60歳からの視覚能力

文字を読んで眼が疲れない、記憶力、平衡感覚の維持のために

計算も記憶の呼び出し

2006-12-19 23:11:31 | 文字を読む

 失算症というのは脳の損傷によって計算処理がうまく出来なくなる症状ですが、患者の冒すエラーの例を見ると、計算も言語活動と深く結びついていることが分かります。
 音読をすると脳が活性化するだけでなく、簡単な計算でも脳が活性化するといわれるのは計算に言語活動が結びついているせいかもしれません。
 図はグザヴィエス.スロン「認知神経心理学」にある例ですが、漢数字で表してあるのは数字の意味を表現しているもので、もとはフランス語です。
 六十四をアラビア数字で表すとどうなるかという問いに、604と答えてしまうのは、六十四は六十と四を加えたものだと知っているのですが、アラビア数字での表記法の一部を忘れているのです。
 
 言葉では六十に四を足して六十四となるのですが、アラビア文字にもこの表記法を適用してしまうと60と4を加えて604となってしまいます。
 このような間違いは子どもが数字をおぼえ始めたときに見られる間違いで、アラビア数字での表記法を完全に身につけていないためです。
 日本では漢数字とアラビア数字とを両用していたのですから、迷った経験のある人も多いようで、最近ではアラビア数字風に六四と漢数字で書く人も増えています。

 八十三を4203と書く間違いはフランス人だからで、フランス語では八十を4×20という呼び方をするためです。八十三はquatre-vingt-trois(4×20+4)で、つまり4203と書いてしまう間違いです。
 東京都の石原知事が「フランス語は数を勘定できない」と失言したのはこのようなスッキリしない複雑な数の表現法のためです。
 フランス人は妙な数の表現をするのですが、数学がダメかといえば数学の天才を多く生んでいる点では合理的な表記法の国々を圧倒しているから不思議です。
 数の数え方でいえば、日本はヒト、フタ、ミという日本語流とイチ、ニ、サンという中国語風との両刀使いですから、複雑さでは負けていないかもしれません。

 六十四を65と書いてしまう間違いというのは、言葉の書き間違いと同じで、記憶がおかしくなっているものです。
 記憶がおかしいという点では、簡単な暗算知識の記憶が壊れてしまったために、自動的な計算が出来ず、6+5といった計算にもずいぶん時間がかかってしまうという患者もあるそうです。
 計算の仕方は分かるのに、暗算知識がなくなっているのですべての計算を元のところから幼児のようなやり方でやるので時間がかかるのです。
 普通の人は簡単な計算をするとき、計算をしていると思っても、実は暗算知識を思い出すことによって、自動的に答えを出して言語化しているということが分かるのです。