Weekend Strummer

ウィークエンド・ストラマー。
世間知らずのオジサンが脈絡無く語る、ギター・アフリカ・自閉症。

殺されるかもしれない

2015-07-26 15:45:32 | その他の国々

若い知り合いの日本人男性が西アフリカを旅行した時のこと。
彼はいわゆるバックパッカーというスタイルの旅人で、その名の通り、彼の荷物はリュックサックだけ。
主に地元の人たちが利用する乗り合いバスを何度も乗り換えて、身軽にいくつも国境を越え、土地のものを食べ、安宿に寝泊まりして、特に地方の素朴なヒトビトの生活を見聞する旅程だったそうです。

ある街で、乗り換えようと思っていたバスがタッチの差で出発してしまい、走り去るバスを見送りつつ落胆していた彼に、現地の若者二人が声をかけてきました。

「あのバスに乗りたかったの? 近道があるから案内してあげる」

彼らによると、バスは近くを流れる川を渡るために町から少々離れたところにある橋を使わなくてはならないのだそうですが、実は町の裏手に歩いて渡れる箇所があり、そこを通ればバスより先に幹線道路に出られるとのこと。
ありがたい話です。困ったときの親切な申し出は、善意に満ちているように思えます。

彼らに案内を頼み、三人で川に向かいました。川幅数十メートル。水は濁っておりましたが流れは穏やか。
にごり水のせいで足元が見えず不安定だから、と若者二人が左右から両腕を支えてくれます。親切な二人にはさまれて、膝下あたりの深さの川でしたが流れが緩慢であったこともあり、特に不安もなく渡渉していったそうです。
だんだん深くなる川。水が膝の上を濡らすようになり、二人の若者も寡黙に慎重に歩を進めるようになります。
川はどんどん深くなる。すでに腿が濡れ、水位は股間に達しそう。ふと気が付くと、ガッチリとつかまれた両腕は固定されてまったく自由がありません。考えてみれば他のヒトが見当たらないこんな川の中。もし彼らに二人がかりで押さえつけられ、頭を水没させられたら、いとも簡単に絶命してしまいます。
心に芽生えた小さな不安を意識した途端、彼は悟りました。

あ、俺、殺されるんだ!
あーっ! そうだったのかそうだったのか最初から俺の荷物が目当てに連れてきてだから幹線道路への近道なんて嘘っぱちでそれが証拠に俺と同様バスに乗り遅れたヒトタチが何人もいたのに周囲には誰も川を渡ろうとする人なんていやしないじゃないかコイツラ荷物を奪うために俺を殺して死体はそのまま川に流しちゃおうと思っているんだうわーどうしようどうしよう!

そこまで一気に考えた彼は突然大きな声で、

ちょっと待って!

それまで導かれるまま素直に歩いていた彼が不意に出した大声に、両脇の若者二人も思わず「ん?」と立ち止まりました。引きつった笑みを浮かべつつ、掴まれていた腕をやんわりと解き、旅行道具の一切合財が入ったリュックサックを背中から降ろして、

コレあげる!

と、若者二人に手渡して独りで川の中をザクザクと岸まで戻り、後ろも見ずに今来た道を町のバス停まで走り、最初に来たバスに飛び乗ってその街を出たのだそうです。

いや、それは考え過ぎではないだろうか? 彼ら二人はやっぱり親切な若者たちで、困っていた異邦人を純粋に助けてあげようとしていただけなのでは? と、思われるかもしれません。ですが、実際にその場で感じる異様な雰囲気は、きっと明確に「殺意」と認識できるものであったのだろう、と思います。

実は私も同様の経験があるんです。鈍感な私はギリギリまで気づきませんでしたが…。

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