元秋田県現代詩人協会会長の石川悟朗さんが第4詩集『遠望』を刊行された。
所属詩誌「密造者」に発表した27編を収めている。
どれも「密造者」で目にした作品なのだが、時間を超えて一つになって溢れ出て来た、
そんな気がする作品群だ。それは懐かしいような、読み手もどこかで
一緒に体験したような詩世界で、そこに立ち合っている感覚さえする。
石川さんの詩世界は、個人誌「のんびりや」を発行するようになってから
ますますその世界観が顕在化したようにも思えてくる。
言葉の持つ優しさがあって、だからこそ作品の中に出て来る人物も動物も自然も妖精も
夢も現実も、みんな和みのある”存在”となっている。石川さんの中に生息している分身たち。
何個かのキーワードを勝手にあてはめるとすれば、大きな存在は”生まれ故郷”、ふるさとだろうか。
多感で夢見る少年の世界の、絡まってしまったかもしれない糸玉を大切に大切に、
根気よくほぐしているようにも思える。
「ふるさとくん」
どういうわけかぼくのうしろを
あるいてくる
ふるさとくんというひと
あなたはなにものですか
ふりむくとすっといなくなるのです
ふるさとくんはにおいます
おともします
おじいさんやおばあさんのごほんごほんというせき
うしやうまのにおい
こわいせんせいがムチでこくばんをたたくおと
おいかけます
するりとにげてしまいます
ぼくのまえをあるいていることもあります
ふるさとくん
あなたがかついでいるおおきなふくろから
ぴゅうとでてくるフィルム
むらのおとなたちがあせをながして
きをきりたおしすみやきをしている
ふんどしいっかんであかあかともえている
ぼくはいたずらがすきだったから
みずてっぽうでうってやった
こっぴどくしかられている
ふるさとくん
あなたはおどっているのですか
チラチラあなたのまわりからこぼれおちてくる
きぼうというあさひのようなかがやき
きらきらまう
ちぎれぐもはむらさき
あたまのうえにおちてくる
ふるさとくん
にがいあじもにじんでみえます
みんな
ポケットにいれてゆくのです
せつなくおもくおしよせてくるのです
ふるさとくん きえないでいてください
したしみがわいてくるのです
著 者 石川悟朗(いしかわ・ごろう)
発行日 2024年9月9日
出 版 書肆えん(秋田市新屋松美町5-6)
詩誌「密造者」同人、日本現代詩人会会員、秋田県現代詩人協会会員(名誉会員)