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僕の読書ノート「ソロモンの指輪 動物行動学入門(コンラート・ローレンツ)」

2022-09-24 07:44:42 | 書評(進化学とその展開)

 

約40年前の学生時代に読んだ本をひさしぶりに読み返そうと思って、実家の本棚でホコリをかぶったままだったのを持ち出してきた。1983年2月28日の改訂第24刷である。当時も生物学関係者の間では有名な本であったが、今や文庫化もされ、10代に薦める名著として、一般向けの動物啓蒙書の古典となった。書かれたのは、1949年のことである。

古代イスラエルのソロモン王は特別な指輪をつけると動物と話ができるという伝説が伝わっているが、自分は指輪などしなくても、動物と話ができるよ、というところから書名が来ている。著者のコンラート・ローレンツは、フリッシュ、ティンバーゲンとともに、動物行動学分野の研究成果によって1973年のノーベル医学生理学賞を受賞している。本書にも、ローレンツの研究成果の片鱗が出てくる。刷りこみという学習の一様式、オス同士の戦いの儀式化という生得的(本能的)な性質、人間の言語とは違って気分をダイレクトに表す音声によるコミュニケーションなど、動物たち(脊椎動物)の認知と行動のかたちの一端を明らかにしている。そうした学問的発見が、動物たちとの愛情あふれる遊びのようなふれあいにおける観察の中から得られた様子が描かれているのが本書である。

場所は、ドナウ河畔のアルテンベルクにあるローレンツの家であり、そこで様々な動物たちが飼われている。半ば野生的な、半ば人工的な、独特なスタンスで動物たちとつき合って、彼らを観察している。通常、おりの金網は動物が外に逃げないような役目を持つものだが、ローレンツの家の金網は動物、とくに鳥たちが家の中や庭に入ってくるのを防ぐためのものである。野生で暮らす動物たちがここをなじみの場所だと思っているのだ。

オス同士の闘いは儀式化されていて死ぬまで戦わないようになっていること、宝石魚類は夫婦で子育てをするだけでなく夫婦が個人的に結びついていること、ガチョウなどのヒナが「刷りこみ」によりローレンツを親だと認識すると、やりなおしがきかないため後が大変だという苦労話、(高い認知機能を持つ)コクマルガラスの行動の話はどうしても擬人的に聞こえるかもしれないが、逆に動物的な遺産が人間の中に残っていることが示されているだけであること、コクマルガラスやイヌのような社会生活をする高等な動物たちでは生理的気分を伝達する発信器官と受信器官が人間よりはるかによく発達し、音声や身体の動きなどで無意識に気分表現のやり取りをしていること、その音声を理解して真似することでローレンツは鳥にメッセージを伝えられること、オオカミ系とジャッカル系のイヌの性格の違い(現在では全てのイヌの祖先はオオカミであることがわかっている)、イヌの忠誠さほど自分にあたたかい安らぎを与えてくれものはないこと(本書にネコは出てこない)、などなど話題はもりだくさんだ。

アヒルと先祖のマガモは、鳴き声が共通しているという。アヒルでも、人間が腰をかがめてでも、ゲッゲッゲッ....といいながらゆっくり歩きだすと、子ガモはあとをついてくるという。近縁種のカルガモの成鳥なら、近所の池にいるので、鳴き声をまねしたらどんな反応をするか今度試してみようか。そんな、実験心をかきたてる本である。

草食動物のウサギは、仲間同士で(加減がわからないかのように)殺し合う。一方、肉食動物のオオカミは、仲間同士で(本気を出したら殺し合いになることがわかっているかのように)傷つけあわないような社会的抑制がはたらいている。ローレンツは本書の最後をこう結んでいる。「いつかきっと相手の陣営を瞬時にして壊滅しうるような日がやってくる。全人類が二つの陣営に分かれてしまう日も、やってくるかもしれない。そのときわれわれはどう行動するだろうか。ウサギのようにか、それともオオカミのようにか?人類の運命はこの問いへの答えによって決定される」



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