先日観た「麒麟の翼」は、よくできた映画だと思うものの、ちょっと何か足りないものがあるような気がしてた。たぶんそれは一番の骨格である殺人事件そのものの描写が、あっさりしてた点だ。人が人をあやめるという行為にいたる動機の強さとか、殺し方とか。
それ以外の部分はすごく面白かった。いろんな伏線をはって、最後にすべてがつながっていきながら、謎解きだけでなく人の情に訴えてくるところ。
宮部みゆき作品もそうだが、東野圭吾氏は本当の悪人を造型したくないのだ。
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』がおもしろかったのは、殺人事件が起こってないからかもしれない。
「ナミヤ雑貨店」。
「ナヤミ雑貨店!」と近所の子ども達にはやされていた店主のおやじさんが、「じゃあ、おまえたちの悩み相談してやるよ」「100点とる方法は?」「自分に関するテストをつくってもらえ」なんてやりとりをしているうちに、いつの頃からか本気の悩み相談の手紙が届くようになる。
おやじさんはその相談に親身になって答えることが生きがいになっていく … という話が、30年以上前の東京近郊の田舎町を舞台に繰り広げられる。
時は移って2012年。
盗みをはたらいて逃走した三人組が、たまたま逃げ込んだ廃屋が、そのナミヤ雑貨店だった。
すると、その三人組のもとに、時空を越えた悩み相談の手紙が次々と届く。
という設定のお話が全部で五つはいっている。
五作品の人物のすべてが最後につながっていく様子は、すべての謎が解決していく東野サスペンスと同じで、同時に奇蹟と言ってもいいような人と人とのつながりが描かれる。
「そんなにうまくつながるものか」と思ってしまう人にはおもしろくないかもしれない。
でも、現実の娑婆における人と人との結びつきも、冷静に考えてみると「いったいなぜに?」と思えるものばかりではないか。
たとえばピンクとブルーを演じた二人は、まさか高校に入ってそんなことをやらされるはめになるなんて、みじんも思ってなかったはずだ。
たまたま乗り遅れた電車で出会った人と結婚したなんて例は、いくらでもある。
来年の定演は「奇蹟」をテーマにしてみようかな。
今日、市民会館の申し込みがあり、無事3月24日(日)を借りることができました。