見上 司さん(秋田県三種町)の第4詩集『野擦の歌』が出版された。
14行詩、いわゆるソネット形式での55編が収められている。作品は勿論、序文もあとがきも
少年の震える心のように繊細な感性で満ち満ちている詩集だ。
「もともと題名がなく番号のみを付していた」という作品に題名を付し、三好達治や中原中也、
種田山頭火、萩原朔太郎、ランボオ、井上陽水などの詩行の一部をサブタイトルに添え(最初から
サブタイトルを付していたのかもしれないが・・)、実にうまくマッチングさせている。あとがき
で「寸断された思いや風景、悲しみを、ぼくは書き継いだ、何年も何十年も・・・。心にしまいこ
んだ、心のなかだけの物語。誰も知らない、本当のことはだれも知りえない物語だった」と書く
見上さんの世界を読みすすめていると、遠い昔、詩に憧れ多くの詩人たちの詩を夢中になって読んで
いた頃に戻ったような気がした。
本詩集は、見上さんの本源的な位置、資性を示す詩集となったのではないだろうか。
夏の行方
ー海が私を待っている。
ー三好達治ー
潟風に 野焼きのけむりがくすぶり流れていった。
まばゆい空のしたに いまも眠る
過去の村から陸橋をくぐり、自転車で駈けて
駈けて駈けて 過去の丘に立っている。
*
(もういちど会う日はないか、ああもういちど)
うすむらさきにけぶる とおい鉄路の果てに
わたしは見ていた、かぎりない夏のすがたを
そのゆくえを。
*
木々は、まぼろしの少女のように手をさしのべる。
また木々は 少年のように苛立ち、
とおくを見つめている、夕暮れに。
*
見知らぬ森のなかで
いまもしずかに 信号機がうごいている、
誰も知らない。そのことさえもだれも知らない。
著 者 見上 司(みかみ つかさ)秋田県三種町在住
発行所 砂子屋書房(東京都千代田区内神田)
発行日 2020年10月25日
定 価 2,000円+税