Weekend Strummer

ウィークエンド・ストラマー。
世間知らずのオジサンが脈絡無く語る、ギター・アフリカ・自閉症。

幻の玲瓏(リンロン)・景徳鎮

2020-04-01 10:31:41 | ラオス

現在アジアで一般的に栽培されている稲はジャポニカ種(日本型)とインディカ種(インド型)に大きく分けられます。
ジャポニカ種の多くは短粒種と呼ばれる品種です。我々日本人になじみの深い、短くて丸みが強い形をした粒のお米です。一方、インディカ種は長粒種が多い。その名の通り米粒が細長いシェイプをしています。
(閑話休題。インディカ種は形が違うだけではありません。ジャポニカ種に比べてアミロース含量が高いために粘り気に乏しく食感がパサパサしており、また独特の香りを持つ品種が多い。そのせいで残念ながら日本人の嗜好には合わないようです)

ところで景徳鎮は焼き物で有名な中国の都市です。古くから陶磁器の生産が盛んで、ウィキペディアによるとおよそ二千年の歴史があるらしい。
青花(せいか)と呼ばれる染付磁器の、特に透かしが入った玲瓏(リンロン)が有名でしょう。小さな楕円を基本とした透かし模様がいくつも入っている食器です。俗にホタル焼きとも呼ばれるその透かし細工は磁器の白さと染付の青い模様にマッチして、安価な普段使いの食器でありながら上品で優雅な雰囲気があります。
この透かし細工は、成形した素地にコメを押し付けて部分的に薄くするという技法で作られています。主食であるコメを使って装飾された食器は豊作の象徴として縁起が良いとされ、多くの消費者に好まれたのです。

我が家で使用中のリンロン。光にかざすとコメ型の模様が浮かび上がります。

我が家の景徳鎮のリンロン。光にかざすとコメ型の模様が浮かび上がります。

上の画像の通り、コメ型の透かしにはジャポニカ種に多い短粒種のコメが使われているようです。これは景徳鎮がある江西省東北部で栽培されている品種なのでしょう。

もう10年ほど前になりますが、東南アジアのラオスで仕事をしていたころ、中国国境に近いルアンナムターという町の中華料理屋で珍しいものを見つけました。
食後のお茶を楽しんでいた時、手にしたリンロンの茶碗の模様に違和感を覚え、よく見ると透かし細工に長粒種が使われていたんです。模様の部品が長いせいでしょう、透かし模様は連続性が強調されて流れるような破線状の曲線が浮かび上がり、見慣れた短粒種の模様に比べて新鮮で美しく見えました。
裏返して底を見ると「MADE IN CHINA中国景徳鎮 一九九四」と書かれておりました。
後で調べてみましたら、1994年は中国ではコメが不作の年で、景徳鎮がある江西省も厳しいコメ不足に見舞われたそうです。焼き物に使うコメにも困るほどで、その年は隣の湖南省から購入したコメを使ったのだそうです。その時使われたのが長粒種のコメ。翌年以降はコメが不足したことはなく、そのため、長粒種を使ったリンロンは1994年産に限られるのだとか。

当時はそんな珍しいものとは知らず、
へぇー、やっぱりいろんな形のコメを使うんだなー。
という、きわめて単純な感想を持っただけに過ぎませんでした。

それ以来、リンロンを目にするたびに透かし模様に注意しているのですが、すべて短粒種で、長粒種を使ったものにお目にかかったことはありません。ルアンナムターのあの茶碗はすごく貴重なものだったようです。こんなことならあの時、店主に頼んで譲ってもらうんだった。
もともと普段使いの食器ですから欠けたり割れたりすることが多く、現存数は年々少なくなることでしょう。


逃がした魚はたいてい大きく感じるものです。

コメント (4)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする