東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

東亜同文書院・中国調査旅行記録

2006-04-05 23:34:42 | 20世紀;日本からの人々
藤田佳久,愛知大学 編,『東亜同文書院・中国調査旅行記録 第3巻 中国を越えて』,大明堂,1998.

東亜同文書院というのは、1901年上海に開設された日本人向け実務学校、清国(のちに中華民国)との貿易を研究し、実務を学ぶ全寮制スクールである。
このシリーズは、東亜同文書院学生による「大旅行」、つまり最終学年の修学旅行、フィールド・ワーク旅行の記録を集めたもの。
この第3巻には、第24期から25期までの旅行の記録から収録されているが、時代は1927年から30年、つまり、1931年の満洲事変の直前で、東南アジア方面の旅行記録が収録されている。

原文はなにしろ、日記であるので、そうとうに読みにくい。
編者により、誤字脱字をなおし、段落と句読点を加え、小見出がつけられている。
これでだいぶ読みやすくなったとおもうが、それでも、昭和初期の文体で、漢字とカタカナ文などもあり、骨がおれます。

第1章 雲南奥地からビルマへのコース
第2章 南支(華南)より安南(ベトナム)へのコース
第3章 安南からカンボジアへのコース
第4章 カンボジアからマレーへのコース
第5章 フィリピンへのコース
第6章 ジャワからスマトラへのコース
第7章 台湾、安南からシンガポールへのコース
第8章 『中国を越えて』をめぐって

良くも悪くも、若い連中が、まちにまった大旅行をするぞお、という気概にあふれる内容である。各地に学生をサポートする現地法人や商社のネットワークができていたようで、その線にそって旅行しているというかんじ。雲南~ビルマルートなど、困難な道中であるが。

全旅行記を通じて、すごい、と思ったのは、イミグレーション・関税・検疫・警察や当局への届出、通貨・両替をしっかり記録していることである。
官製の旅行をした記録には、以外とこの点が抜けているのである。
チャイニーズの反日・排日運動が高まっていく時代で、不穏な空気がただよう地域もあるが、それでも、一応日本人はどこへでも行けたのだ。
シナ人に関しては、特に彼らの観察は鋭いし偏見も少ない。なんせ北京官話ができる学生たちであるから(そのための学校だ)、言語も通じる。(ただし相手が官話をしゃべれば、それに英語も勉強している。)東南アジアの華人は必ずしも敵対的ではないし、日本人旅行者に親切である面も多々ある。

東亜同文書院に関しては、いろいろ評価が揺れているらしい。
日本の軍事侵略の先棒を担いだとか、逆に、日本の軍事侵略のため、せっかくの研究が無駄になった、優秀な人材が失われた……などなど。

増田義郎 訳,『クック 太平洋探検』,その1

2006-04-04 23:55:47 | 翻訳史料をよむ
増田義郎 訳,『クック 太平洋探検』(17・18世紀大旅行記叢書 中川久定, 二宮敬, 増田義郎編集 ; 3,4),上下,岩波書店,1992、1995.

まず、この叢書名、ウェブで検索するにも、図書館で検索するにも、ひじょうに厄介だぞ。
かたかなで検索するには、じゅうしちじゅうはちせいきだいりょこうきそうしょ と検索しなければならない。じゅうしちじゅうはっせいき……はダメ?
ウェブでは17・18と半角数字で検索しなきゃならない。(全角でサーチした場合と結果が異なる場合あり。)
まあ、ウェブでも図書館でも著者名で追っかければいいわけだが。

わたしは、なんと、自分で買って、そのうえ驚くことに、全部読んだ!

そしたら、文庫(岩波文庫)で出たではないか!
文庫のほうが分量が多く、しかも叢書版では収録されなかった第三回目の航海も収録されたのだ。
なんてこったい。

この「17・18世紀大旅行記叢書」は、このシリーズの前身「大航海時代叢書」と異なり大胆な編集方針をとった。
それは、完訳しない、ということだ。
このクックの太平洋探検も原書の分量の約三分の一に縮めている。抄訳である。
解説はあるが、訳注は最小限にとどめてある。
これは、大胆かつ適切な判断である。

もし、原書を完訳すれば、全10冊なんて代物になり、とてもよめない。
研究者は原書を読めばいいわけだから、一般読者には、これで十分である。

毎日毎日、風向と航行距離、緯度と経度、水深の記録だけ1000ページも2000ページも読めますか?

それほど退屈なページが続く。
科学史・博物学・人類学・歴史・思想・技術史・文学美術とあらゆる方面からみて貴重な記録であるが、大半は、読むのに苦労する退屈な記録である。

それで、よくわからないのは、この叢書があり、岩波文庫で全6冊にまとめられたにもかかわらず、2006年4月から、『シリーズ世界周航記 3 クック 南半球周航記』というのが出版されるのである。
訳者は増田義郎ではなく、原田範行 訳 、価格は3570円、この値段からみて、完訳とは思えないのだが、どういう意図で、また出版するのか不明である。

クックの太平洋探検にかんしては、多木浩二による全3冊の分析(新書館)があり、訳者の増田義郎の解説がある。17・18世紀大旅行記叢書の第2期では、第2回の航海に参加したゲオルク・フォルスターの記録が全2巻で訳出されている。そのほか山のように評論やエッセイがあり、これ以上つけ加える必要があるのかってほどなのだが……。

以下、クックの航海について多少のことを書くが、むづかしいことを書く学者がすでにあふれるほど書いているので、いまさらつけ加えることはほとんどない。
わたしのブログより岩波文庫版の解説を読むほうがいいでしょう。

有栖川有栖,『マレー鉄道の謎』,講談社,2002.

2006-04-04 22:53:48 | フィクション・ファンタジー
文庫は講談社文庫,2005.

わたしの苦手な新本格ミステリだが、これはたのしく読めた。
舞台はマレー半島のキャメロン・ハイランド。
マレー半島、海峡植民地にやってきた白人の避暑地だったところで、いまでも高原のリゾート地である。
伝統的な英国ミステリの典型的設定である避暑地やリゾート、そこに集まる名士や富豪、いかにも本格ミステリにふさわしいところではありませんか。
しかし、時代は現代、登場人物を伯爵未亡人、インド帰りの成金、冒険家などに設定するのは、不自然でとうてい無理である。
そのかわり、作者は、日本留学経験のある華人起業家のホテルを中心に、日本人起業家、マレー人起業家の息子、アメリカ人長期滞在者、バーを経営する白人、日本人昆虫採集マニア、バックパッカーなどを主要登場人物とする。

現代的要素をおりまぜて、リッチな雰囲気にするのはむずかしかっただろうが、作者は、みごとにリゾートの雰囲気をだしている。
第2章がとくにおもしろく、キャメロン・ハイランドに行ってみたくなる。
とはいうものの、この第2章からが、伏線とトリックが張りめぐらされる重要な部分である。
ミステリ・ファンは、この伏線とトリックにあっと驚くわけだが、そんなコアな読者以外はゆっくり避暑地を楽しもう。

冒頭から、ホタル見物と進化論談義がでてきてびっくりしたが、そういえば、英国ミステリって、進化論や博物学、人種差別、インドの成金を描いてきたジャンルだったなあ。
もっとも、わたしは、本格ミステリは苦手で、それほど読んでいませんので、古典的作品をリミックスしたトリックのおもしろさはよくわからんが。

小松義夫,『地球生活記』,福音館書店,1999

2006-04-03 22:56:35 | 基礎知識とバックグラウンド
小松義夫,『地球生活記』,福音館書店,1999.

20年以上世界中の民家を撮影しつづけた小松義夫さんの写真集。
アフリカ・ヨーロッパ・南北アメリカ・オセアニア、そしてもちろんアジアの驚異的な住居が紹介される。
住宅企業のカレンダーで発表されたものも多いようだが、図書としてまとめられたものはこれが初めてだし、世界中の民家を一冊で比べられるのがすごい。

東南アジアでは、メコン川の家舟、北タイのメーサオ、フィリピンのイフガオ、パラワン島水上集落、メナド沖のバジャウ海上住居、インドネシアの二アス島の北部と南部、ボルネオのイバン族、スンバ島、フローレス島ガダ族のチークと竹の家、がエントリーにはいっている。

世界のほかの地域と比較するとよくわかるが、東南アジアの家はしょぼい。絵にならない。わっと驚くようなものがない。
写真の構成にしても、家自体よりも、イフガオの棚田やパラワン島の水上集落にみられるように、風景のなかの要素として写されているように思える。

そして、東南アジアとくらべると、アフリカもヨーロッパも南北アメリカも西アジアも、みんな乾燥している。乾燥していなければ、ひどく寒そうだ。
そして建築材料がぜんぜん違うんだ!
わたしは日本に生まれたものとして、家が木でできているのはあたりまえ、という感覚をもっているが、世界中をみわたすと、木で建てられた家ってのは、ひじょうに例外的なものだってのがわかる。
もちろん、この写真集は日本の読者に驚くような奇妙な家をみせることを主眼にしているから、選択にかたよりがあるとはおもうが、それにしても、木の家は少ない。

この写真集ははからずも、東南アジアの住居の弱さ、自然の強さをしめす結果になっている。
そして、全体的にみると、もし住むとすれば、東南アジアのほうが気持ちよさそうではないですか!

こうした写真集の構成上、もしくは著者の好みだろうか、都市の住居は少ない。
都市らしい都市として東京とソウルが選ばれている。
まあ、順当な選び方だとおもうけれど、東南アジアの都市もひとつくらい紹介してほしかったなあ。
イナカと同様、東南アジアの都市の住居もごみごみしてしょぼいが、そこが東南アジアのいいところで、わたしは、郊外の閑静な住宅なんてすきじゃないからね。(もっとも、ほんとうに建築や都市に興味があるのなら、この閑静な(ようにみえる)こぎれいな(ような)住宅こそが、考察すべき秘境ではないかと思うんですが、いかがなもんでしょうか?

『旅行人』2004年夏号(季刊になってからの第1号)に、小松義夫さん含め、豪華執筆陣による民家の特集あり。
『旅行人』季刊化1号をみてのわたしの感想は、これは大人向けのたくさんのふしぎか!というものだった。『たくさんのふしぎ』は福音館書店から発行されている、こどもむけといってあなどれない内容の月刊誌です。

藤田紘一郎,『寄生虫博士のプーラン・プーラン』,青春出版社 2001.

2006-04-03 22:44:30 | 旅行記100冊レヴュー(予定)
あの、寄生虫で有名なお医者さんがボルネオ旅行について書いた本らしいので、手にとってみた。
ボルネオの話も旅行の話もインドネシアの話もほんのちょっと。
すまん、まちがえた。旅行記じゃない。
環境問題とも関係ありませんので念のため。