陽だまりの中のなか

前田勉・秋田や詩のことなど思いつくまま、感じたまま・・・。

見上 司 詩集『虹のような日』

2023-12-30 | 詩関係・その他

      

 見上 司さんの新詩集『虹のような日』が土曜美術社出版販売から刊行された。
 見上さんは秋田の三種町在住の詩人。抒情的詩風の作品が魅力的だ。

 読み手の内奥へどこかしっくりと纏わりついてくるような、そんな詩を書く人・・・
と書いてしまえば固定観念で作者へ迷惑をかけるかも知れない。
 だが、詩を読むという能動的な立場にいる人にとっては、作者が身近な存在となって
ビンビンと心に響いてくる作用があるかも知れない。

 作品集の前にある散文「自序」と最終にある「あとがき」は、一般的な詩集には珍し
く作者の本音が表出されていて、苦悩、詩に対する真摯な取り組み方、詩論、持論、人
生観などが読み取れてくる。詩作品以前にこの詩人の在り方が視えて、とてもとても他
人ごとではない情感が湧き出てしまう。
 「こんどこそこれが最後になるのではないか。もう一行も書けなくなる。書かなくな
 てってしまう。その恐れのなかで書き継いできた」


「虹のような日」

ひょっとして ぼくが手にした一篇の
名もない詩が だれかの人生の
そらに すっと一条(ひとすじ) にじをかける
まかふしぎなちからをもって
いるかもしれない
そんなたわいないざれごとに
ひとり 胸をあたためる日が
あってよいのだ

なにもかもが 徒労であったと
うらぶれて とぼとぼかえる
ゆうまぐれ

都会のこんなビルのはざまに
こぢんまり おきわすれられたような
神社のまえのベンチにすわり
ふるい 小さな
かみさまと はなしてみる

ああ 
ちいさな神さま
ちいさな神さまよ

 

発 行  2023年12月10日
著 者  見上 司(みかみ・つかさ)
発行所  土曜美術社出版販売
頒 価  2,000円+税

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佐峰 存 詩集『雲の名前』

2023-12-27 | 詩関係・その他

      

 コトバの持つ拡がり、思惟の展開といったものの表現形態、その可能性を感じた作品集・・・
と言えば大げさだろうか。

  11月下旬、著者の佐峰 存(さみね・ぞん)さんからご恵投いただいた詩集『雲の名前』を
一言でと問われれば、乱暴だが、
そうこたえたい。

 繊細な内奥の吐露は時に傷みを伴いながら綿々と表現されている。感受性とか表現力という
ことにまとめてはいけないよう
な、一つの感覚・感性の世界観を表した詩集ではなかろうか。
この、インパクトある表現力の作品集に
出会ったことに刺激されている。
(下記引用作品は、先述とは関連なし。あくまでも作品紹介の一部)

 

「夜の鼓動」(の内の「Ⅱ 鏡像」を引用)

 深夜の湖底に軋み
 傾く満員電車の吊り革の森
 年季を重ねる群生に迷い込んだ
 毛深い蛾が 束の間の心を運んでいる

 一対の翅がなす 羽ばたきの綿は
 ふくよかな腹を風船のよう
 蛍光の波打つ宙にのせ
 読まれることのない軌道に
 
呼吸を紡いでいく 
 
速度の中を飛ぶ速度

 鋼橋を潜り抜けてきた関節に
 
染みわたる音程 傍らで
 人々の眼鼻も樹立する
 
水を通わせ
 時間の苔を育みつつ
 
疾走する生態の園
 蛾の鏡像は火花をひらき
 脱皮の果ての柔らかさにそよぎ
 やがては昏々と
 眠り込むのだろう

 今はまだ 遠くまで美しい
 窓ガラスの硬さにしだかれて
 こぼれながら 太く滑る脚の爪
 
居住区が液状に
 幾重にも加速している

 

著 者  佐峰 存(さみね ぞん)
     詩集『対岸へと』(2015思潮社)
     第一回西順三郎賞新人賞奨励賞
発行所  思潮社
発行日  2223年10月15日
定 価  2,500円+税

 

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