陽だまりの中のなか

前田勉・秋田や詩のことなど思いつくまま、感じたまま・・・。

佐藤ただし詩集 『柵を超える牡牛のように』

2020-07-10 | 詩関係・その他

      

秋田市の「海市」同人、佐藤ただしさんの過去の詩作品が詩集『柵を超える牡牛のように』として、
約40年の時間を経て出版社<書肆えん>から小冊子で発行された。

 実は、現在の「海市」同人4人(佐藤、細部、横山、前田)は、かつて詩誌『匪』(ひ)の同人
でもあった。
 なぜ今なのか?。彼はあとがきの中で「今から40年以上も前に書いたものを、今回まとめること
にどのような意味があるのか」と迷ったと書く。だが「こうしたものを意味あるものにするかしない
かは、これからの自分次第だ」と自らへ言い聞かせている。収録作品は同誌第12号(1975年3
月30日発行)から第26号(1979年5月25日発行)までに発表された彼の詩活動全19編。
以降、彼は詩を書いていない。

 詩とは全く別世界に生きてきた当時の”佐藤青年”が、詩誌「匪」の同人と時間をともにすることに
よって描かれた詩世界は、実は今のこの時代でも通じるアイデンティティ(あぁ懐かしい言葉だ)
そのものの姿ではないだろうか・・・。農家の長男でサラリーマンである彼は、「農」に対してひと
時距離を持っていた時期があったように記憶するが、書き始めた詩にはそのことが良く表れている
ようにも感じられる。40年も前のこと故、当時の状況も感慨もすぐさま湧き出てこないが、一人
の青年が活きて(生きて)いたということははっきりと証明できている。20歳前後でのこの世界
観、凄いではないか。気付かなかった、と今頃言っては失礼になってしまう。な。


   「柵を超える牡牛のように」

  柵を超える牡牛のように
  家畜が獣と化してゆく時
  風は奪われていたものをたっぷり含んで
  もとの場所へ吹き付けてゆく
  おれには
  ことばと素手の感触
  喉のつっかえ棒は取りさって
  この部屋へ呼ぼう
  本当は農民でありたい人達を

  隣の男よ
  舐めてみたことがあるかい
  田畑の土を
  苦いようでじつは甘いんだ
  (近ごろの土は薬品の味がする)
  それじゃおれ達の仕事は
  土の甘さをとり戻すことにある 


   「父」

  父の仮面を剥ぐ風
  農良で
  家庭で
  父の仮面を剥ぐ風

  風は仮面をつくり
  仮面を剥がずにはおかない
  父は仮面を取り外すわけにはゆかない

 

著 者  佐藤ただし
出 版  書肆えん(秋田市新屋松美町5-6)
発行日  2020年5月5日
体 裁  A5版中綴じ18頁
頒 価  記載なし。

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鈴木修一詩集『緑の帆船』

2020-07-09 | 詩関係・その他

      

 鈴木修一氏の第一詩集『緑の帆船』が出版された。
 新旧90編の詩を6つのテーマに分けて配列し、各章の扉には著者の俳句を並べている。
更に特徴的なのは、各章の終わりに掲載作品の初出を掲示し作品を振り返る、背景に触れる
著者の言葉を付していること。ある意味作者と読者とを結びつける、作品へより近づけるヒ
ントにもなっている。

 心象や事象を豊かな言葉で纏っている作品群は、俳人として活躍されてきた著者の詩情が
なせる世界とも言えそうだ。

   
    「緑の帆船」 ー教室の窓にそよぐ樹々に寄せてー

    風をはらんでゆさゆさと
    大樹の緑が揺れている

    春の日
    わずかに萌え出した枝々から
    空の青さを仰いだ時
    太い幹が帆柱となって
    ぐらりと揺らぐ目まいを覚えた

    夏を迎えようとする今
    木々は緑の帆を張って
    春の予感を鼓吹している
    われらこそ
    大空をわたりゆく帆船の群であると……

    そしてそのことを
    私もまた諾うほかはない
    送り返す光のシグナルは
    地球をひと巡りしてきたものの喜び
    巡る度に繁りゆくものの誇りの証しであるから

    帆をふくらませている風と
    同じ風に吹かれて
    私の内部に満ちてくる思いがある
    おまえもまた大空をめぐる旅人
    繁りゆくこの帆船の水夫であったのだと……

 

著 者  鈴木修一(秋田県現代詩人協会会員、現代俳句協会会員、俳誌「海原」同人)
出 版  書肆えん(秋田市新屋松美町5-6)
発行日  2020年7月7日
定 価  2,000円+税

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