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wakabyの物見遊山

身近な観光、読書、進化学と硬軟とりまぜたブログ

書評「リアルサイズ古生物図鑑(土屋健)」

2018-10-13 21:50:21 | 書評(進化学とその周辺)


とうの昔に絶滅してしまった古生代の動物(一部植物もあり)たちの姿を、精細かつ大きさを考慮して復元させて、現代の風景に出現させてみせたタイムマシーンのような図鑑である。2018年7月21日に発売されたが、Amazonの売れ筋ランキングでは、地球科学と生物学のカテゴリーで、今でも(2018年10月13日現在)第3位である。しばらくは第1位を続けたのだと思う。この分野の本としては大ヒットじゃないだろうか。アイデアが良かったが、これだけ精細な古生物のイラストを多数(207ページの本)制作した労力も貢献している。CGを使って描いているのだろうか。かなり想像も入っているのだろうが、とても生き生きとあたかも今も生きている生物のように描かれている。いわゆる進化学の教科書では、ここまでしか分かりません、といわんばかりのそうとう単純なイラストしか載っていないのと対照的である。背景の多くは、istock(ゲッティイメージズ)の画像を使用している。つまり出来合いの写真を購入して使っているのであるが、そこはコストのこともあり仕方ないのだろう。ただし、出てくる人物がほとんど白人なのがすこし気になった。それで絵としては映えるのだが、なんか広告のようでもある。まあ、これらの化石がヨーロッパやアメリカを中心に世界中から見つかっていることも確かなのだが。
99ページに各種のウミサソリ類が並べて描かれているが、ほとんどケジラミのように見える。これが現代の風景に合体すると、数十cmから2m近くもあるのだからおそろしくなる。それにしても、古生代にはみょうな形の動物が多かったと実感する。しかし、あるていど一定の形には収まっているとも思う。現代の生物と共通な原理で形作られてれていたのだなと思うのである。

書評「生物の進化と多様化の科学 放送大学教材(二河成男)」

2018-02-18 21:18:59 | 書評(進化学とその周辺)


私が生物学科の学生だった30年前には進化学の授業はなかった。せいぜい系統分類学の授業があったていどである。しかし、今やちまたには「進化」という言葉があふれている。ダーウィン進化論にもとづいた進化医学や進化心理学といった学問分野も生まれている。ダーウィン進化論を援用することで、人間や世界の様々な営みや変化をうまく説明できることがわかってきたからだ。そんな中で現代の進化生物学を学び直したいと思っていたところ、たまたま見つけたのが放送大学のテレビ授業であり、その教科書として出版されている本書であった。

本書は5名によって分担執筆されており、下記の15の章から構成されている。
1.生物の進化と多様化
2.自然選択と適応
3.中立進化と偶然
4.生命の誕生
5.ミクロな生物の進化
6.カンブリアの大爆発と多細胞動物の起源
7.顕生代の絶滅事件:オルドビス紀末を例に
8.植物の陸上進出と多様化
9.花の進化:陸上植物の生殖器官の進化
10.動物の発生と進化
11.ゲノムの進化と生物の多様化
12.寄生-その生態と進化-
13.内部共生がもたらす進化
14.性と進化
15.人類の進化

このように進化生物学の様々なテーマが過不足なく網羅されていて学び直しにはうってつけだった。7章で取り上げられた海の化学的な環境変化による大量絶滅の説明仮説、8・9章で取り上げられた単相世代(配偶体)と複相世代(胞子体)のサイクルと植物の進化の関係は複雑で難しい。

以下は私なりのメモである。
・生物種の分岐によって多様な生物が存在し、現在の地球上で知られている生物種は200万種に近い。
・ダーウィンは自然選択により生物に適応的な進化が生じると考えた。自然選択が起こるのには3つの要件、変異、変異の遺伝、生存や繁殖に有利不利があること、が必要である。現在の進化学説は、ダーウィンが提出した考えに、遺伝学、分子生物学などのさまざまな最新の知見を取り込んで、進化の総合説やネオダーウィニズムなどど呼ばれる。
・DNAに生じた突然変異がその生物種に広がっていく過程は、自然選択だけでは説明できず、分子進化の中立説で説明が可能である。この理論は、DNAの塩基配列やタンパク質のアミノ酸配列から生物種の近縁関係や分岐年代を推定する手法の基礎になっている。
・多細胞動物は6~5億年前、エディアカラ紀からカンブリア紀にかけて進化してきた。化石でその痕跡を追跡するしかないが、この分野の研究は非常にホットでネイチャー、サイエンス、プロナス、といったインパクトの高い科学誌の紙面をにぎわしている。
・植物の花の形態形成を司る転写因子はMADS-box遺伝子であり、その遺伝子重複によって新たな機能を獲得し花が進化してきた。同様に動物の体節形成を司る転写因子はホメオティック遺伝子であり、その遺伝子重複によって複雑な形態形成が実現された。
・寄生者と宿主の間の利害対立の現象として興味深いものとして、寄生者による宿主の操作という現象があり、寄生者の存在によって、宿主の形態、生理、行動などに巧妙な変化が起こり、寄生者が宿主生物を自分に都合よく操っているように見える。
・現生人類の遺伝情報のなかにわずかではあるが、別の種であるネアンデルタール人の遺伝情報が混入されていることが確かめられている。現生人類とネアンデルタール人には共通の祖先がいるのだが、ネアンデルタール人の出現後に新たに獲得した遺伝子が、交配によって現生人類にもあとからもたらされたということなのだろうか。どのように調べられたのか興味がもたれるところだ。

書評「哺乳類誕生 乳の獲得と進化の謎(酒井仙吉)」

2017-07-02 15:13:34 | 書評(進化学とその周辺)


哺乳類の起源と進化が書かれた本を読みたいと思い探したところ、この10年くらいで出版されたそういった分野の本は意外と少なく、本書くらいしか選択肢がなかったので購入した。読んでみると、興味深い内容がたくさん盛り込まれていたが、なんとも文章が読みにくい。著者は、獣医学の大学教授として家畜育種学を教え、泌乳生理学を研究していたかたである。だから進化学を専門としていたわけではなく、大学での講義や研究とは別に、著者が勉強して得た知識がたくさん披露されている。「はじめに」で、「理系の研究者は論文作成で結果を正確に文章化することに気を遣い、分かりやすさを重視することはほとんどない。筆者も例外でなかったようで、その性癖にブルーバックス出版部、なかでも熊川佳子さんからの助言で気づくことが多かった。努力したつもりだが、読みやすさについては読者の皆様に判断を仰ぐことにする。」と述べている。私見ではあるが、分かりやすさを重視することは理系の文章としてとても大切なことであるし、それ以前に、内容が正確に文章化されていないのではないか、という疑念を感じることが多かった。事実の記述のあとに、筆者のコメントのような文章が入るのだが、意味不明の文章が散見された。内容としてはおもしろいことがたくさん書かれているので、もったいない話ではある。進化全般や人類の進化を書くすぐれた書き手はたくさんいそうだが、哺乳類の進化の分野は意外とニッチなのかもしれない。

本書は下記のような構成になっている。
「第一部 遺伝の仕組みにあった進化の根源」では、進化全般のメカニズムを遺伝学から説明している。
「第二部 新天地を求めた動物」では、水中で生まれた動物が水中から陸上へ移動したいきさつや、鳥類や哺乳類の出現と進化について説明している。
「第三部 進化の究極-乳腺と泌乳」では、著者の専門である乳と乳腺についてくわしく解説している。

哺乳類の進化について、とくに興味をもったポイントをまとめてみた。
・哺乳類の最大の特徴は胎盤と乳腺にある。哺乳類は最初は卵生であり、有袋類で初めて胎生となり子を出産、乳頭が出現した。
・単孔類のカモノハシは2億年前に出現し、有胎盤類と異なる方向に進化した。タマゴを産むことでハ虫類にちかく、乳で子育てすることで哺乳類にちかい。ハ虫類から進化したことを示す生きた化石である。親にはまだ乳頭と乳房はなく、乳区というものが腹部に一対存在する。孵化するころに乳腺が完成する。この部位からしみ出したクリーム状の乳が毛の密集しているところに集まり、それを子がなめるという最も原始的な哺乳様式をとっている。
・有袋類のカンガルーの妊娠期間はわずか約30日で、胎盤が不完全で未熟児状態で出産する。生まれた子は、育児嚢に入り乳頭に吸い付く。有袋類では卵黄嚢を通じて母体と物質交換をおこなう卵黄嚢胎盤を有するため、ヘソはない。
・有胎盤類(真獣類)において、外細胞塊から胎盤を誘導する遺伝子がPou5flである。ハ虫類、鳥類、単孔類、有袋類にあるPou2という遺伝子が重複してできた。Pou5flと遺伝子転写因子のCdx2が協働することで胎盤形成にはたらく。
・汗腺には、脂肪、タンパク質、糖分、その他微量要素を含んだ分泌物を出して、皮膚の保護と体毛の維持にはたらくアポクリン腺(皮脂腺)と、99%の水分を出すエクリン腺(いわゆる汗腺)がある。アポクリン腺が乳腺の基になった。プロラクチンというホルモンは、魚類にも存在し母性行動を誘発する。鳥類では抱卵中に高濃度となる。ハトではそ嚢乳で子育てするが、これはプロラクチンの刺激で作られる乳様物質である。哺乳類ではプロラクチンが乳成分の合成を調節している。
・哺乳類は生後、短期間で強度を備えた骨にするために、カルシウムとリン酸を大量に与える必要があった。これらの運搬をカゼインが負っている。ハ虫類の単弓類のキノドン類はカゼインの祖先型遺伝子を有していた。カゼインは元々、骨、歯、卵殻にカルシウムを運んでいた。哺乳類は祖先型カルシウム結合性タンパク質遺伝子をカゼイン遺伝子に進化させ乳腺で発現させた。
・乳には乳糖が存在するが、αラクトアルブミンが乳糖合成に関与する。ニワトリの皮膚や卵白には殺菌作用を持つリゾチームが存在する。哺乳類はこれの遺伝子重複、それに続く塩基置換によってαラクトアルブミンを進化させた。
・マウス乳腺にはアミノ酸酸化酵素があり、遊離アミノ酸を分解して過酸化水素を発生させる。牛乳中にはこの酵素はなく、未知の低分子化合物が過酸化水素を発生させる。できた過酸化水素はただちに過酸化水素分解酵素によって、チオシアン酸からチオシアナイトとなり、微量で強い殺菌作用を示す。
・ラマルクの獲得形質については、DNAに記憶されている潜在能力の遺伝によって説明できるとしているが、正直私には意味が分からなかった。
・本来ヒトは肉食性であったが、雑食性に変化した。ヒトを含めた真猿類では、ビタミンC合成酵素であるグロノラクトン酸化酵素が働きを止めた。それでビタミンCを野菜や果実から摂るようになった。ヒトは植物からビタミンCを摂るようになり、一緒にデンプンやセルロースも摂取することになった。セルロースは栄養にならなかったが、デンプンを消化する酵素アミラーゼを持っていた。胃はデンプンを消化できず、滞在時間が長いために満腹感が持続することも受け入れられる要因となった。
・ヒトはこの200年間で、10億人から70億人に増えた。人類は多くの動物を絶滅させてきたが、ヒトの人口爆発は食糧不足を招き、自らの滅亡に導くことを著者は恐れている。

Radiohead - No Surprises