建築・環境計画研究室
*当ページの文章や画像の無断引用・転載を禁じます*
JIHa医療福祉建築1/2010,166号より
こども関係の書類を書くことが多いこの季節(イヤ普段からいろいろ書かないといけないですけれども。保育所の申込み,学童保育の申込み,就学準備の季節ですね!),
「正常分娩」「異常分娩」というワードに傷つかれる方が居ると聞き。
もう7年前になりますか,寄稿した原稿を掘り起こしましたので掲載します。
届け! この思い!
*著作権は放棄していません。引用の際は,出典として
「山田あすか:医療福祉建築,日本医療福祉建築協会,P.18,2010.01」
を明記してください。
必要な方に届くことを願って,公開しています。ご理解ご協力のほどよろしくお願いいたします。
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*著作権は放棄していません。引用の際は,出典として
「山田あすか:医療福祉建築,日本医療福祉建築協会,P.18,2010.01」
を明記してください。
必要な方に届くことを願って,公開しています。ご理解ご協力のほどよろしくお願いいたします。
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■ 失地回復 −主体・関係・過程の回復
近年,お産環境には様々な話題がある.産科医・出産場所不足やお産環境の地域格差などが指摘される一方,個室や食事,マッサージなどのサービスが行き届いた産院や,助産院や家庭での出産も注目されている. “畳敷きの「分娩室」で家族に見守られて生まれる新生児は,いわゆる出産シーンのように大声では泣かない1.ほっとしたような声を上げたその子は母の胸に抱かれ,柔らかく暖かな薄闇に母の汗が誇らしげに光り・・”などという助産院レポートを読むと,おそらくその真逆の出産経験をもつ筆者は思わず腕組みする2.ある助産院では見学者の多くがそこでの出産を希望するそうで3,その親密で穏やかな環境が妊産婦をひきつけるらしい.なぜか.
察するに,そうしたお産のあり方に「生む・生まれる」ことの本質を見いだすからではないか.出産に関する文献で取り上げられたキーワードを抽出し,整理してみた(図).ここからは,過度の医療依存を脱し,主体的なお産や家族・助産師との関係,親子になっていく過程を取り戻そうとする動きが見える.これを「主体・関係・過程の回復」と呼んでみる.もう一度それを体験するかもしれない一人として,生む/生まれる空間としての療養・生活環境にはこの失地回復を助けて欲しいと思う.
■ 「主体」の回復
産婦が自分の楽な姿勢や呼吸法で出産に臨む「アクティブバース4」は近年のお産キーワードのひとつである.産婦がリラックスできる出産環境にも関心が払われており,例えば薗部5は,英国での出産経験を元に,個々の妊婦が一番居心地良く感じる環境が用意されていたことを報告している6.先述の助産院も含め,「生む」主体にとっての環境が重視されることで,生む力,生まれる力を引き出すことが支援されていると言えよう.
■ 「関係」の回復
医師や看護師,助産師との信頼関係を構築したうえでお産ができ安心だった,などのレポートが出産雑誌で報告されている.産婦が主体性を発揮し自らが望むお産を伝えるためにも,コミュニケーションは重要だろう.田島ら3は助産院でのじっくりと時間をかけた検診や穏やかな診察室の様子を紹介しており,助産師等とのコミュニケーションが計れる環境づくりの大切さが読み取れる.
家族や母子の関係にも触れたい.出産直後の母子の過ごし方が愛着の形成を助けると言われ,新生児を母親が肌を合わせて抱くカンガルーケアや母子同室が可能な出産施設も多い.例えば池川医師は産科医が子育てに関わるべきだとの井深の論に触れ,「母子の絆を断ち切らないお産」を目ざしてカンガルーケアを導入した経緯を紹介している7.検診や出産の際にはパートナーやきょうだいなどの家族が立ち会うことも多く,待合い空間や産後の回復期なども含めて家族で過ごせる環境ならば嬉しい.
■ 「過程」の回復
生む,生まれるという行為はおなかに生命が宿ったとき(あるいはその前)にはじまる一連の過程であると思う.胎児は周囲の様子を聞き母の感情にも影響されると言われ,妊娠中からの母子の関係づくりやそれを支援する環境づくりに積極的に取り組む医師や助産師もいる.
筆者の母の育児日記には,陣痛が始まった夜明けに窓から白む空を眺めたとあった.それが印象深く,自分も出産当日の夜明けに病棟の廊下の窓辺に立ち数時間後に生まれる子に言った.青と橙と桃色に染まるこの綺麗な空を一緒に見よう,世界はあなたを歓迎すると.6床室の廊下側で入院生活を送っていた筆者にはその場所は貴重で,振り返るに母となる覚悟を決めるというか,自分とこどもに向き合う場所/環境を必要としていたと思う.
出産のときはむろんのこと妊娠中から産後まで,環境は新しい家族が生まれる過程を支援できると考える.
■ 自然なお産:受容し肯定する環境
3つの失地回復の目的は,家族の愛着形成と肯定感だと思う.正しいお産などというものを論じてはいない.「自然なお産」という語も見るが,現代的意味での自然は,リスクを含めて一人ひとり1回ごとに違うお産を受容することではないか.帝王切開もなるべくしてなったそのお産の「自然」だと言えば詭弁か.分娩台で産むのも昰,元気に泣いて生まれてくればそれも良し.生き物が命をつなげようという営みに敬意が払われ不安すらも肯定される,柔らかく穏やかな環境にありたいと思う.
注・参考文献
1) 無影灯が白々と照らす「病院」の分娩室では,赤ちゃんは急にまぶしくて,寒い場所に出るのでビックリして泣くのではないかとはある産婦人科医の談.
2) 【参考文献】田島喜美恵,他:特集 激動のお産空間,建築雑誌 第124集・第1590号,pp.24-35,2009.05
3) 医療主導のお産ではなく,産婦が自分に合った呼吸法やリラックス法,分娩の姿勢などを選び,主体的にお産に臨むことと解説される.
4) 【参考文献】薗部容子:子供の生きる国,新風社,2005.07
5) 【参考文献】池川明:おぼえているよ.ママのおなかにいたときのこと,二見書房,2002.10
【和文要約(150字以内)】
近年の出産に関する文献などで取り上げられるキーワードを,「主体・関係・過程の回復」に整理してみた.そこに見えたのは,過度の医療依存を脱し,主体的なお産や家族・助産師との関係,親子になる過程を取り戻そうとする動きである.一つひとつ違うお産を受容し,家族の愛着形成を助け肯定感をもたらす環境が望まれる.(149)
幸福のレシピ
著者:藤井あけみ
<内容>
チャイルド・ライフ・スペシャリストは病気のこどもたちとそのご家族を精神的にサポートする専門医療スタッフである。そのスタッフである藤井あけみさんがご自身の経験をもとに,こどもたちひとりひとりの「幸福のレシピ」について書いている。
・「切らない」手術
入院している亜沙美ちゃんは手術に対して不安がある。この不安をどう取り除けば良いのか。
手術のときにおとなにとって「眠ってするから怖くない」という言い方はこどもから恐怖心や不安をなくすための良い方法だと考えられているようだ。しかし「眠ってするから怖くない」という言い方で納得出来るこどももいれば「眠ってするから怖くない」と言われると「眠っている間に何があるかわからない」という考えを持つこどももいる。ひとりひとり様々な個性を持っているからこそプレパレーションやディストラクションをこどもにあわせて行っていく必要があるとわかった。また今回のお話では手術の説明をする際に、「切る」という言葉を使わずに「開いて、治して、閉じる」という言い方をしたそうです。痛みを連想させる言葉を使わないことでこどもなりに治療について理解し、恐怖心や不安を取り除くことが出来たそうだ。
・さんぽ さんぽ さんぽ
入院している良介くんが検温も嫌がって泣き,遊びに誘ってもやろうとしない。良介くんの暗い顔を晴れやかな顔にするために著者の藤井あけみさんは少しずつ心の距離を縮めながら信頼関係を築き,病棟内を散歩するという手段で晴れやかな顔にした。
このお話で出てきた病棟内でのお散歩ということが大切だと思った。病室やプレイルームで出来る遊びの空間以外にも病状や感染を防ぐために外に出られないこどもたちにとって外に出なくても周りの景色や雰囲気が変わるような場所で散歩が出来るということは気分転換やとてもいい刺激になると思った。
熊本実桜
小児病棟の四季
細谷亮太
■内容
細谷先生が今まで人生で体験したことや病院での経験から生きることのすばらしさや辛さを書いている。
<クリスマス>クリスマスがもうじきのころ最後に具合の悪くなったすみ江ちゃんのお話。クリスマスイブにだいすきなごちそうが運ばれてきても食べられずつらそうにしていたすみ江ちゃんだったが細谷先生がすみ江ちゃんのだいすきなリンゴをクリスマスプレゼントとしてあげるとにっこりとして「ありがとう」といって大晦日になくなった。
<星のクッキー>病棟でのこどもたちの生活を明るい張り合いのあるものにするために看護婦さんや保母さん、それに栄養士さんの助けを借り1年間で様々なもよおしをする。その1年間の中でたくさんのこどもたちがこの世からいなくなってしまう。その中でもお父さんはボーっとしていて新しいお母さんは全くやさしくされていなかったユウジ君のお話だった。
■感想
短編のお話がいくつか綴ってある本だった。その中でも<クリスマス>と<星のクッキー>は特に印象に残った。入院しているこどもたちにも普通に外で生活しているこどもたちと同じように季節やイベントがあってそれを楽しみに治療を頑張っているこどもが大勢いる。こういったイベントはこどもたちを前向きな気持ちにさせるのだと思った。また家族や一緒に治療を頑張っているこどもたちの交流の場になるため記憶に残すことができる。治療が中心の限られた生活の中で少しでも楽しい生活しようとする周りの努力や配慮などの環境がこどもたちの生活にはとても大切なことだと思った。
熊本実桜
T病院小児病棟の改築に伴う環境移行の評価とプレイルーム計画提案の検証
伊藤弘紀・山田あすか
1,背景と目的
慢性小児疾患の治療成績が向上し,小児療養はこどもと付添家族の長期間の生活の場であると同時に成長・発達の場としての役割を担う.本稿では,改築で環境が一新されたT 病院小児病棟を対象にプレイルームの計画提案の成果を検証する.
2,調査概要
特にプレイルームの環境と利用状況の変化に着目し病棟共有空間を対象にアンケート調査と観察調査を行った.調査対象者は入院中の患児と付添家族,病棟スタッフのうち,協力が得られる人.
3,環境への評価からみる改築の効果
場所の利用と評価から見ると,プラスの評価に移行している.環境への評価コメントの整理と比較から見ると,医療介護のしやすさから生活のしやすさへコメント内容が変化していることが分かる.また改築前後での環境の印象評価因子を比較すると,第1因子が“雰囲気因子”から“デザイン因子”に移行しており,具体的な環境構成に興味関心が生じている様子が推察できる.
4,プレイルーム利用実態の変化
改築前後の様子を比較すると付添家族の滞在のしやすさなど改築前の課題を克服する計画提案の目標は,概ね達成されている.プレイルームでは年齢や遊びに応じたゾーンごとに利用者が滞在し,動線が整理されている.またスタッフの滞在プロットから,プレイルームのスタッフの立ち寄りや患児との関わりが改築後には明らかに多く,こどもや家族との関わり機会が増したことがわかる.
(熊本実桜)
「あの子」の記録(エピソード) 実践例にみる建築計画の意義と責任について
山田あすか
小児療養環境における建築計画の知見や研究成果に基づくデザイン提案による環境づくりの実践例を取り上げてその過程と成果を報告する.この建築計画とその職能者の役割について述べる.
1,建築計画の役割
新築建物だけを考えてもいられない昨今,例えば改修によって建物が新しい仕組みや機能の受け皿として生まれ変わることは,「施設種別」ごとの単純な一方向への発展はないように思う.構築物としての良さと,場や心理としての良さ,しくみとしての成り立ちの具合,を分離して捉え,それらを案件ごとの特性やニーズやコンセプトに合わせて縒り合わせ,ひとつの建物と場,またその仕組みをつくりあげるという姿がより現実に合っているのではないか.建築計画は,その幅広い視野の獲得と選択を助ける役割を担うと考える.
2,本質へのアプローチと援用範囲の拡大
例えば高齢者住居/通所施設と保育所・幼稚園・就学前保育施設はそれぞれ異なる施設類型において活動してきた活動だが,その本質は実に類似しているのであって,こうしたある施設類型での環境づくりの考え方や工夫には,他に援用可能なものがおおいに含まれる.このように,建築計画的視点による建築空間と場のデザインにおいては,抽象化,つまりデザインの本質を取り出す作業というステップを踏むことで,まったく異なる施設類型にも適用可能な知見を得ることができる.
3,小児療養環境での建築計画学的実践
新しいプレイルームは保護者を含め患児の幅広い年齢に応じた寸法の設えを設けること,活動の内容と場を可視化し遊びを誘導すると同時にこどもの主体的な活動を引き出す支援をすること,などを盛り込んだ基本設計を提案した.
病棟保育士のお話から,こどもの楽しそうな様子や成長への喜び,またそれをこどもの楽しそうな様子や成長への喜び,またそれをこどもや家族と共有できたことを,印象深く思っていることがわかる.また“治った”こどもにとっては,環境はストレスを減じて治療に向かう意欲を助け,こどもらしい成長・発達を助けて治療や退院後の生活復帰に役立っていたと考えていることが確認できる.さらに病院で生命を生ききったこどもにとっての価値を振り返っても,療養生活のなかでもお友達や家族を遊んだり,好きな遊びを見つけて,お気に入りの場所を見つけて,その日々なりに楽しく少しでもプラスな気持ちで過ごせていたということが,のこされるもの家族やスタッフにとっての,すくいにもなるのだという思いを読みとることができる.
4,建築計画の存在意義/建築計画の職能と役割
ある建築の設計によって間接的に誰かを壊したり,犯罪行為を助長しうるわけで,建築とは「怖い」ことなのだと伝える.また,これを足がかりに,建築や環境が異なることで人々の心理や行為,生活にどのような差異が生じうるか,あるいはいかに建築や環境が人々の助けになり得るかを伝えている.建築や環境による生活の差異や,同時に建築や環境を適切に整えることで生活を助けることができることを伝えること,これも建築計画の職能者に是非期待したい役割である.
■感想
建築計画に携わるということは良くも悪くもそこで生活している人々の生活に大きく関わることになるということがわかった.人々が関係を築きあげたり,思い出を作るためにはそこにただ空間があれば良いというわけではなくなにかきっかけがなければいけないのだと思った.そのきっかけをつくるお手伝いをするのが建築計画であると感じた.またさらに今回のプレイルームは病棟ということで普通の生活に比べ生活に制限があると思う.その中で最大限こどもたちの力を引き出し,記憶に残る生活ができるようにしなければならないのだと思った.
(熊本実桜)
こどもと家族の利用実態に基づく
小児病棟プレイルーム改修における調査・デザインと検証
山田あすか・上野淳
日本建築学会技術報告集 第13巻 第25号 219‐224 2007年6月
1.研究の背景と目的
聖路加国際病院は、1933年に小児病棟内にこどもが遊ぶスペースを設置、1993年の全面改修に際しても、再びプレイルームが設置された。その後、問題点や課題点が生じ新たな計画を立案し、2005年4月に竣工となった。
本稿は、当該プレイルーム改修に関して、
1)実地調査、課題点の整理、設計提案、改修後の調査分析による実行評価、を一つのサイクルとする計画研究の一事例を報告する
2)プレイルーム改修前後の使われ方を比較し、計画時に指摘した問題点が解消されプレイルームの設置目的が実現されているか、提案した空間が想定のように効果を挙げているか、の検証を行う の、2点を目的とする。
2.調査概要
本研究では、こどもと付き添い家族の滞在様態と動線の調査、及びプレイルームの利用実態と評価に関するアンケート調査によって改修前後のプレイルームの利用実態を多角的に把握した。
3.改修前プレイルームの利用実態
・付き添いの大人の滞在が考慮された設えがなされていないため、安定的に「居る」ことが困難な状況である。
・こどもや家族が自ら場所をつくり、グループの数及び規模の選択可能性を保障する空間構成が望ましい。
4.課題抽出からコンセプト・ダイアグラム・平面提案に至る経緯
プレイルームの改修にあたり克服すべき課題点に基づき、コンセプトに整理し、コンセプトに対応した空間構成ダイアグラムを作成した。また、こどもの身体寸法の基準となる寸法を設定し、平面計画を完成させた。
5.改修後のプレイルームの利用実態、及び改修前後の比較による改修提案の検証
・平日の自由遊び時間の利用者数は改修前の約1.7倍、滞在時間の合計は1割程度の増である。一方、休日の利用者数、滞在時間の合計が少なくなった。
・滞在場所の選択肢が増え、同時に居合わせるグループ数が増え提案に沿った使われ方になっている。
・病棟に入院していたこどもとその家族に対し、プレイルームの使い方と要望に関するアンケート調査を行い、改修のコンセプトが実現したコメントがある一方、提案の成功による幣害が指摘された。
6.本稿の成果と今後の課題
・プレイルームの使われ方の推移をあきらかにし、変動に耐えうる計画を考究する
・居場所の提供を念頭に置いた本提案の効果について検証を行う
・プレイルームの意味合いや生活、発達への寄与の実態を明らかにする
・当該病院のプレイルームの改修の効果のみならず、広く医療をバックアップするこどもとその家族の療養生活環境の在り方の効果に迫る知見が得られると考える。
7.感想
改修前に問題があるか使いやすいかなどの調査を行い、問題がある場あい改善するための計画を作成し,改修後に再び調査を行い以前の問題が改善されより使いやすくなったか、新たな問題が生じたかなどを調査することは次の設計に生かされる研究だと思いました。
今宮拓哉
入院患者のコミュニケーションに関する研究
―病棟計画へ向けた一つの視点として―
福田泰基,岡本和彦,長澤泰
日本建築学会大会学術講演梗概集 (北海道)2004年8月
1.背景と目的
近年竣工された日本の病棟は、個室の割合が増加しており、さらに今後も「個室化」の傾向が強まることが予測される。プライバシー確保、病床回転率、感染症患者の取り扱いなどのメリットがあるが、一方で個室は淋しい、不安だというデメリットを指摘する意見もある。入院患者のコミュニケーションに着目し、今後の病棟計画の方向性を模索していくことが本研究の目的である。
2.研究の調査方法
入院患者対象のアンケート調査、対象施設は一般の3つの病院で実施(特殊なコミュニケーションが予測される小児科、婦人科、精神科以外の数病棟)
3.入院患者のコミュニケーションの実態
個室患者より多床室患者の方が「話をする相手がいる」と答えた人が多い。個室患者、多床室患者ともに「話自体したくない」と答えた人が最も多い、個室患者に交流がないのは病室よりも、患者個人のパーソナリティによるところが大きいと考えられる。
4.入院患者のコミュニケーションに関する「願望」
入院患者自身がコミュニケーションを図ることに対して、実際どう思っているのか、アンケート調査を行い、結果を「願望」の類型化した。
個室患者はタイプA「交流拒絶型」が最も多い。
多床室患者は個室患者とは異なり、タイプA,B,C,Dそれぞれに分かれた。
5.まとめ
個室化の中でコミュニケーションを望む患者にどう対応していくか、またコミュニケーションを望まない患者もいることは確かであり、患者自身の自主選択に委ねられるような病棟環境が望まれるのではないかと考えられる。
7.感想
病棟でコミュニケーションが必要なのか疑問、しかし長期入院患者には、病気に対する不安が和らぎ、コミュニケーションの場を多く設けることも大切ではないかと思った。
横井 玲伊
1「福島県地域医療再生計画(会津・南会津医療圏)~へき地医療支援の会津モデル構築に向けて~」 福島県(震災前)の会津・南会津の医療再生計画をまとめた資料 ・福島県の概況 非常事態宣言を出して診療制限を実施する病院や、内科の入院を受け入れられなくなった病院があるなど、病院勤務医の不足は極めて深刻化しており、医療提供体制が崩壊寸前となっている病院がある。 また、一時休診に追い込まれたへき地診療所もあり、へき地診療所の医師確保は綱渡りの状態が続いている一方、常勤の産婦人科医が1人もいない二次医療圏があるなど、地域偏在、診療科間の偏在も深刻な状況。 診療科ごとに見ると、特に不足しているのは産婦人科医・小児科であり、県全体で不足している。 ・概況を踏まえた課題 ( 1) 医師不足(病院勤務医不足)~県立医大の充実強化(医学部定員増、教育・研究環境の充実) 2) 地域偏在~医師派遣システムの再構築(県立病院の統合、県立病院の附属病院化、医大派遣教員の増員 ) 3) 診療科偏在~女性医師の復帰支援、家庭医の育成、病診連携(女性医師支援センター整備、病診連携産婦人科・小児科支援、地域・家庭医療センター整備)
2.「福島県地域医療再生計画(相双医療圏)~『地域完結型』救急医療の相双モデル構築に向けて~」 福島県の相双(震災前)の医療再生計画をまとめた資料 ・相双医療圏の概況 相双医療圏は相馬地域の4つの市町村、双葉地域の8つの町村で構成。 圏内の16病院のうち、相馬地域で救急医療を中核的に担っているのは、相馬市の公立相馬総合病院(240床)と相馬中央病院(97床)、南相馬市の南相馬市立総合病院(230床)、渡辺病院(175床)、小野田病院(199床)、大町病院(188床)の6病院である。 また、双葉地域で救急医療を中核的に担っているのは、富岡町の今村病院(90床)、大熊町の県立大野病院(150床)、双葉町の双葉厚生病院(260床)、浪江町の西病院(79床)の4病院であり、特に、一般病床数で見ると、県立大野病院(150床)、双葉厚生病院(120床)、西病院(42床)、今村病院(36床)となっている。 中小規模の病院のみで医師数も少ないなど、県内でも脆弱な相双医療圏の中にも、さらに医療資源の地域偏在がある。 相双医療圏は、県内医療圏の中で南会津に次いで医師が少ない地域であり、中小規模の病院がほとんどであるため、救急医療を担う病院勤務医が恒常的に不足し、県内でも特に厳しい状況にある。 非常事態宣言を出すなど診療制限をする病院が複数出てきており、一刻も早く病院勤務医を確保し、医師を安定的に確保する仕組みを構築する必要。 また、双葉地域においては、夜間救急に対応できる初期救急医療体制が整っておらず、二次救急医療を担う中核病院がないなど、医療資源に乏しく、各病院間の役割分担と連携が不十分あるため、救急搬送の多くを管外の相馬地域やいわき医療圏に依存しており、また、ほとんどの病院で勤務医の就業環境が悪化していることから、早急に救急医療体制を整える必要である。 二次救急医療を担う相馬地域の中核病院や相双医療圏の三次救急医療をも担う総合磐城共立病院においても、救急搬送件数の増加や病院勤務医の不足等により、救急医の就業環境が悪化しており、救急医療体制の維持そのものが厳しくなっているため、早急に対策を講じる必要がある。 さらに、相双医療圏は、阿武隈高地を始めとする中山間地域が多くを占め、県内でも無医地区数の最も多い医療圏であるという特徴があります。これらの地域は、比較的高齢者の住む割合が高くなっていますが、公共交通機関が少ないなど、病院へのアクセスが不便であり、医療サービスを受けにくい地域であることから、訪問看護や訪問診療などの在宅医療の充実強化や地域医療全般を担うことができる家庭医の育成が必要とされる。
参考資料
福島県保健福祉部地域医療課ホームページ(http://wwwcms.pref.fukushima.jp/pcp_portal/PortalServlet;jsessionid=6C5DEB98C6A009117858F5C8DB2DF57D?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=17206)
(上石康平)
病院で子どもが輝いた日 増補改訂版
1995年9月1日 初版第一刷発行
2004年7月15日 増補改訂版初刷
あけび書房株式会社
建築計画/療養環境づくりの観点から印象深かった箇所の抜粋
・p54(ベッド上生活のこどもを遊ばせたいが,その準備をしたりおもちゃを買いに行くような暇もない付き添い家族の生活を受けて)
「小児病棟の中の手近なところに小さい子どもの喜びそうなおもちゃがあったらどんなに良いだろう,とこのとき強く思いました.こうした思いが,後に坂上さんたちと小児病棟内に「おもちゃ図書館」を開設していくきっかけになりました.」
・p76
「プレイルームと学習室はオアシス」
「こうした日々を過ごす上で,とても助かったのは小児病棟の中に学習室があり,そこにはたくさんの本がおかれていたことでした.またこの部屋は訪問教育を受ける子どもたちの教室にもなっていました.」
「病室に閉じ込められることが,どんなに嫌だったことでしょう.」
「また学習室は,入院中の子どもたちだけでなく,時には面会に来ても病室の中に入れない兄弟たちの遊び場にもなりました.」
・p139
「(小児病棟には)残念ながら子どもの興味をひくおもちゃや遊具が見あたりません.そのためプレイルームに来ても,テレビをなんとなく観ている子どもがほとんどでした.」
「小さい子どもたちが共同で生活し,育つ場という視点から,保育園と小児病棟は多くの共通点があります.保育園では,おもちゃは単に遊び場所としてあるだけでなく,子どもの成長発達を助ける大切な教材と考えられ,毎年予算がつきます.」
「(保育所では)おもちゃは,積み木,ままごと,ブロックなど種類ごとにそれぞれ指定の場所があり,小さな子どもでも自分たちで片付けられるように,はこには図柄やマークなどを貼るなど工夫します.子どもの成長発達に欠かせない大切なものなのです.」
・p145
「病院内での保育指導は看護婦さんとまずしっかり話し合うことが大事でした.」
・p185(家族の付き添いと家族のレスパイトケアの必要性について)
「小さな子どもが,ある日突然入院を必要とするような病気に罹って,その日に親から引き離され,治療を受けるとしたら,子どもはたとえ病気が治ったとしても,心に大きな傷を残します.」
「病院としては子どもの付き添いは心情的に認めたいが,親が付き添えばさまざまな問題が出てくる,治療を妨げる親の振る舞いや,付き添いのできない親がいる実情から,完全看護でよい,親がいない分子どもは自立する,などという意見が出ていました.」
・p186
「なぜ多くの病院では,面会時間が制限され,親と子どもがいきなり引き離されるのでしょうか?」
「子どもが病気になった時,家族がもっと安心して子どもに付き添うことができるために,社会の支援が必要であり,あゆみの家の在宅訪問制度も大切な役割を担っていました.」
↓
端的に
・付き添い家族の存在への配慮
・病室の広さ
・病室/病棟の設備
ex.(患児本人だけでなく)泊まり込む家族の荷物も置ける
家族用のトイレ,シャワー,給湯設備,ベッド等
院内の売店も助かります(実体験)
・人的補助
ex.短時間でもこどもを他の人にみてもらえる仕組み
・患児のきょうだいが居られる場所,きょうだいと関われる場所
・時間を決めたプレイルームの使用
・ロビーやラウンジ等の病棟外の滞在できる場所(病棟内は感染への配慮から年少のこどもの立ち入り不可のケースが多い)
・病室外でのこどもの居場所/活動場所
・プレイルーム
−空間だけでなく,遊具や玩具があること
−遊びが提供されていること
・屋外空間
・病室や病棟から「動いている,外の世界」が見えること
・窓,ベッドごとの窓
・病棟の空間構成(プラン上,病棟廊下から一切外が見えない病棟プランもあります)
・遊び/学びの提供
・玩具や本等の貸し出し
・学習室,院内学級室
・人的補助
・病棟保育士,CLS,教員,ボランティア等
なんとかしたい!!!!
山田あすか
小児病棟における壁面装飾の印象と効果に関する研究
鈴木賢一 岡庭純子
日本建築学会計画系論文
日本建築学会計画系論文集 73(625), 511-518, 2008-03-30
研究背景
患者が安心して療養に専念できる環境として病棟を調整することは、設計上の重要な課題でとくに小児入院患者は大人に比べ周辺環境の影響を受けやすいため、不安なく入院生活を送ることのできる工夫が求められている。
研究の目的
本編にて研究対象とするのは名古屋市立大学病院新棟の小児関連病棟である。内装工事着手の約1年前より医療スタッフと、患者と家族が病院環境から不安を感じることなく安心して医療を受けられる物理的環境のあり方を議論し、壁面装飾を用いたインテリアデザインを採用した。こうした環境を立場の異なる患者、付添、医療スタッフがどうとらえているか、子どもと家族が感ずる不安を軽減する効果があるかを明らかにすることは、小児療養環境の整備方針を検討するのに有用な判断材料を提供すると考えられている。そこで、病棟オープン約1年経過後に付添い、看護師、医師、及び1部の小児患者から質問紙票により、病棟環境に関する評価を得た。
まとめ
低年齢層の小児患者自身の評価が得られない点での限界はあるが、こどもの療養生活を全面的に支える付添、専門的見地で患者に接する医療スタッフ及び回答可能な小児から壁面装飾の可能性に関して重要なデータを入手することができた。小児患者は、テーマやその意味よりも具体的にデザインされたキャラクター、星空の装置、柱の装飾などへの興味関心が強く、実現的反応を示した。付添は付き添いとして小児のために療養空間が用意されていることが患者だけでなく自らの不安も緩和していることで、壁面装飾に対して期待感をともった肯定的関心を示している。子どもとの相互関係から推測すると、付添の安心感は良い影響として小児患者に伝播すると予測されるが、検証が必要である。壁面装飾は入院生活での物理的環境改善の手法と言えるが医療スタッフがこれらを活用する仕組みを構築することにより、治療や看護場面での不安軽減効果はより高まると思われる。物理的環境とそれを活用するソフトの関係性を探る必要性がある。
感想
本稿において、壁面装飾は療養環境の向上に大きく関わることが的確に示されており、大きく可能性を感じる。しかし上記の物理的環境を活用するソフト面について考えさせられた。療養環境の向上は、ハードとソフト両面から切り開いていく必要があると感じた。最後に、壁面装飾の代表としてアンパンマンなどの壁面装飾が多く用いられている。それによって救われる子どもたちもたくさんいるが、一方で過度な装飾は逆効果なり子どもたちを追い詰めてしまう場合も見受けられる。このような状態をつくり出さないために「アンパンマンのさじ加減」がとても重要になってくると感じた。
伊藤弘紀
こどもと家族の利用実態に基づく小児病棟プレイルーム改修における調査・デザインと検証
山田 あすか,上野 淳
日本建築学会技術報告集 第13巻 第25号 219-224 2007年6月
1.研究の背景と目的
聖路加国際病院のプレイルームの改修に伴い、改修前の使用状況の把握と課題点の整理を行い、設計提案をする。さらに改修後の調査分析による実効評価をし、報告する。
また、改修前後の使われ方を比較し、計画時に指摘した問題点が解消され、プレイルームの設置目的が実現されているか、提案した空間が想定のように効果を挙げているか、の検証を行う。
2.調査概要
当該病棟内のこどもは入院期間、疾患、年齢に幅がある。同時に年齢構成や疾患構成には時期によって変動があることも重要である。
プレイルームには、平日は保育士が1名常駐し、遊びや話し相手になっている。イベントが開催されることもあり、活発な運営がなされている。広さは46.5�で改修前の便所・手洗いには使いにくさが指摘されていた。 また全体として雑然とした印象であった。
本研究ではこどもと付添家族の滞在様態と導線の調査、及びプレイルームの利用実態と評価に関するアンケート調査によって改修前後の利用実態を多角的に把握した。
3.まとめ
まず、改修前のプレイルームの利用実態を終日の観察調査によって記録した。利用人数とこどもの属性、活動の相手と内容、滞在場所、居合わせの様子をまとめ、問題点、課題点を抽出してそれに基づき5つのコンセプトを整理した。そのコンセプトは�家庭的な雰囲気の創出,�コーナー性の創出,�思春期のこどもにとって居心地のよい場所の創出,�親子が一緒に過ごす空間の創出,�家族にとって居心地のよい場の創出である.
そして改修後のプレイルームの利用実態、及び改修前後の比較による改修提案の検証を行った。さらに調査期間中に入院していたこどもとその家族に対し、プレイルームの使い方と要望に関するアンケート調査を行った。
改修後の調査の結果、改修のコンセプトが実現したことを示唆する利用者の行動がみられたり、アンケートのコメントがあった。しかし一方では「大きい子用のスペースが別にあればいい」,「畳コーナーが好きなのでもっと広い方がよい」といった提案の成功による弊害も指摘された。
☆感想☆
図の配置が工夫されていて、改修前後の違いがわかりやすく参考になった。
自分がこれからやろうとする研究の方向性というかやり方が少し見えた気がしました。
井上 美咲
小児病棟における壁面装飾に対する利用者評価の違いに関する研究
岡庭純子 鈴木賢一
日本建築学会大会学術講梗概集 2009年9月
<研究の概要>
小児病棟では患者に優しい療養空間を目指した壁面装飾や独自のサインなど従来の病棟とは異なるインテリアデザインを採用した。そしてこの試み対して、小児病棟の利用者かどのような評価をしているのかを明らかにした。
・感想
人の属性によって壁面装飾に対する評価に違いが生じる事がわかった。
年齢によって装飾に対して思う事が違うので、様々な年齢や性別や思考にふさわしいインテリアのあり方は非常に難しいと感じた。
なので、このような装飾を含めて,インテリア全体に対して検討することが必要なのではと感じた。
千葉紗央里