「長回し」は映画の技法のひとつで、ワンシーンの撮影をカットせずに撮り続けることを言います。その長さは、ウィキペディアによると「定義はないが、分単位の時間、カットせずに撮影すれば長回しと言えるだろう」とのこと。
長回しで撮影した映画は臨場感が増し、観る者にとってとてもリアルなシーンとなります。ですが、その分、役者や撮影スタッフには失敗は許されず、緊張を強いられるつらい作業だと思います(長回しの難しさは、一昨年話題になった映画「カメラを止めるな!」で描かれていましたね)。
逆に短いカットでつなぐように撮影する場合、カットごとに撮影の準備ができるのでそれぞれのシーンの完成度は増すでしょうし、うまく編集することで短時間内に多くの映像情報を盛り込むことができます。また、見ている側にすればカットごとに視点が変わるので、飽きずに画面に注目することができます。
これは特にコマーシャルを作成する際に便利でありましょう。たいていのテレビCMは一遍が15秒(もしくは30秒) と決まっているようですが、その限られた時間内に、いかに効果的に商品の情報を視聴者に伝えるかが、テレビCMに期待される成果です。
最近、テレビで放送されるCMがいくつのカットで構成されているか、気になるようになりました。商品によってカット数に傾向があるようなんです。
やはり目まぐるしくカットが繰り返されるCMは若者向けの商品を紹介するものが多いような気がします。若いヒトは動体視力が高いのでしょう。
逆に一つ一つのカットを長めにしてゆったりとした雰囲気を出すCMは年配者向けの商品のものが多い。
例えばペットボトル入りの清涼飲料を例にとると、緑茶のCMは15秒中平均11カットであるのに対し、若い女性に人気の紅茶飲料は14カットも詰め込まれていたりします。これはかなりの差であります。
どのへんにボーダーがあるのかな?
サントリーのセサミンという商品は、若さを保つために効果的なサプリメントだそうで、CM中35年ぶりに再会する同級生として出演している役者は54歳だそうです(CM中での表示による)。なので、このCMは50代がターゲットであると考えてよいでしょう。このCM、15秒間に11か12のカットで構成されています(2バージョンあるんです)。これが基準になるかもしれません。これよりカット数が多いCMはより若いヒト向けで、少ないものは年配視聴者向けではないかという仮説です。
清涼菓子のフリスクが14カット。刺激の強いタブレットですから、やはり若者向けなのでしょう。
「40代50代の契約者は大幅に割り引き」という謳い文句の自動車保険なんて、たったの7カットでした。
これは世代を選ばない商品なのかな、コカコーラは12カットでした。
意外にカット数が多かったのが葬儀社のCM。平均して11カット以上でした。もっとゆったりしたカット割りになっているかと思いましたが、これは親に別れを告げるケースが50代に増えるからでしょうか。
逆に、若い世代を対象としているはずの学習塾のCMは意外にカット数少なめの場合が多く、やはりこれも学費を出す立場の親をターゲットにしているせいでしょう。
時代でCMを見比べても面白い傾向が見られました。昔のCMの方がカット数が少ないんです。YouTubeで紹介されている昔のCMと比較してみたのですが、例えばマクドナルドのCMを1990年と2020年で比べてみると、前者は6カットであるのに対し、後者は11カット。ワン・カットにかける時間は確実に短くなっています。
時を経るにしたがって我々視聴者が早いカット割りに慣れてきていると言えるでしょうし、また、制作側がそれだけお金をかけられるようにもなってきている(もしくはワン・カットにかかるコストが低くなってきている)、とも言えるでしょう。
ここまで読まれて「外出を控えてテレビばかり見ているんだろうな、コイツ」と思われたかもしれませんが、正解です。
(注:文中のカット数はごく限られたCMを観察した結果であり、それぞれ一例に過ぎません)