心理学の研究では目を動かさずにはっきり認識できるのは七文字程度としています。
これは眼の中心窩でとらえられる範囲で、範囲を超えれば文字がぼやけて見えてしまうためだといいます。
図Aについて見れば真ん中の「賭」のところを見て同時に左右にある文字を見ようとした場合、左右の隣の字は分かるでしょうが、その次の「寛」とか「廃」までは何とか見えても、一番右と左の文字となれば読み取れない人もいるのではないでしょうか。
これは視野が狭いために読み取れないのかといえば、そうとも言い切れません。
Bの「辞」と「軽」の間に眼を向けて見た場合、「異」と「銅」はAのばあいの「量」と「習」の場合よりはるかに読み取りやすいはずです。
中心からの距離が同じでも周りが空いていることによって妨害刺激がないためです。
それでは視野は関係がないかというとそんなことはありません。
AもBも七文字なのですが、Bの両端の文字を同時に把握するのは結構難しいと思います。
Bの左右両端の文字を同時に見ようと努力した後で、Aの左右両端の文字を見ようとすると、はじめのときに比べ、かなり見やすくなっているはずです。
これは視野が広がったためで、視野の広さは文字の読み取りに影響があるのです。
AとBの場合は文字はつながりがなかったのですが、Cのように四字熟語が並んだ場合はAの場合より左端と右端の文字の距離は長いのに、左端とうたんの文字を同時に見て把握することが楽です。
これは文字がつながりを持って四字で一つの塊としてとらえられるために、左端と右端の字は精細に見なくても見えてしまうためです。
熟語の知識があるために、左端の文字も右端の文字もはっきりとは見えなくても、はっきりと分かってしまうのです。
AやBは文字数としては7字で、Cは八文字なのですがCは語数でいえば二語あるいは四語ですから把握しやすいのだともいえます。
DもEも文字数でとらえると15文字ですが、文字数は多くてもBの場合よりも読み取りやすいはずです。
DもEも、文字数は15文字ですが、語句数でいけばいずれも4つなので、文字配列の幅は広くなってもBよりも読み取りやすくなっていることが分かります。
それでもEとDとを比べれば、漢字の字数が多いDのばあいよりEのほうが読みやすくくなります。
同時に文字を読み取る能力というのは、単純に視野が広いかどうかで決められるものではないのです。