Weekend Strummer

ウィークエンド・ストラマー。
世間知らずのオジサンが脈絡無く語る、ギター・アフリカ・自閉症。

自転車泥棒

2024-08-31 11:46:32 | 映画の話

ヴィットリオ・デ・シーカ監督によるこの作品を私が観たのはまだ小学生の時でした。
当時の我が家では子供の就寝時間が決まっており、幼い私と弟は夕食後数時間以内に就寝する習慣でしたので、21時に始まるテレビの洋画番組は「大人用の番組」で、ほとんど見る機会がありませんでした。ですが例外もあって、両親が「名画」と評価する作品については「この映画は観といたほうがいいから今夜は夜更かししてテレビを見なさい」と薦めてくれたものです。
「家庭内文部省推薦作品」なんて書くと、堅苦しくて教育的で、途端につまらなそうな映画に思えてしまいますが、当時の私にとってたいていの映画は楽しいエンターテイメントでありましたし、それに子供にとって夜更かしの機会はいつだってワクワクです。パジャマに着替えて歯も磨き、いつでも寝落ちできる態勢を整えたうえでの名画観賞会は、積極的に参加すべき楽しいイベントでありました。
そんな形で「小鹿物語」や「老人と海」、「山」などの名作映画に触れることができたのは、少年期の私にとってとても幸運だったと思います。

ですが、残念ながら「自転車泥棒」は暗い映画です。
第二次大戦後のイタリア。失業した主人公が幸運にもポスター張りの職を得ますが、それは「自転車所有者に限る」という条件付きでした。シーツを質に入れ、すでに質に入っていた自転車を出して仕事を始めますが、すぐに盗まれてしまいます。幼い息子を連れて盗まれた自転車を捜し歩く主人公。見つからない自転車。探し疲れた主人公は、他人の自転車を盗もうとし、しかしその場で取り押さえられてしまいます。多くの人たちからのリンチに遭うところ、息子が涙ながらに慈悲を乞い、放免されます。息子の手を引き、泣きながら帰路に就く主人公の姿にエンドマークが重なってこの映画は終わります。

え? これで終わりなの?
驚きとともに尋ねる私に、父は
「うん、これで終わり」
えーっ! そんなぁ!

自分にとってハッピーエンドではない映画を見た初めての経験でした。
絶対に自転車は見つかるはずだ、と信じて最後まで眠らずにおりましたのに。
こんないたたまれない心境のまま寝床に入らなくてはいけないなんて。
楽しくないまま終わってしまう映画というものが存在するということがどこか理不尽に思え、「あの後、親子はどうなってしまったんだろう」と心配し、ネガティブな後味がその後も長く尾を引きました。
親の庇護のもと、何一つ不自由なく育てられた私にとって、どうも世の中というものは厳しいらしい、ということを教えてくれた映画でもあります。

劇中、オープンエアのレストランで親子が食事をするシーンがあります。男の子が注文したピザのチーズがびよーんと伸びるのを見て、あんなに柔らかく伸びる食品は正月の雑煮に入っている餅くらいしか思い当たるものがなかった私は、一緒に映画を見ていた母親に、
あれはいったい何なのだ?
と尋ねました。
「チーズよ」
まさか! あれがチーズであるはずがない。チーズというものは銀紙でヒトクチサイズの三角形に包装された固形物(給食のチーズじゃねーか)。
非情なエンディングの前に、すでにチーズに裏切られていたのでした。

コメント
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