Weekend Strummer

ウィークエンド・ストラマー。
世間知らずのオジサンが脈絡無く語る、ギター・アフリカ・自閉症。

テントを周回するもの その3

2010-05-30 00:03:34 | オカルト
野宿していた私が嵐に見舞われ、不思議な体験をする話。その3です。

かすかに聞こえてきた足音は、急がず、しかし遅すぎず、普通のテンポの歩みです。
なぜか数歩進んで立ち止まる気配。

さく、さく、さく、さく、さく、さく。

数秒間の静止の後、また歩き出す。
こんな時間に、こんな場所で聞こえる、独りの足音。
ちょっと変だけど、でもここは観光地。夏休みはすでに終わっておりましたが、まったくヒトがいないわけじゃない。誰かが歩いていたって不思議じゃない。数歩進んで立ち止まる、という歩き方は、まるで何か落し物を探しているようでもある。
でも……。
静かに肘をついて半身を起こし、集中して気配を探りました。
灯りの無い暗い湖畔ですし、また、何か探しものをしているのなら、ライトで足元を照らしながら歩くはず。ですが、テントの布地越しには何も灯りが見えず、ということは、あの足音の主は暗闇を歩いているのです。

さく、さく、さく、さく、さく、さく。
……ちーん。

……鈴の音?
音から推測するに、仏具として使われる鈴(れい)ではないでしょうか? 
暗闇を歩く者は静かに数歩進んで立ち止まり、鈴を鳴らしてまた歩く、という行為を繰り返しているのです。
いったい何者でしょう?
なんとなくお坊さんが托鉢をしている図を想像しましたが、真夜中の湖畔で托鉢ぅ? そんなことするヒトいないよー。
テントの入り口を開けて外を確認する、なんて考えは微塵もありませんでした。
だって怖いもん!

その時、足音の主は私のテントに気づいたようです。
別方向に向かっているようだった足音と気配が向きを変えて、こちらに近づいてきたんです。

さく、さく、さく、さく、さく、さく。
……ちーん。

えーっ!? うっそーっ!
こっち来るなよーっ!!

声にならない私の心の叫びでありました。
私の希望に反して足音は、さくさくちーん、と私のテントに到達。歩調は変えず、ゆっくりと私のテントの周りを回り始めました。

うわー、これ、前に先輩に聞いた話と同じじゃーん! 
ヤバいじゃーん!

さく、さく、さく、さく。

と、テントの向こう側を回ってきた足音が、私の枕元の近くで止まりました。
私は片肘を着いた姿勢のまま、テントの布地に耳を近づけて、外の足音に注意を集中していたのですが、まるで私の姿勢がわかっているかのように、私の耳のすぐそばで鈴が鳴らされたのです。

ちーん。

うわっ!

全身に鳥肌が立ちました。
いきなり至近距離で金属音を聞かされて驚いた私が思わず身じろぎをし、その気配に気づいたのでしょうか、足音は早くなりました。

さくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさくさく

もう鈴は鳴りません。ただひたすら足音が高速でテントの周りを回っています。どんなに身軽な人間でも、走らずにはそんなに早く移動できるはずがありません。でも足音から察するに、歩幅に変化は無いようなんです。
その異様さと、突然の勢いの変化に驚愕し、思わず身体が動きました。そのとき、うっかりシュラフの中で点けっぱなしだったマグ・ライトが転がり落ち、テントの内部が照らされました。
私が見たのは、テントの布地に浮かび上がる、足音の主の手形でした。外を歩くその者は、テントを押すように触りながら歩いているんです。

うわーっ!

たぶん、悲鳴に似た声を上げたと思います。音だけでなく、視覚でも何者かの存在を確認した私は、恐怖でパニックになったのです。
そのまま私は地面に伏せ、シュラフの中で身を縮め、大声で「やめてくださーい」とお願いしましたし、「ごめんなさーい」と謝罪もしましたし、当然「ナンマイダブ」も連呼しました。
そのままずうっとそうしていましたので、その後どうなったのかサッパリ分からないのですが、シュラフの中でずいぶん時間が経ったことが自覚できた頃、ナンマイダブを唱えながらおそるおそる外をうかがうと、テントの中は朝日で明るくなっておりました。
湖の波は昨日と変わらずチャプチャプとささやき、鳥の鳴く声も健康的に聞こえてきます。

・・・ああ、ああ、良かった。
なんだかわかんないけど、助かった・・・。

無事に朝を迎えることが出来た安心感と、極度の疲労感で、脱力。
なんだか栄養ドリンクが飲みたい。

テントの入り口を開け、外を見ると、砂の地面は嵐のときに降った大きな雨粒の跡があるだけで、何の足跡もありませんでした。

野宿することなんかなんとも思わなかったのですが、この体験以来、私は独りで野宿したことがありません。
この先、二度とするつもりもありません。
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テントを周回するもの その2

2010-05-27 00:08:34 | オカルト

山でテントの周りを周回する霊の話、続編です。

20年前の9月。当時手がけていた仕事が一段落した機会に一週間の休暇をもらい、オートバイで日光の林道を走りに行ったときの話です。

湖上を渡る風は冷たく、すぐに雨が降り出す予感がありました。
テントのすぐ近くに止めたオートバイに寄りかかり、私は粗末な夕食を摂っていました。
ラジウス(携帯用コンロ)を使って調理した簡単な夕食を、コッフェルから直接スプーンで口に運んでいました。周囲の景色が美しい分、粗末な食事でも満足度は高い。

夕暮れに水色の濃さが増す中禅寺湖。
その湖面を渡る風。
チャプチャプと不規則で軽やかな音を立てる波。
そして、東からせり上がり来る暗い雨雲。

その日の午後に登ってきた「いろは坂」は濃霧に満ちており、夜にはきっと雨が降る、と、私は確信しておりました。そのためテントを張る場所は湖畔に水はけの良い砂地を選び、更にテントの周囲には、鯉は無理でも出目金ならば10匹以上は収容可能な、お堀のように立派な溝を掘っておきました。こうしておけば、雨が降ってもテントへの浸水を防げます。
準備万端。備えよ常に。
雨雲から吹き付ける風が本当に冷たく感じられるようになり、夕食を済ませた私はそそくさとテントにもぐりこみました。
たった独りの気ままなキャンプ。風は徐々に強くなり、そのうち、やはり雨もパラついてきましたが、テントの中は快適でした。
広げたシュラフ(寝袋)の上に寝そべり、スキットルに詰めてきたウィスキーを飲んでいると、昼間の運転の疲れが気持ち良くほぐされてゆきます。地図で翌日の行程を確認したあと、私は幸せな気分で眠りに就いたのです。

シュラフの中でお尻が冷たく濡れているのに気づき、眼が覚めました。
雨です。それも土砂降り。テントに当たる音から想像するに、雨滴はかなり大きいようです。
周囲に掘った雨避けの溝は雨量に負けて簡単にオーバーフローしたのでしょう、すでにテント内にも浸水していました。
風も強く、テントにかぶせて張ってあるフライ・シートが持ち上がるようにあおられています。
雷鳴も轟くように聞こえます。閃光と、それに続いて聞こえるヒステリックな轟音との間にほとんど時間差がないことから、雷雲は私のテントの真上にいるようです。
テントのそばには木立があり、そこに落雷するのではないか、と心配しました。もしくは木立に誘導された雷がテントに落ちる可能性もあります。
降雨は覚悟しておりましたが、嵐が来るとは思わなかった。
嵐の到来にもっと早く気がついていれば、どこかちゃんとした建物に避難することもできたはずですが、体内に入ったアルコールのせいで熟睡してしまい、危なくなるまで気がつかなかったのです。
屋根のあるところに逃げようにも、いま外に出れば落雷を誘導するだけでしょうし、こうなったらもうしょうがない。お尻と背中が濡れて非常に気持ちが悪い状態でしたが、私は横になったまま、嵐の通過を待ったのでした。

自分でも驚いたことに、私はそのまま再度の眠りに就いたようでした。
ふと気がつくと、嵐は治まったようで、辺りは静まり返っておりました。湖の波の、非常にひかえめな音がちゃぷりちゃぷりと聞こえる以外、何の音も聞こえません。風も吹いていないようです。
シュラフの中でライトを点して腕時計を見ると午前4時になるところでした。
さすがに砂地は水はけがよろしい。テントの中にたまっていた水はきれいに排水されたようです。背中はまだ濡れておりましたが、衣類とシュラフが体温を保ち、寒くはありません。
嵐が去ったことと、思ったほど被害がなかったことに安心し、このまま明るくなるまで静かに眠ろう、と思った時。

さく、さく、さく、さく、さく、さく。

波の音にまじって、砂を踏む足音がかすかに聞こえてきました。

(この項、更に続く)

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テントを周回するもの その1

2010-05-23 00:03:57 | オカルト
学生時代、一時、山登りをするクラブに在籍しておりました。
その頃、クラブの先輩から聞いた話です。

ある秋のこと、先輩たち同期の部員4人で沢登りに出かけたんだそうです。
入山初日。先輩たちはアプローチの林道をずんずん歩き、石ころだらけの川原にテントを張りました。
うるさい上級生のいないパーティは和気あいあい。協力して炊事作業を進め、夕食も楽しく平和に済ませ、食後もおしゃべりを楽しんでいたそうです。
夜も更けた頃、突然、川原の石を踏む音が聞こえ、続いてテントの外に出しておいたアルマイト製の食器が鳴りました。カラコロと、川原を転がるような音でした。
一人が入り口を開けて確認しますと、重ねておいたはずの食器が一枚、転がっていました。特に深く考えず、元通りに重ねなおし、入り口を閉じました。
キツネが残飯をあさりに来たのかも、などと話していたら、またカチャカチャと石を踏む音が聞こえました。おや? なんだろう? と顔を見合わせる先輩たち。
テントの入り口を開けて外を確認。誰もいない。
おかしいね、なんだろね、といぶかしく思っていると、また足音。
カチャカチャカチャと、その足音はどうもゆっくりとテントの周りを回っているようなんです。
少々薄気味悪く感じ始めた先輩たち。もう一回外を見てみ、と言われたヒトが「自分独りで見るのは怖いからヤダ」と言い、それならば、と全員がテント入り口付近に移動してイチニのサン、で外に顔を出しました。
でも誰もいない。
入り口を閉めて顔を見合わせる4人。

その途端。

ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ!

川原の石を鳴らす足音は、ものすごいスピードでテントを周回し始めたのです。
先ほどのキツネを連想させる身軽でおしとやかな歩き方ではありません。もっと重い体重のものが全速力で走っているような勢いだったそうです。

うわあー!

恐怖からパニックになった4人は揃って頭からシュラフ(寝袋)をかぶり、一人は、
「ああああ、ごめんなさーい、ごめんなさーい、ごめんなさーい、ごめんなさーい」
もう一人は、
「すいませーん、すいませーん、すいませーん、すいませーん、すいませーん」
と揃って謝罪。もう一人は、
「もーやめてー、やめてくださーい、やめてくださいやめてくださいやめてー」
と懇願。最後の一人は、
「ナンマイダブ、ナンマイダブ、ナンマイダブ、ナンマイダブ、ナンマイダブ」
と読経。
それぞれ外の音が聞こえないくらいの大声で謝罪と懇願と読経を繰り返していたら、気がつくと、足音はしなくなっていたんだそうです。
しかし4人とも怖くて眠る気になれず、夜が明けるまでみんなで起きていて、外が明るくなったのを確認してすぐにテントを撤収。その後の計画は中止。逃げるように下山したんですって。

「だから俺、もうゼッタイあの沢には行かないんだ」

先輩が口にした沢の名前を、私はしっかり記憶に刻み付けました。
絶対に行ってはいけない沢として。
しかし「そこに行きさえしなければ安全なんだ」と思っていた私はやっぱり甘かった。
およそ10年後に、別の場所で同様の体験をすることになろうとは・・・。

(この項続く)
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ランボン・ダンス

2010-05-20 00:14:43 | ラオス

同僚のラオス人の結婚式に招待されました。
金曜日の夜に電話がかかってきて、「明日結婚式だから出席してね」。
日本だったらこんな急な招待は、予定していた招待客がドタキャンで出られなくなって、披露宴の席を埋めるために誰でもいいから出席を頼もう、という魂胆がミエミエですが、ラオスでは特に珍しいことではありません。みんなこんな感じで知らせてきます。
というわけで、土曜日は朝からクルマで1時間半の移動。
田舎の農家の庭にテントを張り、テーブルを並べ、仕出しの料理を肴に酒を酌み交わす。ホスト側はみんな着飾っているけれど、ゲストにはさほど気合の入ったオシャレは見あたらない。普段着で楽しむ気楽な宴会です。
サーブされる酒にウィスキーを頼むと、すごく薄いハイボールを作ってくれます。タイも含めて、この辺ではウィスキーはごく薄くして飲む習慣があるようです。
なんとなく頼りないけど、日中の飲酒にはちょうど良いかも。

こういう席で楽しまれるのがランボン・ダンスです。日本の盆踊りに良く似ており、たぶん起源は同じ「盂蘭盆(うらぼん)」でしょう。
アルコールが程好く回った頃、ダンスの輪の中心となる場所に置かれたテーブルに、花が飾られます。日本の盆踊りの輪の中心となるやぐらと同じです。
男性と女性でペアを組み、男性が内側、女性が外側の輪を形成します。
踊りそのものはいたってシンプルなもので、向かい合った男女が、半歩近づき、半歩離れて、少し左へ移動する。これをずーっとくり返す。
手の動きは日本の阿波踊りの動きをスローモーションにしたような感じです。胸の前辺りで手のひらをあちらに向け、こちらに返し、音楽に合わせてゆるやかに動かします。
もともとは手を反らせることで美しい動きを強調する意味があったようですが、田舎の結婚式ではそんなことを意識するヒトもなく、ただなんとなくヒラヒラさせるだけ。
曲が終わり、別の曲が演奏されても、踊りの動きは全部一緒です。
西洋のフォーク・ダンスのように男女が手を取り合ったりするような接触は一切なし。この辺の清潔さ(?)も盆踊りに似ています。
延々とくり返される音楽はドンツクドンドン・ドンツクドンドンという、まさに日本人のルーツ・ミュージックとも言うべきエンヤトットのリズム。我々には馴染みやすいですが、その反面ダサさも感じる。
踊り手はみんな、たいして面白くも無い、という表情を装うことが求められるようです。なぜかどの顔にも微笑がなく、微笑がないために踊る輪の中には妙な緊張感が漂う。「男女が見つめあうことで生じる緊張感」ではなくて、むしろ「話題がないままに同席しなくてはならない気まずい緊張感」の方に似ています。ですから、なんとなく「早く終わんないかな」という雰囲気になります。
そのくせ次の曲がかかると、それも踊っちゃったりする。つまんなそうな顔して、実はみんなそれなりに楽しんでいるんです。

熱い空気の中で軽い酒を飲み、ゆるやかに踊り、じっとりと汗に濡れ、徐々にラオスの田舎に絡め取られてゆくオジサンであります。

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いとしいとしのカオピャック

2010-05-17 01:10:11 | ラオス

開高の朝粥」の項でカオピャックを紹介しましたが、実はカオピャックには2種類あるんです。紹介した粥タイプのカオピャック・カオと、うどんタイプのカオピャック・セン。同じような名前で、ちょっとややこしい。
カオピャック・カオもおいしいですが、最近の私のお気に入りはカオピャック・セン。すごくおいしいお店を見つけたんです。ビエンチャンで唯一、行列ができるカオピャック屋。

店内は朝食を食べに来た客で混雑しています。
空いた席に就いて注文すると、どんぶりに入って出てくるカオピャック・セン。
アッツアツの釜揚げうどんに、かすかにとろみがある白湯スープがかけられ、その上に骨ごと切られて煮込まれた鶏肉、刻みネギと香草、そして粒状の揚げニンニクが載せられます。
ライムを搾り、ラー油をたらし、ちょっとかき混ぜて、いただきまーす。



カオピャック・センはもち米の粉でできた生うどんです。
原料がもち米ですから歯応えはもっちりしており、腰が強い。
腰が強いので咀嚼する時間が比較的長くなります。
長くなるとは言ってもほんの数回、噛む回数が増えるだけですが、それでもそのぶん唾液が多く分泌され、口中にあるスープの味が薄れてしまいます。俗に「スープが負ける」という状態になってしまう。
ですから、腰の強いうどんには、しっかりした味のスープでバランスを取ることが肝心。
この店の特徴は、鶏がらでとった強い出汁が嫌味なく生きたスープ。それが腰の強いカオピャックにちょうど良く絡み、とてもおいしいんです。

ところで、麺を食べる時、日本人の多くはズズーッと音を立ててすすりこみます。
すすりこむと、麺が効率良く口に入ってきますし、また、麺と一緒に胃に入った空気が排出される時に鼻腔を通るので、食べ物の香りを楽しむことができるんだそうです。
ところがこれは日本人特有の習慣みたいで、店内を見渡しても周りのラオス人にすすりこむヒトはいない。少しづつたぐるようにカオピャックを口に送り込んでいます。もしくはレンゲにヒトクチ分の麺を乗せて、口に運ぶ。
当初は無音で上品なこの食べ方がなんだかまどろっこしく感じましたが、今ではすっかり慣れました。
ゆっくり、少しづつ、確実に味わいながら食べる。カオピャック・センにはそんな食べ方が似合う。

この店のもう一つの名物は絞りたてのオレンジ・ジュース。新鮮な甘酸っぱさがなぜかカオピャックに合うんです。

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