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書評「生物の進化と多様化の科学 放送大学教材(二河成男)」

2018-02-18 21:18:59 | 書評(進化学とその展開)


私が生物学科の学生だった30年前には進化学の授業はなかった。せいぜい系統分類学の授業があったていどである。しかし、今やちまたには「進化」という言葉があふれている。ダーウィン進化論にもとづいた進化医学や進化心理学といった学問分野も生まれている。ダーウィン進化論を援用することで、人間や世界の様々な営みや変化をうまく説明できることがわかってきたからだ。そんな中で現代の進化生物学を学び直したいと思っていたところ、たまたま見つけたのが放送大学のテレビ授業であり、その教科書として出版されている本書であった。

本書は5名によって分担執筆されており、下記の15の章から構成されている。
1.生物の進化と多様化
2.自然選択と適応
3.中立進化と偶然
4.生命の誕生
5.ミクロな生物の進化
6.カンブリアの大爆発と多細胞動物の起源
7.顕生代の絶滅事件:オルドビス紀末を例に
8.植物の陸上進出と多様化
9.花の進化:陸上植物の生殖器官の進化
10.動物の発生と進化
11.ゲノムの進化と生物の多様化
12.寄生-その生態と進化-
13.内部共生がもたらす進化
14.性と進化
15.人類の進化

このように進化生物学の様々なテーマが過不足なく網羅されていて学び直しにはうってつけだった。7章で取り上げられた海の化学的な環境変化による大量絶滅の説明仮説、8・9章で取り上げられた単相世代(配偶体)と複相世代(胞子体)のサイクルと植物の進化の関係は複雑で難しい。

以下は私なりのメモである。
・生物種の分岐によって多様な生物が存在し、現在の地球上で知られている生物種は200万種に近い。
・ダーウィンは自然選択により生物に適応的な進化が生じると考えた。自然選択が起こるのには3つの要件、変異、変異の遺伝、生存や繁殖に有利不利があること、が必要である。現在の進化学説は、ダーウィンが提出した考えに、遺伝学、分子生物学などのさまざまな最新の知見を取り込んで、進化の総合説やネオダーウィニズムなどど呼ばれる。
・DNAに生じた突然変異がその生物種に広がっていく過程は、自然選択だけでは説明できず、分子進化の中立説で説明が可能である。この理論は、DNAの塩基配列やタンパク質のアミノ酸配列から生物種の近縁関係や分岐年代を推定する手法の基礎になっている。
・多細胞動物は6~5億年前、エディアカラ紀からカンブリア紀にかけて進化してきた。化石でその痕跡を追跡するしかないが、この分野の研究は非常にホットでネイチャー、サイエンス、プロナス、といったインパクトの高い科学誌の紙面をにぎわしている。
・植物の花の形態形成を司る転写因子はMADS-box遺伝子であり、その遺伝子重複によって新たな機能を獲得し花が進化してきた。同様に動物の体節形成を司る転写因子はホメオティック遺伝子であり、その遺伝子重複によって複雑な形態形成が実現された。
・寄生者と宿主の間の利害対立の現象として興味深いものとして、寄生者による宿主の操作という現象があり、寄生者の存在によって、宿主の形態、生理、行動などに巧妙な変化が起こり、寄生者が宿主生物を自分に都合よく操っているように見える。
・現生人類の遺伝情報のなかにわずかではあるが、別の種であるネアンデルタール人の遺伝情報が混入されていることが確かめられている。現生人類とネアンデルタール人には共通の祖先がいるのだが、ネアンデルタール人の出現後に新たに獲得した遺伝子が、交配によって現生人類にもあとからもたらされたということなのだろうか。どのように調べられたのか興味がもたれるところだ。


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