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日々の体験や思ったことを綴ります(by 涼風)。

“3121” Prince

2006年05月18日 | Music
プリンス『3121』を遅ればせながら5月の初めに聴きました。なんとアメリカのチャートでは初登場1位だったみたい。前作あたりから再評価の気運で世界的に盛り上がっているみたい。“Lovesexy”の派手派手ライブツアーで破産の危機に陥ったことを知っているファンとしては隔世の感です。

アルバムの内容としては、まぁ、80年代から彼を知っている者としてはあいかわらず複雑な気分にさせてくれるものです。この複雑な気分は90年代からずっと新譜が出るたびに味わっているんですけど。

要するにプリンスという人は80年代の傑作3部作(“Around the world in a day”“Parade”“Sign of the times”)で生きる伝説になってしまったので、その後にどれだけいいものを作っても、絶頂期との比較で聴いてしまうのです。

いくらプリンスという人が天才だろうと、あの3部作を作っていた時期というのは本人が作っていたというより音楽の神様が彼の身体を通して流れ出たものだったのでしょう。

なぜそんなことを言うかというと、傑作3部作以降の彼の作品はどれもテクニックの面では1流の音楽だと思うのですが、どこかプリンス自身の気負いが感じられるものだからです。

「プリンス」という個人・エゴ・パーソナリティを超越して才能の流れに身を任せることが出来たからこそ、上記の歴史的傑作ができたと思うのですが、それ以降の彼の作品には「俺はまだまだこんなすごい音楽が作れるんだ」という気負いが感じられて、クオリティ自体は高いのに、何かプリンス自身が純粋に音楽を楽しんでいない雰囲気がありました。

その落差を目の当たりにして、ファンとしては、その姿が痛々しいものに映っていました。

中には“Emancipation”“Rainbowchildren”のように、自分のテクニックを誇示するような気負いから解き放たれて純粋に音楽を楽しもうとするアルバムもありました。それ自体はファンとしてはとても楽しめる音楽だったのですが、そのように純粋に音楽を楽しもうとするとなぜかプリンスは天上人のようになってしまって、なにか悟りを開いてしまったような、チャートとも音楽シーンとも無縁の仙人のような雰囲気をその音で醸し出していて、それはそれで寂しくもなっていました。

90年代のプリンスの音楽は概ね80年代の傑作との比較で低評価されたのだと思いますが(少なくとも僕は)、しかしライブの評価はいつも高評価でした。

アルバムが不満を抱かせるものなのにライブが素晴らしくなるのは、スタジオと違いライブでは観客に直接向き合うので、プリンスはへんな気負いや諦念から解放されたんじゃないかと思うのですが。

逆に言えば、彼は90年代は、彼自身の中でもつねに「‘Housequake’のような曲を自分は作れるだろうか」という疑いとどこかで多々感じていたんじゃないでしょうか。

そうした80年代の傑作の呪縛から解き放たれ始めたのが21世紀以降のプリンスの傾向のように思います。純粋に音楽を楽しむ姿勢とそれをファンと共有しようとする開放的な感覚が上手く溶け合うというか。

技術的な部分では90年代の作品だって十分に高水準だったし、この“3121”と同レベルだったのだと思う。しかし“3121”がなぜ大衆に受け入れられているのかといえば、時の巡り合わせという部分もあるだろうし、同時にプリンス自身が自然に「今自分がやれること」に満足していることが大きいのだと思う。

彼の絶頂期を知っている者としては、その彼がかつての生き生きとした感覚を取り戻していることは嬉しい。しかし同時に、なにかそれは、「リハビリの回復が順調」とでも言うような(辛辣だろうか)、やはりかつての音楽との比較で彼を見てしまうのです。

“3121”はこれまでの彼の90年代以降のどのアルバムよりも、彼の絶頂期の雰囲気を取り戻している。まるで、彼のかつてのシングルに収められた傑作のB面や、ペイズリーパーク・レーベルで彼がプロデュースしていた女性ヴォーカリストの曲のような。

自分以外の何か大きなものの力によって20代で伝説的な音楽を作り出したものがそれでも後の人生を生きることを強いられるという例はプリンス以外にも多くあったでしょう。中には自分が成し遂げたことの重みに耐え切れなくてリタイアしてしまった人も多いし、かつての栄光と比べればファンを落胆させる音楽を作ってしまう人も多い。

プリンスはそのプレッシャー(を本人がどこまで感じていたかは分からないけど)に潰されずに、なんとかトンネルを抜けた。そこが、何か「リハビリで上手く切り抜けた」という印象をもってしまう。これは昔からファンゆえの評価だろうか。


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1 Comments

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「ただひとり」のために (myu)
2014-11-25 05:50:14
「僕はPrinceのことを知っている」みたいなブログで興味深く読ませていただきました。

80年代のJapan tour のことは今では語り種ですけれど(ってまわりにだれもPrinceのことを話題にしている人がいない...のですが)

バブリーな時代背景だっただけに、「音楽は金や女ではない」と捨て台詞を残し、日本を去っていった「ただひとりの存在」に

涙ながら拍手をしてさよならしたことを思い出します。

先日、某テレビ局でNEW albumの紹介をほんのチラっとしていましたね。必要な情報というのはここ日本では短いものです。

あなたは今でもファンのひとりですか。







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