以前赴任していたラオスで、私が勤めていた農場の執務室に、近所の村のガキンチョどもが忍びこんだことがありました。3~4人の子供が軒先の隙間から屋根裏に入り、天井板をめくって壁を伝って侵入した模様。物盗り目的ではなく、単純に好奇心から忍び込んだようです。室内はパソコンやプリンターをはじめ、農学実験に使う器具など、わけの分からない珍しいものばかりでビックリしたことでしょう。ですが、そういったものには触れた形跡が一切ありませんでした。
その代わりに、私の机の上には紙が散乱しておりました。
彼らが最も興味を持ったものは、何の変哲もないA4サイズのコピー用紙だったようです。包みから出して机上に並べたり、揃えてバインダークリップで束ねたりして、紙の存在そのものを楽しんだようです。乾燥した紙のさらさらと滑らかな感触は指先に心地良かったことでしょう。
開発途上国全般に言えることですが、一般的な農家にはあまり紙類がありません。書物がないのです。新聞を読むにも街に行って購入しなければ入手できませんし、学校でも生徒全員が教科書を持っているわけではありません。
そういう家庭で育った子供です。何も印刷されていない真っ白な紙なんて、きっと今まで見たことがなかったのではないでしょうか。コピー用紙ほどの純白な物質は自然界にはなかなか見当たりませんし、白さそのものが新鮮だったに違いありません。あの白さに相当するものは雪ぐらいでしょうが、熱帯に雪は降らないし。
捕まった侵入者どもは農場のスタッフに耳を掴まれて事務所に連行され、知らせを聞いて村から駆け付けた親たちに引き渡されました。盗まれたものは何もなく、何より子供のやったことなので警察には通報せず、その代わり「今後このようなことが無いようにしっかり監督する」という誓約書をそれぞれの親から取っておしまいにすることにしました。
「これに書いて」と差し出したコピー用紙の白さに、ガキンチョの親父さんたち一同も「ほぉーっ、こりゃ白いねー」と感心しておりましたが。