考えるための道具箱

Thinking tool box

◎変わらずに残されたものは「言葉」しかない。

2011-08-24 00:43:32 | ◎読
斎藤環の責任編集として緊急復刊された『imago 東日本大震災と<こころ>のゆくえ』は、あたらしいコンセプトを提示しているのではないか、と期待のもてる内容であり、実際に以下のような彼の巻頭言や、中井久夫への質問を読む限りでは間違いはなさそうだ。

この震災は、私から大小さまざまなものを奪っていった。人間関係も少なからず変化した。震災に奪われたものは、必ず奪い返さなくてはならない。その執念だけで言葉を連ねてきた。変わらずに残されたものは「言葉」しかない。そう考える私にとって、次のツェランの言葉がほとんど唯一のよすがだった。繰り返しになるが引用しよう。

それ、言葉だけが、失われていないものとして残りました。そうです、すべての出来事にもかかわらず。しかしその言葉にしても、みずからのあてどのなさの中を、おそるべき沈黙の中を、死をもたらす弁舌の千もの闇の中を来なければなりませんでした、――しかし言葉はこれらの出来事の中を抜けて行ったのです。抜けて行き、ふたたび明るい所にでることができました――すべての出来事の「ゆたかにされて」(「ハンザ自由都市ブレーメン文学賞受賞の際の挨拶」『パウル・ツェラン詩集』飯吉光夫編・訳 小沢書店)。


「言葉」に自覚的すぎると、戦略的なことを意識しすぎて、ときに失語してしまうこともある。しかし、たとえそうであったとしても、言葉の多様性について熟慮すべきだ。言葉は、人を説得する機能だけをもつものではない。悪いけれど、そんな言葉には、まともには反応しないよ。