陽だまりの中のなか

前田勉・秋田や詩のことなど思いつくまま、感じたまま・・・。

横山 仁 評論『ビンボーチョー 3』

2023-02-11 | 詩関係・その他

横山 仁さんの詩論・評論集『ビンボーチョー 3』が「書肆えん」から刊行された。
2008年8月のビンボーチョー 1』、2013年12月のビンボーチョー 2』に続く発行。

今は廃刊となって存在しないが、当時所属していた詩誌『匪』の
第32号(1981年9月1日)から同40号(1984年12月9日)までに発表した、
詩人立中潤に関する評論とその周辺を論じる詩論、文学論である。

当時、私も同誌の同人のひとりであったが、立中潤の名を思い出したくらいで
実は、横山さんが論じていた内容は全く記憶にない。
ただ、彼の論調の凄さは、何よりも広範にわたる視点からの近接の仕方だと記憶している。
それは、時には読み手が<当然知っているであろう>との前提で進める独特の文体なせいか、
私のような俄仕立ての者には辛いもので、よく呑み込めていなかったのは事実だ。

立中潤という詩人への近接を、
「北川透氏の「あんかるわ」でみたことがきっかけだったとおもう。」と
あとがきにある。
逆算してみると、横山さん30歳の頃になる。
この頃、私は何を感じていたのだろうかと思い返そうとしたが、何も蘇ってこない。
おそらく、横山さんのこの論文を読めず理解できず・・・にいたのだろう。
年老いた今、読めて、理解することができるだろうか。
心もとないが、チビチビとページをめくってみようかと少しは思ったりしている。

 以下、冒頭部分を引用する。 

 

立中潤ノート

(1)

 自死する1日まえのハガキに立中潤はかいている。

 「もう問もなく<おれ>の詩も終焉することになるだろう。谷川雁なら『殺す』とゆー
 かも知れないが、<おれ>はゲンシユクな気持ちと、ある寂しさをもってそれを受けと
 めようと思ってゐる。(中略)詩が終焉したら、ヘタクソな文章ながら、批評の方で自
 立しよう(?)と思ってゐる。」

 詩の終焉とはどういうことか。そもそも詩とはなんなのか。この問いは、詩になにをも
とめるのかという問いと重なるようにおもえる。たとえば近代詩の創始者といわれるポー
にとって「言葉の詩とはつまり『美の韻律的創造』だといえよう。その唯一の判定者は美
意識」でなければならなかったが、それは科学が自然を即物的にするとか、真理の追求は
散文がまさるなどとかんがえたからで、ポーは「あらゆる詩の究極の目的は真理であると
考えられている。すべての詩作品は教訓を垂れるべきであって、作品の詩的価値はこの教
訓をもって判断されなければならない」といった情況のなかで「天上の美を我がものにし
よう」というように、詩を手段から解放し、自立させるために、非詩的なものを追放しよ
うとしたのである。つまり、現実にたいして、〈反〉近代的な、意識的な抒情で抵抗する
(させられる)のである。小林秀雄が、ユーゴーでもって素朴な詩人の時代は終わったと
いい、ボードレールの思想について「詩は何かを、或る対象を或る主題を詩的に表現する
ものではない。詩は単に詩であれば足りるのである。そういう考えである」(『近代絵画
』)というとき、このような態度に言及しているのである。

 

 

著 者  横山 仁
発行日  2023年1月12日
体 裁  並本50頁 四六版
出 版  書肆えん(秋田市新屋松美町5-6 ℡・Fax 018-863-2681)
定 価  600円(本体600円+税10%)

 なお、「1」は定価600円+税、「2」は1,100円+税。
 お問合せは「書肆えん」横山さんまで。

  

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「坂本梅子 詩の世界展」角館・新潮社記念文学館

2023-02-09 | 詩関係・その他

      

         新潮社記念文学館                      特設展示コーナー(許可を得て撮影)

 

                 

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                   (在庫や販売期間などは直接文学館へお問い合わせを)

 

 秋田県仙北市角館にある「新潮社記念文学館」において、『坂本梅子 詩の世界展』が開催されている。(開催は2月26日まで ⇒
その後、好評を得て3月19日まで期間延長された)

 昨年11月15日から始まっていたが、雑用と怠惰な日常に追われてなかなか訪れる事が出来ずにいた。実は、昨年10月上旬、県現代
詩人協会の「詩の小径」が角館を会場に行われたが、その下見で同館を訪問した折、松橋館長さんから坂本さんの展示を行うと聞いていた
ので、開催期間が強烈にインプットされていた。

 ということで、先日ようやく・・・。

 坂本梅子さんは50歳の時に第一詩集『わがままな春』を出してから、101歳の生涯の中で私家版を含めて11冊の詩集を刊行してい
る。最後の詩集は『落日の花』。なんと実に93歳の時である。
 展示されている生原稿や詩集の装幀案原版などを見ながら、坂本梅子さんの名を初めて知ったのはいつ頃だったろうかと振り返ってみた
が、よく憶えていない。おそらく所属していた詩誌『海図』か、ご寄贈頂いた詩集『いろはにほへどちりぬるを』、『土蔵ものがたり』辺
りであっただろうか。両詩集だとすれば坂本さんは90歳・92歳。もっと前なはずだが・・・。接点を見いだせないのがなんとも悔しい。

 生き方や詩世界のことは勿論だが、殊に驚いたのは坂本さんの人とのつながり。第54回直木賞作家の千葉治平氏は、坂本さんの10歳
年下の実弟という事は知っていたが、「週刊新潮」の表紙絵画家谷内六郎氏、イラストレーターの横尾忠則氏、日本画家の佐藤元彦氏、歌
手の加藤登紀子氏などなどと交流があったということ。届いた書簡に坂本さんの世界を見たような気がした。

 メモをしながら展示室内を移動していると、松橋館長さんが話しかけてくれた。挨拶を交わしてから、開催までの準備や新たに分かった
こと、前任の「平福記念美術館」で画家佐藤元彦氏の絵を通じて坂本さん・詩を知ったこと、それがなかったら今回の坂本梅子展は企画で
きなかったこと、そのほか県内の文学者展実現への夢など熱い想いを伺うことが出来た。我が故郷の先人に光を当てることの熱意に敬服。

 やはり、角館は文化醸成の歴史ある町だ。あらためてそう思った。

 坂本さんは、幼少時の弟千葉治平氏をよく背中におんぶしていたという。その弟が亡くなった時、葬儀に寄せて書いたという詩を下記。
なお、展示品をメモしたものなので、字句等が間違っていた場合はご了承願いたい。(千葉治平氏は、1991年6月、69歳で他界)

 

    弟堀川治平へ捧ぐる詩
        少 年 と 湖

  少年は釣りをしている
  湖も山も空もひとつの色に
  少年を包んでいる
  岸辺の白い砂はきらめいて
  一すじの道のように
  湖につづいている

  少年は釣糸を垂れている
  少年は魚を釣っている
  少年は動かない

  陽はかげって湖は波立ち
  白い砂粒を蹴っている
  少年は暗い波しぶきを浴びて動かない
  少年の釣糸は見えない湖底に
  沈んでいる

  空のいろも山のいろも
  湖のいろも
  重い夜のいろにかわって
  さわぐ風の葦原から
  一羽の白い鴨が
  羽音もなく湖に飛ぶび立った

  少年は魚を釣っていたのではない
  少年の垂れた湖底ふかい釣糸は
  少年の永遠を釣っていたのだ


  平成三年六月二十八日

 

 

    ◎新潮社記念文学館 
     〒014-0311 秋田県仙北市角館田町上丁23
     ℡ 0187-43-3333
     (特別展 300円)

   
        

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