詩とエッセイで構成する『海市』同人の佐藤正さん(秋田市)が、エッセイ集『水田とツバメ』を刊行した。
収められた36編は、同誌3号から38号までに連載されたもの。その後も継続中。
因みに創刊号と2号は「鳥日記」で、これは収録されていない。どうという意味合いはないが、彼らしいな
と感じた。なお、『水田とツバメ』は第1回目のタイトルでもあり、現在に至る連載のタイトルでもある。
勤務先を退職するにあたり<一区切り>つけるためベトナムとカンボジアへ旅行した際、「今回の旅行で印象
深かった」と記すのは、「ハノイからハロン湾に向かう途中で見られた水田風景と、カンボジアのアンコール
ワットの遺跡で見かけたツバメだった」という。兼業農家として、若い頃から両親の農作業を見て来ている
作者にとって印象深いとする光景が、現在も日本の農村部にわずかながら見られる光景であったというのは、
ちょっと意外な気もした。もしかして、その情景は、彼の持つ意識と原風景が重なったからかも知れない。
アトランダムに・・・と言うのは適正ではないが、テーマ主体はきっちりさせながらも、都度視点を変えて
記す<農業><農家><地域制><風土><社会通念><自身の在り方>などなど、読んでいてあらためて
物事に通底する世の基本を知らされる。稲や草の生態もしくは名称など私は意識することもなかった。これ
は読者の一人として大きな収穫。勉強家でもある彼は、歴史ある地域の謂れや先人、今を生きる先輩の生き
方などを時として語り、記す。何よりも、生物を意識して自らが生きているということが伝わってくる。
昨今の<令和の米騒動>関連は、残念ながらこの中に収録されていないが、次の39号では次のようにある。
「値段が急に上がると驚くが、ご飯茶碗一杯に使われているコメの重さは約六五グラムだという。一〇キロ
の袋に入ったコメだと一五四杯分になる。仮に一〇キロが五〇〇〇円だとすると、一杯あたり三二円くらい
になる。三杯食べても一〇〇円以下である」と書く。珍しく”声”をあげた。
著 者 佐藤ただし(本名 佐藤 正)
出 版 書肆えん (010-1604 秋田市新屋松美町5-6
発行日 2025年2月8日
定 価 非売品