血液は体外に出ると凝固してしまうので、蚊は凝血を妨げるためにヒトの体内に唾液を注入してから吸血します。我々が感じる痒みの原因は、この唾液という異物に対する人間のアレルギー反応なんだそうです。
痒みのつらさから、よく「痒みさえなければいくらでも蚊に血を吸わせてやるのに」などと言うヒトがいますが、蚊の方も可能であればヒトに痒みを感じさせずに吸血したいと考えているはずです。ヒトに気づかれずにコッソリと吸血できれば、叩き潰される確立は激減しますもの。
そのため蚊は唾液成分を変化させて、できるだけヒトのアレルギー反応が起こらないように工夫しているんだそうです。
そうだとすると、蚊の吸血行為はヒトにとってどんどん痒くない方向に向かい、双方にとって平和になるかと思われますが、しかし蚊は吸血するだけでなくマラリヤや脳炎やデング熱などの病気も媒介するのです。
ですから、痒くなけりゃ血を吸わせて良いってわけじゃないんで、我々も蚊の唾液には常に敏感であるべきなんです。人間は痒みを感じることで、蚊から我が身を守っているのですから。
蚊は唾液成分を変化させることで進化し、ヒトは敏感にアレルギー反応することで対応する。
一方の働きかけにもう一方が反応する、ということだけに注目すれば、これは一種のコミュニケーションの様でもあります。
ラオスに来る前の話。
西アフリカのガーナに長期間滞在したあと、日本に帰国しました。
その時の関東地方はまだ蚊が生息する季節であったため、知らないうちに何箇所も蚊に刺され、腕や足に相当の数の吸血痕が赤く浮き出て来ました。しかし、不思議なことにまったく痒みを感じませんでした。
ガーナの蚊と日本の蚊では唾液成分が異なるのだと思います。ガーナ滞在中、彼の地の蚊の唾液に対して敏感に対応していた私の身体は、日本の蚊には無防備になってしまったのでしょう。
長期の外国暮らしの後、母国・日本が遠い存在に感じられるようになり、情けないことにそこに生息する蚊とのコミュニケーションも成立しなくなってしまった。
私は本当に日本人なのかー?