東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

増田義郎 訳,『クック 太平洋探検』,その1

2006-04-04 23:55:47 | 翻訳史料をよむ
増田義郎 訳,『クック 太平洋探検』(17・18世紀大旅行記叢書 中川久定, 二宮敬, 増田義郎編集 ; 3,4),上下,岩波書店,1992、1995.

まず、この叢書名、ウェブで検索するにも、図書館で検索するにも、ひじょうに厄介だぞ。
かたかなで検索するには、じゅうしちじゅうはちせいきだいりょこうきそうしょ と検索しなければならない。じゅうしちじゅうはっせいき……はダメ?
ウェブでは17・18と半角数字で検索しなきゃならない。(全角でサーチした場合と結果が異なる場合あり。)
まあ、ウェブでも図書館でも著者名で追っかければいいわけだが。

わたしは、なんと、自分で買って、そのうえ驚くことに、全部読んだ!

そしたら、文庫(岩波文庫)で出たではないか!
文庫のほうが分量が多く、しかも叢書版では収録されなかった第三回目の航海も収録されたのだ。
なんてこったい。

この「17・18世紀大旅行記叢書」は、このシリーズの前身「大航海時代叢書」と異なり大胆な編集方針をとった。
それは、完訳しない、ということだ。
このクックの太平洋探検も原書の分量の約三分の一に縮めている。抄訳である。
解説はあるが、訳注は最小限にとどめてある。
これは、大胆かつ適切な判断である。

もし、原書を完訳すれば、全10冊なんて代物になり、とてもよめない。
研究者は原書を読めばいいわけだから、一般読者には、これで十分である。

毎日毎日、風向と航行距離、緯度と経度、水深の記録だけ1000ページも2000ページも読めますか?

それほど退屈なページが続く。
科学史・博物学・人類学・歴史・思想・技術史・文学美術とあらゆる方面からみて貴重な記録であるが、大半は、読むのに苦労する退屈な記録である。

それで、よくわからないのは、この叢書があり、岩波文庫で全6冊にまとめられたにもかかわらず、2006年4月から、『シリーズ世界周航記 3 クック 南半球周航記』というのが出版されるのである。
訳者は増田義郎ではなく、原田範行 訳 、価格は3570円、この値段からみて、完訳とは思えないのだが、どういう意図で、また出版するのか不明である。

クックの太平洋探検にかんしては、多木浩二による全3冊の分析(新書館)があり、訳者の増田義郎の解説がある。17・18世紀大旅行記叢書の第2期では、第2回の航海に参加したゲオルク・フォルスターの記録が全2巻で訳出されている。そのほか山のように評論やエッセイがあり、これ以上つけ加える必要があるのかってほどなのだが……。

以下、クックの航海について多少のことを書くが、むづかしいことを書く学者がすでにあふれるほど書いているので、いまさらつけ加えることはほとんどない。
わたしのブログより岩波文庫版の解説を読むほうがいいでしょう。

有栖川有栖,『マレー鉄道の謎』,講談社,2002.

2006-04-04 22:53:48 | フィクション・ファンタジー
文庫は講談社文庫,2005.

わたしの苦手な新本格ミステリだが、これはたのしく読めた。
舞台はマレー半島のキャメロン・ハイランド。
マレー半島、海峡植民地にやってきた白人の避暑地だったところで、いまでも高原のリゾート地である。
伝統的な英国ミステリの典型的設定である避暑地やリゾート、そこに集まる名士や富豪、いかにも本格ミステリにふさわしいところではありませんか。
しかし、時代は現代、登場人物を伯爵未亡人、インド帰りの成金、冒険家などに設定するのは、不自然でとうてい無理である。
そのかわり、作者は、日本留学経験のある華人起業家のホテルを中心に、日本人起業家、マレー人起業家の息子、アメリカ人長期滞在者、バーを経営する白人、日本人昆虫採集マニア、バックパッカーなどを主要登場人物とする。

現代的要素をおりまぜて、リッチな雰囲気にするのはむずかしかっただろうが、作者は、みごとにリゾートの雰囲気をだしている。
第2章がとくにおもしろく、キャメロン・ハイランドに行ってみたくなる。
とはいうものの、この第2章からが、伏線とトリックが張りめぐらされる重要な部分である。
ミステリ・ファンは、この伏線とトリックにあっと驚くわけだが、そんなコアな読者以外はゆっくり避暑地を楽しもう。

冒頭から、ホタル見物と進化論談義がでてきてびっくりしたが、そういえば、英国ミステリって、進化論や博物学、人種差別、インドの成金を描いてきたジャンルだったなあ。
もっとも、わたしは、本格ミステリは苦手で、それほど読んでいませんので、古典的作品をリミックスしたトリックのおもしろさはよくわからんが。