㎡ 69.3 ㎡ 35.1 ㎡ 36.3 ㎡ 最寄駅からの距離 バス停からの距離 応募倍率 ❶ ❹ ❸ ❷ ❷ ❷ ❶ ❹ ❸ ❷ ❷ 調査対象:A 市市営住宅87 事例 調査期間:2012 年~ 2020 年4 月 調査項目: 入居世帯情報【現入居世帯の高齢化率,単身世帯の割合】 建物に関する情報【管理戸数,経過年数,住戸面積,10 年間でみた応募倍率(平成21 ~ 30 年の10 年間の実績),固定資産税評価額相当額,最寄駅からの距離,最寄バス停ま での距離,買い物利便性,保育所等の近接性,周辺の坂の有無】 調査対象:A 市市営住宅から退去した世帯6255 世帯 調査期間:2012 年~ 2020 年4 月 調査項目: 退去時の世帯情報【入居時年齢,退去時年齢,入居日,居住年数,退去理由,世帯員数, 世帯主との続柄,障害者の有無,高齢者有無,児童有無,生活保護を受けているか,世帯 所得,世帯控除,政令月収,月収区分,入居時困窮事由】 建物に関する情報【建設年度,竣工年度,改善年度,管理開始年度】 その他の情報【承継有無,承継年月日,市営住宅からの住替えの有無】 調査1:市営住宅居住者・退去者の実態把握 調査2:市営住宅の類型化 表1 調査概要 − 52 − 図1 入居時年齢別の居住期間毎の退去理由の割合 ことを示唆している。これは,今後市営住宅の住民の高 齢化による各種課題を是正するためのコミュニティバラ ンスへの視点,つまり住民の多世代化を進めていく上で, 重要なポイントとなる。住宅ごとに居住者の年齢構成も 異なるため,各住宅の特性に応じた支援を考えるために も基本的情報として重要である。 3.2.現状把握状況から見たロジスティック回帰分析 3.1で図化した既退去世帯の入居時の世帯主年齢, 居住年数,退去理由をもとに,入居時の世帯主年齢段階 ごとに,居住年数を横軸に,退去理由を縦軸にとったロ ジスティック回帰分析注3)を行った(図2)。 20 ~ 40 代で入居した世帯は,居住期間が短い場合 に賃貸住宅転居・住宅購入等で転居する割合が高く, 居住年数が長い場合にその割合は漸次低下する(p 値 <0.01)。賃貸等への転居までのステップアップの役割の 観点からは,転居可能性を高めるためには入居後早期か らの介入や支援が重要であるとわかる。50 代以降に入 居した世帯では居住期間による退去理由の割合の変化は ほとんどないフラットな分布形状で(p 値=0.2865,相 関なし),居住年数によらず個人によると説明できる。 また,60 代では死亡退去は居住年数が長い場合に割合 が高く,福祉施設に入居は居住年数が短い場合に割合が 高い関係があり,両者の割合が居住期間によって逆転す る関係がある(p 値=0.0818,統計的有意差は,p 値が 0.5%水準を超えるため,明らかでない)。70 代では60 代とは逆に,居住年数が長い場合に福祉施設に入居する 割合が高い。 以上のデータはA 市が市営住宅のあり方検討用に加工 していたデータを用いた分析であるが,以降,当該デー タを含む,A 市提供の源データによる分析と考察を行う。 明渡し 死亡退去 親族と同居 福祉施設に入居 公営住宅に入居 賃貸住宅に入居 マンション購入 一戸建て購入 その他 無記入は1とする。 凡 例 9 39 3 3 2 5 6 2 5 10 5 2 10 8 8 2 2 9 12 9 3 2 8 3 3 3 25 34 4 2 11 12 2 18 3 30 21 4 6 21 6 46 66 5 11 5 10 2 2 5 5 2 2 4 17 18 3 15 14 2 41 33 8 8 15 97 4 4 2 6 7 5 5 5 4 10 15 26 14 32 4 8 17 26 2 9 8 10 33 13 7 16 118 45 13 15 3 18 4 5 8 4 14 2 2 13 20 73 33 29 5 8 10 11 18 30 13 5 5 4 11 29 20 10 2 2 5 41 36 9 3 99 108 23 2 17 3 4 46 33 12 5 713 12 13 3 19 7 3 4 9 64 41 26 13 13 4 12 65 54 10 95 5 42 8 8 2 2 3 2 8 5 3 8 2 2 15 15 3 3 8 17 17 4 7 10 27 59 7 15 2 4 13 20 12 41 27 14 2 5 17 14 11 35 10 11 7 8 19 10 9 27 11 5 2 2 8 9 11 15 11 18 39 24 8 3 2 2 9 19 歳 以下 n=165 20 ~ 29 歳 n=486 30 ~ 39 歳 n=934 40 ~ 49 歳 n=492 50 ~ 59 歳 n=309 60 ~ 69 歳 n=495 70 ~ 79 歳 n=337 80 歳 以上 n=52 入居時年齢 9 年以下10 ~ 19 年20 ~ 29 年30 ~ 39 年40 ~ 49 年50 ~ 59 年60 年以上 居住期間 n=49 n=81 n=138 n=76 n=59 n=130 n=145 n=37 n=5 n=95 n=188 n=111 n=131 n=266 n=171 n=6 n=82 n=114 n=70 n=58 n=91 n=20 n=49 n=91 n=92 n=45 n=7 n=38 n=52 n=215 n=123 n=33 n=82 n=155 n=14 n=45 n=33 n=20 n=16 n=1 n=21 n=15 その他 明け渡し 死亡退去 親族と同居 福祉施設に入居 公営住宅 賃貸に入居 マンション購入 一戸建て購入 居住期間 ~910~ 19 20~ 29 30~ 39 40~ 49 50~ 59 60~ p値:<0.001 N:486 p値:<0.001 N:934 p値:<0.001 N:492 19 歳以下 50 ~ 59 歳60 ~ 69 歳70 ~ 79 歳 20 ~ 29 歳30 ~ 39 歳40 ~ 49 歳凡例 p値:0.2865 N:309 p値:0.0818 N:495 p値:0.0076 N:337 p値:0.5133 N:52 p値:0.0002 N:165 ~910~ 19 20~ 29 30~ 39 40~ 49 50~ 59 60~ 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00 ~9 10~ 19 20~ 29 30~ 39 40~ 49 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00 ~9 10~ 19 20~ 29 30~ 39 40~ 49 ~910~ 19 20~ 29 30~ 39 40~ 49 50~ 59 60~ ~9 10~ 19 20~ 29 ~9 10~ 19 20~ 29 30~ 39 40~ 49 50~ 59 ~9 10~ 19 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00 退去理由 80 歳以上 4.退去理由等から見た居住者像の分析 既退去世帯に関するデータのうち,退去理由を主軸に 分析を行った。退去理由は単一回答であり,契約期間満 了,一戸建て購入,マンション購入,賃貸住宅に入居, 公営住宅(市営住宅以外)に入居,福祉施設に入居,親 族と同居,死亡退去,明渡し(入居資格の範囲を外れた ことによる退去で,本人による申し出ではないので事由 を問わずにこの項目に分類されている),その他(帰国 者含む),市営住宅内での住替え,工事等による仮移転, 退去理由不明の13 個に整理されている。 4.1.退去理由の割合 退去理由の割合(図3)を見ると,全世帯(6255 世 図2 現状把握状況から見たロジスティック回帰分析 − 53 − 帯)では,死亡退去が22%と最も高く,次いで住替え が17%で,退去理由から見ると市営住宅に最期まで住 み続けていた世帯は既退去世帯の1/5 以上を占めている ことが読み取れる。また,3 番目に高い退去理由は福祉 施設への入居による退去16%で,ステップアップにあ たる一戸建てやマンション購入,賃貸入居による退去等, 市営住宅以外への転居注4)による退去は20%である。 退去世帯のうち高齢者のいる世帯(退去時の家族構成 に高齢者が含まれていた世帯)4954 世帯の退去理由の 割合を見ると,死亡退去が27%と最も高く,次いで福 祉施設に入居と住替えが20%である注5)。死亡退去のう ち,注5① -1「高齢独居世帯で,本人死亡により退去」 は1162 世帯で,高齢者のいる世帯の死亡退去の23.5% にあたる(1162/4954 世帯)。一方,退去時家族構成に 高齢者が含まれない1301 世帯では,最も高い割合の退 去理由は賃貸住宅に入居の29%である。 退去時の家族構成に高齢者が含まれていたかどうか で,退去理由の内訳には明らかな相違がある。全世帯で 見た退去理由と高齢者のいる世帯の退去理由それぞれの 割合は近しく,また,高齢者のいる世帯は全退去世帯の 79%を占めていることから,既退去世帯全体の退去理由 割合は高齢者のいる世帯の傾向の側の影響を大きく受け ているとわかる。市営住宅の主たる2つの役割に照らし て,これら世帯構成による退去理由の差異を踏まえ,分 割しての理解が必要である。 4.2.福祉施設への入居による既退去世帯の世帯主の 退去時年齢 福祉施設への入居による既退去世帯の退去時における 世帯主の年齢(図4)は,80 代が51%を占めている。 平均年齢は82.02 歳と,全国の特養入居時平均年齢5)よ りも2 歳ほど高い。3.2 の「70 代で入居した世帯では居 住年数が高い場合に福祉施設に入居する割合が高い」傾 向とも併せて考えると,当該市営住宅が福祉施設入所に 至るまでのバッファの役割を担い,総じて自立支援と社 会保障費の低減に寄与している可能性が示唆されている と考える。 なお,関東圏では特異な東京都の特別養護老人ホーム 入所時平均年齢6)注6)は83.0 歳であり,こちらと比べ た場合には,差は小さい。 4.3. 退去理由と居住年数の関係 世帯の退去理由(退去先)と居住年数の関係(図5) を見る。戸建て住宅の購入等市営住宅以外への転居のた め退去した世帯の居住期間は,各退去先で平均16 ~ 20 年程度である。一方,親族と同居,死亡退去,福祉施設 に入居等の理由で退去した世帯は27 ~ 30 年と,10 年 程度長い期間,市営住宅に住み続けたことがわかる。先 述の通り,市営住宅以外への転居の推進の観点からは早 期からの支援が効果的であると推察するが,A市では「居 住者の流動化」をキーワードとした,対象世帯に対する 居住機会の拡大を企図した制度変更を行っている。一例 として,平成30 年12 月から子育て世帯向けの募集区 分を新設するとともに,この募集区分に定期借家制度(定 期使用許可)を適用した。これによって,居住者の流動 化,すなわちステップアップの効果の強化,および意図 しない居住の長期化・居住者の固定化を減じることによ る居住機会の拡大と,子育て世帯への支援としての入居 機会の拡大や団地内の自主的な管理活動やコミュニティ の活性化(コミュニティバランスの適正化)が期待され ている。この分析結果は,子育て世帯を想定した現在の 定期借家制度注7)の方針の裏付けになるとともに,若年 層への定期借家制度による入居機会の拡充の検討材料と なる。 4.4.世帯人数ごとの退去理由の割合 世帯人数ごとの退去理由の割合(表3)を見る。世帯 人数が5人の場合,一戸建て購入による退去の割合が最 も高い(35.1%)世帯人数が4人の場合,賃貸住宅に入 図5 退去理由と居住年数の関係 不明 仮転移 住替え その他 明渡し 死亡退去 親族と同居 福祉施設に入居 公営住宅に入居 賃貸住宅に入居 マンション購入 一戸建て購入 契約期間満了 11% 22% 7% 17% 2%4% 2% 7% 20% 27% 9% 4% 4% 20% 2%2% 1% 2% 2% 29% 1% 3% 9% 10% 15% 退去理由(全世帯) n=6255 高齢者の居る世帯の 退去理由の割合 n=4954 高齢者の居ない世帯の 退去理由の割合 n=1301 16% 10% 5% 1% 3% 7% 1%1% 8% 14% 2% 凡例 図3 退去理由の割合 80 代 70 代 24% 60 代 7% 凡例 51% 90 代 17% 100 代 0% 40 代 0% 50 代 1% ・A 市市営住宅退去者 平均年齢:82.02 歳 中央値 :83 歳 ・全国平均 特養 平均入所年齢:79.9 歳 老健 平均入所年齢:82.6 歳 ・東京都 特養 平均入所年齢:83.0 歳 老健 平均入所年齢:84.1 歳 有料老人ホーム 平均入所年齢:82.7 歳 クループホーム 平均入所年齢:82.6 歳 40 代 50 代 60 代 70 代 80 代 90 代 100 代 図4 福祉施設入居による退去世帯の退去時における 世帯主の年齢 − 54 − 図7 退去時における世帯主の年齢と政令月収の関係 22.6 24.1 21.8 10.2 5.9 11.4 7.4 26.0 16.6 9.4 11.3 9.1 22.2 23.1 19.9 9.2 5.0 8.7 5.6 21.0 12.7 7.5 8.6 6.3 政令月収(万円) 平均値 中央値 マンション購入 一戸建て購入 賃貸住宅に入居 公営住宅に入居 福祉施設に入居 親族と同居 明渡し 死亡退去 その他 仮転移 不明 住替え 160 140 120 100 80 60 40 20 0 図6 退去理由と政令月収の関係 0 9 5 4 74.8 69.6 56.6 48.1 78 72 54 48 373 95 8 3 0 8 3 1 0 0 77 3 1 1 15 17 21 16 32 56 49 58 46 120 123 125 126 79 195 178 124 90 41 528 276 62 29 10 1042 367 84 14 1312 382 44 3 平均年齢46.4 中央値45.5 10代 20代 30代 40代 50代 60代 70代 80代 90代 100代 契約期間満了 一戸建て購入 マンション購入 賃貸住宅に入居 公営住宅に入居 福祉施設に入居 親族と同居 死亡退去 明渡し その他 住替え 仮移転 不明 退去理由 退去時年齢 世帯人数(人) 1 2 3 4 5以上 世帯人数(人) 1 2 3 4 5以上 0.1% 0.4% 0.7% 4.7% 1.6% 0.1% 3.5% 3.3% 17.5% 1.1% 0.0% 9.6% 10.6% 27.0% 1.0% 0.3% 21.2% 11.8% 27.6% 0.6% 0.0% 35.1% 6.2% 18.6% 1.5% 9.2% 10.8% 9.6% 8.8% 5.2% 0.9% 2.5% 2.1% 2.1% 5.2% 16.0%25.0%15.6% 6.8% 3.1% 1.9% 2.5% 2.1% 0.6% 0.5% 23.8% 9.2% 0.0% 0.0% 0.5% 32.3%10.0% 3.3% 0.6% 0.5% 2.4% 7.9% 10.8%11.2% 14.9% 6.1% 6.7% 8.3% 8.5% 8.8% 表3 世帯人数ごとの 退去理由の割合 (%) 表4 世帯人数ごとの 世帯主の退去時年齢 (世帯数) 居,一戸建て購入,マンション購入(27.6%,21.2%, 11.8%)の割合が比較的高い。世帯人数が3人の場合, 4 人の時と同様に,賃貸住宅に入居,マンション購入, 一戸建て購入(27.0%,10.6%,9.6%)の割合が比較 的高く,市営住宅内での住替えの割合も15.6%と比較 的高い。世帯人数が2 人の場合も,賃貸住宅への入居に よる退去(17.5%)が比較的高いが,最も割合の高い理 由は住替え(25.0%)である。一方,世帯人数1人(独 居)の場合は,死亡退去は32.3%,福祉施設への入居 による退去は23.8%で,単身の既退去世帯3702 件のう ち,約半数を占める。3 人以上の世帯で高い割合の賃貸 住宅への入居による退去は5%であり,これは,単身世 帯や2 人世帯は,単身高齢世帯や高齢夫婦世帯が多くを 占めているためと考えられる。 4.5.世帯人数ごとの世帯主の退去時年齢 世帯人数ごとの世帯主の退去時年齢(表4)を見ると, 1 人世帯では74.8 歳,2 人世帯では69.6 歳,3 人世帯 では56.6 歳,4 人世帯では48.1 歳,5 人以上の世帯で は46.4 歳と,世帯人数が多いとき退去時の年齢の平均 が低い傾向が見られた。世帯人数が3 人以上のとき,3 人: 125 世帯,4 人:126 世帯,5 人:79 世帯と,世帯主 が40 代である世帯が最も多い。また,世帯人数ごとの 退去理由の割合の分析での予測通り,単身世帯や2人世 帯は70 代80 代の高齢単身世帯や高齢夫婦世帯に偏っ ている。 4.6.退去理由と月収の関係 退去理由と政令月収の関係(図6)を見ると,公営住 宅以外への転居注8)によって退去した世帯の月収の中央 値は,一戸建て購入(22.2 万円),マンション購入(23.1 万円),賃貸住宅に入居(19.9 万円)と,他の退去理由 より20 万円前後高い。一方,福祉施設への入居による 退去は5.6 万円,死亡退去を行った世帯は5.0 万円と5 万円前後であり,公営住宅以外への転居による退去世帯 と比較すると月収あたり15 万円近くの差がある。 上記以外の月収の中央値が10 万円以下の退去理由を 見ると,公営住宅に入居,親族と同居,市営住宅内での 住替え,建て替えや工事に伴う仮移転である。4.3の 退去理由と居住年数の関係との関係より,月収が低い場 合に居住年数が長い傾向があると理解でき,これは市営 住宅の設置目的が低所得による住宅確保困難者に対する 居住支援にあることと矛盾しない(低所得である理由は, 世帯によって異なる)。 4.7.退去時年齢と収入の関係 退去時における世帯主の年齢と政令月収の関係(図7) では,月収は70 代までは増加し,80 代以降は減少する 傾向が見られる。4.6で指摘した退去理由と月収の関 係と合わせると,市営住宅以外への転居支援に実効性が 期待できるのは70 代までと考えられる。また,80 代以 降の居住者には「ステップアップ」ではなく「福祉施設 入所支援までのバッファ」としての機能に特化すること が妥当と考えられ,在宅生活・医療・介護の支援が重要 である。 4.8.退去時年齢と公営住宅以外への転居による退去 世帯 図8で退去時年齢と公営住宅以外への転居による退去 世帯数の割合の傾向を見ると,36 歳を境に賃貸入居の 割合が増加し戸建て・マンション購入と入れ替わる。ま た,賃貸入居が80%に達するのは70 歳,戸建て・マン ション購入は62 歳で,最高齢は戸建て・マンション購 入が94 歳,賃貸住宅が100 歳である。 退去時年齢と世帯数の傾向(図9)では,戸建て・マ ンション購入と賃貸入居の双方で,46 ~ 49 歳を境に増 − 55 − 加の傾向(傾き)が異なる。これは,世帯主が46 ~ 49 歳の時,子供が20 代になり自立する時期に重なるため と推測でき,この年代,または家族構成を把握した上で ライフステージの変化が予期される時期入居世帯には転 居に対する積極的な支援が有効である可能性が考えられ る。 5.市営住宅ごとの課題の検討 5.1.市営住宅の類型化 1)居住世帯特性の類型化 各住宅の現居住世帯の高齢化率と単身世帯の割合注9) でクラスター分析を行い,5 類型(CL-R)を得た(表5)。 CL-R1:高齢化率,単身世帯の割合が平均以上 CL-R2:高齢化率,単身世帯の割合が平均以上かつ CL-R1 より低い CL-R3:高齢化率が平均以下, 単身世帯の割合が平均以上 CL-R4:高齢化率,単身世帯の割合が平均以下 CL-R5:高齢化率が平均以上, 単身世帯の割合が平均以下 また,以降の分析では,カテゴリごとの事例数を近 づけるとともにより概要を理解しやすく整える観点か ら,クラスター分析の結果では別の類型となったが高齢 化率と単身世帯の割合の関係が類似したCL-R1 とCL-R2 (高齢化率,単身世帯の割合が共に平均以上),CL-R3 と CL-R4(高齢化率が平均以下)は,それぞれ1 つの類型 として扱い,計3 類型として分析を行う。高 齢 化 率 (%) 単身世帯の割 合(%) 住宅名 1 2 5 4 3 CL-R 84.4 90.6 88.3 80.4 76.9 77.2 80.1 73.3 84.5 72.7 82.0 71.4 84.2 69.3 71.8 67.7 75.9 65.5 85.3 65.2 78.6 64.0 78.0 63.8 72.8 61.1 82.1 60.7 74.9 59.6 72.5 59.0 70.1 58.9 70.7 56.6 81.6 55.6 81.1 52.9 80.6 51.9 62.1 54.8 55.6 54.5 35.0 54.3 49.2 53.2 45.2 53.0 42.3 49.6 42.2 43.8 47.5 42.7 58.3 40.8 57.6 40.5 57.1 39.5 63.3 38.7 62.1 36.7 61.6 35.9 65.2 34.8 65.9 34.6 57.2 34.2 60.0 34.0 51.5 34.0 56.4 33.8 57.1 33.3 59.4 31.6 52.9 31.3 64.9 31.1 57.3 30.0 60.4 29.9 64.9 29.8 63.0 29.3 67.3 28.9 64.3 28.8 68.5 28.6 56.4 28.2 57.1 28.2 57.2 27.9 59.5 27.7 56.5 27.1 66.0 27.1 57.3 26.5 65.9 26.3 53.7 24.1 50.8 22.4 64.2 21.2 68.1 51.0 71.6 47.7 78.4 45.5 78.1 44.6 72.6 43.0 77.0 42.3 70.8 42.1 68.6 41.2 78.9 40.0 70.5 38.4 70.0 36.8 69.6 36.8 85.7 36.6 78.3 36.6 81.4 34.9 68.5 34.4 90.6 33.9 74.4 32.8 71.1 32.8 71.0 32.4 76.5 32.2 71.0 32.1 74.8 29.3 平均 75.0 27.1 67.4 42.9 AH CE AP CT CU DE AQ CD CA CI DC DG DA CK CF DH AS AW BA AJ BK BI BO BP CZ CX DB AK DF AX AA BZ CV CM AG BF AN CS BB CL AV CC BS BE BN AL CP BU BD BC BJ BR BX BY CQ BH BG AB AO CO AE CY DK AZ AT AU AY BQ AM AI CJ BM DJ CN DI CH AR CR AC CB CW BL DD BW BT BV AD CL-A 244 35 60.9 2110 110 〇△ ▲ 151 47 40 1870 45 〇△ ▲ 45 34 61.9 1600 233 ◎ △ 〇 177 38 60.8 1500 172 ◎ △ 〇 100 38 58.8 1500 172 ◎ △ 〇 352 12 44.5 1130 152 ◎ 〇〇 230 15 62.7 1400 196 〇〇▲ 84 32 61.9 1990 65 ◎ 〇〇 202 32 65 1885 105 〇◎ 〇 342 24 68.4 2330 140 ◎ 〇〇 83 26 61.9 1910 67 〇△ ▲ 75 19 67.8 1340 244 △ 〇▲ 56 24 66.7 1320 288 ▲ △ 〇 48 27 65.7 1190 332 △ 〇▲ 160 6 51.9 1860 133 〇△ 〇 533 21 68.4 1610 133 △ △ ▲ 116 37 58.7 1570 155 ◎ 〇〇 88 39 56.3 985 80 ◎ ◎ 〇 20 30 59.1 1260 109 ◎ ◎ 〇 30 32 60.8 1300 173 ◎ ◎ 〇 64 8 33.6 478 161 ◎ 〇▲ 106 33 62.9 1080 173 ◎ ◎ 〇 168 21 69.3 443 334 ◎ ◎ 〇 44 40 56.3 495 377 ◎ 〇〇 72 5 33.6 431 42 ◎ ◎ 〇 278 20 68 807 70 ◎ ◎ 〇 56 39 58.8 716 178 ◎ ◎ 〇 335 30 66.4 643 163 ◎ ◎ 〇 60 23 66.8 550 122 ◎ ◎ 〇 121 16 62.7 973 159 ◎ ◎ 〇 192 4 35.8 1200 86 ◎ ◎ 〇 158 18 65.4 681 699 ◎ △ 〇 231 37 58.8 199 128 ◎ ◎ 〇 50 36 58.8 480 191 ◎ ◎ 〇 87 6 47.9 1500 308 ◎ ◎ ▲ 230 34 60.9 1150 381 ◎ ◎ 〇 114 39 52.5 526 222 △ ◎ 〇 60 31 60.8 894 35 ◎ ◎ 〇 47 17 63.3 582 663 ◎ ◎ 〇 85 21 69 800 125 ◎ ◎ 〇 131 34 60.9 440 152 ◎ ◎ 〇 20 27 59 415 230 ◎ ◎ 〇 72 40 53.5 524 326 〇◎ 〇 160 37 60.9 1140 220 ◎ ◎ 〇 146 33 61.6 672 29 ◎ ◎ 〇 24 29 58.7 967 102 ◎ ◎ 〇 34 23 67.6 949 85 ◎ ◎ 〇 74 38 56.3 1170 62 ◎ ◎ 〇 117 13 61.2 1050 116 ◎ ◎ 〇 167 3 27.7 1300 52 ◎ ◎ 〇 16 31 57.6 535 140 ◎ ◎ 〇 60 52 30 420 54 ◎ ◎ ▲ 176 58 37 886 70 ◎ ◎ ▲ 324 57 35.4 1550 342 ◎ ◎ ▲ 180 51 31.9 1300 109 ◎ ◎ ▲ 457 57 61 1530 144 ◎ ◎ ▲ 32 48 44.9 311 118 ◎ ◎ 〇 29 49 35.1 559 80 ◎ ◎ 〇 124 41 44.9 271 438 ◎ ◎ ▲ 155 27 69.4 1520 27 〇◎ ▲ 322 54 36.3 1850 248 ◎ 〇▲ 392 47 37.9 1570 185 ◎ 〇▲ 64 49 30 417 61 △ ◎ 〇 268 56 32.9 426 399 ◎ 〇〇 191 52 32.1 1720 72 △ ◎ 〇 708 50 36.3 1500 317 ◎ ◎ ▲ 226 54 36 658 221 ◎ ◎ ▲ 163 39 50.6 1200 112 ◎ ◎ ▲ 242 52 36.3 1210 188 ◎ ◎ ▲ 90 33 60.8 469 18 △ ◎ ▲ 160 44 42.7 1700 39 ◎ ◎ 〇 244 52 54.3 850 102 ◎ ◎ 〇 114 42 44.5 1060 178 ◎ ◎ 〇 40 53 29.2 742 168 △ ◎ 〇 123 37 58.8 828 66 △ ◎ ▲ 106 44 41 1280 123 ◎ ◎ 〇 85 35 60.9 1090 208 ◎ ◎ ▲ 158 47 43.3 897 224 ◎ ◎ ▲ 158 43 44.4 912 345 〇◎ ▲ 57 45 41.6 757 213 ◎ ◎ 〇 120 48 36.6 1570 210 ▲ △ ▲ 345 55 36.3 1230 110 △ 〇▲ 100 46 43.3 734 51 ▲ △ ▲ 377 52 36.3 1090 248 △ 〇▲ 612 49 32.1 1150 88 △ ◎ ▲ 530 51 31.9 1010 220 △ ◎ ▲ 318 53 36.3 1640 240 △ △ ▲ ◎…○△双方あり ○…500m以内にスーパー △…300m以内にコンビニ ▲…どちらもなし ◎…300m以内 ○…500m以内 △…1km以内 ▲…1km以遠 ○…周辺に 等高線なし ▲…周辺に 等高線あり 管理戸数 (戸) 経過年数 (年) 保育所等 近接性 地形 買い物利便性 最寄駅からの 距離(m) 最寄バス停から の距離(m) 住戸面積 (㎡) 住宅名 1 2 4 3 保育所等 近接性 地形 買い物 利便性 DK DJ CR CQ CP AS AK AN AO DF BX BY AE AD AZ AG BC CO CN CM CZ CL CX CH CI BZ CJ BS BU DB DA AX AC AB AW AV DD CY BO BP BN BM BJ BH BG BF BE BB BI CD CC AP AQ CT CU CS CV CK CW AL AY DE CE CF CA AT AU BT BQ AA BV AR AI AH BL BA BD BW DI CB AM AJ BR BK DH DG DC ※保育所等近接性や地形等の地域環境に関する項目は,A市の 住宅分類において集計が行われている項目に倣い選定している。 表5 居住世帯特性 クラスター 表6 建築条件 クラスター 賃貸住宅に入居 戸建て購入 マンション購入 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 36歳 世帯主の退去時年齢(歳) 退去世帯の割合(%) 賃貸住宅に入居 戸建て購入 マンション購入 世帯主の退去時年齢(歳) 退去世帯の数(世帯) 46~49歳 800 700 600 500 400 300 200 100 0 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 図8 公営住宅以外へ退去した世帯の世帯主の退去時年齢と 退去世帯の割合 図9 公営住宅以外へ退去した世帯の世帯主の退去時年齢と 退去世帯の数 − 56 − 2)建築条件の類型化 各住宅の住戸面積等の建物情報注10)や利便性について クラスター分析を行い,4類型(CL-A)を得た(表6)。 CL-A1:住戸面積が平均以上,駅から遠い CL-A2:住戸面積が平均以上, 交通や買い物の利便性が高い CL-A3:経過年数が平均以上,買い物の利便性が高い CL-A4:経過年数が平均以上,住戸面積が平均以下, 利便性が悪い 類型化に際し,買い物利便性,保育所等近接性,坂 の有無等の立地による利便性,の3要素が比較的大き く影響した。また,経過年数と住戸面積から,CL-A1 と CL-A2 では経過年数が平均以下,住戸面積が平均以上, CL-A3 とCL-A4 では経過年数が平均以上,住戸面積が平 均以下と,二分されていることがわかる。また,管理戸 数は平均以上の事例がCL-A4 に集中している。一方,最 寄り駅からの距離,バス停からの距離は類型化にあまり 影響していない様子が見られる。また,入居希望のニー ズの大きさを示す応募倍率の平均は,各類型で異なり CL-A1 は14.6 倍,CL-A2 は25.0 倍,CL-A3 は15.4 倍, CL-A4 は4.9 倍である。 5.2.居住世帯特性と建築条件のクロス集計 表7にCL-R とCL-A のクロス集計結果注11)を示す。各 類型を見ると,CL-R ではCL-R1,2 が高齢化率と単身率 が平均以上,CL-R3,4 が高齢化率が平均以下,CL-R5 が高齢化率は平均以上だが単身率は平均以下と,大き く3 つに分けられる。経過年数が平均以上の住宅群(CLA3) に,高齢化率が平均以上の居住世帯(CL-R1,2 と CL-R5)が集中している。この背景には,住戸の規模に よらず,同じ住宅に長期間住み続けている居住者の影響 を推察できる。また,住戸面積の大きい住宅群(CL-A1 とCL-A2)には高齢化率,単身率が平均以下の居住世帯 (CL-R3,4)が集中している。家族規模が比較的大きい, 比較的若年である世帯が住戸面積の大きい住宅群に居住 しているという対応関係を読み取れる。 建築条件クラスター(CL-A)を元にクロス集計の結果 を見ると,CL-A1 では,「駅から遠い」,「保育所等の近 接性が低い」という特性をもつ住宅の割合が高い。その ため,働きに行く際に駅を使う等の交通の便が悪い,保 育園が遠く子育て世帯に向かない等の課題が推察でき る。これらの住宅の住戸面積は家族向けと考えられ,子 育て世帯向けの支援施設の併設等が居住環境の向上に有 効と考えられる。 高齢化率平均以上 単身世帯平均以下 FI SN HO2 1 1 1 1 4 4 5 5 6 11 n n n 2 3 4 1,2 3,4 居住世帯特性(CL-R) 5 建築条件(CL-A) WN, MK2, MK3, HST, HSY, HO, NH, NN, CT, SK, KY, OG2 HSN, NP, OG3, FT, SSN OO, TG, SE, SA FS, NS, KR, NM, OGN, MZ, NPT, NP2, NGN, MU, CM MJ2, NSM, TJ, SH, KZT, KD MJ, MK1, HC, FJ, NC, CS, SB, SKU, SNS, SG, SSM, SD, KK, KF, KG, KDT, OD, OGM, OGH, OGC, OG4, OG1, OGK, AD2 KS2, TY, TI, HY, SS, SZ, IT, SO, AD, KN, KM, HN, AR3 WM, MT, ST, KO AK, AR1, AR2, KS, HS 11 24 13 ・経過年数 平均以上 ・住戸面積 平均以下 ・住戸面積 平均以上 ・駅から遠い ・住戸面積 平均以上 ・利便性良 ・経過年数 平均以上 ・買い物 利便性良 高齢化率平均以上 単身世帯平均以上 高齢化率平均 78.9 特徴 57.6 74.6 高齢化率平均以下 ① ② 表7 居住世帯特性クラスターと建築条件クラスターの クロス集計 次に,CL-A2 は,全体では住戸面積が平均以上である が,CL-A2 の中でもCL-R2 と対応する4 事例の住戸面 積はCL-A2 のなかでは特異的に50㎡以下である。この 住戸面積のコンパクトさは家族形成期にある世帯の入居 ニーズが低い要因の一端と考えられる。そのため,立地 条件等からは子育て・若年世代が入居可能であるものの 住戸面積が小さい住戸の比率が高い住宅では,その更新 やメンテナンスに際し,2 戸1化改修や2 戸利用可能制 度など住戸面積の拡大が,若年層世帯の呼び込みにつな がり,その結果,高齢化率や単身率上昇を緩和し,コミュ ニティバランスの向上が図れると考えられる。 CL-A3 に含まれる住宅は40㎡前後の住戸が半数以上 を占めており,単身世帯の入居決定や,住戸面積と世帯 規模の不適合による住替え誘導が起きないなど,高い単 身率の要因のひとつと考えられる。全国的な統計と同様, A 市でも単身世帯が増加しており,単身世帯向けの住戸 が充分に供給されることは,大局的に見たニーズには即 している注12)。住宅規模が小さい場合には周辺地域を含 めたコミュニティバランスが取れれば良いという考え方 によれば,住宅内で多世代網羅する必要性は必ずしもな い。住宅の条件や周囲の状況をみながら,必要であれば 住戸面積やその選択肢の拡大は,単身率や高齢化率の低 減に寄与しうると考えられる。また,現状ではこのカテ ゴリの住宅群は高齢化率が高いため,在宅医療や居宅介 護支援の充実が,自立生活期の延伸やQOL の向上の視 点からより重要であるカテゴリと言える。 CL-A4 に含まれる住宅は,交通利便性が低く住戸面積 は8割が40㎡以下である。単身高齢世帯の割合が高く, 上記と同様に単身高齢者向けの居宅介護支援に力を入れ る必要があると考えられる。 5.3.類型の組み合わせごとの退去理由 クロス集計で得られた類型の組み合わせごとの世帯 主の退去時平均年齢と退去理由の割合を見る(表8)。 CL-R での偏りをもとにCL-A を見ると,CL-A1,2 は住 − 57 − 戸面積が広い住宅群,CL-A3,4 は住戸面積が狭く経過 年数が平均以上の住宅群となっており,大きく2つに分 けられる。この6分類の中で特に事例が集中し,実測値 / 期待値が1 を超えている注11)CL-R1,2 とCL-A3,4 の 組み合わせ①(高齢化率・単身率が平均以上,経過年数 が平均以上)と,CL-R3,4 とCL-A1,2 の組み合わせ②(高 齢化率が低く,住戸面積が平均以上)の2箇所に着目す る。世帯主の退去時平均年齢を見ると,高齢化率が平均 以上である①が71.3 歳,平均以下である②が66.2 歳と, 5 歳程の差がある。また,①は,福祉施設への入居によ る退去が16.3%,死亡退去が24.3%だが,市営住宅内 での住替えによる退去が21.9%で,多くの居住世帯が長 期間市営住宅に住み続けているとわかる。一方,②では, 市営住宅以外への転居28.5%,福祉施設への入居による 退去18.2%,死亡退去20.3%と,居住者の年齢層が高 齢者に偏っていない。 ②は,住民の流動性が高い住宅群と説明できる。A 市 では市営住宅のあり方として,住民の流動性を高める方 針であるが,既に見てきたように各住宅の立地・住戸面 積等の特性やそれに対応した居住世帯像が異なるため, すべての住宅で,すべての世帯類型の流動性を高めるこ とは現実的ではない。当然,住宅の特性や,世帯の年齢 や各種事情に応じたグラデーションが生じることが予期 されるため,こうした建築条件(CL-A)と世帯像(CL-R) の対応や,さらにその結果として表れる退去理由の対応 関係の整理を踏まえた方針策定が重要であると指摘でき る。 5.4.類型の組み合わせによるマッピング 以上のクラスターから,各住宅の所在地のマッピング を行った(図10)。この図は,A 市との協議により匿名 性に配慮し単純化して表示している。A 市は,図の右側 より発展した経緯があり,現在でもそちらに主要な人口 集積地が集中している。また,図の左側は他市に抜ける 鉄道が繋がっているが,丘陵地帯で高度経済成長期以降 に開発された新興住宅地等が点在している。 A 市の市営住宅は必ずしも駅の周辺にはなく,主要な 道路沿いに集中していることがわかり,居住者の移動手 段は車やバスが主であると推察できる。また,市営住宅 が集中している場所には,コンビニやスーパーが近接し ており,駅からの距離等交通利便性が高くなくとも人口 集積地であり,これらは買い物等の利便性は確保されて いる住宅であると理解できる。また,高齢化率や単身率 の低い居住者が集中している住宅(CL-R3,4,5)は, 図10 の右側にある主要な駅からのバス圏内に集中して いる。 一方,経過年数が長く,高齢化率と単身率が平均より 高い住宅(CL-R1,2 かつCL-A3,4)は,主要な駅から 離れた図10 の左側に集中している。市の人口が急増し た時代,居住地の拡大と開発圧とともに建設された住宅 が,住戸面積や通勤等の若年居住者層のニーズへのアッ プデートが困難であるなどの要因で,現在に至る長期入 居・高齢居住者層につながっていることが確認できる。 A 市の市営住宅ではこうした,地理的条件も踏まえた検 討が必要であると言え,今後は市営住宅の適切な管理・ 運営において,生活利便施設や支援機能の誘致など他の 要素を変更しても地理的条件の変更がなければ長期的な 居住ニーズへの適切性を確保できない場合には,統合移 転も含めた再編計画の検討も必要である。 6.まとめ 本稿では,A 市が管理する市営住宅を対象に,居住者 特性等の現状把握と,住宅の更新を効率的に行うための 情報の整理・方法の検討を行った。居住者特性等の現 状把握では,A 市提供の市営住宅の居住者及び退去者の データを用いて分析を行い,年齢や居住期間によって退 去理由が異なり,居住者の属性によって必要な支援が異 なると理解できた。支援の内容とタイミングとして,市 営住宅以外への転居の推進の観点からは早期からの支援 図10 クラスターごとの市営住宅のマッピング 0.0% 1.1% 1.6% 6.9% 0.5%25.9%11.1% 41.3% 3.2% 7.4% 1.1% 0.0% 0.0% 0.0% 2.0% 2.7% 7.5% 2.4%16.3% 9.0% 24.3% 4.9% 5.5% 21.9% 3.3% 0.1% 0.4% 8.4% 3.1% 15.6% 1.4% 18.2%11.0%20.3% 6.3% 7.6% 6.5% 0.4% 0.7% 0.0% 7.1% 4.3% 21.6% 0.4%16.9% 9.4% 19.6% 7.5% 11.4% 2.0% 0.0% 0.0% 0.0% 2.6% 2.6% 17.1% 2.6%19.3%11.4%24.1% 5.7% 11.0% 3.5% 0.0% 0.0% 0.0% 76.4 71.3 66.2 66.9 68.0 66.8 4.1% 3.8% 14.3% 2.5% 11.7%11.7%19.5% 6.0% 7.1% 16.1% 2.4% 0.8% CL-R1,2 CL-A1,2 CL-R1,2 CL-A3,4 CL-R3,4 CL-A1,2 CL-R3,4 CL-A3,4 CL-R5 CL-A1,2 CL-R5 CL-A3,4 契約期間満了 世帯主の退去時 平均年齢 一戸建て購入 マンション購入 賃貸住宅に入居 公営住宅に入居 親族と同居 死亡退去 明渡し その他 住替え 仮転移 不明 福祉施設に入居 ① ② 表8 類型ごとの退去理由の割合 ■ ■ ● ▲ ■ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●●▲ ▲ ▲ ▲■ ▲ ▲ ▲● ▲▲ ■ ■ ■ ● ●▲ ▲▲ ▲ :高齢化率,単身率ともに低 (CL-R3,4) :高齢化率,単身率ともに高 (CL-R1,2) :高齢化率高・単身率低 (CL-R5) :主要路線 :主要道路 :主要な駅 ■ 等:経過年数平均以上 (CL-A3,4) :丘陵地帯 凡例 − 58 − が効果的であると推察でき,また,転居支援が有効なの は70 代まで,80 代以降は在宅生活・医療・介護の支援 が重要であるとわかった。また,各住宅の情報をもとに クラスター分析を行い,居住世帯特性(高齢化率,単身 世帯の割合)で5 類型,建築条件(住戸面積等の建物情報, 利便性)で4 類型を得た。その後,クラスターのクロス 集計から,それぞれの住宅群の特徴や課題を抽出し,有 効な対策や支援を整理した。その結果,A 市の市営住宅 は,主に居住世帯の単身高齢者率が高く経過年数が50 年弱で,住戸面積が小さく単身向けの住宅と,住戸面積 が大きく比較的家族規模が大きく若年である世帯が居住 し,ある程度コミュニティバランスの取れた住宅に二分 化できると分かった。 類型ごとの特徴と今後求められる介入方法の考察を表 9に整理した。CL-R1,2 とCL-A3,4 の組み合わせ① のように単身世帯が多く居住し高齢化率の高い住宅で は,高齢者に向けた在宅介護支援の拡充や,更新に伴う 建て替えでの高齢者支援施設の併設ないし近隣の高齢者 支援事業や医療機関との連携等,在宅医療や居宅介護支 援の充実が有効と考えられる。また,住宅の条件や周囲 の状況より,住戸面積やその選択肢の拡大が単身率や高 齢化率の低減に有効であると考える。 一方で,CL-R3,4(高齢化率が平均以下)の住宅では, ステップアップ居住支援やスキルアップなど就労関係の 支援,子育て世代に向けた子育て支援の拡充が有効と考 える。これらの施策には,民間住宅とのマッチングや関 連福祉団体などとの連携が必要であり,A 市では実際に そうした連携の強化が検討されている。中でも,立地条 件等からは子育て・若年世代が入居可能であるものの住 戸面積が小さい住戸の比率が高い住宅では,2戸1化等 の住戸面積の拡張ないし住戸面積の選択肢の拡大による 若年家族世帯向け住戸の提供等が有効と考える。 謝辞 本研究をまとめるにあたり,データの提供等で ご協力いただいたA 市市役所の皆様に,深く感謝申し上 げます。なお,本研究は,科学研究費補助金(基盤B) 「「利用縁」がつなぐ福祉起点型共生コミュニティの拠点 のあり方に関する包括的研究(研究代表者:山田あすか)」 の一環として行われました。 注釈 注1)坂の有無は,A 市担当部局において各住宅の特性把握や住 宅整備の基礎資料として,建物周囲の等高線の間隔を判断材 料として分類・整理しているデータによる。 注2)図1は平成26 年度から平成30 年度の5年間の退去世帯 についてまとめた退去理由である。 ・「住替え」は市営住宅の建替えによる,別の市営住宅への住 み替え ・「仮移転」は市営住宅の建替えによる,建替後の住宅に戻る までの仮移転(市営住宅からは退去していないため,「市営 住宅の退去理由」の分類としては,対象から除外) また,図1は,A 市から提供可能であった平成26 年度から 平成30 年度の5年間のデータをもとに作成されており,そ の間に「契約期間満了」が退去理由となる世帯はない。 注3)横軸を説明変数,縦軸を被説明変数(カテゴリ)とする。 注4)「市営住宅以外への転居」とは,「戸建て住宅購入」「マンショ ン購入」「賃貸住宅に入居」「(市営住宅以外の)公営住宅に 入居」の4項目を示す。 注5)「退去時の家族構成に高齢者のいる世帯(4954 世帯)」には, 都合,次の5つの類型が想定される。 ① 高齢独居世帯で,本人死亡により退去(① -1)。または,高 齢者のみの同居世帯で,相次いで居住者が亡くなったため退 去(① -2)。存命の居住者はいない。 ② 高齢者のみの同居世帯。1名(以上)が亡くなり,残る1 名以上の高齢者も退去。施設等への入所が想定される。 ③ 高齢者2名以上を含む同居世帯。1名(以上)が亡くなり, 残る1名以上の高齢者とともに,世帯ごと退去。転居,住替 えが想定される。 ④ 高齢者1名を含む同居世帯。高齢者本人が亡くなり,残る 非高齢者家族は退去。転居,住替えが想定される。 ⑤ 高齢者1 名以上を含む同居世帯。高齢者以外の同居家族が 亡くなり,存命の高齢者とともに世帯ごと退去。家計保持 者の死去や障碍のある子のケアのフェーズ変化等を契機とし た,転居,住替え,施設等への入所が想定される。 これらの詳細は源データのうちさらに個人情報に踏み込む内 容であるので,この段階では① -1 とそれ以外の記述のみに 留める。 注6)福祉保健局のデータより算出。また,A 市の所在する県の 特養入居時平均年齢は公開されていない。 注7)定期借家 ( 定期使用許可):従来型の賃貸借契約は,正当 事由が存在しない限り家主からの更新拒絶ができず自動的に 契約が更新されるのに対し,定期賃貸住宅契約は,契約で定 めた期間の満了により,更新されることなく確定的に賃貸借 契約が終了する。A 市では,同居している末子の義務教育が 終了する年度末までが入居可能期間で,期間満了時に退去す る。なお,市営住宅の収入基準を充たしており,住宅に困窮 している場合は,期間満了前に他の市営住宅の募集への申込 も可能。 注8)「公営住宅以外への転居」とは,「戸建て住宅購入」「マンショ ン購入」「賃貸住宅に入居」の3項目を示す。 注9)充足率について,応募倍率が1 を下回ることはごく稀で ・経過年数平均 47.8年 ・住戸面積平均 41.4㎡ ・高齢化率平均 78.9% ・単身率平均 65.6% 建物が古い 単身高齢者多 家族世帯向 住戸面積大 ・単身高齢世帯 への支援 ・コミュニティ バランスの向上 2戸1化 建て替え 高齢者支援の拡充 転居支援 子育て支援の拡充 ・経過年数平均 26.5年 ・住戸面積平均 58.4㎡ ・高齢化率平均 57.6% ・単身率平均 34.8% CL-R1,2/ CL-A3,4 類型の組み合わせ特徴課題介入方法 CL-R3,4/ CL-A1,2 ・高齢化/単身率の 現状維持 ・居住支援の強化 表9 類型ごとの各市営住宅への介入方法 − 59 − あり,その場合随時募集を行って充足している(建替・修繕, 災害対応などの緊急時に備えた予備などの政策空き家以外に 空き室はない)ため,本稿では検討を行っていない。 注10)経過年数は,最終改築後からの経過年数である。 注11)クロス集計における独立性検定の計算方法について表10 に示す。 注12)現在までのA 市市営住宅の入居基準では所得が基準以下 であることを前提に,単身高齢者,単身障害者,養育が必要 な子がいるなどの家族世帯が入居対象者となっている。今後, 社会的動向を踏まえて,若年単身者への枠の拡大(児童養護 施設出身者や保護観察の対象者等の受け皿,ステップアップ の場として)をはかる方針が検討されており,婚姻関係・血 縁関係にない単身者どうしなどのパートナーシップ入居等の 他の自治体の事例についても,あり方検討の審議会では情報 収集が行われている。 参考文献 1)国土交通省,住生活基本法の公布・施行について<https:// www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jyuseikatsuho/ jyuseikatsuhyodai.html>2021.1.12 参照 2)国土交通省,住宅セーフティネット制度について,<https:// www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_ tk3_000055.html>2021.1.12 参照 3)米野 史健, 五十嵐 敦子,民間賃貸住宅における高齢者等を 対象とした居住支援の特徴と効果-特定非営利活動法人が福 岡市で実施する居住支援活動の事例より-,日本建築学会計 画系論文集,2011 年 76 巻 661 号 p. 663-671 4)中園 眞人, 大庭 知子, 佐々木 俊寿,RC 造2K 型住戸におけ る住戸改善前の高齢世帯の住まい方 : 公営住宅ストックの高 齢世帯向け住戸改善に関する研究 その1,日本建築学会計画 系論文集,2006 年 71 巻 609 号 p. 107-114 5)厚生労働省,参考表 老人保健施設の入(在)所者と特別養 護老人ホームの入所者の比較 ,<https://www.mhlw.go.jp/ www1/toukei/rhoken99_8/sankou.html>2020.11.10 参照 6) 東京都福祉保健局, 東京の高齢者と介護保険 データ 集,<https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kourei/ shisaku/koureisyakeikaku/08keikaku0305/08sakutei/ iinkai01.files/data6.pdf>2020.11.10 参照 0.24 1.46 0.85 0.48 1.46 0.64 1.57 0.36 1.63 2.96 0.30 0.52 1 2 3 4 1,2 3,4 5 CL-A 実数値/ 期待値 CL-R 各類型の組み合わせにおいて, 独立性検定をカイ二乗検定で 行った。 有意水準は5%未満とした。 類型 CL-R1,2 CL-R3,4 期待値 実数値 CL-R5 合計 P 値 <0.05 0.000026 独立性検定(カイ二乗検定)計算例 1 12 4 17 4 24 6 34 11 5 13 29 5 1 1 7 17 34 29 7 21 42 24 21 42 24 4.10 8.21 4.69 8.21 16.41 9.38 7.00 14.00 8.00 1.69 3.38 1.93 87 87 合計 CL-A1 CL-A2 CL-A3 CL-A4 合計 CL-A1 CL-A2 CL-A3 CL-A4 表10 カイ二乗検定の計算例 − 60 −
地域施設計画研究39 2021年7月 日本建築学会
建築計画委員会 施設計画運営委員会 地域施設計画小委員会
Regional Community Facilities Planning and Design, AIJ, Vol.39, Jul., 2021
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成長期の住まいにおける世代間差と住環境の評価 「振り返り」に基づいた住環境の有り様に関する研究(2) LIVING ENVIRONMENT AND DIFFERENCE BETWEEN GENERATIONS IN HOUSE OF A GROWING PERIOD Study on a Living Environment’s Role in the Human Growth Period Based on an "Inventory" of Adults (2) Keywords: Memories,House,Communication Of Family,Spatial Composition,Evaluation Structure 振り返り,住まい,家族のコミュニケーション,空間構成,評価構造 In this research, we investigated the relationships between spatial conditions, such as the spatial compositon in homes in the human growing period and the manner of living and family structure from the standpoint of children, based on a questionnaire and interviews and targeting adults. Also, the structure of the relationship between elements of homes and human development was evaluated. We found characteristic trends, For example, there is a difference depending on the dwelling form. In a detached house, elements of value intervening in communication were more diverse than in a custom house, and in a person’s own room in multifamily housing, and the ratio of "feeling of relaxation" as an evaluation choice was higher. ○山田あすか* ,高橋愛香** Asuka YAMADA and Aika TAKAHASHI 1.本研究の背景と目的と手順 1.1 研究の背景と目的 近年,核家族化や少子化,共働き親や片親世帯の増 加などの社会的要因と共に,こどもの成長期における 住まいでの家族とのコミュニケーション不足が指摘さ れることがある1)。また,成長期のこどもをもつ家族 の住まいについての既往研究の多くは,こどもからの 聞き取りやこども目線での分析によるものである。例 えば田中,植田ら2)3)は,小学生4~6年生とその保 護者を対象に,こども部屋に対する親の意識や親子間 のコミュニケーションの現状など,家庭環境のあり方 について論じている。また,江上4)5)は集合住宅で の家族間コミュニケーションはリビング,ダイニング キッチン,ダイニングで起きるとし,定行,小川ら6) は集合住宅では中高生が落ち着ける場やプライバシー 空間,間取りの広さが必要で,専用の自室などの居場 所が重要性だと述べた。また,森保,山田ら7)~9)は 会話に限らず視覚や聴覚での非言語接触を含め家族と 接触できる箇所を多く設けることが家族間のコミュニ ケーションにつながると指摘した。 これら既往研究の多くは子育て期の親の立場から, また非行や不登校等の問題を抱えたこどもへの聞き取 りやこども目線からの成長期の評価やニーズを明らか にしている。しかし,成長期のこども本人のニーズに 即した住まいであることが,健やかな成長・発達や家 族との関係を育む観点からみて必ずしも正しいとは限 らない。また,当時の住まいを改めて振り返り,評価 する,あるいはニーズを再考する研究はわずかである。 成長期の環境を,成人の振り返りによって評価する 手法として,仙田ら10)11)によるあそび環境に関する 研究や,山田ら12)13)の研究がある。また,既報14)では, 「子の立場」にある成人の振り返りによる,住まいの室 配置などの空間条件と,住まい方や家族との関係,成 長環境としての評価の構造を調べ,特徴的な知見とし * 東京電機大学未来科学部建築学科 教授・博士(工学) ** 東京電機大学未来科学部建築学科 修士課程(当時 * Professor, Dept. of Architecture, School of Science and Technology for Future Life, Tokyo Denki Univ. ** Former Student, Dept. of Architecture, Graduated School of Science and Technology for Future Life, Tokyo Denki Univ. − 17 − 地域施設計画研究39 2021年7月 日本建築学会 建築計画委員会 施設計画運営委員会 地域施設計画小委員会 Regional Community Facilities Planning and Design, AIJ, Vol.39, Jul., 2021 ては以下のような知見を得た。①対母親コミュニケー ション頻度において,中学生時期の廊下型で,[頻繁] の割合が高い(一般的な認識と逆)。②対父親コミュニ ケーション印象で,コミュニケーションを子側が選択 できない場合に[ポジティブ]の割合が低い。③住宅 内でよくいた場所は,小学生時期では戸建で団欒空間, 集合住宅では自室の割合が高い。④記憶に残る場面は, 小学生時期は戸建・集合住宅とも[遊び]場面が多く, 特に自室は[遊び]の場として想起された。また,戸 建の方がより多くの種類の活動や関わりの場として意 識されていた。⑤記憶に残る場面の評価語のうち,成 長への意識に最も近いと考えられる[達成・成長・発見] の割合は戸建の自室で最も高く,これは自室が勉強の 場として意識されていることに多分に起因する。なお, これらの知見は「子の立場」からの評価であり,親の 立場では異なる評価が得られることが予期された。 これらを踏まえ,本研究では,成人の振り返りによ る,成長期の住まいの住戸形態(戸建/集合住宅)や 室配置といった住まいの空間条件,子の立場からの家 族との関係(コミュニケーション頻度等),こどもの頃 の記憶に残っている印象深い場面から得られた価値に ついて,子育ての視点を持たない立場と,持つ立場の 2つの視点から調査する。さらに子育て視点からみる 住まいの取り組みについて調査し,成長期の住まいに ついての考察を深めることを目的とする。なお,環境 心理学の立場15)からは,評価者にとっては評価者自身 が感じ,意味づける環境(心理学的環境)が価値判断 や行動の基準になると言われる。そのため内的イメー ジとしての住まい像や家族との関係の振り返りによる 評価の研究は,成長期の住まいの多面的な理解に資す ると考える。また住まいの多面的な理解は,現在の多 様化・複雑化する家族形態への建築計画的アプローチ の一助となると考える。 1.2 研究の手順 既往研究14)では大学生を対象とし,成長期の住ま いに関する研究を行った。住戸形態ごとの自室と団欒 空間の特徴として,戸建の自室ではきょうだいと友 図1 自室/家族の寝室の室配置の分類とプラン例 A B 親の 寝室 C 私の 廊下 部屋 私の 部屋 私の 寝室 祖母 の寝室 弟の 親の 寝室 寝室 弟の 部屋 LDK DK L S=1/ 500 ▲ 玄関▲ 勝手口 1階 2階 L D 1 寝室アプローチ 寝室アプローチ 寝室アプローチ K 客間 土間・土足スペース B B B C A A A N N N b b b a a d A 2 B 3 C b ・L と家族の寝室兼用 ・玄関を私の部屋に改修 ・主にLから出入りする ・寝るのは弟の部屋 自室 寝室 父室母室浴室トイレ 8・0 12・0 (人) (人) 12・1 8・1 13・0 5・0 12・2 4・1 4・0 4・0 1・0 なし 2・0 4・0 3・1 2・0 2・0 2・0 3・0 3・1 2・0 2・0 2・0 6・0 13・2 1・0 4・0 1・0 3・0 22・1 5・1 2・4 16・1 2・0 4・0 3・0 1・0 1・0 8・0 3・1 2・0 2・0 2・0 1・0 8・0 4・1 2・0 2・0 2・0 1・0 12・1 12・1 1・0 3・0 21・2 5・0 0・4 4・4 1・0 1・0 2・0 寝 寝 寝L K D 寝 寝 寝L K D 寝 寝 L K D LDK 廊下 寝 寝 寝 寝 部屋 外部 / 廊下型 / / / 団欒空間 型 連続型 外部空間 型 説明 ダイアグラム B A C D 廊下型 団欒空間 型 混合型 空間構成 説明 ダイアグラム 空間構成 各家族の寝室へのアプローチ/ 水廻り(浴室とトイレ)へのアプローチ b a c d B A AB C D 家全体からみる家族の寝室へのアプローチ B B A A C C すべての寝室へ は廊下や通路と して用いる空間 からアクセスする 寝室へは廊下か らアクセスする 寝室へは下足に 履き替えてアク セスする ・複数のアクセス方法がある場合:廊下と団欒空間であれば廊下/団欒空間型( / 型 )と示す ・トイレが複数ある場合は浴室に近いトイレのみ示す ・家族の寝室へのアプローチをABCDで,水回りへのアプローチをabcdで示す 寝室へはLDK 以 外の他の部屋か らアクセスする 寝室へはLDK か らアクセスする すべての寝室へ はLDK からア クセスする 廊下とLDK か らアクセスする 寝室が混在 BC AC b d a d 表の数字:戸建・集合住宅(人数) 表の網掛けなし:小学生時期 表の網掛けあり:中学生時期 表の凡例 プラン例の凡例 コミュニケーションの発生の蓋然性に着目したアプローチの分類 収集したプラン例と集計 住戸形態別集計数 戸建 小中小中 33 (人) 2 30 2 15 9 18 6 (Ⅰ) (Ⅲ) 集合住宅 住まいについて ・部屋の意味付け:こどもの描いた成長期の住まいの配置兼平面図より、各部屋がど のように使われていたのか(水廻りを除く部屋について) ・部屋に対するこだわり:上記であげたように部屋を使用するのに取り組んだことや 必要なものは何か(家具や部屋の場所など) ・他者の招き入れの許可:各部屋は誰が使用してよいか(誰でも,家族のみ,など) こどもとのコミュニケーションについて ・コミュニケーション頻度:こどもとの会話の頻度について,よくしゃべった・用事 のある時だけしゃべった・しゃべらなかった・覚えていないから選択 ・コミュニケーションをとった場所と行為:こどもとよく会話をした場所でこどもと 何をしたか 表1 調査概要 調査人数 調査対象期間 調査人数 調査対象者:2013 年時の建築系大学生の親 [ 生まれ年:1950 ~ 1970 年] (Ⅰ)配布:父21・母24 名 回答:13・22 名 (Ⅱ)父5・母8名 ラダーリング全67 件 (Ⅲ)配布:父21・母24 名 回答:13・21 名 ①小学2~5年生 ②中学2年生 調査実施期間 2015年8月~10月調査人数 ラダーリングインタビュー(Ⅱ) 調査手順と項目 楽しい 友達と遊ぶ 広い場所 アンケート調査(Ⅰ) アンケート調査(Ⅲ) その場面 から得ら れた価値 インタビュー の起点とな る場面 その場面を 成立させる 環境条件 (Ⅰ)でたずねた「記憶に残っている場面や 行為」から得られた価値と、その場面や行為 を成立させる環境条件についてインタビュー 形式で詳しくうかがう 住まいの配置兼平面図の描写 ・各部屋の使い方:各部屋の専有者や家族の集まる場所(リビングダイニングなど) を確認する ・よくいた場所:回答者本人がよくいた場所と,当時同居していた家族構成員それぞ れのよくいた場所を確認する 住まいの概要について ・生活環境:生活環境の変化は経験あるか,ある場合その時期はいつか(家の住み替 え,増改築など) ・住まいの印象:住まいの居心地の評価(よかったかなど)や,平日(放課後)/休 日の過ごし方 ・家族との関わり方:生活の中で家族とどれくらいコミュニケーションをとっていた か(会話の頻度など)また,その人とコミュニケーションをとることをどのように 思っていたか(もっとしゃべりたかった,あまりしゃべりたくなかった,など) ・記憶に残っている場面や行為:図面で場所を示し,そこで誰と何をしていたのか 小学校時期,中学校時期について, 戸建・集合住宅合計で最大35 名。上 記は小学校時期は覚えていない,小 学校時期だけ答える,等の回答協力 状況により,分析対象とできた実数 − 18 − クラメールの 連関係数 V 住まいの空間条件 やや弱い関連(V=0.25~0.5) 住まい方とコミュニケーション やや強い関連(V=0.5 ~ 0.8) 対父親COM・頻度 対父親COM・印象 住まいの居心地 住戸形態 自室の有無 団欒空間の通行 自室へのアプローチ 父室へのアプローチ 寝室へのアプローチ 母室へのアプローチ 平日-休日の過ごし方 非常に強い関連(V=0.8 ~ 1.0) 0.2511 0.3062 0.5041 0.5017 0.8339 0.5000 0.4247 0.4938 0.5016 0.5580 0.2598 0.3688 0.2881 0.3294 0.3366 0.5073 0.4410 0.4410 0.5303 0.3536 1.0000 0.3632 0.4313 0.3478 0.3344 0.3780 0.3724 0.4122 0.2958 0.5270 0.5270 0.3227 0.4125 0.6208 0.5980 0.3953 0.4082 0.2618 よくいた場所 対父親COM・頻度 対父親COM・印象 住戸形態 自室の有無 団欒空間の通行 自室へのアプローチ 父室へのアプローチ 寝室へのアプローチ 母室へのアプローチ 平日-休日の過ごし方 0.2719 0.2948 0.3608 0.2731 0.3527 0.3646 0.3078 0.4330 0.3463 0.3463 0.5401 0.5401 0.5574 1.0000 0.3646 0.3721 0.3949 0.3766 0.3655 0.2996 0.4188 0.3604 0.3112 0.6023 0.4146 0.7202 0.4316 0.7202 0.4486 0.2881 0.3706 0.2928 0.6322 0.2692 よくいた場所 図2 時期ごとの項目間の関係 凡例 小学2~5年生の時期中学2年生の時期 ① ② ③ ④ *対母親コミュニケーション頻度と対母親コミュニケーションの印象は,両時期とも各項目への相関係数が低く,項目相互に関連ある項目として抽出されなかった。 達,団欒空間では家族という,自分と場面を共有する 相手による場所の差異がある。また,集合住宅の自室 では他者との行為の割合は自分の行為の割合よりも低 く,団欒空間では逆に他者との行為の割合が高いこと から,[人の存在]によって場所の認識を異にしている 傾向が得られた。本稿では,親世代である子育てとい う視点をもつ立場によると,大学生の振り返りとは異 なる知見が得られる可能性に着目した。また,大学生 が成長期の住まいで,得られた傾向について,親の視 点から子育て期の各部屋の意味付けや他者の招き入れ の許可の様子などを把握する。 2.調査概要 表1に調査概要を示す。既往研究14)で協力を得た大 学生の親を対象として,親自身が成長期にあった際の 住まいの概要を尋ねるアンケート調査( Ⅰ ) と,親目 線での住まい方やこどものとのコミュニケーションに ついてのアンケート調査(Ⅲ)を行った。さらに協力 を得られた場合に,記憶に残っている場面や行為から 得られた価値とその条件の構造についてのラダーリン グインタビュー調査( Ⅱ ) を行った。 振り返りの対象とする時期は,小学2~5年生(以 下,小学生時期)と,中学2年生(以下,中学生時期) を調査対象期間とした注1)注2)。また,当時の住戸形態 は戸建/集合住宅の双方に対して依頼した。集合住宅 の回答は少なく分析上は戸建住宅が主となるが,戸建 住宅のなかでの空間条件の差異(庭の有無,立地,構造, 面積等々)もあることから,比較対象としての価値も 加味してこれを分析と集計の対象に加えている。 3.住まいの空間条件とコミュニケーション 3.1 空間条件とコミュニケーションの分類 調査(Ⅰ)から,分析の意図に即して滞在空間と動 線の重複によるコミュニケーションの発生の蓋然性に 着目し,住まいの全ての寝室へのアプローチ構成と, 自室(個人の部屋・こども部屋)注4)・父室・母室(親 の部屋)注5)の各寝室へのアプローチ,水廻りへのア プローチ構成を分類した(図1)。例えば寝室へのアプ ローチタイプは,以下の通りである。その他の分類も 基本的にこの考え方に依拠する。 【寝室へのアプローチ】 *対父親と母親の合計事例数の差は,片親の単身赴任やひとり親世帯のケースによる 対 父親対 母親対 父親対 母親対 父親対 母親 回答者が対象の家族間 でコミュニケーション をとることを好ましく 思っている.もっと話 したかった,など 回答者と対象の家族間 でコミュニケーション について特に関心を抱 いておらず,満足して いる 回答者が対象の家族間 とコミュニケーション をとることを消極的に 思っている.あまり話 したくなかった,など 頻繁稀薄無 集合住宅 対 父親対 母親対 父親対 母親対 父親対 母親 戸建 回答者が対象の家族と 一緒に娯楽の時間を過ご したり,会話するなどの コミュニケーションを日 常的に取っていた 回答者が対象の家族と 用事など必要最低限の会 話やコミュニケーション しかなかった,または回 答者がしたくなかった 回答者が対象の家族と 会話などのコミュ二ケー ションを取っていなかっ た,もしくは回答者が関 わりを持ちたくなかった (小学校時・中学校時) 人数 人数 集合住宅 戸建 (小学校時・中学校時) ポジティブ(P) どちらでもないネガティブ(N) (8・3) (13・10) (0・1) (24・19) (2・1) (22・23) (2・1) (7・10) (0・1) (1・3) (0・0) (0・0) (0・0) (0・0) (20・18) (1・0) (17・17) (2・2) (12・11) (1・2) (2・2) (0・0) (0・0) (0・0) 表2 「私」と父親/母親とのコミュニケーションの分類 − 19 − A 廊下型:すべての寝室へは廊下や通路として用いる 空間からアクセスする B 団欒空間型:すべての寝室へはLDK からアクセス する C 混合型:廊下とLDK からアクセスする寝室が混在 している また,親とのコミュニケーション頻度(頻繁/稀薄 /無)と印象(ポジティブ/どちらでもない/ネガティ ブ)をそれぞれ3種類に,対父親・対母親について分 類した注3)(表2)。 3.2 空間条件とコミュニケーションの関係 空間条件やコミュニケーションの頻度と印象の相関 行列を作成し,このうち相関係数が上位の組み合わせ を抜き出し,図2に示した。 この図2より,小学生時期には,図中【❶】寝室へ のアプローチと,母室・父室・自室へのアプローチ・ 団欒空間の通行との間に[やや強い関係(0.500 ~ 0.598)]がみられる。一方,中学生時期には【❷】寝 室へのアプローチと[やや強い関連]をもつ組み合わ せは,母室へのアプローチ(0.557)のみであること が読み取れる。小学生時期には寝室へのアプローチと 各室へのアプローチに偏りがあるが,中学生時期には その関係が多様に分散し,各回答者において異なるこ とがわかる。 自室へのアプローチと父室・母室へのアプローチに は,小学生時期と中学生時期ともに[やや強い関連 (0.527 ~ 0.720)]がある。また,小学生時期には【❸】 自室へのアプローチと団欒空間の通行(0.834),住ま いの居心地(0.558),対父親コミュニケーション(図 中COM と表示)の印象(0.502)に[やや強い相関] がある注6)。また,自室アプローチが廊下である場合, 対父親コミュニケーション印象はネガティブである割 合が高い。また,廊下型では住まいの居心地が「良い」 とする割合が高い。これらは,当時の【父親】と子の 関係の表れとも理解できる。しかし,中学生時期【❹】 にはそうした関係は見られない。 また,中学生時期には【❺】平日- 休日の過ごし 方と父室・母室へのアプローチとの[やや強い関連 (0.540,0.557)]がみられたのも特徴的である。 4.記憶に残る場面と場所 4.1 記憶に残る場面と場所 記憶に残る場面とその場所を図3にまとめた。場所 の総数に着目すると,自室での記憶に残る場面のみ, 小学生時期よりも中学生時期に回答が多い。これは, 自室での[その他]の場面が小学生時期にはないのに 対し,中学生時期には回答があることが関係しており, ここでの[その他]の場面は,個人の部屋ができた(5 件),こども部屋に2段ベッドが設置された(2件), お気に入りのものがあった(1件)という内容の記述 であった。また,団欒空間での場面の回答の割合が最 も高く,その次に自室の回答の割合が高いことが読み 取れる。 4.2 自室での記憶に残る場面と評価構造 調査Ⅱで得られた,最も印象に残る場面のうち,自 室に関する場面を起点とする評価構造と,団欒空間に 関する場面を起点とする評価構造注7)について,戸建 /集合住宅の別に図4 に示す。住戸形態に共通する語 を図中に網掛けで示した。また,以下に示す()中の 該当数字は,特記ない場合,戸建と集合住宅で共通の 語がある場合はその合計である。 1)場面の評価構造 ■起点となる場面 自室が最も記憶に残る場面とし てあげられた数は,小学生時期には少なく,整理の対 象は小学生時期2件,中学生時期9件であった。心理 的成長の過程において,中学生時期に自室での活動が 大きな役割を果たしていたことを反映していると理解 できる。最も記憶に残る場面としては,自分の部屋が できる(小学生時期0件・中学生時期2件),音楽を聴 場所 自室 0 0 4 団欒空間 和室 家族の部屋 ベランダ ・庭 家の周辺 その他 凡例傍ら数字なし:1 円グラフと棒グラフの数字:回答人数 N=(戸建の回答人数・集合住宅の回答人数) N=(78・5) 小学校2~5年生 中学校2年生 場面 遊び生活勉強アクシ デントその他遊び生活勉強アクシ 集合住宅 デント その他 戸建 住戸形態 小 中 小 中 小 中 小 中 小 中 小 中 小 中 40 20 N=(64・4) ここで「団欒空間」と分類した場所には,図1のLDK を含む。また,当時家族の間で「リ ビング」とは呼ばれていなかったが,実態としていまでいうリビングに該当する部屋(茶 の間,「ごはんを食べる部屋」「家族が集まって過ごす部屋」「テレビの部屋」など)を含む。 5 5 8 5 5 5 7 2 2 2 2 2 2 2 2 3 3 3 13 13 34 3 4 8 8 3 2 16 34 4 4 6 4 3 17 33 2 2 24 10 30 20 11 15 17 10 図3 記憶に残る場面と場所 − 20 − 場面が回答者にとってどのような価値があったか 場面の成立に必要な条件 戸建 戸建 集合住宅 集合住宅 :順接(~だと…だ) ( )内の数:小学時期・中学時期より得られた語の数 :逆接(~でなければ…だ) インタビューの起点 (記憶に残る場面や行為) 「戸建」と「集合住宅」に共通して現れ た語(ほぼ同義と考えられる語を含む) 図4-1 自室に関する評価構造 図4-2 団欒空間に関する評価構造 場面が回答者にとってどのような価値があったか 起点 場面の成立に必要な条件 起点 3 3 3 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 3 2 2 2 2 2 集中できる(0・2) 狭い場所(0・1) 成績が上がる(1・1) 成功する(0・1) こたつがある(0・1) 気楽になれる(0・3) 勉強する(1・1) 親に背中をおされる (1・0) 学級委員長になれる (1・0) 勉強してる兄が いる(1・0) 褒められる(1・0) 人気者になる(1・0) 交換日記を書く (0・1) 好きな人がいる (0・1) 共有する(0・1) 気を遣える(0・1) 勇気がつく(0・1) 恥ずかしい(0・1) ラジカセがある (0・1) 知識がつく(0・1) 成長する(0・1) 流行の音楽が流れる (0・2) 楽しい(0・1) お気に入りの番組が ある(0・1) 裁縫する(0・1) 夢中になれる(0・1) ほしい物がある (0・1) 気分転換になる (0・1) 放し飼いする(0・1) ペットがいる(0・1) 仲良くなる(0・1) 元気になる(0・1) 世話をする(0・1) 自分の部屋ができる (0・2) 生活力がつく(0・1) 襖がある(0・1) 家具がある(0・1) 嬉しい(1・3) 自立する(0・2) 母がいる(0・1) 音楽を聴く(0・2) ひとりでいる(0・3) コミュニケーション がとれる(0・2) 居心地が良い(0・1) 2段ベッドが設置 夢が叶う(0・1) される(0・1) 自分の居場所(0・2) 2段ベッドの上 (0・1) 姉と使う(0・1) エアコンがある (0・1) 西日が入る(0・1) 暑い(0・1) 快適(0・1) 落ち着く(0・2) 録音できる(0・1) リビングがある (0・1) 自由にできる(0・1) 一部屋を二部屋に 仕切る(0・1) 食事する(1・3) 家具がある(0・2) 親戚や友達が集まる (0・2) 招きやすい(0・1) 友達がいる(0・1) 人の輪が広がる (1・1) 広い場所(0・1) 継続する(0・2) 自分の部屋がほしい (1・0) 机スペースがある (1・0) 優越感(1・0) 邪魔されない(1・0) 自分の居場所(1・0) 羨ましい(1・0) 他者の影響を受ける (2・0) 祖母が作った(0・1) 美味しい(0・1) 休日(0・2) 注意力がつく(1・0) ケンカで火傷(1・0) ストーブがある (1・0) テレビを観る(2・3) 距離が近い(1・0) 視力が落ちる(1・0) 怒られる(2・0) 夢中になれる(1・1) 話題にできる(1・2) 共有する(3・2) 感動する(1・0) 感情が豊かになる (1・0) 母が裁縫してる (1・0) 知識がつく(3・0) 興味がわく(1・0) 道具がある(2・0) 作った物を使える 裁縫する(1・0) (1・0) ほしい物がある (1・0) 嬉しい(1・1) 家事をする(1・2) 親が忙しい時(0・2) 音楽を聴く(1・1) 家電が増えた時代 (2・0) 猫を飼う(0・1) 親近感がわく(0・2) 納屋がある(0・1) 癒される(0・2) 野良猫がいる(0・1) 独り占めできる (1・1) ひとりでいる(1・3) お気に入りの番組が ある(1・2) お菓子を作る (1・0) 気分転換になる (1・0) 試験期間中(1・0) 好きになる(2・2) 寝る(0・1) せまい空間(0・1) 居心地が良い(0・1) 開いてる雨戸がある (0・1) 蚊帳がある(0・1) 落ち着く(1・2) 自分の役割(2・0) 井戸がある(1・0) 難しい(1・0) 玄関の近く(1・0) 年越し(0・1) 家が改築される (1・0) 事故に遭う(1・0) 気を遣える(1・0) 先祖が改築を繰り返 してきた家(1・0) 驚く(2・0) 団欒が増える(1・0) LD が繋がる(1・0) 安心感がある(1・1) 怒られる(1・0) ペットと遊びすぎた (1・0) 反省する(4・0) 楽しい(4・2) 部活帰り(0・1) 会話がはずむ(0・1) 夜(0・2) 部屋を飾り付けする (1・0) 家の中にいれる (1・0) モミの木がある (1・0) きょうだいがいる (2・1) 朝食のみの部屋 (0・2) 親がいる(3・1) 朝食の準備中(0・1) 急いでいる(1・1) テレビがある(3・0) 特別感がある(1・1) ピアノを習う (1・0) 先生がいる(1・0) 教室(1・0) 追いやられる(1・1) 嫌だ(1・0) 親戚がいる(1・1) 懐かしむ(0・1) 頻繁な出来事(0・1) 幼い頃の映像がある (0・1) 2世代が暮らす家 (0・1) ステレオがある (1・1) 団欒する(2・0) こたつがある(2・1) あたり前になる (2・1) 食事がある(1・1) 生活の中心の場 (1・0) コミュニケーション がとれる(2・4) 親密になる(1・2) 大切に感じる(2・0) 生活力がつく(1・2) 湿ったものを乾かす (0・1) 散らかっている場所 (0・1) 家族がいる(2・3) やる気がでる(0・1) リビングによく居た (0・1) 自分の部屋がある (0・1) 隣の部屋も使用 (0・1) 快適な場所(0・1) 便利になる(1・0) マット運動する (1・0) 昼間(1・0) 楽しい(1・0) 身体を動かす(1・0) 感謝する(1・0) 静かな遊び(1・0) 優越感がある(1・0) 嬉しい(1・0) 運動能力がつく 職業選択に関わる (1・0) (1・0) 布団がある(1・0) 協力できる(1・0) 寝床を作る(1・0) 家族がいる(1・0) 整理整頓できる (1・0) 選択できる(1・0) スペースをあける (1・0) 家具がある(1・0) − 21 − く(0・2),勉強する(1・1)が比較的多い。 ■場面の成立要素 自室での場面の成立要素として 最も多いのはひとりでいる(0・3)と,その類似の ことがらと思われる自分の居場所(0・2)で,自分 の居場所への言及が多いことは,既報14)における子 世代対象の同様調査の戸建の結果と共通している(既 報では,自分の居場所(3・4)で最も多かった)。同 一の場面や,同一の条件が少なく,回答者によって個 別であるが,家具があることや音楽試聴のための道具・ 環境があることへの言及が比較的多い。家具への言及 は子世代と同様で,特徴的には趣味活動として音楽の 関連語が挙げられていることを指摘できる。 ■場面の価値 場面の価値としては,集中できる (0・2),コミュニケーション(0・2)は子世代と 共通して複数挙げられた。知識がつく(0・1),成績 が上がる(1・1),成長する(0・1)は勉強に関す る成長感で,自室の役割への意識として特徴的だと言 える。また,子世代との違いとして生活力がつく(0・ 1),自立する(0・2),職業選択(1・0)という 主体性への意識が具体的な語で言及された。総じて, 勉強や趣味活動を自由に,主体的に行えることで,居 心地良く落ち着いて過ごしたり精神的な成長,また嬉 しい(2・3)や楽しい(1・1)という快の感情に 結びついている構造を読み取れる。 4.3 団欒空間の記憶に残る場面と評価構造 1)場面の評価構造 ■起点となる場面 評価構造の起点となる,最も記 憶に残る場面としては,テレビを観る(小学生時期2 件・ 中学生時期3 件)が最も多く,次に食事をする(1・3), 家事をする(1・2),団欒する(2・0),音楽を聴く(1・2), 親戚や友達が集まる(0・2)であった。他は1 件ずつで, 多様な場面が挙げられている。子世代との違いで特徴 的であった場面は,家事をする(1・2)と,自分と 母親が裁縫をする(2・0)であった。 ■場面の成立要素 場面の成立に必要な条件として は,家族がいる(戸建2・3,集合住宅1・0),親が いる(3・1),きょうだいがいる(2・1),親戚が いる(1・1)と人に関する語が条件としてあげられ, 逆に,ひとりでいる(1・3)にも言及があった。時 代柄,家電が増えた時代(2・0)の指摘もあり,テ レビがある(3・0)やこたつがある(2・1)も, 場面の成立条件として指摘された。なお,テレビへの 言及や,人の集まりの場としての印象は,子世代と共 通している。イベントの記憶が残り,年越し(0・1) やクリスマスの飾り付けに関連する語があったことも 年月を経ての振り返りとして特徴的であると理解でき る。 ■場面の価値 コミュニケーションがとれる(2・ 4)と,情報・感情・時間を共有する(3・2),団欒 が冷える(1・0),親密になる(1・2),人の輪が 広がる(1・1)という関わりに関する語が多く含ま れる。知識がつく(3・0)や生活力がつく(1・2) は,自室とも共通した言及であった。 4.4 自室と団欒空間の評価に関する語 また,自室と団欒空間の評価に関する語を評価構造 から取り出し,相互の関係は除いてどのような語が言 及されているかを集計するため,感情・場所・行為に 分類して整理した(図5)。円の大きさは,各カテゴリ 内の割合を反映している。 自室と団欒空間では,いずれも感情・場所・行為の 全要素が言及されている。また,戸建では「感情と場所」 「行為と感情」に該当する語が一定数挙げられている。 戸建集合住宅戸建集合住宅 感情場所 行為と 感情 場所と 行為 感情と場所 行為 感情場所 行為と 感情 場所と 行為 感情と場所 行為 感情場所 行為と 感情 場所と 行為 感情と場所 行為 感情場所 行為と 感情 場所と 行為 感情と場所 行為 自室 団欒空間 他者との行為自分の行為 場所の特徴や印象 設え 他者の存在 ものがある場所 家具と結びついた場所 もの・他者の特徴 高揚感・肯定感開放感 優越感負の感情 人に対する感情 個の確立 達成・成長・発見 円の数:回答人数 傍ら数字なし:1 円の大きさ:戸建・集合住宅 それぞれの語数の合計で割った割合 状況 図5 自室と団欒空間の評価に関する語の分類整理 7 4 5 3 4 7 2 9 4 3 4 3 8 10 2 2 12 2 4 11 12 21 12 14 21 7 6 4 8 15 10 25 9 13 − 22 − 図6 部屋の意味付けと他者の招き入れの許可 凡例 共有・団欒 寛ぎ・就寝 遊び・趣味 勉強 その他 物置 客間 食事 父 小学生時期中学生時期 母 LD 戸建 父 母 父 母 集合 住宅 (戸)(集)(戸)(集)(戸)(集)(戸)(集)(戸)(集)(戸)(集)(戸)(集)(戸)(集) こども の部屋 和室 家族の 部屋 LD こども の部屋 和室 家族の 部屋 誰でも 家族 友人 部屋の 所有者 部屋の意味付け 他者の招き入れ の許可 30 20 20 10 10 0 0 9 9 9 8 8 8 8 9 6 6 2 6 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 6 6 6 6 7 7 7 7 7 7 7 15 14 10 10 10 11 12 12 3 3 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 (N=235) (N=207) 4 4 4 4 4 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 14 24 19 12 9 9 9 15 2 2 2 2 2 2 2 8 3 2 2 2 2 6 6 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 5 5 5 5 5 5 5 5 3 9 7 N=戸建の回答人数(小:151,中:145)+ 集合住宅の回答人数(小:84,中:62) 傍ら数字なし:1 凡例 父母父母 小学生時期中学生時期 戸建集合住宅 父母父母 戸建集合住宅 遊び 傍ら数字なし:1 生活勉強その他 団欒空間 こどもの部屋 和室 家族の部屋 浴室 場所 7 8 5 8 5 9 10 11 4 4 4 4 3 3 3 2 2 2 2 2 2 2 3 2 2 2 2 2 2 2 2 4 9 図7 コミュニケーションをとった場所と場面 集合住宅の該当事例が少ないこともこの集計結果の要 因であるが,戸建ではより多様な要素への言及が収集 されている。内訳を見ると,戸建・自室の「感情」で は,高揚感・肯定感に分類される語の割合が高く,戸建・ 団欒空間の「感情」では,達成・成長・発見に分類さ れる語の割合が高いことが特徴的である。また,「場所」 では,戸建の自室・団欒空間のいずれにおいても,他 者の存在の割合が高く,人と過ごしたことが記憶に残 る場面の要素や評価の要素として,場所と結びついて 記憶・想起されていることがわかる。「行為」は,設え に関連する語と状況に関する語の比率が戸建・自室で 高く,戸建・団欒空間ではそれに加えて他者との行為 が併せて記憶・想起されている。 5.成長期の住まいへの親の取り組み 5.1 親子のコミュニケーションの場所と場面 調査Ⅲから得た,親がこどもとよく会話をした場所 とそこでの場面を図6に示す。集合住宅のこどもの部 屋について,小学生時期では[遊び]の割合が高いが, 中学生時期では[遊び]の言及がなく,[勉強]の割合 が高い。また,小学生時期の浴室について,戸建では [遊び]の言及がないのに対して,集合住宅では[遊び] の割合が高い。 5.2 部屋の意味付けと他者の招き入れの許可 各部屋の意味付けと他者の招き入れの許可の様子を 図6にまとめた。和室を[寛ぎ・就寝]の場としてい た場合について,小学生時期では集合住宅の割合が高 いが,中学生時期では戸建の割合が高い。詳しくみる と,小学生時期の集合住宅では,家族の就寝の場(4), 親の就寝の場(2)としており,そのための取り組み として,布団が敷けるように家具は最低限しか配置し ないといった回答が複数みられた。また,中学生時期 には,家族の就寝の場(1)のみみられた。また,LD を[勉強]の場としていた回答は,中学生時期よりも 小学生時期で割合が高い。 さらに,小学生時期では戸建の割合が高く,中学生 時期では集合住宅の割合が高い。詳しくみると,小学 生時期では住戸形態によらず,勉強としてだけではな く,家族の団欒や食事,こどもの遊びの場など様々な 活動ができることを前提としており,そのための取り 組みとして,家族みんなが活用できるよう座卓を中心 に配置した(2),高さの低い家具で統一した(2), 和室で掘りごたつにした(1)という記述がみられた。 5.3 コミュニケーションの場所と場面 コミュニケーションを取った場所を尋ねると(図 7),最も多い場所は小学生時期/中学生時期,と,戸 建/集合住宅の別によらず団欒空間である。次にこど もの部屋が多いが,小学生時期・戸建・母と,中学生 時期・戸建・父では家族の部屋の比率もこどもの部屋 と同等に高い。 場所ごとのコミュニケーションの場面は,中学生時 期には生活の自立が小学生時期よりも高いことが特徴 的である。また,小学生時期には中学生時期よりも遊 びと勉強の比率が高い。この傾向は,父母に共通して いる。中学生時期には,遊びと勉強の場所や場面とし て記憶に残る場面が,学校やクラブ活動,塾,その関 連行事・活動などの家の外に得られることもこうした 差異の要因ではないかと推察する。 5.4 親の成長期の住まいと大学生の成長期の住ま − 23 − いとの関係 コミュニケーションの印象と頻度の組み合わせに よって,コミュニケーションタイプを4つに分類した (表3)。また,住まいの構成を水回りへのアプローチ と自室へのアプローチによって分類した(表4)。 これらをもとに,親と大学生それぞれが成長期の親 とのコミュニケーションと自室と水廻りへのアプロー チとの関係を図8にまとめた。 1)親の成長期の住まいと家族との交流 父親の成長期の住まいでは,独立タイプである場合 に交流(Ⅰ交流,Ⅱ積極,Ⅲ頻繁)タイプがなく,Ⅳ 非交流のみである。また,母親の成長期の住まいが独 立タイプであるときに,Ⅳ非交流タイプか,それ以外 の交流ⅠⅡⅢタイプであるかは関係ないことが読み取 れる。父親(男性)の場合には成長期の住まいのあり 方が家族との交流の様子と関係していたが,母親(女 性)の場合にはそうした関係がないことは特徴的であ る。こうした差異は,子世代の調査ではみられなかっ た。 2)親子の成長期の住まいと家族との交流 さらに,親が成長期の頃の父と母両方とのコミュニ ケーションタイプと住まいのタイプを整理し,大学生 の成長期のコミュニケーションタイプとの関係を図9 にまとめた。 父が成長期の住まいが独立タイプであるとき,大学 生の子の成長期における対父親コミュニケーションタ イプがⅣ非交流の割合が高い。また,父が成長期のと きにⅠⅡⅢ交流タイプである場合,大学生の子と交流 がある割合が高い。父親が体験した関係性が,次の世 代での家族関係に影響しているといえる。 また,母が成長期の頃に親との交流があった場合に は,子の成長期における交流があった割合が高いこと が特徴的である。父親ほど明確ではないが,母親の成 長期における家族との関係も,次世代の家族との交流 に影響していることがわかる。 6.まとめ 本稿では,「大学生の親」の世代の,成長期の住まい と家族との交流の様子を調べ,また住まいに対する評 価の構造を明らかにするとともに,親と子の世代での 家族との交流の様子に,親世代の成長期の経験が影響 しているのか等を分析した。以下に主な知見を挙げる。 1)親世代の成長期の住まいの空間条件とコミュニケー ション ① 小学生時期には寝室へのアプローチと各室へのアプ ローチに偏りがあるが,中学生時期にはその関係が 多様に分散する。 ② 小学生時期には自室へのアプローチと団欒空間の通 行,住まいの居心地(0.558),対父親コミュニケー ションの印象に[やや強い相関]がある。また,自 室アプローチが廊下である場合,対父親コミュニ ケーション印象はネガティブである割合が高い。ま た,廊下型では住まいの居心地が「良い」とする割 合が高い(一般的な認識と逆)。中学生時期にはそ うした関係はない。 ③ 中学生時期には平日- 休日の過ごし方と父室・母室 Ⅳ ⅠⅡⅢ Ⅳ ⅠⅡⅢ Ⅳ ⅠⅡⅢ Ⅳ ⅠⅡⅢ Ⅳ ⅠⅡⅢ Ⅳ ⅠⅡⅢ 0.2928 やや弱い関連 クラメール の連関係数やや弱い関連 0.4667 やや弱い関連 0.2666 関連なし 0.1419 関連なし 0.0403 関連なし 0.2335 図8 成長期のコミュニケーションと空間構成の関係 6 8 2 2 3 4 4 9 6 8 8 9 7 11 10 10 16 15 19 大学生の成長期の住まい 父との COM 母との COM 母親の成長期の住まい 母親の対母親 (MM)との COM 母親の対父親 (MF)との COM 父親の成長期の住まい *「交流」には自室、水廻りタイプも含む 父親の対母親 (FM)との COM 父親の対父親 (FF)との COM 独立 住まいの 空間構成 交流 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ 図9 子の成長期の住まいでのCOM タイプ 独立Ⅳ 2 2 2 3 6 3 8 12 大学生の成長期の 母COM タイプ 円の数:人数 傍ら数字なし は1 大学生の成長期の 父COM タイプ 独立 ⅠⅡⅢ 交流 ⅠⅡⅢ 交流Ⅳ 父親の成長期の 住まい 独立Ⅳ 独立 ⅠⅡⅢ 交流 ⅠⅡⅢ 交流Ⅳ 母親の成長期の 住まい 自室へは廊下以外 からアクセスする 廊下以外 からアク セスする 自室へは主に廊下 からアクセスする 廊下他 主に廊下 からアク セスする 〈独立〉 団欒空間や家 族のいる部屋を介さずに 水廻りを行き来できる。 〈交流〉 団欒空間や家族のい る部屋を介する。 〈自室〉 水廻りは独立だ が、部屋へは廊下以外か らのみアクセスできる。 〈水廻り〉 自室は独立だ が水廻りへは廊下以外か らのみアクセスできる。 *表の数字:上から順に「父親の成長期の住まい」「母親の成長期の住まい」「大 学生の成長期の住まい」から得られた人数 自室へのアプローチ 表4 成長期の住まいの空間構成 6 0 13 3 30 8 13 3 5 12 5 2 水廻りへの アプローチ 廊下 他 *表の数字:上から順に「父親の成長期の住まい」「母親の成長期の住まい」「大 学生の成長期の住まい」から得られた人数 *網掛けあり:父親とのCOM タイプ、網掛けなし:母親とのCOM タイプ COM を頻繁に とっている COM は頻繁では ない コミュニケーションの頻度 COM をとる ことを好まし く思っている COM する ことに感心 はない Ⅰ.交流 家族と交流す ることを好ましいと感じてお り、頻繁に交流していた。 Ⅳ.非交流 家族と の交流に感心がなく、 あまり交流しなかった。 Ⅱ.積極 家族と交流す ることを好ましいと思ってい るが、あまり交流しなかった。 Ⅲ.頻繁 家族との 交流に感心はないが、 頻繁に交流していた。 表3 コミュニケーションタイプ P 頻繁他 他 23 4 10 6 31 10 1 18 1 6 5 1 6 5 6 9 12 1 0 12 3 2 18 11 コミュニケーション の印象 − 24 − へのアプローチとの[やや強い関連]がみられた。 2)場面の成立要素と価値 ④ 自室での場面の成立要素としては,自分の居場所や ひとりの時間を持てること,家具への言及が多く, 子世代対象の調査結果と同様である。 ⑤ 自室での場面の価値としては,集中できる,コミュ ニケーションは子世代と共通。知識がつく,成績が 上がる,成長する,など勉強に関する成長感は,自 室の役割への意識として特徴的である。また,子世 代との違いとして生活力,自立,職業選択,という 主体性や就労への意識が具体的な語で言及された。 ⑥ 団欒空間での記憶に残る場面としては,テレビを観 る,食事をする,家事,団欒,音楽鑑賞,親戚や友 達が集まる,など多様な場面が挙げられた。子世代 との特徴的な違いのある場面は,家事と,自分と母 親が裁縫をする,であった。 ⑦ 団欒空間での場面の成立に必要な条件としては,家 族,親,きょうだい,など人に関する語,また時代 柄,テレビやこたつなどの家電にも言及された。な お,テレビへの言及や,人の集まりの場としての印 象は,子世代と共通している。子世代との差異とし ては,年越しやクリスマスなどイベントの記憶が年 月を経ての振り返りとして特徴的であった。 ⑧ 団欒空間での場面の価値は,コミュニケーションや 感情・情報・時間の共有といった,団欒そのものに 向けられた。 ⑨ 自室と団欒空間では,いずれも感情・場所・行為の 全要素が言及された。このうち特に「場所」では, 他者の存在の割合が高く,人と過ごしたことが記憶 に残る場面の要素や評価の要素として,場所と結び ついて記憶・想起されていることがわかる。「行為」 は,設えに関連する語と状況に関する語の比率が戸 建・自室で高く,戸建・団欒空間ではそれに加えて 他者との行為が併せて記憶・想起されている。 3)親視点での子育て期のコミュニケーション ⑩ 小学生時期では[遊び],中学生時期では[勉強] の割合が高い。また,小学生時期に,集合住宅だけ 浴室で[遊び]の割合が高く,住まいの中で,遊び の場所としての価値が相対的に高かったのではない かと推察される。 ⑪ 和室を[寛ぎ・就寝]の場としていた割合は,小学 生時期では集合住宅(就寝の場を兼ねる),中学生 時期では戸建で高い。LD を[勉強]の場としてい た回答は,中学生時期よりも小学生時期で割合が高 い。小学生時期では住戸形態によらず,DL は勉強, 家族の団欒や食事,こどもの遊びの場など様々な活 動ができることを前提に,家具等も設えられていた。 ⑫ コミュニケーションを取った場所は,最も多い場所 は小学生時期/中学生時期,と,戸建/集合住宅の 別によらず団欒空間である。次にこどもの部屋,家 族の部屋が多い。 ⑬ 場所ごとのコミュニケーションの場面は,父母とも に中学生時期には生活の自立が小学生時期よりも高 く,小学生時期には遊びと勉強の比率が高い。 4)親の成長期の住まいと大学生の成長期の住まい, コミュニケーション ⑭ 父親の成長期の住まいが独立タイプである場合に, Ⅳ非交流のみである。母親の成長期の住まいでは独 立タイプであるときに,Ⅳ非交流タイプか,それ以 外の交流ⅠⅡⅢタイプであるかは関係ない。こうし た差異は,子世代の調査ではみられなかった。 ⑮ 父が成長期の住まいが独立タイプであるとき,大学 生の子の成長期における対父親コミュニケーション タイプがⅣ非交流の割合が高い。また,父が成長期 のときにⅠⅡⅢ交流タイプである場合,大学生の子 と交流がある割合が高い。父親が体験した関係性が, 次の世代での家族関係に影響しているといえる。 ⑯ 母が成長期の頃に親との交流があった場合には,子 の成長期における交流があった割合が高い。 以上の結果,特に父親の場合,親世代では住まいの あり方と交流の様子が関係しており,その経験は子世 代との交流の様子にも影響している等の知見を得るこ とができた。また,子育て期の住まいにおいて意識さ れ記憶に残る場面として,団欒(食事・関わり)・勉強・ 遊びという3 つに大きく整理できる。これらはしばし ばそれぞれのテーマとして扱われてきたが,これらは 相互に関連する一体の住まい,住環境体験イメージと して理解することが実態に近しいと考える。家族関係 や住まいのあり方は多様化しており,「正しい」家族像 というものは限りなく定義しにくいが,住まいのあり 方が家族の交流のあり方や,それが世代を超えて伝搬 することへの知見は,住まいの計画や家族のあり方に 応じた住まいの選択の資料となると考える。 なお,充分な分類と統計処理に耐える充分な調査数 − 25 − が得られた場合には,住まいの空間条件,特にリビン グ等の団欒空間の具体的な空間構成についてや,家族 構成の詳細など,より多くの分析が可能な要素が想定 される注8)。 注 注1)小学1 年生では記憶が不鮮明な可能性,また中学校1年 生では小学生時期との記憶の混同がありうると考えて除いた。 また6年生と中学3年生では受験勉強などの影響で自宅での 過ごし方に大きな変化が生じうるため,小学2~5年生と中学 2年生を調査対象時期に設定する。なお,小学校の低学年時期 から高学年時期には記憶に幅があるが,そこでの差異よりも, しばしば高学年時期を境に住まいでの過ごし方や家族との関 係が大きく変わることを想定して「思春期以前(小学生時期)」 と「以降(中学生時期)」の差異に着目して分析を行っている。 注2)非建築学生は平面図の描写が困難であるため,調査員が聞 き取りで平面を描き起こした。この場合,調査Ⅱが行い難いた め,2013 年は平面図を描写できる建築学生のみを調査Ⅰの対 象とした。 注3)調査対象者ごとに感じ方や状況により回答の軸は多様であ る。3章「住まい方・家族の交流」の定義の際は,大まかな傾 向や特徴を掴むため,回答分布の傾向をもとに3つに分けた。 注4)自室の有無とは,回答者である本人の自室があるか,本人 と家族の誰かとの共有部屋か,本人は自室をもっていないかを 示す。 注5)家族が就寝する和室や洋室,回答者が“ 〇〇の部屋” と記 した室を含む。親の部屋は父室,母室,本人の部屋は自室と記 載。兄弟姉妹での室の使い分けも尋ねたが,きょうだいとの年 齢差・性別・同室/別室など組み合わせが多岐に及びそれぞれ が統計分析上十分な数とならないため,父母のみを分析対象と した。 注6)住まいの空間条件とコミュニケーションの関係は注図の通 り。 注7)「得られた価値」とは,その場面が調査対象者の心情や成長・ 発達にどのような意義や,どのような影響があったかを意味す る。また,住まいの空間条件と過ごし方を把握する調査Ⅰにお いて,回答者には「家族の団欒はどこでしていましたか」と尋 ねて" リビング" などの分類を行い(図3)っている。記憶に 残る場面のインタビューでは「家族で団欒をしていた空間(イ メージされにくい場合は「家族で過ごしていた空間」と表現)」 での場面を尋ねた。 注8)なお,回答者の家族の中での属性(性別,長子/末子,家 族構成)や,調査対象時点での同居の兄弟姉妹,祖父母との関 係,子の性別も尋ね可能な限り記録した。また,しかし,それ らの組み合わせは多岐に及びそれぞれが統計分析上十分な数 とならないうえ,単純な男女差よりも個人差,個々の家庭の差 (地域差や父母の出身地域,職業,経験,思想,趣味嗜好等々) はより大きく影響し,相互の関連性を切り分けにくいことか ら,家族構成の詳細に踏み込まない分析を行っている。上記に 挙げた想定される影響要素や関係などは,それぞれの内容が独 立的なテーマとなりうる影響要素と認識する。 参考文献 1)文部科学省,不登校児童生徒への支援に関する中間報告, http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/108/ houkoku/1361484.htm 2)那須涼介,田中直人,植田早紀:親子の子ども部屋に対す る意識~子どもとのコミュニケーションが生まれる家庭環境 に関する研究 その1~,日本建築学会大会学術講演梗概集, 5570,pp.1181-1182,2012.9 3)植田早紀,田中直人,那須涼介:親子の子ども部屋に対す る意識~子どもとのコミュニケーションが生まれる家庭環境 に関する研究 その2~,日本建築学会大会学術講演梗概集, 5571,pp.1183-1184,2012.9 4)江上徹:住居に於けるコミュニケーション空間に関する研究 その1,日本建築学会大会学術講演梗概集,E. 建築計画分冊, pp.131-132,1991.9 5)圓野謙治,江上徹:住居に於けるコミュニケーション空間に 関する研究 その2,3,日本建築学会大会学術講演梗概集, E-2, pp.391-394,1996.9 6)中野睦子,定行まり子,小川信子:子どもの発達段階からみ た集合住宅の住環境,日本建築学会大会学術講演梗概集,E-2, pp.409-412,1996.9 7)森保洋之,山田直美:家族のコンタクトとこどもの居場所の 関係について 子供を中心に見た住空間の計画に関する研究, 日本建築学会大会学術講演梗概集,E-2, pp.23-24,2001.9 8)森保洋之,山田直美:子供を中心にみた住空間の計画に関 する研究 その2 家族のコンタクトと子供の居場所の関係に ついて,日本建築学会大会学術講演梗概集,E-2, pp. 9-10, 2002.8 9)山田直美,森保洋之,他:子供室の位置から見た住空間の子 供に及ぼす影響について,日本建築学会中国支部研究報告集, pp.465-468,2000.3 10)仙田満,宮本五月夫,他:児童のあそび環境の研究 −その 5 あそびの原風景を探る,日本建築学会大会学術講演梗概集 56,pp.1677-1678,1981.9 11)仙田満:原風景によるあそび空間の特性に関する研究 −大 人の記憶しているあそび空間の調査研究,日本建築学会論文報 告集322,pp.108-117,1982.12 12)山田あすか:従来型小学校での「記憶に残る場面」にみる 学校空間 −成人による振り返りに基づく学校建築空間の再 考 その1,日本建築学会計画系論文集,No.669,pp.2065- 2074,2011.11 13)山田あすか,倉斗綾子:成長発達期における住まいの空間 構成と家族のコミュニケーションの関係についての研究,日本 建築学会計画系論文集,No.684,pp.299-308,2013.02 14)高橋愛香,山田あすか:大学生を対象とした成長期の住環 境の評価 −「振り返り」に基づいた住環境の有り様に関する 研究(1),地域施設計画研究,vol.38,2020.07 15)相馬一郎,佐古順彦:環境心理学,福村出版,1976 自室アプローチ B: 廊下 C: 両方 小学校2~5年生 ③ 対父親COM・印象 ポジ ティブ ネガ ティブ どちら でもない 注図 住まいの空間条件とコミュニケーションの関係,補足 2 2 1 1 3 5 A: 団欒 空間 自室アプローチ B: 廊下 C: 両方 小学校2~5年生 住まいの居心地 良い どちら 悪い でもない 4 1 1 1 1 A: 団欒 空間 7 *図2のからの関係にあたる − 26 −