◎末松太平事務所(二・二六事件異聞)◎ 

末松太平(1905~1993)。
陸軍士官学校(39期)卒。陸軍大尉。二・二六事件に連座。禁錮4年&免官。

8.事件関係者の息子が実際に接した「二・二六事件の人たち」(20170103) 水上源一さんのこと(その7)

2017年01月03日 | 今泉章利



8.事件関係者の息子が実際に接した「二・二六事件の人たち」(20170103)
水上源一さんのこと(その7)

二・二六事件は、改めて大きな事件だったとしみじみ思います。登場人物も半端でなく人数も多い。
それはなぜでしょうか。私はずっとこのことを考え続けてきました。また、一生考えてゆきたいとも思っています。ひとつには、多分、事件を起こした人たちの心情が、国民の多くの共感を得ていたからだろうと思います。五一五事件にみる、全国からの減刑嘆願書。相澤事件への関心の高さ。確かに、大地主制のもとの小作人たちの農村は極限まで貧困になっていました。
国際経済に連携した不景気と労働争議の頻発、社会主義の伸長、半世紀が過ぎた明治憲法とその矛盾と貧富の差と権力の偏在。
念願の普通選挙によって選ばれた議員たちは、私利私欲に駆け回り、賄賂は横行、、怒りと絶望の中で、人々は押しつぶされそうになり不安に喘いでいました。
だから、多くの人たちは、それぞれの立場にあって、政治を変えたいと願っていました。当時の人々の願いの多くは、その中心には天皇がいてほしいと願っていました、私の父(今泉義道)は、「一君万民」と口癖のように言っていました。父によれば、天皇陛下は「帝王学」を修めておられるから、正しいことは、きちんと理解され、統治される能力をお持ちなのであると、言っていました。
この事件に参加した人たちは、天皇は、周りの取り巻きによって真の世情が伝わっておらず、もし本当のことを天皇が知ってくれれば、必ず、天皇様は日本のために大御心を開かれる、そう信じて、疑わなかった人たちでした。

もう少しお話します。昭和11年1月15日、日本はロンドン軍縮条約からの脱退を宣言。無制限建艦競争が始まりました。陸軍統制派の人たちは、民間人をも巻き込む国家総力戦のため、法律、経済の整備を画策していました。
司法省刑事局の調査によれば、昭和6年から14年までに検挙された左翼学生は3941人、同じ期間に新たに設立された右翼学生団体は163団体、約25000人を擁していました。
資本主義の行き詰まり金本位制は限界を迎えます。株の暴落による世界恐慌。共産主義国家の成立、清王朝の崩壊過程で、各地に軍閥政権ができている混乱の中国。各植民地は独立の機運が高まり、日露戦争に勝った日本に留学生たちを送る。まさしく多事多難が渦巻く、そんな時代の中に、この事件は起きました。

さて、今日の写真は、宇田川町の陸軍衛戍刑務所の中で処刑される最期までしっかりと水上さんの手に持っていた、愛娘(まなむすめ)に遺したきれいな扇です。トンボは秋津洲、つまり、日本のことであります。この日本の国に三頭のトンボが飛んでいて、赤いトンボの宣子さんを、母親の初子(はつね)さんと父親の源一さんが見守っているのであります。父親は娘に次の言葉を遺しました。

「此の國の如く父母は汝を愛せり。父は明日天皇陛下のために死す。汝成長なさば母に孝養せよ。  昭和拾壱年七月拾壱日」

さて、私は、水上さんをめぐって「行動隊第二十九冊ノ内第十八號(湯河原班)」の標目(目次)と丁数(ページ数)で、筆記すべきところを日にち順に次の11の箇所を選択いたしました。
<>は、私が前述した118までの資料番号で、( )は丁数(ページ数)を示します。

1.昭和11年2月26日<38> 拘引状(P.183) 6ページ記述あり

2.昭和11年2月28日<35> 水上源一第一補充兵役陸軍電信兵 (P.163) 8ページ記述あり

3.昭和11年3月3日<56、57> 勾留状水上源一 (P.227) 2ページ記述あり 

4.昭和11年3月8日<82>  顛末書 (水上はつね) (P.329) 2ページ記述あり

5.昭和11年3月18日<105> 被告人水上源一訊問調書 (P.551) 56ページ記述あり

6.昭和11年3月20日<106> 第二回被告人水上源一訊問調書 (P.607) 3ページ記述あり

7.昭和11年5月5日<111> 第一回公判調書  (P.620) 137ページ記述あり

8.昭和11年5月6日<112> 第二回公判調書  (P.757) 124ページ記述あり

9.昭和11年5月9日<113> 第三回公判調書  (P.881) 4ページ記述あり

10.昭和11年5月10日<114> 第4回公判調書 (注:求刑 懲役十五年) (P.885) 27ページ記述あり

11.昭和11年7月5日<118> 第五回公判調書 (注:判決 死刑)  (P.921) 裁判書へ
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