Weekend Strummer

ウィークエンド・ストラマー。
世間知らずのオジサンが脈絡無く語る、ギター・アフリカ・自閉症。

レインソングのギター

2021-01-31 15:51:16 | ギター

愛用のギターたちの中でも、最近、特に強い思い入れを感じているのはレインソング社製のギターです。
レインソングはハワイで創業した会社です。ハワイは海に囲まれており高湿度ですが、ちょっと内陸に入ると砂漠のように乾燥している地域もあるそうです。厳しく多様な環境に耐えられるギターを作るため、材料として一般的な木材ではなくカーボンファイバーを採用したんですって。

炭素繊維を型にはめて圧縮し、数百度の高温をかけて成形。カーボンファイバーは一度加工されるとその後はその形を保ち続ける強い素材です。鉄の1/4の重さで10倍の強さがあるそうです。
鉄の10倍もの強度が果たして楽器に必要なのか、その辺は疑問でありますが、ま、強いに越したことはない。湿度や温度の影響はまず受けません。長距離の移動時に少々手荒な扱いを受けても壊れる心配はないでしょう。

素材の強さはギターの構造にも影響します。木製ギターに不可欠な力木(ちからぎ)によるブレイシングが要らないんです。
ブレイシングはギターの主にサウンドボード(表板)を補強するため必要な部品です。これがないと弦の張力によって簡単にギターは変形してしまいます。なので、長持ちさせるためにはきちんと力木で補強する必要がある。ですが、補強を強調して丈夫に作ったギターは鳴りが悪くなってしまいます。ブレイシングが振動を抑えてしまうんです。
いかに丈夫で良く鳴る楽器を作るか。ギター制作家はこの相反する命題に頭を悩ませ、表板の材質や厚み、ブレイシングのパターンなどに工夫を重ねます。
レインソングはカーボンファイバーを採用することで力木を廃し「軽やかに走る競走馬に農耕馬の力強さを持たせ」ることに成功したのだそうです(カッコ内の謳い文句は同社のウェブサイトから)。

その音は独特です。明らかに木製ギターとは違う音です。ですが、甘くふくよかな低音と倍音豊富な高音は、木製ではないギターの音としては少々受け入れがたいほど有機的な音像です。ネットで見かけるインプレッションでも、「こんな音、聞いたことがない!」という驚きの感想が多い。
そしてボディの軽さが不思議な感覚をもたらします。ほぼ同じ形の木製ギターと比較すると3/4の重量しかないのですが、その軽さゆえにギターの存在をあまり意識することなく演奏できるんです。弾いていると身体と楽器が一体化するような錯覚があり、これはとても気持ちの良いものです。

木製ギターとの違いは他にもあって、木製品特有の木目の美しさはありませんし、何よりこのギターは音が育つことがありません。木材でできたギターは日常的な演奏で生じる振動を経験することで植物繊維が乾燥してセルロースの結晶化が促進されて硬化するという、長期間にわたる複雑な反応で音が良くなっていくのですが、カーボンファイバーは強靭な材質であるがゆえにそんな影響を受けません。どんなに一生懸命弾いても、音は変わらない。10年弾いても音は新品同様です。
一部のギター愛好家には許せない性質かもしれません。経年変化こそが楽しみなのに、と思われるかもしれません。
私にとってレインソングは、まるでいつまでたっても幼児のかわいさを持つ私の娘のように思えます。重度の自閉症者である我が娘はその言動に大きな変化を見せないまま歳を重ね、幼いかわいさが永遠に続きます。(注:レインソングは実の娘のように大事なギター、と言っているわけではありません。また、レインソングと「レインマン」(自閉症を扱った1988年の映画)をかけているわけでもありません)

大好きなギターではありますが、珠に傷がひとつ。ブリッジピンの並び方が何故か弧を描いているんです。

木製ギターのブリッジでは、ピンホールを弧を描くように並べてあるものがあります。木目と平行にピンの穴を並べてしまうと太いピンの抜き差しを繰り返すことでブリッジが割れ易くなってしまうんです。弧型に配列すれば同じ木目上に差されるピンの数が減り、ブリッジへの負担が軽減できます。
しかしレインソングのブリッジは鉄よりも固いカーボンファイバー製です。弧にする必要はないはずです。ここはピシッと一列に並べて欲しかったなー。

コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする