渋川智明さんという新聞記者の方が2001年に著した『福祉NPO―地域を支える市民起業』 という本を読みました。
この本は『はばたけスワンベーカリー』という本を読んだときに、アマゾンの「この本を買った人はこの本も買っています」で紹介されていたので手に取ってみました。
主に老人介護をサポートする福祉団体がNPOとして自立していく事例をレポートした本です。福祉NPOが介護保険制度(2000年から)を介して事業として成立する際に直面する問題を人財・法制度などの点から紹介しています。
私自身は元々こういった問題について無知に近かったので、この本が紹介するNPO団体の事例を読みつつも、今これらの団体が直面する問題が何なのかはまだわかりません。
ただ、老人介護・医療はこれまでも問題だったでしょうが、これからは国家の財政と社会の運営にとってもっとも中心的な問題になってくることは確かなのでしょう。「老い」ということが、人生からの引退・余生の時期であった時代は過ぎ去り、「老い」の時期が社会の成員全体にとって再検討すべき時代に入っています。
端的に言えばこれまでのように「老人」の医療費をこれまでのように社会(国家)が支えることは不可能であり、もはや「老人」は「老人」として存在することが許されなくなりつつあります。少なくとも国家からの支給はこれからは期待できなくなります。
にもかかわらず、では国家に頼らずに社会が「老人」の介護・医療を支えなければならないとするとき、NPOはひとつの解決策になりうることをこの本は紹介します。「老人」の数が大量になっていくことで、社会の側が自分たちの介護・医療を自分たちで支える試みが多くの場所で起こっているそうです。
また「福祉」といったことが特別な人が行うものではなく、主婦(夫)やサラリーマン(ウーマン)が関わる際に、NPOはひとつの足がかりとなりやすいこともわかります。
一番気になるのは、経済的にどのようにペイしているのかということですが、それは詳しくは述べられていません。全面的にボランティアで無償で関わっている人もいれば、ある程度お金をもらっている人もいて、最近は後者が増えているそうです。当然常勤の職員がいる団体もあるのですが、福祉NPOで働いて高給を得ることは難しいでしょうし、社会全体の平均的な給与額(ある試算では一世帯800万/年)を得ることも困難でしょう。
この経済的な問題のクリアはおそらくこれからますます求められてくるでしょう。若い人たちの間で一方では高給を得られる仕事を追い求める傾向はありますが、こうした福祉団体に仕事の場を求める人は増えているでしょうから、NPOがひとつのキャリア形成の場になることが考えられます。しかしそれもその団体が経済的に自立できるかどうかが鍵であって、そのあたりの事情はどうなのだろうと思いました。
また、こうした市民福祉においては、日本では生協や農協、社会福祉協議会という行政とつながる組織などが日本ではすでに浸透しており、これら既存の組織の役割が改めて見直されているそうです。
この本では、市民福祉が特定の人々がかかわる活動であった時期から、その必要性から誰もが関わるようになっている時期に転換していることをよく表していると思います。私自身が無知だっただけですが、行政に全面的に依存しない人々の自立的な福祉運営が社会に行き渡っていることを教えてくれます。